彼に依存してはいけない。ましてや、それ以上の感情を抱いてしまうなんて――紗寧は深く息を吸い、熱くなった頬を軽く叩いた。――落ち着け。大人なんだから、生理的な反応くらいあって当然。彼にからかわれてドキッとしたからといって、それだけで何かを意味するわけじゃない。それに......確かに、あの......その、存在感はすごかった気はするけれど、見かけ倒しかもしれないじゃない。そこまで考えた瞬間、自分が何を考えているのかに気づき、顔はさらに真っ赤になった。もう一度頬を軽く叩く。――変なこと考えちゃだめ!......午後になっても、紗寧はパソコンの画面をぼんやり眺めていた。祐輔のスケジュールはすでに組み終え、引き継ぐべき仕事もすべて済ませている。それなのに、どうしても気持ちが落ち着かない。頭の中には昼の出来事ばかりが浮かんでくる。彼の唇の感触は知っている。熱くて、柔らかくて――足の力が抜けそうになるほど強引で。まるで毎回、自分を飲み込んでしまおうとするみたいに......待て待て!また何を考えてるの!紗寧は苛立ったように髪をかき乱し、そのまま腕の中へ顔を埋めた。「貝原さん?顔、すごく赤いですけど、大丈夫?」頭上から樋口の声が降ってくる。「風邪?」紗寧は勢いよく顔を上げた。「いえ、私は平気です!」その反応に樋口は驚いて、一歩後ずさる。「わっ!ほ、本当に大丈夫?」「ええ」紗寧はぎこちなく笑った。「ちょっと......暑いだけ」「暑い?」樋口はエアコンの吹き出し口を見上げる。「冷房ついてますよ?25度ですけど......」「......」これ以上説明する気にもなれず、紗寧は話題を変えた。「そんなことより、さっき何か言いかけてましたよね?」「あ、そうだった!」樋口は額を軽く叩き、慌てて近寄ると声を潜めた。「貝原さん、ちょっといいですか。聞いても怒らないでね」紗寧は眉を上げる。「何?」樋口は少し迷った末、スマホを取り出して会社のグループチャットを開き、履歴を表示して彼女へ差し出した。「これ」紗寧はスマホを受け取る。画面には今朝のチャットが並んでいた。発言している相手は見覚えがなく、おそらく他部署の社員だ。
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