謙吾はスマホを取り出すと、指を素早く動かして駿人にメッセージを送った。【おい、早く来てくれ。大変なことになってる!】駿人は即座に返信する。【???】謙吾は文字を打つのも面倒になり、そのままボイスメッセージを送った。「蒼士さんが貝原咲良を連れて来たんだよ!頼むから早く来てくれ!」送信して3秒もしないうちに、駿人から電話がかかってきた。「何だって?蒼士さんが誰を連れて来たって?」「あの貝原咲良だよ。あの貝原家のお嬢様」電話の向こうは2秒ほど沈黙し、それから鼻で笑う声が聞こえた。「は?あの、能無しでわがまま放題って噂の貝原咲良か?蒼士さんが本当に人前に連れ出したっていうのか?待ってろ、今すぐ行く!」電話を切ると、謙吾は蒼士の向かいのソファへ腰を下ろした。それでも視線はつい紗寧へ向いてしまう。彼女は静かにそこへ座り、水を飲む仕草一つとっても、言葉にできないほど品があった。まるで一枚の絵のようだった。蒼士はその視線に気づき、淡々と彼を一瞥する。ただそれだけで謙吾は慌てて目を逸らし、苦笑いを浮かべながらウイスキーを一気にあおった。「蒼士さん、その......」言葉を選びながら口を開く。「貝原家のお嬢様、噂とはずいぶん違うんだね......」「噂?」蒼士は眉をわずかに上げた。「どんな噂だ?」謙吾は口を開きかけたものの、結局その言葉を飲み込んだ。「いや、何でも......」......しばらくして、個室の扉が勢いよく開いた。駿人が大股で入ってくる。切れ長の目を細め、いつもの軽薄そうな笑みを浮かべていた。「蒼士さん!」部屋へ入るなり声を上げ、室内を見回す。最後に蒼士へ視線を向け、能天気な笑みを浮かべたまま言った。「貝原咲良を連れて来たって聞いたけど、どこだよ、その噂のお嬢様は――」そこまで言いかけた瞬間、蒼士の隣に座る紗寧が視界に入る。「奥さん?」紗寧は顔を上げ、礼儀正しく軽く頷いた。「こんにちは」駿人は謙吾を振り返る。その目には「俺をからかってるのか?」という疑問がありありと浮かんでいた。「お前、貝原咲良が来たって言ったよな?どこにいるんだ?」謙吾は紗寧を指差した。「この人だよ」「!!!」駿人は完全に固まった。
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