記憶を失い、もうすぐ1ヶ月。私は未だに何も思い出せないままだったが、それでも少しずつ、ここでの生活に馴染んでいった。「リリー。こっち」「うん」笑顔のライアンに手を引かれ、朝日で溢れたフローレスの街を歩く。こちらを見つめるライアンの瞳はとても優しげで、彼の抱く私への情がひしひしと伝わってきた。ここ1ヶ月過ごしてきて、記憶を失った私が彼に抱いた印象は、太陽のような人、だった。燃え盛る炎のようなオレンジの短髪もそうだが、整った顔をクシャッとさせ、明るく笑う姿や、誰にでも気さくで、笑顔を振りまく姿にそう思った。本音の見えない微笑みを浮かべるウィリアム様や、厳しい物言いばかりのセオドアに比べると、ライアンは一緒にいてずっと落ち着く存在だった。「ここは幼い頃、お前とよく来た通りなんだ。今もリリーのお気に入りの店はいっぱいあるぞ」「へぇ」明るくそう説明されて、街を見渡す。別荘のある街ほどの賑わいはないが、一軒一軒個性があり、温かな雰囲気がある。店員さんも街の人もみんな知っている仲である様子で、楽しそうに話をしている人たちが何人もいた。目に映るものどれもが今日初めて見るものだ。だが、全く知らない街とはなぜか思えない。ふと、なんとなく街を眺めていた私の視界に、ある店が一瞬だけ留まる。いちご飴か…。頭の片隅で、そう思った、その時。「買うか、あれ」ライアンは私の小さな変化も見逃さず、パチンッとこちらにウィンクをすると、いちご飴屋へと向かった。そして迷うことなく、それを買い、私に渡した。「よくわかったね」お礼を言った後、感心してライアンを見る。すると、ライアンはおかしそうにそのグリーンの瞳を細めた。「わかるわかる。だって、あのお店のいちご飴、お前好きだったからな」相変わらずライアンの笑顔は眩しい。ライアンには、正直ウィリアム様やセオドアと一緒にいる時のような違和感があまりない。彼の言葉に嘘はなく、なんでもそうだった気がする、と頷ける。幼馴染であることも、間違いないのだろう。…が、許嫁、という部分だけはどうしても違和感を覚えていた。フローレス男爵令嬢時代からの幼馴染で、許嫁。かなりしっくりくるフレーズではある。しかし、なぜか上手く飲み込めない。「あ、あそこの花屋もリリーのお気に入りだぞ」考え込んでいると、ライアンは自然な
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