تسجيل الدخول親友の中野若葉(なかの わかば)は、学力にまったく自信がなかった。だから、大学受験では総合型選抜に望みを託していた。しかし受験した大学はすべて不合格となり、一般入試での学力勝負から逃げることはできなかった。 私・山田寧々(やまだ ねね)は学年1位の彼氏・中山真司(なかやま しんじ)に、彼女に勉強を教えてほしいと頼んだ。 いつも優しい真司は、珍しく嫌そうな顔をした。 「寧々、お前は今まであいつの面倒を見すぎだよ。 あいつが支払えなかった学費だって、お前が自分の奨学金を使って助けてあげたじゃないか。 家庭問題に苦しむあいつのために、お前が警察に連絡した後、あいつの両親に殺されそうになったのを忘れたのか? あいつの成績じゃあ、高卒でバイトしたほうが、一番現実的だろ」 付き合って3年、私は初めて真司に怒った。 「若葉は私の親友なの。大切な人なんだから、そんな言い方しないで! もし手伝ってくれないなら、別れる!」 私と別れたくなかった真司は、仕方なく頷いた。 その後、若葉の成績はどんどん伸びていった。 私の努力もようやく実を結び、共通テストの自己採点が予想以上に高かった。 手応えもきちんとあるから、真司と同じ難関国立大学を狙えるはずだ。 しかし、WEB出願の締切直前、若葉は私の志望校を、絶対に届くはずのない東都中央大学へ勝手に変更した。 そして真司は、それを横で見ているだけで止めようとしなかった。
عرض المزيد大学院入試の合格者発表の日、私は実家で大学最後の冬休みを過ごしていた。合否を確認するサイトにログインすると、すぐに喜ばしい文章が目に入った。母は飛び上がって喜び、父も珍しく笑って「うちの寧々は優秀だ」と言ってくれた。後から合格通知書も届き、私は隼人にメッセージを送った。【合格したよ】すぐに返信が来た。【おめでとう!会いに行くから、奢らせてくれ!】【合格したら私が奢るって話じゃなかった?なんでそっちが払うの?】【じゃあ今回は僕が奢って、君がまたいつか奢ってくれればいいよ。同じことさ】私は笑った。9月、私は江川市へ移り、大学院生としての生活を始めた。江川大学のキャンパスは洗練された美しさがあった。特に法学部の緑豊かな敷地の中に歴史を刻んだ建物が並び、静かで厳かな雰囲気を纏っていた。私はここで優秀な先生や仲間に出会えた。新しい知識をたくさん吸収して、毎日が充実して楽しかった。隼人は東都にいたが、半月に一度は私に会いに来てくれた。金曜の夜に来て日曜の夜に帰る。片道3時間の新幹線にわざわざ乗って、週末を一緒に過ごしてくれた。友達からは「いい彼氏だね」と羨ましがられた。私は頷きながら、温かい気持ちになった。大学院を修了した私は、江川県の法律事務所で働き始めた。東都中央大学を卒業していた隼人は、東都で働く機会を捨てて、一緒に江川県まで来てくれた。「本当にいいの?」と私は隼人に聞いた。「もちろん」「東都に残らなくて大丈夫なの?」隼人は私を見て微笑んだ。「うん。君と一緒のほうが、ずっと嬉しいことだよ」それを知った私の両親は大喜びだった。父は「隼人くんは、真司くんよりもずっといいやつだ」と言い、母が「変な比べ方をしないで」とたしなめた。それに父は不満げに「事実を言っているだけだ」と返した。……婚約が決まり、ある週末に祝いの席が設けられた。会場は、決して高級というわけではない盛沢第一ホテルだった。母が「式まではシンプルにしておこう。結婚式で派手にやればいい」と言ったからだ。父も珍しく「お母さんの言う通りにしよう」と母に同意した。隼人の両親もわざわざ来てくれて、すぐに父と母と打ち解けた様子だった。隼人はスーツ姿で私のそばに立ち、腰に手を回して満足そうに笑っていた。
真司は頷き、驚いた様子はなかった。「志望校は決めたのか?」私は少し迷ってから言った。「まだ考え中」私が詳しいことを話したがらないことに気づいたのか、真司はそれ以上は聞いてこなかった。しばらくその場に二人で立っていた。彼が手元の商品を棚に戻し、私を見て言った。「寧々、あの時のこと、すまなかった」真司から謝られたのは、これが二度目だ。一度目はレストランで。二度目はスーパーの商品棚の前で。3年前のあの謝罪には、私は返事をしなかった。3年後の今回も、やはり黙ったままでいた。私は軽く笑顔を作って、ショッピングカートを押して真司の横を通り過ぎた。……冬休みが明け、私は本格的に大学院入試の勉強を始めた。志望校はずっと決めていた。江川大学だ。実家の近くの大学がよかったからだ。この3年間、帰省のたびに母の白髪が増え、父の背中が丸まっていくのを見るのが辛かった。両親はもう年老いているのに、私にはまだ、二人を支える力が足りなかった。だから大学院は地元の大学にしようと決めた。それを知った隼人からメッセージが届いた。【江川大学?東都中央大学に挑戦しないのか?】隼人は2年前、東都中央大学法学部に合格した。教授たちの間でも有名人だ。私は笑って返信した。【ううん。江川大学がいいの。実家に近いから】隼人はそれ以上口出ししないで、【それなら、江川大学の入試に役立ちそうな資料を探してみるよ】と送った。【ありがとうございます】それから、隼人はほぼ毎週のように資料を送ってくれた。過去問だったり、ノートだったり。先輩たちのアドバイスも代わりに聞いてくれた。隼人は江川大学法学部の知り合いに連絡を取り、色々と教えてもらったという。私は礼を言った。「別にいいよ。合格したら、飯でも奢ってくれ」「もちろんです」試験当日、試験会場から出るともう日が暮れていた。北の冬は厳しく、冷たい風が頬をナイフのように切りつけた。冷えた手をこすりながら、タクシーを拾おうとしたその時だった。校門を出た先、街灯の下に花束を抱えた誰かが立っていた。隼人だ。黒いダウンコート姿の彼の顔は冷えて赤くなっていたが、瞳だけがやけに輝いていた。私を見つけると隼人は微笑み、歩み寄って花束を差し出した。「もう終わった?」
「山田寧々です」「山田さん、雲嶺市立大学へようこそ」入学後の毎日は、想像していたよりもずっと充実していた。法学部の授業はかなりハードだった。憲法に民法、それに刑法、どれも膨大な文献や判例を読み込まなければならない。退屈そうに見える条文の裏側には、血の通った人々のドラマがある。公平と正義のせめぎ合いであり、ルールと人情がぶつかる瞬間でもあるのだ。なぜあの時、自分が法学部を選んだのか。ようやくその理由が分かったような気がした。私には、自分を守りたいという願いがあったのだ。守られるべき人たちを、支えてあげたいとも思った。隼人から時折メッセージが届くようになった。大学に慣れたか、何か困っていないかと気遣ってくれた。ときには授業の資料をシェアしてくれたり、司法試験に向けたアドバイスをくれたりした。隼人は大学院入試の準備をしていて、志望校は東都中央大学だという。「東都中央大学?」「うん。ダメもとで挑戦してみようと思って」隼人からのメッセージには、笑顔のスタンプが添えられていた。私はそれに親指を立てたスタンプを返した。そんな日々が、淡々と過ぎていった。私は両親とは頻繁に連絡を取っていて、ほぼ1日おきにビデオ通話をしていた。母は通話の度に、「ちゃんと食べてる?」、「寒くない?」、「お金は足りてるの?」と聞いてくれた。父は横で静かに座り、「しっかり勉強しろよ」と時折口を挟むだけだった。ある日、母との電話で若葉のことが話題に出てきた。「ねえ、聞いて。中野さん、浪人して2か月で予備校の授業料が払えなくなったらしいのよ。彼女の親がまたやってきてさ。女の子がそんなに勉強してどうする、なんて言って連れ帰っちゃったの。その後のことは、私も分からないわ」スマホを握りしめたまま、私は数秒間黙り込んだ。「お母さん、もう若葉の話はやめよう」「分かったわ、もう触れないようにするね」母はすぐに話題を変えたけれど、つい口が滑ったのか真司の名前を出してきた。「そうそう、真司くんが週末になるとよくこっちに来てるわよ。上がってこないけど、近くをぶらついたりしてね。お父さんも窓から見かけててさ。まあ、特に声はかけてないんだけど。一体何がしたいのかしらね?」その話を聞きながら、私には自分と関係がな
これは、私自身が決めたことだった。真司のためでも、誰かのためでもない。私が自分で選んだ道だ。母は、泣きながら私の荷造りを手伝ってくれた。「あちらはここより寒いのよ。冬は凍えるほどだから、暖かい上着を持っていくわね。布団は現地に着いてから、ケチらずにいいものを買いなさい。お金が足りなくなったら遠慮せずに言いなさいよ。無理しちゃだめよ」母の言葉に一つずつ返事をしながら、私も涙が止まらなくなった。その間、真司が三度私を訪ねてきた。一度目は、家の前で2時間も立っていた。窓から母が彼に気づいたけれど、私は会いに行かなかった。二度目は、誰かを通じて「話がある」と伝言が来た。でも私は無視した。三度目は、若葉を連れて現れた。私はちょうど買い物に出たところで、二人に鉢合わせてしまった。若葉が私を見つけると、目を赤くして駆け寄ってきた。「寧々……」私は一歩下がり、彼女の手を避けた。若葉は空中で手を止め、大粒の涙をこぼした。「寧々、私が悪かったよ。本当にごめんね……今回だけ、許してくれないかな?本当にお願い……」真司も黙ったまま、私をじっと見つめていたけれど、私は二人の横を通り過ぎ、そのまま立ち去った。……荷造りを終え、私は大学へ向った。一人で他の県に行くのは初めてだったけど、ついて行こうとする母を断った。「お母さん、もう成人したんだから大丈夫だよ」それでも心配した母は駅までついてきて、涙ぐみながらホームで見送ってくれた。新幹線を降りてからバスに乗り換え、思ったよりも移動時間が長かった。窓際の席に座り、畑や住宅街、遠くのほうにある山や高層ビルを眺めた。不思議と、気持ちがすっと軽くなっていった。大学に着いたのは午後4時。まだ空は暗くなっていなかった。校門を見上げると、すぐ目に飛び込んできたのは【入学おめでとう】の垂れ幕だった。その下には机が並べられ、お揃いのスタッフTシャツを着た先輩たちが忙しくしている。私が近づくと、眼鏡をかけた先輩が声をかけてくれた。「こんにちは!新入生ですか?」私はその質問に頷いた。彼は白い歯を見せて笑った。「どの学部ですか?」「法学部です」「偶然ですね、僕も同じ法学部ですよ」彼は首にかけたネームプレートを見せてくれた。「金田