「嘘、でしょ……」 イストリアの胸に去来したのは、まず信じられないという思いでした。 反乱が始まって五日。 ハワード王国から帝都までは通常行軍で二十日、強行軍でも十日はかかります。どう考えても計算が合わないのです。 しかし、イストリアが西の空にずっと視線を向けていたのは、ただの祈りではなく一つの希望があったからです。(彼なら、この事態を予見していたかもしれない) それも他人から見ればただの祈りにしか見えないかもしれませんが、これまで彼の戦術や戦略、そして人となりに触れてきた彼女にしてみれば、あり得ないと捨て去ってしまえる希望ではなかったのです。 そしてその希望は今、現実のものとして西の空に舞い上がっている。彼は期待を裏切ることなく、その眼力で先を見通し、事が起きる前から動き出して今、土煙を上げて帝都への道を急ぎ駆けつけてくれている。 その光景は彼女の心を熱いもので満たし、満たしきれない想いは大きな滴となってその目から溢れだします。「陛下、おはようござ……陛下?」 戦闘準備を伝えるために皇帝の元を訪れたヴィルヘルムですが、彼女が呆然とした様子で涙を流すのを見て驚きました。そして彼女が朝日を背負い、全く視線をそらさず見つめ続ける方向を見て息を飲んだのです。「まさか……」 希望を持っていたイストリアと違い、彼にとってその光景は全く信じがたいものでした。 彼は自分が寝ぼけているのか、はたまた蜃気楼を見ているのかと思い、何度も目をこすりました。しかし、どれだけ目をこらしても西から徐々に近づいてくる土煙は消えることがありません。 頬を濡らす涙を拭うこともせず、イストリアは言の葉をも溢れさせるように声を震わせます。「彼が。彼がこの事を見越して……私たちが事態に気付く前から動いてくれたのよ……」「アウグスト殿下……」 ヴィルヘルムもそう言われて思い浮かぶ人物は一人しかいま
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