逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。

逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。

last updateLast Updated : 2026-06-05
By:  朝比奈未涼Updated just now
Language: Japanese
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私は行方不明になってしまったレイラ・アルトワ様の代わりだった。 だが、ある日、本物のレイラ様が現れた。 ニセモノはもう必要ない。私はやっとレイラ様の代わりから解放される。 そう思っていたのに。 義弟も婚約者も何故かそれを許さなかった。 私はアナタたちのレイラ・アルトワではないのに。

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1.リリー・フローレスは死んだ
その日、没落寸前の男爵家の一人娘、リリー・フローレスは死んだ。 「リリー。お前は我がフローレス男爵家建て直しの為に、アルトワ伯爵家に行くんだ。アルトワ伯爵家のたった1人のご令嬢、レイラ・アルトワ様として」 私の向かい側に座るお父様がそう神妙な面持ちで言う。 同じくお父様の隣に座るお母様もずっとお父様と同じような表情で、時折、心苦しそうに私から視線を逸らしていた。 12年間生きてきた中で初めて乗った豪華な馬車。 私たち没落寸前の男爵家の力では一生乗ることのできなかったもの。 そんなものに今乗って移動しているのは、私が今日からレイラ・アルトワ様になるからだ。 レイラ・アルトワ様。 私と同じ12歳の彼女は、半年前の夏、バカンスの移動中に馬車で事故に遭い、行方不明になった。 事故に遭った伯爵家の者は彼女だけで、その行方をアルトワ伯爵家は必死に探したが、半年経っても彼女を見つけることはできず、代わりに、この国の小さな村で暮らす、レイラ様に瓜二つの没落寸前の男爵家の娘、私、リリー・フローレスを見つけたのだ。 伯爵家は私を見つけた時に、フローレス家に言った。 『どうか、そちらの娘さんを私たちの養子として譲っていただけないか。譲っていただいた暁には、我がアルトワ伯爵家がフローレス男爵家再建の力になりましょう』と。 我が家は何度も言うが、没落寸前の男爵家だ。 男爵とは名ばかりで、ほぼ平民のような存在であり、暮らしも質素、使用人なんてもちろんいない生活を送っていた。 そこら辺の大商人の方がよっぽどいい生活をしているくらいだ。 フローレスの名を守るだけで日々精一杯だった。 そんな私たちに伯爵家の提案は有り難かったが、同時に受け入れ難いものでもあった。 伯爵家の提案を受け入れるということは、最愛のたった1人の娘を売ることと同じだったからだ。 それでも私たちフローレス家はアルトワ伯爵家の提案を受け入れた。 私がそうして欲しいと最後に願ったからだ。 私がフローレスのリリーであることを諦めるだけで、お父様とお母様がこれ以上苦労しなくて済むのなら、と。 「どんなことがあってもアルトワ伯爵家の意向に従い、完璧なレイラ様であり続けるんだ。わかったか、リリー」 「…はい、お父様」 毅然とした態度を崩さないお父様だが、その私と同じ空色の瞳には悲しみの色があ
last updateLast Updated : 2026-06-02
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2.レイラ・アルトワの代わり
私、リリー・フローレスがレイラ・アルトワ様の代わりになって1週間が経った。 私は今日もレイラ様として、アルトワ伯爵邸内の広すぎる食堂で、アルトワ伯爵家の皆様と気が重すぎる夕食を共にしていた。 「レイラ。今日はレイラが好んでいた魚料理を用意させたのよ。どうかしら?美味しい?」 私がよく知る一般的なテーブルとは違い、何十人もの人が一斉に使えるであろう長く大きなテーブルの向こう側に優雅に腰掛ける30代前半くらいの見た目のグレーの綺麗な髪を後ろにまとめている美しい女性、アルトワ夫人がふわりと私に笑いかける。 私を優しく見つめる濃い青色の瞳は、明るい星空のように輝いており、その瞳に見つめられる度にホンモノのレイラ様の顔が頭をよぎった。 ここに来る前、初めてお父様に見せられた小さな肖像画のレイラ様も奥方様と同じ瞳をしていたからだ。 私とレイラ様の容姿は瓜二つだったが、瞳の色だけはほんの少し違った。雲一つない、晴天の空のような青色、それが私の瞳の色なのだ。 「…とても美味しいよ、お母様」 まだ奥方様のことを〝お母様〟と呼ぶことも、奥方様に対して砕けた口調で話すことも慣れておらず、どこか気持ちが悪いし、変な気分になる。 だが、それでも私はもうここのレイラ様なので、当然のようにこうするしかなかった。 「ふふ、やっぱりそうよね。レイラは魚料理が好きだったもの。気に入った魚料理を見つけては、この魚は何の魚なのかとよく聞いていたわよねぇ」 「そうだな。レイラはすぐいろいろなものに興味を持ち、常に答えを追い求める子だった」 私の答えに嬉しそうにしている奥方様に応えたのは、奥方様と同世代であろう黒髪の落ち着いた雰囲気のこれまた美しい男性、アルトワ伯爵様だ。 伯爵様の瞳の色はレイラ様や奥方様とは違い、明るい青色で、まさに私と同じ空のような瞳をしていた。 …レイラ様の弟君、セオドア様とも同じ色だ。 そんな伯爵様は一番奥の席に座り、奥方様と同じように嬉しそうに笑い、頷いていた。 「…あははは」 嬉しそうな2人に合わせて私も何となく笑ってみる。 だが、柔らかく微笑む彼らとは違い、私の表情は強張っていた。優しい2人の私の扱いが、どうしても不気味でどこか怖さを感じるからだ。 2人は私のことを行方不明だったこの半年間で記憶を失ったレイラ様だと思い、そう扱っている。
last updateLast Updated : 2026-06-02
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3.代わりなどいない
気まずすぎる夕食を終えた後、私は私に与えられたレイラ様の部屋で、明日やる勉強の予習と今日の勉強の復習を行う為に、机へと向かっていた。 白色と星空のような深い青色の家具で統一されたレイラ様の部屋は、1週間経った今でもあまり落ち着かない。 男爵家にいた頃は必要最低限のごくごく普通の家具たちに囲まれて生活していた。 それが今ではこんなどれもとても高そうなものばかりに囲まれて生活しているのだ。 どこかふわふわして落ち着かないのも無理はない。 「…はぁ」 そんな落ち着かない部屋で私はじっとノートを睨みつけ、今日も深いため息をついた。 …わからない。わからないから頭に全く入ってこない。 ノートとテキストを交互に睨みながら、何となく必要そうなところをノートに書き写してみたり、テキストに違う色でマークを付けてみたりしてみる。 だが、それが頭にすんなり入ることはない。 私は貴族の娘とはいえ、没落寸前の男爵家の娘だ。 ほぼ平民と言っても過言ではない。 ごく一般的な貴族は6歳ごろから家庭教師をつけ、15歳になるまで家庭内で教育を受ける。 そして15歳から3年間、王立学院に進学する…らしい。 対する私たちのような没落寸前の貴族や平民は生活の中で生きる力を学び、同じく15歳から3年間、各地域運営の学校へ通うようになっている。 私たちと由緒正しい貴族では学び始める時期も、学ぶ量も学ぶことも全部が全部違うのだ。 一応記憶喪失、という設定があるので、6歳から学ぶことを順を追って学んでいる最中だが、それでも難しすぎる内容に私はいつも悩まされていた。 「…はぁ。頭入んない」 もう勉強なんてやめてしまいたい。 美しく広々とした机に並ぶノートとテキストを天高く放り投げてしまいたい。 けれどそんなことをする暇があるのならば勉強をしなければ。 完璧なレイラ様になる為には、勉強は必須なのだから。 「…お前、本気で今ここをやっているのか?」 「…っ」 突然、私の横でセオドア様がそう呟いたので、声にならない悲鳴を上げる。 慌てて声の方へと視線を向ければ、そこには信じられないものでも見るような目でセオドア様が私を見下ろしていた。 扉を叩く音は一切聞こえなかった。 つまり今ここにいるセオドア様は無断でこの部屋に入ってきたということだ。 「やっぱりお前は僕の姉さ
last updateLast Updated : 2026-06-02
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4.嫌がらせを受ける日々
アルトワ伯爵家に来て早、1ヶ月。少しずつここでの生活にも慣れてきたのはいいのだが、セオドア様の私に対する嫌がらせは、現在も当然のように続いていた。相変わらず私のものはよく壊されるし、わざと物置や小さな部屋に閉じ込められる。さらには食べ物や飲み物に微量な毒まで入れられて、体調不良を起こすことも度々あった。嘔吐に腹痛に頭痛に熱まで。一通りの症状をここ数週間で全て経験した。しかし本当に微量の毒だったので、ちょっとした不調にしかならず、苦しんでも2日ほどだった。なので、私の体調不良をアルトワ夫妻は、環境が急に変わったストレスによるものだと思っているようだった。「あら、ちょうどいいところに」午後の授業を終え、伯爵邸内の廊下を移動していると、40代後半くらいの恰幅の良い女性に声をかけられた。セオドア様とレイラ様の乳母、ヴァネッサ様だ。ヴァネッサ様の周りには数人の若いメイドもいた。「まだ南棟の掃除が終わっていないのよね。だけどこれから私たちみんなでお茶会をしようと思ってて。誰かが残らないといけなかったのだけれど、その必要はなくなったわね」こちらを見て、ニヤリと笑うヴァネッサ様に何が言いたいのかわかってしまう。まだ授業を終えたばかりなので、内容を忘れぬうちに復習をしたかったのだが、それは無理そうだ。「それじゃあ、よろしくね。ニセモノさん」「…はい」ヴァネッサ様にそう言われて私は暗い表情のまま頷いた。そしてそんな私を見て、ヴァネッサ様をはじめ、メイドたちはクスクス笑いながらその場を後にした。*****南棟に移動した私はまだ掃除の終わっていなさそうな部屋へと入り、上等な布で隅々まで拭き始めた。今の私の敵はセオドア様だけではない。セオドア様の私への態度を見て、ヴァネッサ様をはじめ、主にヴァネッサ様の下にいる使用人たちも私に嫌がらせをしてくるようになったのだ。しかもセオドア様やアルトワ夫妻の見えないところで。ここ南棟で掃除をさせているのも、彼らに見つからず、私に嫌がらせをする為だった。アルトワ伯爵邸内には4つ棟があり、南棟は使用人のエリアなので、アルトワ一家がここに近づくことはまずないのだ。正直、嫌がらせを受けるたびに腹が立ったし、言い返してやりたい気持ちにもなった。しかし私は使用人たちに対してでさえ、逆らうことができず、従うしかなかった
last updateLast Updated : 2026-06-05
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