Semua Bab 逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。: Bab 51 - Bab 60

63 Bab

【外伝】14.幼馴染

記憶を失い、もうすぐ1ヶ月。私は未だに何も思い出せないままだったが、それでも少しずつ、ここでの生活に馴染んでいった。「リリー。こっち」「うん」笑顔のライアンに手を引かれ、朝日で溢れたフローレスの街を歩く。こちらを見つめるライアンの瞳はとても優しげで、彼の抱く私への情がひしひしと伝わってきた。ここ1ヶ月過ごしてきて、記憶を失った私が彼に抱いた印象は、太陽のような人、だった。燃え盛る炎のようなオレンジの短髪もそうだが、整った顔をクシャッとさせ、明るく笑う姿や、誰にでも気さくで、笑顔を振りまく姿にそう思った。本音の見えない微笑みを浮かべるウィリアム様や、厳しい物言いばかりのセオドアに比べると、ライアンは一緒にいてずっと落ち着く存在だった。「ここは幼い頃、お前とよく来た通りなんだ。今もリリーのお気に入りの店はいっぱいあるぞ」「へぇ」明るくそう説明されて、街を見渡す。別荘のある街ほどの賑わいはないが、一軒一軒個性があり、温かな雰囲気がある。店員さんも街の人もみんな知っている仲である様子で、楽しそうに話をしている人たちが何人もいた。目に映るものどれもが今日初めて見るものだ。だが、全く知らない街とはなぜか思えない。ふと、なんとなく街を眺めていた私の視界に、ある店が一瞬だけ留まる。いちご飴か…。頭の片隅で、そう思った、その時。「買うか、あれ」ライアンは私の小さな変化も見逃さず、パチンッとこちらにウィンクをすると、いちご飴屋へと向かった。そして迷うことなく、それを買い、私に渡した。「よくわかったね」お礼を言った後、感心してライアンを見る。すると、ライアンはおかしそうにそのグリーンの瞳を細めた。「わかるわかる。だって、あのお店のいちご飴、お前好きだったからな」相変わらずライアンの笑顔は眩しい。ライアンには、正直ウィリアム様やセオドアと一緒にいる時のような違和感があまりない。彼の言葉に嘘はなく、なんでもそうだった気がする、と頷ける。幼馴染であることも、間違いないのだろう。…が、許嫁、という部分だけはどうしても違和感を覚えていた。フローレス男爵令嬢時代からの幼馴染で、許嫁。かなりしっくりくるフレーズではある。しかし、なぜか上手く飲み込めない。「あ、あそこの花屋もリリーのお気に入りだぞ」考え込んでいると、ライアンは自然な
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【外伝】15.空色の宝石 sideセオドア

sideセオドア『セオドア』僕と同じ空色の瞳が、こちらをまっすぐ見つめる。ただその瞳は、僕のものとは違い、いつも忙しなく、様々な感情を浮かべていた。怒り、呆れ、諦め。悲しみ、喜び、優しさ。見るたびに表情を変えるそれは、僕にはどんな宝石よりも輝いて見えた。あの瞳が僕だけを見つめるのなら、どれほどいいのだろうか。リリーは僕の姉さんではなくなった。以前のリリーなら、姉さんの代わりを不足なく務めるためにも、僕の言うことを何でも鵜呑みにしていた。…が、今では、そうではない。それでも、6年間刷り込み続けた距離感はそう簡単には変えられず、今でも僕は誰よりもリリーの側にいられた。ウィリアム様には許されないことも、僕になら許されるのだ。触れることも、共にいることも、決めることも、一緒に寝ることも。あとは正式に婚約するだけ。それだけだったはずなのに。ーーーリリーが記憶を失ってしまった。崖から馬車ごと落ちたと聞いた時、姉さんと同じような事故に、サァーッと全身の血の気が引いた。リリーが姉さんのように何年も行方知らずになるかもしれない、と。だが、幸いウィリアム様がつけさせていたブルーサファイアのネックレスのおかげで、リリーの居場所はすぐにわかり、リリーは早期に救出された。そんなものをリリーにつけるな、と思うが、あれがあったからこそリリーが助かったのだと思うと、複雑な気持ちだ。それでも戻ってきたリリーに、どれほど安堵したことか。その後、なかなか目覚めないリリーに生きた心地がしなかったが、それでもまずリリーという存在が、僕の目の前にただいることだけが、なんとか自分を繋ぎ止めた。やっとその空色の瞳に僕が映った時、胸の奥底から込み上がってきた喜びは、言葉では言い表せなかった。強いて例えるなら、姉さんが帰ってきたあの日のようだった。もう、こんな思い、したくない。リリーを二度と失いたくない。そのためには、もっともっと傍でリリーを囲い、守らなければならない。今までの僕のやり方は甘かった。「リリーが乗っていた馬車だけど、やっぱり魔法具が仕込まれていたよ。衝撃を緩和するものがね」微笑みを浮かべるウィリアム様の黄金の瞳が鋭く光る。別荘の一室で、僕とウィリアム様はあることについて話していた。その話とは、リリーの事故についてだ。リリーの事故には、い
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【外伝】16.女神

sideリリーゆったりとソファに腰掛け、本のページをまた一枚めくる。柔らかな日差しが窓から注がれる午後。私は一人、静かに別荘の書庫で読書にふけていた。私の隣には、いつもセオドアとウィリアム様がいる。そこにたまにライアンも加わり、フローレス夫妻や今はここに滞在しているアルトワ夫妻まで現れ、私の毎日はとても賑やかなものだった。リリー・フローレスは複雑な事情を抱えているようだが、こうしてたくさんの人に愛されていたらしい。ゆっくりと文字に視線を走らせる。すると、そこに誰かの影が落ちた。…誰だろう?セオドア?それとも、ウィリアム様?疑問に思って顔を上げると、そこにはとても美しい女性がいた。艶やかな黒髪がサラッと流れる。こちらを見つめる夜空のような濃い青色の瞳は、どこまでも深い慈愛に満ちていた。ーーーレイラ様だ。ただそこで微笑んでいるだけなのに、レイラ様はまるで女神様のような輝きを放っていた。血の繋がりがないとはいえ、この人と私が書類上は双子だなんて。未だに信じられない。あまりの存在感に惚けていると、レイラ様は「隣いい?」と私の横に腰掛けた。「リリー、体調はどう?問題はない?」気遣うようにこちらを見つめるレイラ様に、見た目だけではなく、性格まで女神なのか、と感動してしまう。私が記憶を失って、1ヶ月半。レイラ様もアルトワ夫妻と同じように私を気遣い、ここに滞在している。こうして2人だけで話す機会は今までなかなかなかったが、それでも会うたびに、レイラ様は私を気にかけてくれていた。「はい。特には…。皆さんよくしてくださいますし」「そう…」私の答えに、レイラ様がその深い青色の瞳を細める。「私、アナタの気持ちよくわかるの。私もかつてアナタと同じだったから…」「…同じ?」「ええ。私も昔、馬車で事故に遭ってね。アナタと同じように記憶を失ってしまったの。アナタと違うところといえば、崖の下にあった川に流されて、遠くの村にたどり着いたことかしら」「…え」懐かしむように微笑むレイラ様に、私は思わず言葉を失った。記憶喪失だった上に、川で知らない村に流されたということは、誰もレイラ様に、レイラ様が何者なのかを教えられない状況だったということだ。見知らぬ村で、何者でもないただの平民として、生きていくしか道はなかったはずだ。レイラ様はここに辿り
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【外伝】17.夕暮れ

とある日の夕暮れ時。私はレイラ様と共に街を歩いていた。後ろに5名の騎士を従えて。私の身はどうやら誰かに狙われていたらしい。私が記憶を失った原因であるあの事故も、ただの事故ではなく、誰かが裏で手を引いて起きたことらしかった。それを知らされた数日後から、私の生活は変わった。常に私の周りに護衛の騎士がつくようになったのだ。もちろん、追跡機能のあるブルーサファイアのネックレスも肌身離さずつけている。リリー・アルトワは常々とんでもない環境に身を置いていたのだろうとは思っていたが、ここまでだったとは。自分ではない別人として6年間も生き、役目を終えたかと思えば婚約者が3人も現れ、しまいには身を狙われるとは、何とも波瀾万丈な人生だ。「今日は付き合ってくれてありがとう、リリー」レイラ様がオレンジ色の光を浴びて、穏やかに微笑む。本日のレイラ様も眩い光を放ち、まるで女神のようだ。今日も行く先々でレイラ様は人々の視線を奪い、噂の的になっていた。「あの美しいお人は一体…」と。「いえ。私も楽しかったのです」笑顔でレイラ様に応えた私に、レイラ様が嬉しそうにその深い青色の瞳を細める。あの書庫での出来事以来、私たちはこうして共に過ごす時間が増えていた。今日も血の繋がりこそないが、まるで本当の姉妹のようにたくさんの場所に行き、いろいろなことを楽しんだ。「ふふ。以前の私たちはこうしてなかなか一緒に過ごせなかったから、楽しいわ」「そうなんですか?」「ええ。時間はあったのだけどね。やっぱり、私たちの関係は複雑だったから…」レイラ様の表情がほんの少し悲しげに揺れる。確かに以前の私たちの関係は複雑だったのだろう。レイラ様がいない6年もの間をレイラ様として生きてきた私と、やっとの思いで帰ってきたレイラ様。今のように真っ新な状態ならまだしも、そのような状況では、簡単に心も通わせられないはずだ。以前の私はレイラ様のことをどう思っていたのだろう。女神のように慈悲深く優しいレイラ様を、こんな顔にしてしまっていたのだろうか。「こんな状況になったからこそ、私たち、こうしていられるのよね。…ごめんなさい。不謹慎だとはわかっているのだけど、この貴重な時間が嬉しくて…」「…いえ」申し訳なさそうに眉を下げるレイラ様に、私は胸が痛くなった。きっと、以前の私たちも特殊な出会
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【外伝】18.反転

リリー・フローレスは死んだ。一度死んだリリーは、レイラ・アルトワとなり、そして、またリリーの名を取り戻した。優しいフローレス夫妻は、私の本当の両親だ。アルトワ夫妻は、ほんの少しぶっ飛んでいるが、私をここまで育て、今も娘として大切にしてくれている愛情深い人たち。レイラ様は、見た目だけは女神のようなのに、中身は貴族らしく腹黒い人だし、私に向ける慈悲は全て偽物だ。ウィリアム様もセオドアもライアンも。彼らは皆、自分こそが私の婚約者だと言うけれど、私はそれを了承した覚えなどなかった。頭を殴られた衝撃が、今まで失っていたもの全てを私に取り戻させた。ーーーここは、どこ?意識が覚醒し、まぶたを開けた私の眼前に、見知らぬ天井が広がっている。確か私はレイラ様と共に街にいたはずだ。ただならぬ雰囲気に、レイラ様を連れて逃げようとしたのだが、なぜかレイラ様は逃げようとせず、私はそのまま頭を殴られた…というのが、私の持つ最後の記憶だ。レイラ様にはめられた?彼女にとって、目障りな存在である私を、排除しようとしたのか?ぼんやりと失っていた記憶の整理と、この状況について考えていると、ベッドの側に誰かの気配を感じた。「頭は大丈夫か?リリー」気配の方へと視線を向けると、そこにはこちらを心配そうに見つめるライアンがいた。どうして見知らぬ場所に、ライアンがいるのだろうか?「…頭は、まぁ、大丈夫。ライアンが私を助けてくれたの?ここはどこなの?」思ったことを私はそのまま口にする。すると、私の小さな変化に気づいたのか、ライアンは少しだけ目を丸くした。「記憶、戻ったのか…?」「うん。殴られた衝撃で」「そうか…」最初は驚いていたライアンだが、すぐにその表情に安堵が広がる。それから私の頭に、ぽん、と触れると、優しく撫でた。まるで壊れ物でも扱うように。「よかった…」細められたライアンのグリーンの瞳は、喜びでいっぱいに見えた。それにしてもたった数回のやり取りで、よく私の記憶が戻ったと気付けたものだ。さすが幼馴染というやつか。ライアンの観察眼に感心していると、ライアンは私の先ほどの質問に答えるべく、ゆっくりと口を開いた。「ここはベルモンドが所有する別荘の一つだ。俺がリリーをここへ連れてきたんだ。リリーを生涯かけて守るために」「…」つまり、ライアンの話による
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【外伝】19.唇

一歩、また一歩、歩くたびに、ジャラリ、と冷たい金属音が鳴る。私の左足首には外せない足枷があるが、これは私を小さな部屋に繋ぎ止めるものではない。足首で鈍く光るこれは、この別荘から出られないようにするための魔法具だった。ここに囚われて、数日。私はまだ現状を正しく理解していない。私がわかっていることは、ここが知らない森の中、ということだけだった。複数の窓から注がれる太陽の光が、温かみのある廊下を明るく照らす。私は今、レイラ様が囚われている地下牢へと1人で向かっていた。ライアンは言った。ゆっくりレイラ様をいたぶり、殺す、と。それもいつか私を害するからという理由で。あれは本気の目だった。あの場で「もう害されました」など口が裂けても言えなかった。代わりに私はライアンに、とにかくレイラ様に対していい印象を抱けるようにした。そうでなければ、レイラ様が最悪殺されるから。「その目、まるで嘘をついているようだな」ふと、ライアンにそう言われ、どれだけ冷や汗をかいたことか。最終的には、「レイラ様にもし何かしたらあらゆる手段で抗議するから!」と勢い任せに怒った。すると、ライアンはなぜか楽しそうに笑い、「わかった」と頷いた。こうしてレイラ様は、ライアンにいたぶられることなく、地下牢に囚われるという状況だけで済んでいた。鍵のある扉を開けて、窓のない薄暗い階段を降りていく。やっと降りた先には、決して広いとは言えないスペースがあった。じめじめとした空気が漂う中、鉄格子の向こうにその人はいた。簡易的なベッドと机と椅子だけが置かれた空間を、天井に吊るされた淡いオレンジの照明だけがぼんやりと照らす。見窄らしいワンピースを身にまとい、椅子に腰掛けるレイラ様は、囚われの身であるにもかかわらず、とても美しく、高貴だった。「…また来たのね」
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【外伝】20.唯一 sideウィリアム

sideウィリアム 長い黒髪が揺れる。そこから覗く愛らしい顔は、いつも俺にいろいろな表情を見せてくれた。好物のクッキーを嬉しそうに頬張る、リリー。綺麗な花や景色に瞳を輝かせる、リリー。こちらの悪戯や試すような行動に眉をひそめる、リリー。どんなに俺に負の感情を抱いていようと、ふとした瞬間に滲む彼女の優しさが、愛おしくて愛おしくてたまらないのだ。リリーはどんな俺でも受け入れてくれた唯一だ。俺にはリリーしかない。だから結婚する。絶対に。俺の手にある白いハンカチを見つめる。縁をかたどる金の刺繍を指で撫でると、またリリーへの愛おしさで胸がいっぱいになった。これはリリーが無病息災の願いを込めて、俺に作ってくれたものだ。これが上着のポケットから出てきた時、どれほど舞い上がったことか。今までいろいろなものを贈られてきたが、これほどまでに胸が高鳴ったものはなかった。俺のたった一つしかない、宝物だ。机の上にある鍵付きの箱に、それを丁寧に畳んで入れる。そして鍵をかけたところで、この部屋にセオドアが現れた。「失礼します。ウィリアム様」セオドアはいつものように冷たい無表情で、そこに立っていた。セオドア・アルトワ。リリーの義弟であり、彼女の側にいることを彼女に一番許されている面白くない存在だ。セオドアは昔からリリーを自分の姉として見ておらず、ゆっくり、ゆっくりと、リリーの常識を蝕んでいっていた。その結果、リリーのことについて何でも口出しするようになり、リリーもそれを許すようになっていた。俺だってリリーの全てを決めたいという欲望があるというのに。そして、最近のセオドアの行動は目に余るものがある。今までは、心の奥底にどんな感情が渦巻いていようが、あくまで〝弟〟としてリリーと共にいた。それが今では、〝婚約者〟の座を望み、そこにいる。
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【外伝】21.毒

sideリリーすっかり日が長くなり、まだ沈まぬ太陽が、空をオレンジ色に染め上げる。ほんの1ヶ月前ならば、もうとっくに暗くなっていたというのに。寝室の窓から1人ぼんやりと、外を見つめていると、見慣れた馬車が森の奥から現れた。ーーーライアンが帰ってきたのだ。私は窓に背を向けると、ゆっくりと玄関ホールへと向かった。*****「リリー、ただいま」大きな扉の向こうから夕陽を背にライアンが現れる。ライアンは私の姿を見つけると、愛おしそうにそのグリーンの瞳を細めた。「おかえり、ライアン」そんなライアンにいつものように近づき、そっと頬に口づけをする。すると、ライアンも嬉しそうに私の頬にキスを落とした。最初こそ不慣れなため、上手くできないこともあったが、もう慣れたものだった。ライアンを絆す。そう決めて、1週間が経ったが、作戦は驚くほど順調に進んでいた。私からライアンの姿を探し、意識してライアンに触れる。ライアンの指に私の指を絡ませて、ライアンに体を預け、ことあるごとに唇を寄せた。ライアンの欲しそうな言葉を与えると、ライアンはその頬を赤く染め、喜んだ。こうして絆されていったライアンはついに私の願いを一つ受け入れたのだ。『ライアン。ここはアナタの言う通り、どこよりも安全な地上の楽園だよ。ずっとここにいたい。けれど、この足枷がある限り、私の心は晴れないの。これじゃあ、アナタの花嫁じゃなくて、奴隷だから』ある日、瞳を潤ませ、じっと切実そうにライアンにそう訴えかけた。今のライアンなら『そうだな。未来の花嫁にこれはひどい仕打ちだな』などと言い、足枷を外してくれると思っていた。だが、ライアンは一瞬だけ、惚けたような煌々とした表情になり笑った。
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【外伝】22.星屑 sideレイラ

sideレイラ数ヶ月ぶりに見る眩しい太陽の光に瞳を細める。だが、それでも私は自然な足取りで、長いスカートを揺らしながら廊下を進んだ。こんな格好、囚われる前の私なら断固拒否していたことだろう。メイドの制服など、高貴な私が着る物ではない、と。しかし、ここから確実に逃げるためには、どんなに屈辱的でも、こうするしかなかった。あの子が私にこの服を渡し、私を解放した。どんな手を使い、メイド服やあの牢屋の鍵を手に入れたのかわからない。…が、あの子のことだ。上手くやったのだろう。あの子は男爵令嬢にしては、よくやっている方だとは思う。けれど、本当に私の代役だったのかと言われれば、眉唾物だった。ここに攫われたあの日。私は少しずつ消えていく街の住人に、かなり早い段階で違和感を覚えていた。さらにあの子が置かれている状況から、意図的にそうされているのだと気づいていた。だが、すでに孤立させられたあの状況で、騒ぐことは命取りだ。何も気づかぬフリをして、騒がず、安全圏まで移動する。それがあの時できた最善だった。それなのに、それさえもできないとは。あの子なりに平静を装っていたのだろうが、わずかに変化したあの子に気づかない彼らではなかったのだ。よくもまぁ、あれで私として生きてこられたものだ。だからこそ、アルトワでは、簡単に私の手に落ちてしまったのだ。それでも最後にウィリアムとセオドアを手に入れたのはあの子だったけれど。ゆったりと、一歩、また一歩と歩みを進める。誰がどう見ても、私は今、ここに慣れたメイドに見えるだろう。自分に盛られている毒にさえ気づかない鈍臭いあの子が何とか作った機会だ。必ずや、ここから逃げおおせてみせる。そして一刻も早くこの場所を伝えるのだ。私たちが失踪し、もう2ヶ月だ。それでもアルトワもシャロンもここへ押しかけてこないということは、ここが特殊な場
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【外伝】23.狂愛

sideリリーーーーレイラ様が消えた。あの太陽の光さえも入らないジメジメとした地下牢には、もう誰もいない。レイラ様を何とか逃した夜。レイラ様失踪の知らせを受けたライアンは、まず最初に私を優しく問いただした。「あの女を逃したのか」と。この別荘内で1番レイラ様を気にかけ、レイラ様といたのは私だった。動機なら、誰よりも、いくらでも、あった。それでも私は否定した。まだ、ライアンには私に甘い夢を見ていて欲しかったから。だが、そう何でも私の都合よく進むことはなかった。「嘘をつくお前すらも可愛らしいと思えてしまう俺は、もう重症だな」「あの女を逃したのも、こうやって嘘をつくのも、ここからまだ逃げたいと思っている証拠だ」細められたライアンのグリーンの瞳は、仄暗く濁っており、あのはつらつとした光はなかった。そうして、私の勝ち取った細やかな自由でさえも奪われた。足枷こそつけられなかったが、寝室から出ることを禁じられ、常に部屋の前には、私を見張る誰かがいた。まぁ、そんなことしなくても、私はもう自力でここから動くことさえもできないのだが。大きなベッドに横たわり、ただぼんやりと部屋内を見つめる。ここから見える景色だけが、今の私の世界の全てだ。私はライアンに毒を盛られていた。ゆっくり、ゆっくりと、私から自由を奪っていくという毒を。その事実をレイラ様に知らされて以来、私は意識してライアンから与えられる食べ物を口にしなかった。だが、それでも元々毒に侵されていた私の体は日に日に弱っていき、そもそも食べ物を摂らない、という行為自体が私の命を削った。その為、ライアンは無理やりにでも私に食事をさせ、どうしても無理な場合は栄養剤を打った。ここから体を起こすことさえ、私には辛い。体が重く、力が入らない。1人で生活することさえ
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