บททั้งหมดของ 『尽くしすぎたのでやめました。今さら後悔しても遅いです』〜帰らない人を待つのは、もうやめます〜: บทที่ 131 - บทที่ 139

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131話 器と写真

 二階へ上がる階段は、前に来た時と同じだった。 けれど、今日は少しだけ違って見える。 白い壁に貼られた小さな案内。 階段の途中に置かれた、展示名の書かれた紙。『小さな器と暮らしの写真展』 その文字を見ながら一段ずつ上がる。 胸は少し速く鳴っていた。 朝倉さんに会えるかもしれない。 それは、確かにある。 でも、それだけではない。 器を見る。 写真を見る。 自分の生活の中にあるものを、少し違う角度から見てみる。 今日はそのために来た。 そう思い直すと、足元が少し落ち着いた。◇◇◇◇ 展示室に入ると、前回とは空気が少し違っていた。 白い壁に写真が並び、その下や横に、小さな器が置かれている。 木の台。 淡い布。 湯のみ。 小皿。 深い鉢。 どれも、飾り物というより、誰かの生活の中から少しだけ持ってこられたように見えた。 受付にいた書店員さんが、私に気づいて微笑んだ。「いらっしゃいませ」「こんにちは」「どうぞ、ごゆっくり」 私は軽く頭を下げて、最初の展示へ向かった。 そこには、朝のテーブルを写した写真があった。 窓から光が入り、白い皿にトーストがのっている。 隣には小さなカップ。 テーブルの端に、読みかけの本。 特別な料理ではない。 豪華な朝食でもない。 でも、誰かがちゃんと朝を始めようとしている写真だった。 横には、写真に写っているものと同じらしい小さな白い皿が置かれていた。 手作りなのか、縁が少しだけ揺れている。 私はその皿をじっと見た。 完璧な丸ではない。 でも、そこがいいと思った。 毎日使うものが、少しだけ不揃いでいい
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132話 余白の席

 朝倉さんは、私の手元のノートに視線を落とした。「書いてくださっていたんですか」「あ、はい」 私は少しだけ照れた。「展示を見ながら、忘れないうちにと思って」「嬉しいです」 朝倉さんはそう言ってから、近づきすぎない距離で隣の壁を見る。 そこには『余白の席』の写真があった。「その写真の前に、長くいらっしゃいましたね」「はい」「気になりましたか」「気になったというか……好きでした」 前より、その言葉を言うのが怖くない。 好きでした。 私はそのまま続けた。「丸いテーブルと、二脚目の椅子が写っていて」「はい」「私の部屋にも、丸いテーブルと椅子が二脚あるんです」「そうなんですね」「一人暮らしなのに、二脚にしたんです」 話しながら、少しだけ笑う。 初めて家具を選んだ時のことを思い出した。 一脚だけにする選択もあった。 でも私は、二脚にした。 誰かが来るかもしれないと思ったから。 誰かを待ち続けるためではなく、自分の部屋を外へ開いておくために。「最初は、少し変かなと思ったんです」「一人暮らしで二脚?」「はい。でも、友達が来てくれて、そこに座ってくれて」「はい」「今は、その椅子があってよかったと思っています」 朝倉さんは、静かに頷いた。 余計な合いの手を入れず、言葉を待ってくれる。 だから私は、もう少し話せた。「空いている椅子って、前は寂しいものだと思っていました。でも今は、違う気がして」「どう違いましたか」 私は写真を見た。 夕方の丸いテーブル。 湯気の立つカップ。 畳まれた布が置かれた椅子。「誰かが座ってもいいし、座ら
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133話 使うための器

 『余白の席』の前を離れて、私は展示室をもう一度ゆっくり回った。 一度見たはずの写真も、朝倉さんと話したあとでは少し違って見える。 器は、棚に飾られているだけではなかった。 写真の中で、朝の光を受けていた。 濡れた台所に置かれていた。 食べ終えたあとのテーブルで、少しだけ傾いていた。 使われている途中。 使われたあと。 誰かの生活に触れている時の器。 それを見ていると、自分の部屋の白い器を思い出した。 ヨーグルトを入れる日もある。 かぼちゃを入れる日もある。 森下さんのお菓子を少しのせた日もある。 同じ器なのに、その日によって少しずつ違う。 それは、ただの皿ではなくなっていくということなのかもしれない。 私の生活の時間が、少しずつ染み込んでいく。◇◇◇◇ 展示室の中央に、小さな器がいくつか並んでいた。 手に取ることはできないけれど、近くで見ることはできる。 白い小皿。 灰色がかった青の鉢。 薄い茶色のカップ。 どれも形が少しずつ違っていて、完璧に整っていない。 でも、その不揃いさが温かく見えた。「気になるもの、ありましたか?」 横から声をかけられた。 振り向くと、四十代くらいの女性が立っていた。 落ち着いた色のワンピースに、麻のエプロン。 名札には、器の作家さんらしい名前が書かれている。「あ、はい。これが」 私は灰色がかった青の鉢を指した。「色が、好きで」「ありがとうございます。その色、窯から出るまで毎回少し変わるんです」「そうなんですか」「同じ釉薬でも、置く場所や火の当たり方で違うんですよ。だから、完全に同じものは作れなくて」 作家さんは穏やかに笑った。「でも、そこが面白いんです」
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134話 最初に入れるもの

 器を買ったあと、私はもう一度『余白の席』の前に戻った。 さっき見た時より、写真の中のテーブルが少し近く感じる。 バッグの中には、買ったばかりの小さな深皿がある。 その重みを意識すると、展示をただ見に来た人ではなく、何かをひとつ持ち帰る人になった気がした。 写真の中の椅子は、相変わらず静かに空いている。 でも、もう寂しくは見えなかった。 そこには、次に何を置くか決められる余白がある。 私はノートを開き、さっきの作家さんの言葉をメモした。『器は、使う人の生活に入ったら、その人のもの』『買った時が完成じゃない』 書いてから、胸の奥が少し温かくなった。 私の部屋も、たぶんそうだ。 契約して鍵を受け取った時に完成したわけではない。 カーテンをかけて。 クラゲを置いて。 花瓶を選んで。 千尋や森下さんが来て。 毎朝ヨーグルトを食べて。 少しずつ、私の部屋になっていく。「何か、見つかりましたか」 声をかけられて振り返ると、朝倉さんが立っていた。 案内を終えたのか、少しだけほっとした顔をしている。「はい」 私はバッグに手を添えた。「器をひとつ買いました」「そうでしたか」「小さい深皿です。青みのある色で」「藤崎さんのお部屋に合いそうですね」 自然に言われて、私は少し笑った。「まだ見たことないですよね、私の部屋」「そうですね」「なのに、何となく合いそうって言われるの、少し不思議です」「すみません。勝手に想像しました」「いいです」 私は首を横に振った。「その想像、嫌じゃないです」 言ってから、少しだけ頬が熱くなった。 朝倉さんは一瞬黙り、それから穏やかに笑った。「ありがとうございます
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135話 普通の朝に使う器

 帰り道、私はスーパーに寄った。 買うものは決めていた。 ヨーグルト。 それだけ。 でも、棚の前に立つと少し迷ってしまう。 いつも買っているもの。 少し高いもの。 果物入りのもの。 小さなカップに分かれているもの。 特別な器を買ったから、特別なものを入れたくなる気持ちもあった。 でも、展示室で自分が言った言葉を思い出す。 特別なものを入れるためじゃなくて、普通の日に使うための器にしたい。 私はいつものプレーンヨーグルトを手に取った。 それから少し考えて、冷凍ブルーベリーもかごに入れた。 少しだけ色を足す。 それくらいなら、普通の日の中にあってもいい。 会計を済ませて店を出る。 バッグの中には、小さな深皿。 手提げ袋にはヨーグルトとブルーベリー。 何でもない買い物なのに、少しだけ胸が弾んでいた。◇◇◇◇ 部屋に帰ると、いつものように言った。「ただいま」 薄い青のカーテン。 水色の花瓶。 クラゲ。 丸いテーブル。 二脚の椅子。 その景色の中に、今日から新しい器が加わる。 私は手を洗い、バッグから包みを取り出した。 作家さんが丁寧に包んでくれた薄紙を、ゆっくり開く。 淡い青みのある小さな深皿。 展示室の光で見た時より、部屋では少し落ち着いた色に見えた。 水色の花瓶より少し灰色がかっている。 白い器よりも静かで、でも暗くはない。 私は丸いテーブルに置いた。 それだけで、テーブルの景色が少し変わった。 買ったばかりの器は、まだ私の部屋に少し遠慮しているように見える。 これから使っていけば、馴染んでいくのだろう。 買った時が完成ではない。 作家
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136話 話したいことが増える

 翌朝、私は新しい器を食器棚から取り出した。 昨日の夜にも使ったけれど、今日はちゃんと朝のヨーグルトを入れる。 そう決めていた。 プレーンヨーグルトを少し多めに入れて、上にブルーベリーをのせる。 冷凍庫から出したばかりの実は、白いヨーグルトの上で小さく霜をまとっていた。 青みのある器に入れると、昨日よりも朝の光に馴染んで見える。 私は丸いテーブルに置き、トーストと紅茶も並べた。 窓辺には水色の花瓶。 薄い青のカーテン。 クラゲ。 テーブルには新しい器。 その景色を見て、胸の奥が静かに明るくなる。 普通の朝だった。 特別な予定はない。 仕事へ行って、帰ってきて、洗濯物を畳んで、夕飯を作る。 それだけの日。 でも、朝のテーブルにひとつ新しい器があるだけで、その普通の日が少し楽しみになる。 私は手を合わせた。「いただきます」◇◇◇◇ 会社に着いてから、昼休みに森下さんへ写真を送った。『展示で器を買いました。今朝ヨーグルトを入れた』 すぐに返事が来る。『素敵です! 色が藤崎さんのお部屋に合いそうです』 写真には部屋はほとんど写っていない。 でも、森下さんはそう言った。 続けてもう一通。『今度行った時、その器で何か出してください』 私は少し笑った。『ヨーグルト?』『お客様に朝食を要求する後輩、強すぎますね』『焼き菓子なら出せるかも』『予約します』 二脚目の椅子。 焼き菓子。 新しい器。 また誰かが来る時、その器を使う未来が少し見えた。 買った時は私のための器だった。 でも、誰かに何かを出す器にもなるかもしれない。 それが嫌ではない。 前のよう
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137話 無理をしない予定

 展示に寄らなかった翌日、私は少しだけ不思議な気持ちで目を覚ました。 昨日、私は行きたい場所へ行かなかった。 それなのに、後悔はあまりなかった。 もちろん、展示は見たい。 朝倉さんに会えたら嬉しい。 器を使った感想も、いつか話したい。 でも昨日の私は疲れていた。 その疲れを無視してまで行かなかった。 そのことが、思っていたよりも自分の中で大きかった。 前なら、楽しみにしていた予定を逃した自分を責めていたかもしれない。 せっかく行ける日だったのに。 今日行かなかったら次はいつになるか分からないのに。 そうやって、自分で自分を急かしていた。 でも、展示はまだ続いている。 今日行けなくても、また別の日がある。 楽しみは、一度で全部使い切らなくてもいい。 私はカーテンを開けた。 朝の光が水色の花瓶に当たる。 クラゲのキーホルダーが、窓辺で小さく揺れていた。「おはよう」 いつものように言う。 返事はない。 でも、この部屋の静けさは、今日もちゃんと私を迎えてくれていた。◇◇◇◇ 朝食には、新しい器を使った。 ヨーグルトにブルーベリーを少し。 トースト。 紅茶。 昨日よりも器が手に馴染む気がした。 たった二回、三回使っただけなのに。 食器棚から取り出す時、もう少し迷わなくなっている。 白い器の隣に置いた場所が、少しだけ定位置になってきたからかもしれない。 私はスプーンを持ち、ヨーグルトを食べた。 冷たい。 少し酸っぱい。 ブルーベリーの紫が、器の青みとよく合っている。 普通の朝。 普通の味。 でも、少し嬉しい。 そういうものが増えていくことが、今は楽しかった。
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138話 使ってみた感想

 書店の二階へ上がると、展示室には前より少しだけ人が多かった。 仕事帰りらしい人。 年配の夫婦。 小さなノートを持って写真を見ている女性。 白い壁に並ぶ写真と、そのそばに置かれた器。 一度見た景色なのに、今日は少し近く感じた。 私は最初の展示からゆっくり見ていった。 朝のテーブル。 白い皿のトースト。 台所の深い鉢。 夕方の丸いテーブル。 余白の席。 前に来た時は、器を選ぶ前だった。 今日は違う。 私はもう、あの小さな深皿を自分の部屋で使っている。 ヨーグルトを入れた。 ブルーベリーをのせた。 トマトのマリネも入れた。 食器棚の白い器の隣に置いた。 そのせいか、展示の中の器もただ見るものではなく、これから使われるものに見えた。 棚に並んでいる時の静かさ。 食卓に置かれる時の少しの緊張。 食べ終えたあと、洗われて戻る場所。 器にも、そんな時間があるのかもしれない。◇◇◇◇ 私は『余白の席』の前で足を止めた。 前回よりも、写真の中の椅子が柔らかく見える。 向かいの席には畳まれた布。 カップから立つ湯気。 人はいない。 でも、誰かの気配はある。 私の二脚目の椅子も、最近はよく何かを置いている。 本。 紙袋。 森下さんが持ってきてくれた焼き菓子。 千尋が座った記憶。 森下さんが座った記憶。 そして時々、何も置かない余白。 その余白を、私は前より怖がらなくなっている。 空いていることは、足りないことではない。 まだ決めなくていい場所があるということ。 その考え方は、私の中で少しずつ根を張っていた。「藤崎さん」
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139話 作った人に届く言葉

 朝倉さんに案内されて、私は器の作家さんの方へ歩いた。 展示室の端で、作家さんは年配の女性と話していた。 小さな白い皿を前に、料理の盛りつけについて説明している。 私は少し離れた場所で立ち止まった。 今ならまだ戻れる。 そう思ってしまう自分がいる。 感想を伝えるだけ。 それなのに、胸が少し緊張していた。 うまく言えるだろうか。 変なことを言わないだろうか。 作った人に直接話すなんて、少し大げさではないだろうか。 そんな考えが頭に浮かぶ。 でも同時に、伝えてみたい気持ちもあった。 あの器を使ったこと。 普通のヨーグルトを入れたこと。 少しだけ朝が嬉しくなったこと。 それは、私の生活の中で本当に起きたことだった。 朝倉さんは私を急かさず、隣で静かに待っていた。「無理しなくても大丈夫です」 小さな声で言われて、私は少しだけ笑った。「大丈夫です。少し緊張してるだけで」「はい」「でも、話したいです」 そう言うと、朝倉さんは穏やかに頷いた。「では、少しだけ」 作家さんの話が一区切りついたところで、朝倉さんが声をかけた。「すみません」「あ、朝倉さん」 作家さんがこちらを向き、それから私に気づいた。「この前、器を選んでくださった方ですよね」「はい」 覚えていてもらえたことに、少し驚いた。「ありがとうございました。使ってみて、どうでした?」 いきなり聞かれて、私は少し慌てた。 でも、作家さんの声はやわらかかった。 正解を求めている感じではない。 私はバッグの持ち手を握り、ゆっくり言葉を探した。「普通のヨーグルトを入れました」「ヨーグルト」「はい。プレーンの。あと、ブ
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