Lahat ng Kabanata ng 入試で裏切った彼氏と親友、もう縁を切りました: Kabanata 1 - Kabanata 10

11 Kabanata

第1話

親友の中野若葉(なかの わかば)は、学力にまったく自信がなかった。だから、大学受験では総合型選抜に望みを託していた。しかし受験した大学はすべて不合格となり、一般入試での学力勝負から逃げることはできなかった。私・山田寧々(やまだ ねね)は学年1位の彼氏・中山真司(なかやま しんじ)に、彼女に勉強を教えてほしいと頼んだ。いつも優しい真司は、珍しく嫌そうな顔をした。「寧々、お前は今まであいつの面倒を見すぎだよ。あいつが支払えなかった学費だって、お前が自分の奨学金を使って助けてあげたじゃないか。家庭問題に苦しむあいつのために、お前が警察に連絡した後、あいつの両親に殺されそうになったのを忘れたのか?あいつの成績じゃあ、高卒でバイトしたほうが、一番現実的だろ」付き合って3年、私は初めて真司に怒った。「若葉は私の親友なの。大切な人なんだから、そんな言い方しないで!もし手伝ってくれないなら、別れる!」私と別れたくなかった真司は、仕方なく頷いた。その後、若葉の成績はどんどん伸びていった。私の努力もようやく実を結び、共通テストの自己採点が予想以上に高かった。手応えもきちんとあるから、真司と同じ難関国立大学を狙えるはずだ。しかし、WEB出願の締切直前、若葉は私の志望校を、絶対に届くはずのない東都中央大学へ勝手に変更した。そして真司は、それを横で見ているだけで止めようとしなかった。志望校変更の締め切り時刻は17時ちょうど。今は、17時02分。若葉のクリック一つだけで、私の3年間の努力が、一瞬で水の泡となった。私は振り返り、声を震わせながら尋ねた。「どうして?」若葉は私の親友のはずなのに。共通テストが終わった日には、私を抱きしめて「お疲れ!」と笑顔で言ってくれたのに。今、私の志望校を勝手に変えて、進学の道を断つなんて。若葉は青ざめ、涙をこぼした。真司が、そんな若葉の前に立ちはだかって、私を見つめながら、どこまでも冷静な声で言った。「寧々。お前のWEB出願サイトのパスワードは、俺が若葉ちゃんに教えたんだ」説明や言い訳ではなく、ただ事実を淡々と述べただけだった。さっき若葉が私の志望校を変更している時も、真司はすぐ傍らに立っていた。私が画面を確認しようとするのを、わざと邪魔するみたい
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第2話

ひどいことを言っているのはわかってる。でも、どうしても込み上げてくる感情を抑えられなかった。模試が全部A判定になるまで頑張って、共通テストの自己採点は今まで一番いい成績だったのに、志望していた大学に行けないなんて。若葉はふらつきながら、涙をこぼした。「寧々、真司を責めないで……お願いしたのは私なの。寧々が私の隣からいなくなるのが、ただ怖くて。寧々は成績も性格もいいから、大学に行けばきっとすぐに新しい友達ができる。そしたらもう、私なんか見捨てちゃうんじゃないかって」若葉は泣きじゃくり、過呼吸になったように見えた。真司の穏やかだった表情が、ようやく険しくなった。彼は眉をひそめ、不快そうに私を見た。「寧々、若葉ちゃんは大学に行けなくて落ち込んでるんだ。そんな風に言うのは、ひどいよ」ひどい、だって?3ヶ月前、若葉が受けた大学に、すべて落ちた時のことを思い出す。若葉と真司は理系で、私は文系だった。私が真司に、若葉の勉強を見てやってと頼んだ。その時、真司はどう答えた?若葉は頭が悪いから、教えるのは時間の無駄だと。そんな暇があるならバイトでもして、受験に集中している同級生たちの邪魔にならないほうがいいと。私が別れると脅して、ようやく私のお願いに頷いてくれた。それなのに今、たった3ヶ月で。真司は若葉のために、私の志望校を変更する手助けをした。若葉は、さっきよりも激しく泣き出した。「寧々、全部私が悪いの。勝手に……寧々の志望校を変えたりして。土下座するから、許して……」若葉が本当に跪こうとした。その様子を見た真司が、慌てて彼女を支え起こした。そして私に向き直ると、目には責めるような色が宿っていた。「寧々、場所を変えよう」真司は私をバルコニーに連れ出し、掃き出し窓を閉めた。そして、溜息をついて口を開いた。「寧々、もう起きてしまったことは仕方ない。若葉ちゃんと一緒に浪人するのが一番いい解決策だ。1年後、同じ大学で待ってるよ。俺たちの関係性は変わらない。お前は頭がいいし大したことじゃないだろ」大したことじゃない……私の体は、抑えきれず震え始めた。「真司、模試で国立盛沢大学がA判定というのはどういうことか分かってるの?」と尋ねた。「この県で上位1パーセン
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第3話

私は背を向け、一度も振り返ることなく真司の家を後にした。家へ帰る道中、スマホが鳴り続けていた。真司からではなく、若葉からだ。次から次へとメッセージの通知が表示される。【寧々、本当にごめんなさい】【気の迷いだったの。ただ、寧々と離れ離れになるのが怖くて……】【許して、お願い……】私は返信しなかった。若葉のアイコンをタップして、プロフィール画面からブロックした。家に帰ると、両親がリビングでテレビを見ていた。母は私の姿を見るなり、笑みを浮かべて出迎えてくれた。「寧々、おかえり。志望校登録はどうだった?真司くんと同じ大学にできた?」私は母の顔を見つめた。目尻の細かいシワ、白髪の混じり始めた髪、瞳の奥に隠しきれない期待の色。私は口を開いた。「お母さん……」そう呼んだだけで、外で必死に取り繕っていた冷静さが、一瞬にして崩れた。私は泣きながら母の胸に飛び込んだ。「お母さん、私、行く大学がなくなっちゃった」私はすべてを打ち明けた。真司が若葉に自分の出願サイトのパスワードを教えたこと、若葉が私の志望校を勝手に書き換えたこと、それを傍観していた真司が若葉を可哀そうだと言ったことを。話し終える頃には、私は全身を激しく震わせていた。一人は6年間想い合ってきた人で、もう一人は私の親友。その二人が結託して、私の今までの努力をただの笑い話に変えたのだ。父は激怒し、警察に通報しようとした。母は涙を拭いながら父をなだめた。「警察に突き出したところで何になるの?犯人を捕まえたって、もう志願は出せないわ……」母は私を振り返り、声を震わせながら言った。「寧々、お母さんが今すぐ大学に電話して、まだ間に合うかどうか聞いてみるから」私は静かに首を振った。「もう聞いたの……どうにもならないわ。他の大学を志望してることになってるし、それを変更できる期限も過ぎたの」部屋は数秒ほど静まり返っていたが、突然鳴り響いたインターホンの音が、その静寂を破った。私がドアを開けると、そこに立っていたのは真司だった。「何しに来たの?私たち、もう別れたんでしょ」私は扉を閉めようとしたが、真司が一歩踏み出してドアの隙間に身体を滑り込ませた。彼は少し不快そうに言った。「寧々、そんなことを二度と口にするな。俺はそう
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第4話

若葉のことは一番の友達だと思ってた。それなのに、若葉にとって私は何なの?私は玄関の方を指差して言った。「出ていって。出ていかないなら、クラスのみんなに教えるよ。みんなに若葉とあなたが一緒になって、私にしたことを全部バラしてやるから!」真司は青ざめて、何かを言おうとしたその時、私の両親が部屋から出てきた。父の口調は落ち着いているけれど、瞳には凍りつくような冷たさが宿っていた。「真司くん、もう遅い。今日は帰ってくれ。今後、もう寧々には会いに来ないでくれ。寧々にはこれからやることがある」バンと音を立ててドアが閉まった。母が私の肩を抱き寄せて言った。「寧々、どうしても無理なら1年浪人してもいいわよ。お父さんとお母さんが応援するから」私は首を振って、はっきりとした声で答えた。「お父さん、お母さん、浪人はしないの。二次募集に出願するわ」この決意は、家へ帰る途中で固めていたものだった。これまでずっと、私は真司を目標にしていた。真司のために頑張り、彼に合わせて好きでもない大学を志望していた。でも真司がいなくなった今、ようやく分かったことがある。高校3年間、塾通いに追われた日々。使い切ったシャープペンシルの芯。肩が押しつぶされそうになるくらい重たい問題集。無駄になるべきことなんて一つもないし、頑張った分きっと報われるのだ。私は真司のアカウントもブロックして、二度と連絡できないようにした。合格発表の日、志望校は案の定すべて不合格だった。けれど、悲しんでいる暇なんてない。二次募集を行っている大学をすべて調べ、一つ一つ見比べた。そして、最終的に三つの大学に絞り込んだ。どこも家からは1000キロ以上離れている。新幹線に乗っても5時間はかかる場所だ。地図上の距離を見た母は、また涙を浮かべた。「寧々、家から遠すぎるわ……寂しくなったらどうするの?」私は母を抱きしめて安心させた。「お母さん、休みの日は帰ってくるし、普段だって電話やテレビ通話ができるじゃない?」私は3校の中から、雲嶺市にある難関国立大学の法学部を選んだ。出願が完了した瞬間、今まで感じていた重荷がスーッと消えた。ベッドに倒れ込み、もう何も考えたくないと思いスマホを開いた。すると、真司の友人のインスタ投稿が
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第5話

心のつかえが取れて、手が震えてしまった。大学に行けることになったのだ。3年間の努力が無駄にならず、浪人なんてしなくていい。母が私を抱きしめて、泣き崩れた。父はタバコを一本吸い切るとこう言った。「親戚たちに知らせなきゃな。合格祝いだ!」合格祝いの食事会は、家の近くのレストランで行うことになった。食事会の会場に着くと、偶然にも真司の合格祝いが同じレストランで開かれていた。彼の両親、中山健二(なかやま けんじ)と中山恵美(なかやま えみ)が、ちょうど出口で客を出迎えていた。健二と私の父は仕事上の付き合いがあり、顔を見るなり声をかけてきた。「山田さんじゃないか!娘さんの合格祝いか?いやいや、奇遇だね!」彼が私の方を向いて、笑顔で言った。「寧々ちゃん、最近うちの真司と遊んでいないのか?」私が答える前に、甲高い女性の声が割り込んできた。「寧々!本当に来てくれたのね!」若葉がホールから駆け寄ってきて、私の手を掴んだ。「来ないかと思ってた。その……」若葉が最後まで言い終わる前に、私は手を振り払った。若葉の表情が一瞬で曇り、涙目になった。「寧々、まだ許してくれないの?私も真司くんも謝ったじゃない?これからの1年、また一緒に頑張ろう?」母が、すっと私の前に立ちはだかった。「中野さん。この3年間、寧々が学費を出してあげたり、面倒を見てあげたりしたのはいいわ。でも今回したことは許せない。仮に寧々が許しても、私たち親はもうあなたと関わらせるつもりはないわ」若葉はその場で青ざめた。中山夫婦は事態が飲み込めず、顔を見合わせた。そこへ、真司が出てきて、母に言った。「お言葉ですが、いくら大人だからって、女の子相手にひどいじゃないですか?」両親が非難されているのを耳にし、私は足を止めて反論しようとした。私は両親の前に出て、真司を真っすぐ見た。「言い過ぎ?真司。あなたが若葉と一緒に私の出願サイトのパスワードを悪用して、私の志望校を勝手に変更したことはひどくないとでも言いたいの?」真司は眉をひそめて言った。「あれは終わった話だ。いつまでも……」「終わってなんていないわ」と私は真司の声を遮った。「あなたと話すことなんて何もないの」私は深く息を吸い込み、両親を促した。「お父さん、お母
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第6話

彼はその場に立ち尽くした。何を言われたのか、理解ができないという表情だった。「ありえない。お前の志望校は、絶対に受かるわけがない学校に変えられたじゃないか」若葉も目を大きく見開き、顔がみるみるうちに青ざめていった。「寧々、嘘でしょ?浪人するって言ってたじゃない?」そんな若葉を見て、私は可笑しくてたまらなかった。若葉は私が浪人することを恐れているのだろうか?違う。若葉が恐れているのは、私が浪人しないことだ。私が浪人すれば、若葉は私のそばに居続け、私のおかげで手に入る「特権」を享受できるから。真司は若葉のために予備校を探し、私も一緒に通わせるつもりだ。若葉はそれで寂しい思いをせずに済むだろう。でも、もし私が大学に受かってしまったらどうなる?私がいなくなって、若葉は独りぼっちになる。若葉の涙にも、可哀想な姿にも、「独りになるのが怖い」という言葉にも、もう誰も構ってくれないのだ。私は「嘘じゃないよ」と若葉を見つめて言った。「二次募集で、雲嶺市立大学の法学部に合格したの」若葉はみるみるうちに目を真っ赤にして、涙をぽろぽろとこぼした。「寧々、どうしてそんなひどいことをするの?私を置いていくの?」若葉が大声で泣き始めると、周囲の客が何事かとこちらを振り返った。真司の顔色はたちまち険しくなった。やがて、彼はしゃがみ込むと、床に散らばった参考書を一冊ずつ拾い集め始めた。動きはゆっくりで、何かを必死に押し殺しているようだった。……結局、合格祝いの食事会は、予定通りそのレストランで開かれた。真司たちとは離れた二階の個室だ。部屋にはテーブルが二つ、親戚と母の友人が集まっていた。みんなが乾杯し、誰もが私の合格を祝ってくれた。たとえ二次募集とはいえ、難関国立大学には違いないからだ。でも私だけが知っていた。本来なら、もっと良い場所に行けたはずだと。それでも私は笑顔を作り、料理を口へ運んだ。食事会の途中で、部屋のドアがノックされた。店員かと思って顔を上げると、そこに健二と恵美が立っていた。健二の手には高級そうなワインボトル、恵美の手には何かのギフトボックス、二人とも気まずそうな顔をしていた。「山田さん、奥さん、ちょっとお時間いいかな」父が立ち上がり、口角が少し下がった
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第7話

健二は、気まずそうに体をこわばらせた。彼は体を起こして私を見つめ、掠れた声で言った。「寧々ちゃん、真司の代わりに謝るよ。あの子のことは……俺の教育不足だ」昔は本当の娘のように可愛がってくれた健二の姿を見て、私は複雑な気持ちで胸が締め付けられた。幼い頃に中山家へ遊びに行くと、健二はいつも私の一番好きな料理をテーブルに並べた。「寧々ちゃんは大きくなったら、うちの真司のお嫁さんになってくれるかな」と笑いながら言ってくれたものだ。でも今となっては、そんな言葉も滑稽に思えてきた。私は黙ったまま、頭を下げただけだった。中山夫婦はしばらくの間、申し訳なさそうに立ち尽くしていたが、最後はそのまま帰っていった。去り際に振り返った健二は何か言いたげだったが、結局、最後まで口をつぐんだままだった。部屋のドアが閉まると、母がとうとう涙を流した。「なんでこんなことになっちゃったんだろうね……」私は母の肩に手を添え、言葉を返せなかった。食事会は、夜の9時前にお開きとなった。親戚たちを見送ると、お酒で足元の危うい父を、母が車へと支えて連れていった。私は会計のために残り、レジで明細を確認していた。ふと振り返ると、廊下の隅に真司が立っていた。彼は白シャツを着て、袖を肘までまくっている。私に気づくと、真司は一歩近づいてきた。「寧々」私は返事もせず、そのまま真っ直ぐに外へと向かった。真司は私のあとをついてきて、消え入るような声で尋ねた。「本気で決めたのか?雲嶺市は遠いぞ」私は足を止めて真司を睨んだ。「決めたの」「じゃあ、俺たちは?」「何の話?」「これからの、俺たちの話だよ」真司がそう言ったとき、わずかに声が震えていた。私は彼の顔をまじまじと見つめた。6年間見続けてきた顔。中学1年の初々しい頃から、高校卒業で少し大人びた今まで。ずっと一緒にいられるものだと、そう信じていた。けれど今、その顔がただ他人に見えた。「真司。私たちのこれからなんて、あなたが若葉を哀れんで、私の出願サイトのパスワードを彼女に教えて、志望校を勝手に変更するのを手伝った瞬間から、もう終わったのよ」真司が悲しそうな顔で口を開いた。「寧々、俺はただお前に若葉ちゃんの浪人仲間になってあげてほしかった。人生を台無し
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第8話

これは、私自身が決めたことだった。真司のためでも、誰かのためでもない。私が自分で選んだ道だ。母は、泣きながら私の荷造りを手伝ってくれた。「あちらはここより寒いのよ。冬は凍えるほどだから、暖かい上着を持っていくわね。布団は現地に着いてから、ケチらずにいいものを買いなさい。お金が足りなくなったら遠慮せずに言いなさいよ。無理しちゃだめよ」母の言葉に一つずつ返事をしながら、私も涙が止まらなくなった。その間、真司が三度私を訪ねてきた。一度目は、家の前で2時間も立っていた。窓から母が彼に気づいたけれど、私は会いに行かなかった。二度目は、誰かを通じて「話がある」と伝言が来た。でも私は無視した。三度目は、若葉を連れて現れた。私はちょうど買い物に出たところで、二人に鉢合わせてしまった。若葉が私を見つけると、目を赤くして駆け寄ってきた。「寧々……」私は一歩下がり、彼女の手を避けた。若葉は空中で手を止め、大粒の涙をこぼした。「寧々、私が悪かったよ。本当にごめんね……今回だけ、許してくれないかな?本当にお願い……」真司も黙ったまま、私をじっと見つめていたけれど、私は二人の横を通り過ぎ、そのまま立ち去った。……荷造りを終え、私は大学へ向った。一人で他の県に行くのは初めてだったけど、ついて行こうとする母を断った。「お母さん、もう成人したんだから大丈夫だよ」それでも心配した母は駅までついてきて、涙ぐみながらホームで見送ってくれた。新幹線を降りてからバスに乗り換え、思ったよりも移動時間が長かった。窓際の席に座り、畑や住宅街、遠くのほうにある山や高層ビルを眺めた。不思議と、気持ちがすっと軽くなっていった。大学に着いたのは午後4時。まだ空は暗くなっていなかった。校門を見上げると、すぐ目に飛び込んできたのは【入学おめでとう】の垂れ幕だった。その下には机が並べられ、お揃いのスタッフTシャツを着た先輩たちが忙しくしている。私が近づくと、眼鏡をかけた先輩が声をかけてくれた。「こんにちは!新入生ですか?」私はその質問に頷いた。彼は白い歯を見せて笑った。「どの学部ですか?」「法学部です」「偶然ですね、僕も同じ法学部ですよ」彼は首にかけたネームプレートを見せてくれた。「金田
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第9話

「山田寧々です」「山田さん、雲嶺市立大学へようこそ」入学後の毎日は、想像していたよりもずっと充実していた。法学部の授業はかなりハードだった。憲法に民法、それに刑法、どれも膨大な文献や判例を読み込まなければならない。退屈そうに見える条文の裏側には、血の通った人々のドラマがある。公平と正義のせめぎ合いであり、ルールと人情がぶつかる瞬間でもあるのだ。なぜあの時、自分が法学部を選んだのか。ようやくその理由が分かったような気がした。私には、自分を守りたいという願いがあったのだ。守られるべき人たちを、支えてあげたいとも思った。隼人から時折メッセージが届くようになった。大学に慣れたか、何か困っていないかと気遣ってくれた。ときには授業の資料をシェアしてくれたり、司法試験に向けたアドバイスをくれたりした。隼人は大学院入試の準備をしていて、志望校は東都中央大学だという。「東都中央大学?」「うん。ダメもとで挑戦してみようと思って」隼人からのメッセージには、笑顔のスタンプが添えられていた。私はそれに親指を立てたスタンプを返した。そんな日々が、淡々と過ぎていった。私は両親とは頻繁に連絡を取っていて、ほぼ1日おきにビデオ通話をしていた。母は通話の度に、「ちゃんと食べてる?」、「寒くない?」、「お金は足りてるの?」と聞いてくれた。父は横で静かに座り、「しっかり勉強しろよ」と時折口を挟むだけだった。ある日、母との電話で若葉のことが話題に出てきた。「ねえ、聞いて。中野さん、浪人して2か月で予備校の授業料が払えなくなったらしいのよ。彼女の親がまたやってきてさ。女の子がそんなに勉強してどうする、なんて言って連れ帰っちゃったの。その後のことは、私も分からないわ」スマホを握りしめたまま、私は数秒間黙り込んだ。「お母さん、もう若葉の話はやめよう」「分かったわ、もう触れないようにするね」母はすぐに話題を変えたけれど、つい口が滑ったのか真司の名前を出してきた。「そうそう、真司くんが週末になるとよくこっちに来てるわよ。上がってこないけど、近くをぶらついたりしてね。お父さんも窓から見かけててさ。まあ、特に声はかけてないんだけど。一体何がしたいのかしらね?」その話を聞きながら、私には自分と関係がな
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第10話

真司は頷き、驚いた様子はなかった。「志望校は決めたのか?」私は少し迷ってから言った。「まだ考え中」私が詳しいことを話したがらないことに気づいたのか、真司はそれ以上は聞いてこなかった。しばらくその場に二人で立っていた。彼が手元の商品を棚に戻し、私を見て言った。「寧々、あの時のこと、すまなかった」真司から謝られたのは、これが二度目だ。一度目はレストランで。二度目はスーパーの商品棚の前で。3年前のあの謝罪には、私は返事をしなかった。3年後の今回も、やはり黙ったままでいた。私は軽く笑顔を作って、ショッピングカートを押して真司の横を通り過ぎた。……冬休みが明け、私は本格的に大学院入試の勉強を始めた。志望校はずっと決めていた。江川大学だ。実家の近くの大学がよかったからだ。この3年間、帰省のたびに母の白髪が増え、父の背中が丸まっていくのを見るのが辛かった。両親はもう年老いているのに、私にはまだ、二人を支える力が足りなかった。だから大学院は地元の大学にしようと決めた。それを知った隼人からメッセージが届いた。【江川大学?東都中央大学に挑戦しないのか?】隼人は2年前、東都中央大学法学部に合格した。教授たちの間でも有名人だ。私は笑って返信した。【ううん。江川大学がいいの。実家に近いから】隼人はそれ以上口出ししないで、【それなら、江川大学の入試に役立ちそうな資料を探してみるよ】と送った。【ありがとうございます】それから、隼人はほぼ毎週のように資料を送ってくれた。過去問だったり、ノートだったり。先輩たちのアドバイスも代わりに聞いてくれた。隼人は江川大学法学部の知り合いに連絡を取り、色々と教えてもらったという。私は礼を言った。「別にいいよ。合格したら、飯でも奢ってくれ」「もちろんです」試験当日、試験会場から出るともう日が暮れていた。北の冬は厳しく、冷たい風が頬をナイフのように切りつけた。冷えた手をこすりながら、タクシーを拾おうとしたその時だった。校門を出た先、街灯の下に花束を抱えた誰かが立っていた。隼人だ。黒いダウンコート姿の彼の顔は冷えて赤くなっていたが、瞳だけがやけに輝いていた。私を見つけると隼人は微笑み、歩み寄って花束を差し出した。「もう終わった?」
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