「真洋さん、本当にあの義理の妹さんを国外から呼び戻したの?紗寧さんが怒るんじゃないか?」失聴してから一年。ようやく聴力を取り戻した紗寧は、クラブの個室の前で立ち尽くした。浮かべていた笑みが、その瞬間ぴたりと凍りつく。――鈴江詩帆(すずえ しほ)が、帰国した?「お前たちさえ黙ってれば、あいつには何も分からない」柏 真洋(かしわ まひろ)の声は冷ややかで、感情の起伏がまるで感じられない。「それに、もう一年以上経ってる。詩帆も家が恋しくなったんだろ」「家が恋しいっていうか、真洋さんが恋しかったんじゃないの?」その一言で、部屋の中は意味ありげな笑い声に包まれた。「馬鹿なこと言うな。俺はあいつを妹としてしか見てない」「でもさっき詩帆とキスしてるの見たぞ?ははっ、『妹』ねえ......俺には『恋人』にしか見えなかったけど?」真洋は眉をひそめた。「あいつが勝手に寄ってきて、避け損ねただけだ。ガキが少し調子に乗ったくらいで、本気で責めるわけにもいかないだろ」そう言ってから、何かを思い出したように低い声で釘を刺す。「この件は全員黙っておけ。紗寧が来ても、誰も余計なこと言うなよ」その時、誰かが咳払いをして真顔になった。「でもさ、真洋さん。本当にもう気にしてないのか?当時、詩帆ちゃんが人を使って紗寧さんを轢かせた件。紗寧さん、死にかけたんだっけ。今だって耳が聞こえないままだし」真洋は淡々と言った。「詩帆は当時まだ19だった。少しわがままだっただけだ。海外で一年苦労して、今はだいぶ大人しくなった。いつまでも責め立てる必要ないだろ」――わがまま、だっただけ?紗寧は、頭の中で何かが轟音を立てて崩れ落ちるのを感じた。天地がひっくり返るとは、きっとこういうことを言うのだろう。あまりにも馬鹿げた現実が、波のように押し寄せ、彼女を呑み込んでいく。一年前。真洋の義妹・鈴江詩帆は、彼への想いを拗らせた末、紗寧に車を突っ込ませた。その事故で、彼女は聴力を失った。激怒した真洋は詩帆を半殺しにしかけたほどだった。だが最後は両親に止められ、詩帆は急遽国外へ送られた。この一年、真洋は彼女の耳を治すために国内外の名医を探し回り、一時は仕事すら放り出して、ずっとリハビリに付き添ってくれていた。治療は長
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