千夏は慌てて成也を注意しようとしたが、その前に理子が頭を下げた。「すいません、いちいち感情移入するなと言われ続けたものですから」 眉尻を下げながら言うものの、どこか機械的で、謝意が感じられない。だが悪気もないのだろうと、千夏は思った。「いえ……。話を戻しましょうか。仰向けにされて、ブラウスを破られて、その……胸を強く、揉まれて……。そしたら彼、末安さんが助けてくれたんです」 千夏がちらりと横目で成也を見ると、ふたりの視線も成也に向けられる。成也は無表情で胸ポケットからチャック付き袋をひとつ、理子の前に置いた。「これは……」「犯人の皮膚片です。先生の爪の間に挟まってました」 成也は淡々と言うと、お茶をひと口飲んで短く息を吐く。「今朝、事務所に電話があったんです。詳しいことは話せませんが、先生はゲレティヒカイトという言葉を聞いて取り乱して……」「末安さん!」「先生だって、ゲレティヒカイトが怪しいって思ってんでしょ? なら、言わないと」 ゲレティヒカイトについて話すのをためらっていた千夏だが、成也の言うことは正論だ。千夏は諦めて口を噤む。「ゲレティヒカイトは、元は冤罪被害者の会でしたが、今は不穏な噂が流れてますね。ゲレティヒカイトに、どんな用事があったんですか?」 理子の目は、真っ直ぐ千夏に向けられている。「詳しいことは話せませんが、私が担当していた少年が、取り調べ中に『ゲレティヒカイトよ永遠に!』と叫んで薬物自殺をしたそうなんです。その少年が、ゲレティヒカイトとどう関与していたのか調べるために、彼らがいる教会に行ったんです。その帰りに、襲われました……」「なるほど、そうでしたか……。後でそのことについても詳しく聞かせてください」「はい、分かりました」 千夏が頷くと、理子は視線を成也に戻した。「続きをお願いしていいですか?」「はい。先生はゲレティヒカイトの名前を聞いて取り乱し、体調を崩しました。所長が先生に帰るように言ったんですけど、正義感の強い先生が真っ直ぐ帰ると思わなかったので、尾行したんです。門前払いされた先生は来た道を戻っていったんですけど、途中から……確か、先生が襲われた道の1つ前の曲がり角から、黒ずくめの男が先生と同じ方向に歩き出したんです」「その男は、どこから出てきたんですか?」「電柱に寄りかかって、スマホをいじ
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