海渡の瞳の奥が、一瞬だけ揺らいだ。だが、彼は何も言わなかった。雪はますます激しく降り続いていた。幼い頃から一緒に育ってきたからこそ、梨沙には海渡の苛立ったような焦燥がはっきりと伝わってきた。彼女は目を伏せる。そして、かすかに唇を吊り上げた。――そんなに放っておけないの?そのとき、バンッと音を立てて扉が開いた。草場が慌てた様子で駆け込み、海渡に告げた。「社長、露木さんが雪の中で倒れました!」海渡は勢いよく立ち上がった。だが、自分があまりにも動揺していたことに気づいたのか、深く息を吸い込むと、振り返って梨沙を見た。「ちょっと下へ行って様子を見てくる。飛田コーポレーションは上場したばかりだ。人命に関わる問題なんて絶対に起きてはならない。また来るから、梨沙は休んでいて」そう言い残し、海渡と草場は前後して慌ただしく去っていった。梨沙は病床の上で鼻をすすった。鼻の奥に、燃えた綿を詰め込まれたような熱さが広がる。ほんのわずかに、彼女はふっと笑った。彼女は耳が聞こえない。でも、馬鹿じゃない。それなのに海渡は、彼女を馬鹿扱いしていた。祖母はまだ手術中だ。そんな状況で、梨沙がじっと寝ていられるはずがなかった。彼女は布団をめくって起き上がる。壁に手をつきながら、一歩ずつ手術室へ向かって歩き出した。ナースステーションを通り過ぎたところで、背後から騒がしい足音が響いてくる。病院ではよくあることだ。梨沙は気にも留めず、さらに2歩ほど進んだ。だが足音が止むと、続いて海渡の声が聞こえてきた。「先生、彼女が雪の中で倒れたんです!」梨沙は振り返らなかった。立ち止まりもしなかった。痩せた身体に病衣をまとい、たった一人で手術室の前まで歩いていく。そのとき、パチッという音とともに赤いランプが消えた。柊治が手術室から出てきた。顎まで下ろしたマスクの下には、若く整った顔立ちが見える。しかし、その表情には隠しきれない疲労がにじんでいた。「手術は成功しました。ステントの留置も順調で、閉塞していた血管は開通しています。術中に一時バイタルが不安定になる場面もありましたが、無事に乗り越えましたよ」手術成功。一番聞きたかったその言葉を耳にした瞬間、梨沙の涙が堰を切ったようにあふれ出
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