「まだ来てない。今向かってるから、もうすぐ着くって」駿人は脚を組んでソファに深くもたれた。その拍子にスーツの胸元がさらに開き、引き締まった腹筋の輪郭がかすかにのぞく。蒼士はティーカップを置いて立ち上がると、紗寧へ手を差し出した。「行こう。裏庭を案内する」駿人が眉を上げた。「裏庭で何するんだ?」蒼士は振り返りもせずに答えた。「魚を見る」「魚なんか見て何が面白いんだよ......」駿人はぶつぶつ言いながら、謙吾のほうを向いた。「あいつ、いつから魚に興味を持つようになったんだ?」謙吾はティーカップを手にしたまま、ゆっくりと息を吹きかけた。「独身男が、仲のいい夫婦に口を出すなよ」独身男こと駿人は、言葉を失った。「......」有賀家の裏庭は前庭よりもさらに広く、山の地形に沿って段々に造られており、変化に富んだ美しい景観を見せていた。一番奥には、それほど大きくはないものの、細部まで丹念に造り込まれた池があった。岸辺は青みがかった石で囲まれ、水面には数枚のスイレンの葉が浮かんでいる。その下では、数匹の鯉がゆったりと尾びれを揺らしていた。池のほとりには石が一つ置かれ、表面にはまだらに苔が生えている。一目見ただけで、かなりの年月を経たものだと分かった。蒼士は紗寧の手を引いて池のそばまで行くと、水中を指さした。「見て」紗寧が池をのぞき込むと、水底に何かが敷き詰められ、陽光を受けてほのかな青い光を放っていた。目を細めてしばらく見つめ、ようやくそれが何なのか分かった。「これは......」「蓄光石だ。夜になると光って、池全体が青くなる」「わあ......!」紗寧は思わず歓声を上げた。蒼士は、つないだ彼女の手を優しく握った。「気に入った?」紗寧はすぐに何度もうなずいた。その瞳は、星をちりばめたように輝いている。「気に入ったなら、うちにも同じものを造らせよう」紗寧は慌てて首を振った。「いいの、いいの。そんなことをしたら大変でしょう?」「それほどでも。君が喜ぶなら、どんなことだって手間にはならない」紗寧の心臓が大きく跳ねた。伏し目がちに、つないだ二人の手を見つめる。蒼士の長く骨張った指が、紗寧の手をすっぽりと包み込んでいた。乾いて温かな手の
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