All Chapters of 番の心がわり: Chapter 11 - Chapter 13

13 Chapters

第11話 偽者の番(2)

目を覚ましたとき、サラリアがまず感じたのは金属が錆びたときのような臭いだった。ぼんやりした頭で体を起こし、ようやく自分が床に倒れていたことに気づいた。そのくらい、何が起きたのか理解できていなかった。顔にかかる髪を退けようとして、手のひらについた血に気づいた。真っ赤な血に対する反射的な恐怖心で動いたとき足が何かを蹴った。からんと金属音が響いた。視線をそちらに向けると短剣が床に転がっていた。その刃には血がべったりと付着していた。サラリアは一瞬呼吸が止まったが、視線はゆっくりと動いていた。「ひっ」血まみれのシーラが立っているのが見えた。白いドレスが赤く染まり一部は黒くなってもいたけれど、シーラは満足気だった。「お嬢様、異常はありませんか」そう問い掛けたのはサリンドラ家の魔法師だと紹介された男の一人だった。「気に入らない臭いだけど我慢するしかないわね。そろそろラーシュが戻る頃よ、急いで去りなさい」シーラの命令に従い、彼らはどこかへと消えていった。サラリアの頭は真っ白で、何があったのかは分からないが、シーラと二人きりという状況には怖さしかなかった。なにが。どうして。サラリアが混乱していると、「予定通りね」とシーラは小さく呟いた。何が予定通りなのか。サラリアがそう思った瞬間だった。バタバタと激しい足音が聞こえたと思った瞬間―――。「いやぁぁぁぁっ!!」シーラが突然、耳をつんざくような悲鳴を上げた。次の瞬間、扉が外から勢いよく開かれる。「サラッ!」ラーシュが部屋へ飛び込んできて、サラリアは反射的にラーシュに手を伸ばした。助けて、そう言いたかった。怖かったのだと、苦しかったのだと、ラーシュに抱き締めてほしかった。安心させてほしかった。けれどラーシュは、サラリアから少し離れたところで止まった。驚いてサラリア
last updateLast Updated : 2026-05-24
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第12話 偽者の番(3)

「サラ、何をした?」ラーシュの声は静かで、そこにはラーシュが常にサラリアへ向けていた熱も甘さもなかった。あれほど優しく自分を見つめていた藍色の瞳が今は罪人を見定めるように揺れている。そんな氷のように冷たい目をサラリアは初めて向けられた。その視線にサラリアは一瞬だけ息を詰まらせた。本能的に恐怖を感じると同時に深く傷ついた。愛されていた相手から向けられる疑念ほど人を傷つけるものはない。しかしサラリアは後宮で学んでいた。誰も助けてくれない場所では、自分だけは自分を信じなければならない。ここで折れたら終わりだとサラリアは知っていたから、サラリアは震えそうになる指先を握り締めまっすぐラーシュを見返した。「何もしていません」出た声は思ったより冷静で、サラリア自身が驚いた。でもサラリアは本当に何もしていない。何かをしたのはシーラたちのほうだ。冷たい床へ押し倒された感触をサラリアは覚えている。無理やり押さえつけられた腕の力、血を抜かれる痛み、そして身体の奥へ冷たいものが入ってくる不快感―――すべてをサラリアは覚えている。  『これで私が番よ』意識を失う直前に聞いたシーラのあの声だけは異様に鮮明だった。サラリアは覚えている限りを話した。何をされたか。誰がいたか。どんな薬品の匂いがしたか。シーラが何を言ったのか。感情を押さえて淡々と、途中からは自分でも不思議なくらい冷静に話せていた。泣く必要もない。信じてほしいとラーシュに対して縋る気持ちもどこか薄れていた。たぶんラーシュの一言、人族なんかという言葉で理解してしまったのだ。ラーシュにとって自分はもう無価値。だからサラリアは感情を混ぜることなく事実だけを並べた。ラーシュが信じる信じないは別にして、知らないことのはラーシュに対してフェアではないから話し続けた。説明義務を果たせば全
last updateLast Updated : 2026-05-25
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第13話 騎士の兄弟(1)

複数の足音が近づいてきた。身構えるサラリアの視線の先で扉がゆっくりと開く。入ってきたのは四人の男たちだった。前に二人、後ろに二人。 自然と立ち位置に上下関係が見える。 後ろの二人は護衛のように前二人に従っていた。(大袈裟ね)飛んで逃げる翼もない人族の、しかも非力な女一人に対して竜族の屈強な男が四人もいる。サラリアは皮肉げに口元を緩めた。.「オーレリウス・ウィンドスケイルです。ご同行ください」前に立つ二人のうちの一人が胸へ手を当てて敬礼し、丁寧に名乗った上で頭を下げた。サラリアは驚いた。(いま『ウィンドスケイル』と……)ウィンドスケイルの名にサラリアは覚えがあった。ドラコニアの貴族名鑑の、ドラコニス王家の次にあった名前。ウィンドスケイル公爵家。サリンドラ家と同様に建国王ドラコニスを支えた騎士の名を持つ、王の剣という名を持つ空戦を得意とする武門の一族。竜族の中でも位が高い一族の男が礼を尽くす対応をした。食事を運ぶ侍女でさえ蔑むような態度をとった。だからオーレリウスと名乗った男の態度にサラリアは戸惑う。サラリアの視線を感じたのかオーレリウスは柔らかく微笑む。(ご当主の年齢とは合わない…… 確か息子が二人いると書かれていたはず)オーレリウスは兄弟の男どちらかだろうとサラリアが考えていると、オーレリウスの隣の男が苛立ったように怒鳴った。「オーレリウス、罪人なんぞに頭を下げるな!」大きな声だった。(単純そう……考えていることが全部口に出るタイプ)オーレリウスを名で呼んだことと叱責できる立場。オーレリウスがウィンドスケイル家の次男で、こちらの男が兄だとサラリアは推察した。(オーレリウス卿よりも騎士っぽいわ)兄弟の髪色は揃いの金茶色だが、オーレリウスが長く伸ばして一つに束ねているのに対して兄のほうは短く刈り込んでいる
last updateLast Updated : 2026-05-25
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