だが、耳たぶにはまだ淡い紅色が残っていて、どうしても消えそうになかった。蒼士は口元をわずかに緩めた。「行こう。飯にしよう」紗寧は彼に手を引かれて個室へ向かった。二、三歩歩いたところで何かを思い出したように、小声で尋ねる。「さっきのお薬、飲んでいませんよね......?」蒼士は足を止め、横目で彼女を見た。彼女は顔を上げ、不安そうな気遣いを瞳に宿している。唇をきゅっと結び、長いまつ毛が小さく揺れていた。「ああ」その答えを聞くと、紗寧は目に見えてほっと息をつき、小さく頷く。「よかった......」蒼士は彼女の手を握る力を少しだけ強め、小さく息を呑んだが、何も言わず、そのまま手を引いて個室へ向かった。......その頃ちょうど、八角彩未は友人たちと一緒にエレベーターでクラブの最上階へ上がってきた。すると目の前で、蒼士が一人の女性の肩を抱き寄せ、親密な様子で個室へ入っていく姿が目に入る。彩未はその場で足を止め、表情が少しずつ曇っていった。「彩未?何見てるの?」親友の杉浦茜(すぎうら あかね)も彼女の視線を追った。見えたのは後ろ姿だけだったが、それでもすぐに誰か分かった。「蒼士さん?」彼女は不思議そうに眉をひそめる。「隣にいる女の人、誰だろう......」彩未は唇を引き結んだまま答えなかった。「まさか貝原家のお嬢様?」誰かがそう口にした。その一言で、彩未の表情はいっそう険しくなる。その反応を見て、一同はすぐ事情を察した。隣にいたもう一人の親友・長田恵理(おさだ えり)は目を輝かせ、小声で噂話を始める。「そういえば思い出したけど、島崎家の華澄お嬢様の話、聞いた?蒼士さんを怒らせたらしくて、島崎家から見捨てられて国外へ追い出されたんだって」「華澄?」杉浦は眉を寄せた。「毎日のようにブランドバッグや高級車をSNSに載せて、自称セレブ気取りしてたあの島崎華澄?」「そう、その人」長田は感心したように舌を鳴らした。「スターエンタメで働いてたんだけど、貝原咲良さんに喧嘩を売っちゃって、その場で蒼士さんに追い出されたらしいの。翌日には島崎家が親子の縁を切るって声明を出して、その夜のうちに国外へ送ったんだって」一瞬、個室の空気が静まり返る。女の子たち
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