Lahat ng Kabanata ng 壊したいほど好きだから、: Kabanata 41 - Kabanata 50

57 Kabanata

第1.5章:020

 携帯を持つ玲の手が震えた。  玲は空いている手で口元を覆い隠す。  画面に並ぶ文字が、一瞬、現実のものとして脳で処理されない。  実家にいるはずの渚が、予定を切り上げて戻ってきた。それどころか、他の誰でもない『宮原君』に会いたいと、自分から予定を訊ねてきている。  (こんなこと、初めてだ)  その事実を理解した瞬間、玲の脳内の回路が、歓喜と衝動で一気にショートしそうだった。  渚の声を、今すぐにでも聴きたかった。  彼女がどんな気持ちでこの文章を打ったのか、何故自分に会いたいのか、理由を今すぐ知りたい。  気付けば玲は、渚に電話していた。  コール音が止まり、渚の声が聞こえるより早く、玲は食い気味に声を張り上げた。「――渚!? 今、もうこっちに戻ってるの!?」 玲が携帯の向こうへ放った叫びは、自分でも驚くほど高揚していた。  背後で「玲? どうしたの急に大声出して……」と怪訝な顔をしている母親の視線など、今の玲には一切届いていなかった。  玲の鼓膜を支配しているのは、コール音が切れた後に繋がった渚の声だった。「会えるよ、もちろん会える!」 玲は捲し立てるように言葉を重ねる。『宮原君の暇な日ってい』 「毎日暇! 今から会いに行けるよ!」 聞こえかけた渚の言葉を、玲は完全に遮って言い放った。「今すぐ渚に会いたい」という純粋な熱量と衝動だけが、言葉になって溢れ出す。 「今からいく! いつもの校門の前で待ってて!」 『うん、待ってる』 その言葉を聞いただけで、玲の胸になんとも言えない感情が胸に湧きあがった。  自分の胸を、こんなにも甘く苦しめるのは、渚しかいない――玲は目頭を熱くさせた。「あっ! 暑いから外で待たないでね! 着いたら連絡するから!」 炎天下の中、渚が外で待っている情景が浮かんで玲は付け足した。『ふふ、分かった。ありがとう』 通話を切ると、玲はまだ激しく脈打つ心臓を押さえた。視界が霞んでしまうほどの興奮で指先が震えて
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第1.5章:021

 ※ 玲が渚の高校の校門前に着いた時は、汗でシャツがびっしょり濡れていて、前髪は額に張り付いてしまっていた。 渚に会うためだけに炎天下の中走ってきた玲は、渚に到着したことを知らせるメッセージを送った。『着いたよ』 送信ボタンを押し、乱れた呼吸を整えようと深く息を吐き出す。 普段なら、こんな汗だくで不格好な姿を誰かに、ましてや渚に見せるなんて絶対に嫌だったはずだ。いつだって完璧で、爽やかな「優しい幼馴染」でいたかった。けれど、今の玲にとっては、そんなプライドよりも一秒でも早く彼女の姿をこの目に焼き付けることの方が、何百倍も重要だった。「宮原君!」 夏の強い陽射しの中、門から顔を出したのは白い長袖シャツを着た、世界で一番大好きな渚の姿だった。その胸元には、小さな紙袋が大切そうにしっかりと抱えられている。 玲の姿を視界に捉えた瞬間、渚の顔に、心底安心したような、そして本当に嬉しそうな笑みがパッとこぼれた。 その表情を見た瞬間、夏休み中、玲のドス黒く燻っていた猜疑も焦燥も、跡形もなく消し飛び、歓喜へと塗り替えられていった。「おかえり、渚!」 乱れた前髪を無造作に上げ、玲は渚に駆け寄った。「顔が真っ赤だよ! 大丈夫?」 玲の姿を見るなり、渚が心配そうに声を上げた。 炎天下の中をがむしゃらに走ってきたのだ。水の一杯も飲んでいない玲の身体は、限界まで熱を帯びていた。「あっ……」 渚が躊躇うことなく玲の手首を掴み、「きて」と小さく引っ張る。(――渚と、手が繋がってる) 正確には手首を握られているだけだ。それでも、渚の方から肌を触れ合わせてくれたという決定的な事実に、玲の脳内は一瞬でパニックに陥った。夏のせいではない、急激に体温が跳ね上がっていく。嬉しさと恥ずかしさが混じり合い、視界がさらに熱く歪んだ。「本当はエアコンが効いた寮に連れていきたいんだけど、男性は立ち入り禁止なの」 渚はそう言いながら、校門のすぐ脇にある、日陰の水道の前まで玲を引っ張って行った。 後ろを振り返った渚が、玲を見
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第1.5章:022

 すぐに戻ってきた渚の手には、ふわふわとした可憐な花柄のタオルが握られていた。「はい、これ使って」「ありがと……」 受け取ったタオルに顔を埋めると、お日様の匂いと、微かに渚のものと同じ甘い香りが鼻腔をくすぐった。それだけでまた心臓が跳ねるのを隠しながら、濡れた髪や首筋を拭う。「気持ち悪かったりしない?」「うん。熱中症にはなってないから大丈夫」「よかった」 ホッとしたように胸をなでおろし、いつもの柔らかい笑みを浮かべる渚。玲はタオルを首にかけ、目の前の少女を眩しそうに見つめた。「渚は暑くない? いつも長袖だから」「うん。陽に焼けたくないから」「そっか」 確かに、渚の肌は透き通るように白い。けれど、もし健康的に日に焼けた渚がいたとしても、それはそれで絶対に可愛いだろうな、と玲は内心で愚直な感想を抱いていた。「あ、これ! お土産」 渚が思い出したように、大切に抱えていた小さな紙袋を差し出してきた。「実家の近所にある焼き菓子屋さん。宮原君、甘いの好きだからどうかなって思って」「俺の為にわざわざありがと……」 胸の奥から込み上げる愛おしさに、玲の唇が自然と綻ぶ。手渡された紙袋の重みが、そのまま渚が自分を想ってくれていた時間の重さのように感じられて、堪らなく嬉しかった。「でも、俺が甘いのが好きってよく分かったね。一度も言ってないのに」「ご飯食べにいったら、食後に甘いのかならず食べるし、それに嬉しそうに食べてるから」 指摘されて、玲は思わず自分の頬に手を当てた。「そう?」「うん」 自分が渚を見つめていたように、彼女もまた、俺のことをちゃんと観察してくれていた。その事実が、玲の胸にこの上ない優越感と幸福感をもたらした。「あのさ!」 この好機を逃したくない、という衝動が玲を突き動かす。「俺、他にも好きな食べ物があるんだ。ちっちゃい頃は食べられなかったけど今は食べられるものも増えた。渚も、好きな食べ物が昔に比べて増えたと思う。嫌い
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第1.5章:023

その沈黙が、急に恐ろしくなった。「だめかな……?」 玲は、捨てられた仔犬のような不安げな表情で渚を見つめた。「宿題残ってたら、一緒にしよう。俺、もう終わったし手伝いもできるし……。毎日が嫌なら、三日に一回でもいいし……」 渚の反応がなくて、どんどん語尾が小さくなっていく。「五日毎でも……」「いいよ」 柔らかな声が、玲の弱気な言葉を遮った。 玲が勢いよく顔を上げると、渚が楽しそうに目を細めていた。「残りの夏休み、毎日お喋りしよう」 じりじりと照りつける眩しい陽射しの中で、白い歯を見せて無邪気に笑う渚。その圧倒的な美しさと神聖さに、玲は心を奪われ、言葉を失って見惚れてしまった。「うん……うん!」 遅れて弾けた喜びを全身で表現する玲を見て、渚は嬉しそうに声を立てて笑う。「いつものように、私の高校周辺でもいい……?」「もちろん。渚と会えるならどこでもいい」 玲は激しく頷き、そこでさらに、ずっと温めていたもう一つの「我が儘」を口にすることにした。少し俯き、はにかむような仕草で、上目遣いで渚を見る。「あのさ、お願いがあって」「え?」「嫌ならいいんだけど、宮原君って苗字呼びじゃなくて、玲って名前で呼んでもらうのだめ、かな……」「名前?」「ほら、その、俺だけ呼び捨てなのも、悪いかなって思って……渚もフランクに俺のこと名前で呼んでくれたら、嬉しいなって……」 渚は少し驚いたように瞬きを繰り返し、申し訳なさそうに眉を下げた。「逆にいいの?」「いいよ! もちろん!」 期待を込めてじっと見つめる玲の前で、渚は少し照れくさそうに唇を開いた。「……玲」 渚の口から零れ落ちた自分の名前が、これほどまでに甘美な
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第1.5章:024

 ※ ※ ※ 二学期が始まり、季節が秋から冬へと移り変わる中で、玲と渚の距離は誰の目にも明らかなほどに縮まっていた。 かつてのような張り詰めた警戒心は薄れ、渚は少しずつ、自分の「得意なこと」や「苦手なこと」を玲に話してくれるようになっていた。「私、昔から人混みがどうしても苦手で……」 ある時、渚がふと漏らした言葉に、玲はかつて二人で映画館に行ったとき、上映後のロビーで彼女が酷く気分を悪そうにしていた姿を思い出した。(あの時、体調が悪そうだったのは、ただ人混みが苦手だったからなんだな) 玲のなかで、一つの疑問が綺麗に腑に落ちる。渚が「なぜ人混みが苦手なのか」という理由を聞き出すことはせず、それ以上深く踏み込むことはしなかった。彼女との距離を、これ以上見誤りたくなかったからだ。 夜、ベッドに入ってから眠りにつくまでの間、毎日のように携帯越しに声を交わすのが二人の新しい習慣になっていた。『……ん、玲は、まだ起きてる?』『うん、起きてるよ。眠くなったら、先に寝ていいからね』 携帯の向こうから聞こえる渚の声が、次第に熱を失い、微睡みに沈んでいく。 玲は、渚が完全に寝落ちするまで、何があっても絶対に電話を切らなかったし、自分も眠らなかった。一度通話を切ってしまえば、彼女が自分の手の届かない遠い世界へ消えていってしまうような、そんな得体の知れない不安が胸の奥にどこまでも付き纏っていたからだ。 静まり返った自室で、スピーカー越しに聞こえてくる渚の規則正しい、無防備な寝息。それを耳の奥でじっと聴いている時間だけが、玲を安らぎで満たしてくれる。渚が確かに電話の向こうに、自分の手が届く距離にいる――その事実に、ひどく満ち足りた幸福感を覚えていた。 
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第1.5章:025

※ ※ ※  そして、年末。 渚と玲は、夏休みに一番最初に入った、あの女性客ばかりのお洒落なカフェにいた。「初詣、一緒に行かない?」 注文した温かいカフェオレを一口すする渚の前に、玲はその提案を差し出した。 大晦日から元旦にかけての神社など、人混みの最たるものだ。一瞬、渚の綺麗な眉が、困惑や恐れを滲ませるように微かに動いたのを玲は見逃さなかった。断られるかもしれない――そんな不安が胸をよぎるより早く、玲はあらかじめ用意していた言葉を重ねた。「渚が人混み苦手なの、知ってるから。……だから、絶対に俺が、渚がはぐれないように手を繋ぐから」 渚は、怯えるように少しだけ視線を伏せた。 少しの沈黙の後、渚はゆっくりと顔を上げると、眩しそうに目を細めて微笑んだ。「うん。……玲と一緒なら、行きたい」 承諾の言葉が、カフェの静かな空間に響く。「俺、渚の手は絶対に離さない!」 渚が承諾してくれた喜びで、玲はつい声を張り上げてしまう。 周囲のクスクスとした笑いと冷めた視線を注がれても、玲には痛くも痒くもなかった。 歌番組とカウントダウン、お笑い芸人たちの特番――いつ見ても同じ光景にしか見えず、観たくもない番組を面白くもないのに笑うフリばかりしていた。それを今年からせずに済む。 心の底から、笑えることができたのだから。 ※ ※ ※ 大晦日の夜、玲は洗面台の前に立ち、入念に前髪の分け目を整えていた。 普段ならそこまで固執しない身だしなみに、どうしても神経質になってしまう。今夜は、渚と初めて夜に会う特別な夜なのだ。「――玲、こんな遅くからどこに行くの?」 洗面台の鏡の向こう、その背後にあるドアから、母親が不審そうに顔を覗かせた。 リビングから漏れてくる例年通りの賑やかな特番の音が、脱衣所の狭い空間に微かに響いている。「初詣」 玲は鏡の中の自分の前髪に指先で触れたまま、一切の躊躇なく、ごく自然に微笑んで見せた。「こんな遅くに誰と?」
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第1.5章:026

「成績下がったりしてないでしょ」「そうだけど。玲が私たちの知らない子といるから、親として心配してるのよ」 知らない子――その言葉に、玲の動きがピタリと止まった。 どこまでも的外れな心配に、玲の口元が薄暗い歪みを帯びる。「知ってる子だよ」 玲は靴の紐を結び終え、静かに立ち上がった。「渚」 それまで小言を重ねていた母親が、急に、言葉を失ったように黙り込んだ。 静寂があまりに不自然で、不思議に思った玲はゆっくりと振り返る。 そこには、今まで見たこともないほど神妙な表情を浮かべた母親が立ち尽くしていた。 玲の脳裏に、渚が突然引っ越した時、『渚はどこに行ったの?』と訊ねたあとに、母親が『知らないのよ』と返したことが蘇った。 その顔を見た瞬間、「知らないのよ」という言葉が実は嘘だったのではないか、という疑問が浮かんだ。(なに、その反応) 渚が突然いなくなった理由を、母親は知っているのではないか。 玲は母親を問い質そうと唇を開きかけた、その時だった。 ――ピロン。 コートのポケットの中で携帯が鳴った。 玲はポケットの携帯を取り出す。そこには、『渚』の文字が表示されていた。『すごく冷えるらしいから、温かくして来てね』 画面に並ぶ自分を労わる言葉に、玲から、親に対する疑惑も一瞬で吹き飛んだ。今の自分にとって、母親の隠し事などどうでもいい。渚が今、自分を待っている。それ以上の優先事項など、この世に存在するはずがなかった。「行ってきます!」 玲は母親の表情を二度と見ることなく、ただそれだけを言い残して玄関のドアを開けた。※ 大晦日の深夜。目的の神社に近付くにつれ、冷え切った空気の中に人の熱気と騒がしさが混じり始めていた。 普段なら息苦しくなるほどの雑踏。けれど、玲は今、その人混みに感謝したい衝動に駆られていた。「渚、はぐれないように。おいで」 玲がそう言って差し出した右手を、渚は少し躊躇うようにしながらも、しっかりと握り返してくれた。「…&h
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第1.5章:027

 やがて、玲と渚は人波に流されるようにして本殿の前へと辿り着いた。 お賽銭を投げ入れ、鈴の音が夜空に響いた瞬間――。 お祈りをするために、結ばれていた渚の手がそっと離れた。 指先から伝わっていた温もりが急に消え、玲の胸に冷たい風が吹き抜けるような寂しさが走る。早くもう一度触れたい、その衝動を抑えながら、玲もまた賽銭箱に向かって手を合わせた。(これから先も、ずっと渚と過ごせますように) 神様への願い事は、それ以外に何もなかった。彼女が自分の目の届く場所で、手が届く距離で、いつまでも笑っていてほしい。 願い終えてすぐに目を開けると、隣にいる渚は、まだ静かに目を閉じて手を合わせていた。「…………」 吐き出す息が白く、神社の灯籠の光に照らされている。真剣に何かを祈っている渚の横顔は、言葉を失うほどに綺麗で、玲はただ、その神聖な姿に息を詰めて見惚れてしまった。 やがて渚がゆっくりと目を開け、視線に気付いて玲を見上げる。二人の目が合うと、渚は優しく、嬉しそうに微笑んだ。その無防備な笑顔の破壊力に、玲は胸を突かれ、カッと頬が熱くなる。 参拝を終えると、玲は待ってましたと言わんばかりに、再び渚の冷えた手をしっかりと握りしめた。そうして、来た道をまた二人で歩き始める。「玲、何をお願いしたの?」 雑踏の騒がしさに消されないよう、渚が少し声を張り上げて訊ねてきた。「これからもずっと、渚と過ごせますように」 玲が少しも飾らず、本音をそのまま口にすると、渚は一瞬だけ驚いたように丸い目を向けた。そして、すぐにいたずらっぽく目を細める。「お願い事を他の人に喋っちゃったら、叶わないんだよ?」「えっ」 玲が本気で焦って声を漏らすと、渚が「ははっ」と楽しそうに笑った。 そこで初めて、玲は自分が揶揄われたのだと気付く。完璧な優等生であるはずの自分が、彼女の一言にこれほど簡単に翻弄されている。「もう……渚、意地悪。本当に叶わなくなったらどうするのさ」「ごめんね。嘘だよ」
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第1.5章:028

 ※ ※ ※ 二月。 高校三年生への進級を控えたその日も、いつもの日曜日と同じように、玲は渚のいる女子寮へと足を運んでいた。 二人の目的地は、夏休みにも一緒に行った映画館。あの日と同じ、人気アニメの新作映画を観る約束をしていた。 ただ、今日会った時から、渚がどこかそわそわしているような気がして、玲は密かに小さな違和感を覚えていた。視線が落ち着きなく泳いだり、ふとした瞬間に自分のバッグを見つめたり、あるいは緊張したように引き寄せたりしている。 けれど、映画館に着いてしまえば、渚はいつも通りだった。映画が始まるとスクリーンに集中し、上映が終わった後は「あのシーンの作画、すごく綺麗だったね」「まさかあそこで繋がるとは思わなかった」と、楽しそうに感想を言い合う。「あ、渚、危ないから。こっち」 退場口に向かう人混みの中、玲は当然のような顔をして渚の手を包み込み、引き寄せた。冬休みの初詣以来、人混みを理由にすれば、彼女は玲が手を繋ぐことを拒まない。 しかし、人波を抜けて駅へと向かう道すがら、不意に、渚がまた何かを深く考え込んでいるような素振りを見せた。 玲を見ているようで、その瞳の奥はどこか遠くを彷徨っている。声をかければハッとしたように笑顔を戻すけれど、その不自然な空白が、玲の胸にじわじわと「不安」という名の影を落としていった。(俺に何かいいたいことでもあるのかな……渚にもっと触りたいって思ってることがバレた、とかないよな……?) 最初は手を繋ぐだけで満足だったのに、それが叶うと「次」を求めてしまう。渚の髪、頬、唇……渚のパーツ全てに触れて、どこも触ったことがないくらい、渚の全てを知りたかった。 それに加えて、渚と二人きりになれる空間で過ごしたいとも夢に見ている。狭い空間で人の目を気にせずに渚と過ごしたい――カラオケボックスなら、それが叶う。暗い空間に、渚と二人きり。彼女の声だけが聞こえる完全防音の部屋――そんな閉ざされた世界を、一度でいいから過ごしてみたかった。 そんな不埒な妄想が漏れてしまっていないだろうか――玲は
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第1.5章:029

「あのね、玲」 彼女の頬は、冬の寒さのせいか、赤く染まっている。 その上、渚の目は力が入りすぎていて、緊張しているように見えた。「どうしたの……?」 声が上擦らないよう、玲は平常心を保つ――彼女が何を言い出すつもりなのだろうか、と思わず身構えた。「実は……渡したいものがあって」 渚は少し震える手で自分のバッグを開けると、奥から小さな、丁寧にラッピングされた紙袋を取り出した。それを、まるで壊れ物を扱うようにして、玲の前に両手で差し出す。「はい。……これ」「これは……?」 予期せぬ贈り物に、玲が目を丸くして受け取る。手渡された紙袋を覗き込んだ瞬間、玲の脳裏にある日付が閃いた。「今日、バレンタインだから」 渚がはにかむように言った。 バレンタイン――学校では女子たちからそれなりに声をかけられるイベントだったが、自分の家と、学校と、渚のいる場所だけを行き来していた今の玲にとって、そんな季節行事は完全に意識の外に弾き飛ばされていた。「玲、甘い物好きだから……どうかなって」 どこの誰から貰ったものか覚えていないチョコレートよりも、今、こうして自分の手の中にある小さな紙袋の重みを玲は一生忘れることはないだろう。胸に沸き起こる歓喜を、どのように言葉に表したらいいのか、玲は持ち合わせていなかった。 喜びを噛み締め、紙袋を覗いたまま言葉を発しないでいると、渚から「ごめんね」と微かな声をかけられて、玲はハッと顔を上げた。 どうして謝られたのか不思議に思って彼女を見ると、渚はひどく不安そうな目をして、マフラーに口元を埋めている。「私のお小遣いで買える範囲だから、たいした物じゃなくて……」「そんなことない!」 玲は渚の声を遮って、全力で彼女の言葉を否定した。「すっごく嬉しい! こんなに嬉しいことは初めてだ!」 その言葉に目を丸くした渚の手を、玲は思わずぎゅっと握
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