جميع فصول : الفصل -الفصل 20

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11.花咲く場所で

今日のウィリアム様との予定はシャロン公爵邸内にあるガラスドームの園庭を共に散策する、というものだった。「やぁ、レイラ」今日も今日とて嫌々ウィリアム様の前に現れた私に、ウィリアム様はとても嬉しそうに柔らかく微笑む。…本当に意味がわからない。私のことが嫌いなはずなのにどうしてそんな顔ができるのだろうか。「こんにちは、ウィリアム様」「こんにちは、レイラ。今日は散策にうってつけの日だね」「そうですね」ウィリアム様がガラス越しの空にほんの少しだけ視線を向けたので、私も同じように空に視線を向ける。ここは園庭とはいえ、ガラスドームの中なので、外の天気の影響を一切受けない。外がどんなに寒くてもここだけは暖かいのだ。しかし温度の影響は受けないが、美しさについては違った。晴れている方が、ドーム内に太陽の光が降り注ぎ、ここをより一層美しく輝かせるのだ。今日の天気は晴れだった。園庭を輝かせる太陽の光が降り注ぐ今日はウィリアム様の言う通り、散策するにはうってつけの日なのだ。簡単な挨拶を済ませた私たちはいつものように他愛のない会話をしながら、散策を始めた。「今日のスタイリングも全部セオドアが?」「はい、そうです」「ふふ、相変わらず仲のいい姉弟だね」「…まぁ、はい。たった1人の弟ですし」「でも実際に血は繋がっていないよね?」「…私とはそうですね」クスクスとどこか楽しそうに笑うウィリアム様に気まずくて曖昧な返事をしてしまう。ウィリアム様はこうしてたまにレイラ様としてではなく、私を私として扱う時がある。そしてここにいる私はいつでもレイラ様だったので、その度に私は戸惑った。苦笑いを浮かべる私と優しい微笑みを浮かべるウィリアム様。表向きは一応、にこやかな私たちだが、もちろん私の心はにこやかなものではなかった。ウィリアム様はいつも何かしらの嫌がらせを突然してくる。今日も私に何をしてくるかわからない。警戒するに越したことはない。「レイラ、こっち」心の中でウィリアム様のことをずっと警戒していると、ウィリアム様はそんな私の手を引き、狭い木々の隙間を歩き始めた。ウィリアム様が進む方向には人1人分のスペースしかなく、複雑に変わる方向によって、自分が今歩いてきた道でさえもよくわからなくなる。そんな道なき道をウィリアム様と歩き続けること数分。突然、私た
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12.同じような存在

やっとの思いで屋敷内へと辿り着いた私は、こんなことをしてきた元凶にお暇を伝える為に、屋敷内の廊下を1人で歩いていた。ウィリアム様の顔なんて見たくもないし、訳のわからない道を1時間も彷徨っていたので、疲労感もすごく、さっさと帰りたいのが本音だが、そういう訳にもいかないのが現状だ。ウィリアム様よりもアルトワ家のレイラ様の身分の方が下である以上、礼儀は通さなければならない。私は疲れた体に鞭打って、ただただウィリアム様がいるであろう彼の部屋を目指した。*****少し歩いて、やっと目的の部屋の前へと辿り着いた。中から人の気配を感じるので、おそらくここにウィリアム様がいるのだろう。さっさと挨拶をしてお暇しよう。そう思ってウィリアム様の部屋の扉をノックしようとしたその時、中からわずかに聞こえてきたとある人物の声によって、私の手は止まった。「お前は次期公爵だ。全てが完璧でなければ、お前に存在価値などない」扉の向こうから聞こえてきた酷く冷たい声はシャロン公爵家現当主、ジャック・シャロン公爵様のものだ。血の繋がった我が子に向けるものとは思えないあまりにも冷たすぎる公爵様の声音に私は息を呑んだ。「それでお前の婚約者、アルトワの娘はどうだ?あの娘はお前が認める完璧な令嬢だったのだろう?代わりの者でも変わらずか?最近我が家でいろいろと問題を起こしているようだが」「はい。以前と変わらず彼女は優秀ですよ。レイラが我が家で問題を起こすのも我が家に慣れ、リラックスしているからでしょう」「…ならいいが。だが、決して忘れるな。何もかも完璧でなければ、お前には存在価値などないのだ。婚約者でさえも、完璧な者でなければならない。それがシャロンの名を継ぐということだ」「はい」こんなにも冷たい会話が本当に血の繋がった親子の会話なのだろうか。変わらず公爵様の声音は冷たく、それに応えるウィリアム様の声もどこか感情を感じさせず、無機質だ。そんなことを考えていると、ウィリアム様の部屋の扉の向こうから、こちらに向かってくる誰かの足音が聞こえてきた。状況的におそらく、公爵様がこの部屋から出る為にこちらに向かっているのだろう。ここで立ち聞きをしていたとバレると印象が悪くなる!私は慌てて身を隠す場所を探した。しかしウィリアム様の部屋の近くにはそもそも部屋がなく、物もなく、開放的な場所
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13.俺だけの完璧な婚約者 sideウィリアム

sideウィリアムこの国の王家とも並ぶ力を持つ、三大貴族のうちの一つ、シャロン公爵家の跡継ぎは完璧でなければならない。何もかも全て。婚約者に至るまで、だ。俺の完璧の一つだった完璧な婚約者のレイラが半年前、バカンスに行く途中で、馬車で事故に遭い、おそらく死んだ。行方不明扱いになってはいるが、こんなにも月日が経っているので、生きている方がおかしいだろう。この国の同世代の中で一番完璧だった彼女はもうこの世にはいないのだ。シャロン家がアルトワ家との婚約を望んだ理由はひとえにレイラの存在が全てだった。完璧な跡継ぎには完璧な婚約者を。ただそれだけだった。アルトワ家のレイラがいないのなら婚約は解消…そう思われたが、アルトワ家は何事もなかったかのように行方不明だったはずの〝レイラ〟を改めてこちらに紹介してきた。半年前に事故に遭い、記憶を失ったレイラ。それが彼女だった。初めて彼女に会った時、レイラとは瓜二つだが、どこか雰囲気の違う少女だと思った。レイラが完璧で近寄りがたい美しい高嶺の花のような存在なら、彼女は美しいながらも親しみがあり、愛さずにはいられない存在という印象だ。彼女の状況は彼女に会う前から父上に聞かされていた。彼女はレイラのニセモノだ。レイラを見つけられなかったアルトワ家は、ついにレイラ自身を探し出すことを諦めて、レイラによく似た没落寸前の男爵令嬢を養子にし、レイラとして扱うことにしたのだ。そんなレイラに対して、父上の反応はあまりにも父上らしかった。ウィリアム・シャロンの婚約者がこの国一完璧なご令嬢であるのなら、それがたとえニセモノのレイラ・アルトワでも構わない。だが、もし、今のレイラ・アルトワが以前のレイラ・アルトワのように完璧なご令嬢でなければ、婚約は破棄する、と。父上の言葉を思い出しながらも、何となく自身の部屋の窓から外を見ると、ちょうどここシャロン公爵邸から帰ろうとしている彼女の姿が目に入った。レイラなら絶妙に選びそうにない、高級感のある白いシンプルなドレスを身にまとい、低い位置で二つに結ばれた髪を揺らしながら歩く彼女はやはりレイラと似ているようで似ていない。彼女の話ではどうやら彼女の全てを弟であるセオドアが決めているようで、そこにセオドアの意思を感じた。まず一つは彼女を自身の姉、レイラと同じものには絶対にしないという意
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14.完璧なご令嬢

sideリリーアルトワ伯爵家のレイラ様となり、6年の月日が流れ、私ももう18歳になった。私、リリーは変わらずレイラ様として生きており、15歳からはレイラ様が通うはずだった王立学院にも、レイラ様として通っている。そして私は今、そんな学院内の多目的広場に貼り出されている、あるものをたくさんの生徒たちに紛れて、じっと見つめていた。その正体とは、夏休み明けの実力テストの順位である。完璧なご令嬢、レイラ・アルトワ様は、文字通りこの国一完璧なご令嬢と言われ、見た目の美しさ以外にも、教養まであるお方だった。そんなレイラ様が約6年前、事故に遭い、数年もの間、社交界から姿を消した…と思われた。あの完璧だったレイラ様は、学院に入学すると共に、社交界へ舞い戻ってきたのだ。以前と変わらず、優秀で非の打ち所がない完璧なご令嬢として。全ては私の血の滲むような努力の賜物だ。最初は貴族の教養も勉学も何もかも全く触れてこなかったので、ちんぷんかんぷんだった私だが、学院入学までの3年間、家庭教師の先生といつも隣にいたセオドアのおかげで何とか理解できるようになった。そこからさらに努力を重ね、理解するだけでは終わらず、応用まで手を出し、全てを深く理解できるようにした。その努力の甲斐もあり、学院での成績もずっと良好だ。今の私は貴族の教養のきの字もない、没落寸前の男爵家の娘だったとは誰も信じられないほど完璧な存在になっていた。貼り出されている実力テストの結果も良好でほっと胸を撫で下ろす。私の実力テストの順位は2位だった。学院に入学して以来ずっと変わらない順位だ。「さすが俺の婚約者だね。今回もすごいね」私の後ろから聞き慣れた柔らかい声が私に声をかける。声の方へと視線を向けると、そこにはレイラ様の婚約者である、ウィリアム・シャロン様がいた。ウィリアム様が現れたことによって、周りにいた女生徒たちが黄色い声をあげる。「ウィ、ウィリアム様よ!」「な、なんてお美しいの…」「まるで絵画から出てきた王子様のようだわ…っ」きゃあきゃあと小さく騒ぐ女生徒たちの熱い眼差しを受けてもなお、ウィリアム様はいつも通りだ。この6年でウィリアム様の身長はぐっと伸び、美しく成長していた。柔らかそうな少し長めの銀髪とこちらを見つめる黄金の瞳は宝石のようだし、目鼻立ちがはっきりとした整った顔立
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15.いつもの嫌がらせ

今日の帰りは、ウィリアム様が公爵家の馬車で、アルトワ伯爵邸まで送ってくれると言った。なので、私はウィリアム様のことを待ち合わせ場所である、学院内の噴水の前でずっと待っていた。…そうもうずっとだ。季節は夏休みが終わったばかりの夏。正直、夏の日差しの中で、長時間日陰のない場所に立ち続けることは辛い。額からはじわじわと汗が出ており、暑さが私を襲う。…遅すぎる。チラリと噴水から見える大きな時計に視線を向けると、時刻は16時半を指していた。ここでの待ち合わせ時間は16時だ。もちろん約束の5分前にはここへ来ていたので、もう30分以上もここでウィリアム様を待っていたことになる。またいつもの嫌がらせか。ここまで全く現れる気配のないウィリアム様に私は今自分が置かれている状況を何となく察した。ウィリアム様と私の関係は出会った頃に比べて随分穏やかなものへと変わった。だが穏やかなものへと変わっただけで、根本は何も変わっていない。6年前のようにウィリアム様が私に直接手を出すような嫌がらせをしてくることはなくなったが、こうして時折約束をすっぽかすなどの地味な嫌がらせは続いていた。本当に最悪だ。あのエセ王子様め。文句しかないし、苦手意識もあるが、それでも私は、心の底からウィリアム様を嫌いになることができなかった。何故なら、ウィリアム様のシャロン公爵家での立場を意図せず6年前のあの日に知ってしまったからだ。あのエセ王子様にもそれなりのあんな感じになってしまった事情があるのだ。…だからって私に何してもいいわけじゃないけど。「はぁ」私は約束の相手であるウィリアム様を見つける為にため息を吐き、噴水の前を後にした。*****校舎内を1人で歩きながらも、ウィリアム様の姿を探す。ウィリアム様と帰らないにしても、一緒に帰る約束をしていたことは事実なので、一言言ってから帰らなければならない。ここでもウィリアム様との身分の差を感じて嫌になる。…本当は約束をすっぽかすやつに一言だって言わずにさっさと帰りたいのに。教室、図書室、生徒たちが集まる多目的室など、ウィリアム様が居そうな場所は全て探した。それでもウィリアム様の姿はどこにもない。残るウィリアム様が居そうで、探していない場所といえば、学院の屋上にあるガラスドームの空中庭園だけだ。あそこには鍵がないと基本
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16.歪んだ愛情表現

ガラス張りの天井から夏の日差しが差し込む。その強い光を受けて、キラキラと輝く空中庭園内にある管理された雄大な自然は、とても綺麗で美しかった。さらにここは空調も効いている為、外とは違い、ちょうどいい気温だ。そんな空中庭園内の奥にウィリアム様はいた。私たちが見つけたウィリアム様は、私との約束なんて最初からなかったかのように、ハンモックの上で気持ちよさそうにすやすやと眠っていた。…何と腹立たしいことか。こちらは暑い中ウィリアム様を待ち続け、その後も暑さでやられた体に鞭打って、やっとの思いでウィリアム様を見つけたというのに。「ウィリアム様、起きてください」私は寝ているウィリアム様に近づくと、容赦なくウィリアム様の肩を掴んで揺らした。ハンモックに乗っているだけあってよく揺れる。「…ん。レイラ?」私に揺さぶられて、ウィリアム様はとても眠たそうにゆっくりとまぶたを開けた。ウィリアム様の黄金の瞳が私を捉える。「…あぁ、レイラ。おはよう」私がいることに気がついたウィリアム様は嬉しそうに私に微笑んだ。それから上半身だけ起こし、そっと私の髪をどこか愛おしげに優しく撫でた。ウィリアム様の甘すぎる言動に不覚にも心臓が跳ねる。王子様のような見た目にこんな甘い仕草なんて反則だ。「ウィリアム様、姉さんは僕が連れて帰りますので。もう一度、お休みになってください」ウィリアム様の言動にドキドキしていると、セオドアが私とウィリアム様の間に立ち、冷たい表情のまま、ウィリアム様にそう言った。そんなセオドアにウィリアム様が「え?」と、どこかおかしそうに首を傾げる。「どうしてセオドアがここにいるの?俺を探しているのはレイラでしょ?それにセオドアがレイラと一緒に帰る?一緒に帰るのは俺なんだけど」「姉さんが探しているのですから、僕も一緒に探すのは弟として当然です。ウィリアム様はお休み中のようですし、僕が姉さんと帰ります」ふわりと微笑んでいるが、どこか冷たいウィリアム様と、元々冷たいセオドアが睨み合っているように見えるのは、私の目がおかしいからだろうか。一体互いに何が気に食わなくて、こんなことになっているのかいまいち原因がわからないが、いつものことなのであまり深くは考えない。そんなことを1人で思っている間にも2人の変な口論はもちろん続いていた。「弟だからってセオドア
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17.今の3人は

ウィリアム様の「送るよ」とは、公爵家の馬車で伯爵家まで、という意味だった。初めはアルトワ伯爵家の馬車までだと思い、共にそこへと向かっていた私たち。だが、いざ目的地まで辿り着くと、ウィリアム様は何と私をシャロン公爵家の馬車の方へと乗せようとしてきたのだ。そこからまたあの2人の口論だ。「姉さんと一緒に帰るのは僕なんですけど。アルトワの馬車で」「送ると言ったよね?それはシャロンの馬車でアルトワ邸までって意味だよ?」「結構です。アルトワの馬車がありますので」「そう。じゃあセオドアだけその馬車で帰りなよ。俺はレイラとシャロンの馬車で帰るから」お互いに譲らない口論は何分も続き、最終的に私とセオドアが公爵家の馬車に乗せてもらい、伯爵邸まで送ってもらうということで話は落ち着いた。公爵家の馬車に揺られながら、何となく馬車内を見つめる。上質でシンプルながらも気品のある雰囲気の空間。さらに私たちが座る椅子の柔らかさは、まるでベッドのようで、横たわればすぐに寝られそうだ。間違いなくフローレス男爵家で私が使っていたベッドよりもふかふかで、もう慣れてしまったが、最初は座るたびに感動した。アルトワ伯爵家の馬車も他の家に比べると随分立派だが、やはりシャロン公爵家のものとなると、そのさらに上をいく…気がする。没落寸前の男爵家の娘からすると、どちらもとても立派で、公爵家のものの方がおそらくいいものなんだろうな、くらいしか違いがわからないのが本音だ。「王都に新しいクッキー専門店ができたんだって。今度一緒に行かない?」そんなことを思っていると、私の隣に腰掛けるウィリアム様が会話の中でふとそんなことを言い始めた。「くまくまですよね。実はずっと気になっていたんですよ。もうオープンしたんですか?」「いや。まだだよ。だけどオープン前にぜひって公爵家に話があってね。あのお店はうちの事業の傘下なんだよ」「え!そうなんですか!?」ウィリアム様のまさかの情報に思わず、レイラ様らしくないリアクションをしてしまう。そんな素の私を見て目の前に座っているセオドアがギロリとこちらを睨んできた。セオドアの視線が語っている。「姉さんはそんなはしたない反応はしない」と。ごめんなさいね。と心の中でセオドアに適当に謝って、すぐにレイラ様らしい微笑みを浮かべる。「…まさかあのくまくまがシャロン
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18.必要のない存在

ホンモノのレイラ・アルトワ様が帰ってきた。あの玄関ホールでの喧騒は、レイラ様の帰還によるものだったようだ。最初こそ、レイラ様の成長した姿に、あのレイラ様であると、私は気づけなかった。だが、それでも、よく見るとレイラ様の面影を残す彼女と、そんな彼女との再会を喜ぶアルトワ伯爵一家を見て、私は彼女こそが、私がずっと代わりを務めてきたホンモノのレイラ様だと確信した。私が肖像画でいつも見ていた12歳のレイラ様は、可愛らしさの中にも美しさのある愛らしいご令嬢だったが、今のレイラ様は、その面影を残しつつも、美に全振りした絶世の美女になっていた。今のレイラ様は本当の弟、セオドアととてもよく似ている。レイラ様と瓜二つだという理由で、レイラ様の代わりとなった私とは、もう似ても似つかなかった。あの場での私はただの傍観者で、呆然とアルトワ家の人々を眺めていたのだった。*****「…レイラ、よく戻ってきてくれた」ソファに腰掛け、伯爵様が感極まった表情でレイラ様を見つめている。そんな伯爵様の横では、奥方様が未だに涙を流していた。「お父様、お母様、ご心配おかけしました」この6年間、事故の後遺症により、記憶を失くし、平民として生きてきたとは思えないほど、2人に美しく一礼するレイラ様にさすがホンモノは違う、と感心してしまう。ここは伯爵邸内にある談話室。あの後、玄関ホールでは流石に長話はできないとなり、アルトワ一家と私とあの場にたまたま居合わせたウィリアム様は、落ち着いて話す為にも、レイラ様とここへ移動していた。そして入り口から奥側のソファにアルトワ夫妻が座り、そのソファの左手前のソファにレイラ様とセオドアが、机を挟んでこちら側のソファに私とウィリアム様が座る形で話は進められていた。レイラ様の話によると、事故に遭った時、レイラ様は馬車の大きな残骸と共に川へと落ち、運良くその残骸の上に乗る形で流されてしまったそうだ。夏だったということもあり、寒さによるダメージもなく、そのままとある村の人たちに助けられたレイラ様だったが、事故の後遺症により、この時、レイラ様は記憶を失ってしまっていた。記憶を失ったレイラ様は、自分が本当は誰なのかわからないまま、平民の娘として、優しい村人たちと、この6年、楽しく生活していたようだ。だが、ほんの数ヶ月前、レイラ様は断片的だが、記憶を思
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19.許されないこと

レイラ様との再会を喜ぶ長いながーい会話に一応参加した後、私はレイラ様の部屋へと戻った。そしていつものように予習復習をする為にまずは机へと向かったのだが、私はその足をその場で止めた。もうその必要はないと気付いたからだ。ホンモノの完璧なレイラ様が帰ってきた今、レイラ様の代わりである私は必要のない存在であり、もちろんもう完璧である必要もない。私はもうレイラ様の代わりから、ただのリリーに戻れるのだ。「…っ」1人になり、改めて現状に実感が湧くと、言いようのない喜びが押し寄せた。まるで夢でも見ているかのようだ。6年前のあの日、確かに死んだリリー・フローレスが生き返る日がくるとは。習慣である勉強を放棄した私はどこか落ち着かない夢心地のまま、レイラ様の部屋のクローゼット部屋へと向かうことにした。お父様とお母様がいるフローレスへとすぐにでも帰る準備をする為に。*****レイラ様の部屋にあるクローゼット部屋。そこには所狭しと様々なドレスやワンピースなどが片付けられており、私はそこで早速荷造りを始めた。ここにあるドレスやアクセサリーなどは、全てレイラ様のものだ。今は私が使っているが、あくまでレイラ様の代わりとして借りているだけに過ぎない。借り物であるそれらを持っていくわけにはいかないだろう。なので、ドレスなどは荷造りをしているトランクの中には入れないことにした。だが、逆に下着など着回すには抵抗のあるものは、トランクへと入れることにした。どうせ置いていっても捨てられるので、それなら持っていった方がいいだろう。床にトランクを置き、目に付いた下着を手に取る。高級そうなもの、まだ数年は着られそうなもの、気に入っているものなどいろいろな基準で下着を選び、ある程度選び終えると、私は床に座り、一枚一枚丁寧にたたみながら、トランクの中へと綺麗に片付けた。次は何を入れようかな?「…何してるんだよ」トランクを見つめ、何を入れるべきか考えていると、後ろから突然、誰かが冷たくそう声をかけてきた。「…っ!?」突然のことに驚いて、私は肩をびくりと震わせる。それから恐る恐る振り向くと、そこには酷く冷たい表情で私を見下ろす、セオドアがいた。「セ、セオドア?」クローゼット部屋にいたとはいえ、全くセオドアがここへと入ってきた気配を感じられなかった。もしかするとノッ
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20.姉ではない人 sideセオドア

sideセオドアアイツを…、姉さんの代わりであるあのニセモノを、中身だけでも別物にしたかった。アイツが間違ってもホンモノの姉さんに成り代わらないように。その為にも僕はアイツの傍から四六時中離れないと決めた。そしてそう決めてから6年の月日が流れた。この6年、アイツは努力に努力を重ね、6年前の姉さんと同じように、この国一の令嬢と呼ばれる存在へと成長していた。きっと6年前の僕に今のアイツの周りからの評価を教えても、絶対に信じないだろうし、鼻で笑うだろう。それだけ6年前のアイツは本当に酷かった。仮にも男爵令嬢だったにもかかわらず、まるで教養のない平民のように何もできず、何も知らない無能。姉さんの代わりなんて務まるはずのない、完璧とは程遠いもの、それが6年前のアイツだ。何度、何もできない、同じ間違いばかり繰り返す無能なアイツに呆れてきたことか。それが今では誰もが認めるこの国一の令嬢なのだ。シャロン公爵家との婚約がなければ、アイツはおそらくどこの家門からもこぞって、求婚されたことだろう。本当に未来とはわからないものだ。見た目も艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、顔立ちもこの6年で随分大人っぽくなり、綺麗さにも磨きがかかった。とても美しいが、その中に愛らしさまである花のような人。それが今のアイツだ。この国一の令嬢で、完璧で愛らしい見た目。12歳だった姉さんが、18歳に成長したらこうなるのでは、という存在にアイツは見事になれていた。だが、それでもアイツは決定的に姉さんとは違った。まずは身に付けるものの趣味だ。僕の姉さんが好んで選んでいたものは、淡い色合いの美しい中にも、神秘さのあるものだったが、アイツが選び、身に付けるものは、どれも色のない、質素だが、高級感のあるシンプルなものだった。また食の好みも同じように違った。姉さんは魚を好むが、アイツはどちらかといえば肉を好む。さらに甘いものに全く興味を示さなかった姉さんとは違い、アイツは甘いものが好きで、特にクッキーに目がなく、今では最高の一枚を作るのだと、自分で焼いていた。僕の姉さんはもちろん料理などしない。その完璧さとよく似ている見た目で、上辺だけは姉さんによく似ていたアイツだったが、実際に蓋を開けてみると、アイツと姉さんは何もかもが違っていた。そうなるように僕が仕向けたのだ。常にアイツの
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