All Chapters of サボテンの恋~年下のきれいな男の子に毎日ごはんを作ってもらうお話: Chapter 31 - Chapter 40

42 Chapters

第31話 暴露されてしまう過去

 あたし、見ちゃったの。 夜遅くに、お母さんがお兄ちゃんの部屋に入って行くのを。 それだけじゃないわ。 お母さん、お兄ちゃんがお風呂に入っているときに、わざと入って行っていたでしょう? ……何をしていたのよ。 お母さんのお兄ちゃんを見る目。 あたしはずっと分かっていたの。 お母さんは、お父さんよりもお兄ちゃんが好きなんだって。お母さんは、貧乏が嫌だったからお父さんと再婚したのよ。お父さんだって、そうでしょう? 自分では家事が出来ないからお母さんと再婚した。愛情とかじゃないのよ。初めから。そんなの、分かっていたわ。 ねえ、お兄ちゃん。 お兄ちゃんは、お母さんのことが嫌だったんでしょう? ほんとうは迷惑だったんでしょう? そうでしょう? お兄ちゃんが好きなのは、あたしでしょう? あたしには優しかったもの。 ねえ、あたしがお父さんに言ってあげる。 お母さんのこと。 だから、家に帰って来て。 お兄ちゃんが中学校にいたとき、大変だったことも知っているのよ。部活の先輩から教えてもらって。ジャージとかが盗まれたり隠し撮りされたりしていたって。すごい人気で。……すごい人気だったのは、あたしも知ってるわ。一年生のとき、お兄ちゃん三年生だったもん。あたし、自慢だったの、お兄ちゃんが。 お兄ちゃんはでも、彼女を作ったりしなかった。むしろ、女の子たちを遠ざけていた。……だけど、あたしのことは特別だったじゃない。先輩にも言われたの。聖羅ちゃんは千颯先輩にとって、特別なんだねって。 ねえ、お兄ちゃん。 もう心配しなくてもいいの。 あたしたち、一緒にいられるわ。 お母さんのことは、あたしが何とかする。 それに、大学では中学校みたいなこと、ないんでしょう? あと、あたしがいれば、きっと女除けになっていいと思うの。そうでしょう? あたしはお兄ちゃんの特別な女の子なんだから。一緒によく二人で話をしたじゃない。 …&h
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第32話 川の字で寝ましょう

「波瑠さん、ごめんなさい」 玄関から部屋に行こうとしたとき、千颯はうつむいたまま、そう言った。「大丈夫よ」「……波瑠さんに迷惑をかけてしまって。……ほんとうにごめんなさい」 千颯は玄関の広い土間に立ちすくんで、部屋に入ろうとしなかった。「千颯くん……」 泣いているのかしら? と波瑠は思った。「波瑠さん、僕、どうしたらいいですか? このまま、ここにいていいんでしょうか。……また今日みたいなことがあるかもしれないのに」「んーとね。――とりあえず、寝ちゃいましょう」「え?」 千颯は想定外の答えを聞いて、驚いて顔を上げた。 すると波瑠はにっこり笑って、「こういうときはね、寝ちゃうのがいいと思うの!」と力強く主張する。「寝る?」「そう! 寝るの。おばあちゃんが言っていたの。こういうときは寝るのが一番だって」「……ははっ」 千颯は、この家に来た日のことを思い出していた。 そうだ、あのときも波瑠さんは、寝てから考えましょうと言ったんだ。「ねえねえ、お布団をね、居間に敷いてキャンディと三人で、川の字になって寝ない?」 キャンディ、という名前が聞こえたのか、「にゃあ」とキャンディが来て、波瑠の足元にすり寄った。「ねえ、キャンディも賛成よね! ……じゃあね、私、こたつを移動させたりお布団を敷いたり、あと着替えたりするから、千颯くんはゆっくり来てね」「……はい」 波瑠は笑顔を残して、部屋に入って行った。 千颯は上がり框に腰をかけ深呼吸をした。 しばらくそうしていると、気持ちが少し落ち着いたので「波瑠さん、手伝いますよ」と言って居間に入って行く。 居間に行くと、既に布団が二組用意されていた。 キャンディがいつもとは違う情景が楽しいのか、布団に乗ったりして遊んでいた。波瑠はもう部屋着になって、キャンディと遊びながら準備をしていた。 川の字って、キャンディも入れて川の字? キャンディは猫だけど。 などと考えて、千颯は自然に笑みがこぼれてきた。「ねえねえ。まだね、こんなに明るいうちから寝ちゃうのって、すごく気持ちいいんだから」「寝られるでしょうか?」「寝られるわ! 布団に入ってね、天井を見るの。木目の模様が見えるでしょう? その天井の木目が何に見えるか、とか考えているうちに寝ちゃうのよ」「……試して
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第33話 波瑠のコロッケと「守ってあげたい」

 波瑠は、キャンディの向こうで横になる千颯をしばらく見ていた。 千颯は最初は眠れなさそうだったけれど、そのうち健やかな眠りについた。 キャンディの眠りに誘われたかしら、と波瑠は思う。 そして、よし! と思って起き上がる。 うっかり一緒に眠りこけてしまいそうだったけれど、波瑠は千颯に何かおいしいものを食べさせてあげたかった。 嫌なことがあったときはおいしいもの! 何にしようかな? なんとなく、少し手の込んだものが作りたくなった。しかし、ハンバーグや牛肉の煮込みを作るには材料がない。 波瑠は台所に行き、材料を点検してコロッケを作ろうと思った。 卵コロッケ。 肉なしの、ゆで卵とじゃがいもと玉ねぎのコロッケ。 一人のときは面倒で決して作らない。けれど、今日は千颯のために作ろうと決めた。 作り方はシンプルだ。 まずは、ゆで卵を作る。それから、じゃがいもの皮を剥いて茹で、塩味をつける。一緒に玉葱のみじん切りも茹でておく。 じゃがいもが熱いうちに玉葱も一緒に潰す。塩味が足りなければ塩味を足す。少し、胡椒も振る。胡椒はあらびき黒胡椒だ。そこにゆで卵を加えてスプーンでざっくり潰し、マヨネーズを加え、味を調える。 出来上がるのは、じゃがいもと卵がごろっとした、シンプルなポテトサラダ風のもの。 それを適当な大きさに丸め、小麦粉をはたき、卵をつけパン粉をつけ、きつね色に揚げる。 揚げ物なんて、久しぶりにするわ。 波瑠はコロッケがはちけないように気をつけながら、ひっくり返した。いくつかはもう揚げ上がっている。 揚げ物独特の音が、台所に響き渡る。 それから、いいにおいも。 土鍋のごはんもあと少し蒸らせば大丈夫。お味噌汁も出来たし、と。 千颯くん、まだ眠っているかしら? 波瑠がそう思って居間の方を見ると、戸口に千颯がいた。「千颯くん、目が覚めたの?」「……音がして」「ああ、ごめん、うるさかったかな?」「違い
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第34話 きれいなものを見ると

「にゃー」 キャンディのやわらかさで、波瑠は朝だと言うことに気がついた。 今日はまだ日曜日。早起きしなくてもいい。 ぼんやりとそんなことを考える。 キャンディは波瑠のところで寝たり千颯のところで寝たり、気まぐれに寝る場所を変えていた。……今日は私のところで寝たんだ。――あれ? 布団がいつもと違う。……あ! 波瑠はキャンディの向こうに、眠っている千颯を見た。 ちょうど千颯は波瑠の方に顔を向ける体勢で眠っていた。 ……あのまま、寝ちゃったんだ。 居間は太陽の光が射し込んでいて、縁側の雨戸を立てずに寝てしまったこともわかった。 波瑠は千颯の寝顔をしみじみと眺めた。 やっぱりきれいな顔しているなあ。整った顔立ち。睫毛も長いし。 ……でも、千颯くんの料理があんなにおいしいことを知っているのは、わたしだけよね。 波瑠はそう思って、ふふふと笑った。「何を笑っているんですか?」「千颯くん! 起きたの? ……何でもないの。知らない間に寝ちゃったなって思って」「そうですね。朝までぐっすり寝てしまいました。夕方も寝たのに」「休日だからいいのよ」「にゃー」「ほら、キャンディもいいって言っている」 キャンディは、今度は千颯の方に行って、千颯の手をぺろりと舐めた。「キャンディ、お腹空いているのかい?」 千颯がキャンディの頭を撫でながら言う。「にゃっ」「私もお腹空いたかも」「じゃあ、みんなで朝ごはんにしましょう」「うん!」 千颯が台所に朝ごはんの支度をしに行っている間、波瑠は布団カバーを外し、洗濯をすることにした。それから、布団をよっこらせと干しに行く。「手伝いましょうか?」「じゃあ、一緒に干しに行こう」「僕の部屋を突っ切って、縁側から出た方が早くないですか?」
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第35話 一緒に寝てしまった翌朝の朝ごはん

 食卓には既に朝ごはんが並べられていて、千颯はコーヒーメーカーのコーヒーをマグカップに注いで波瑠の前に置いた。 ワンプレートのごはん。 ロメインレタスのサラダにはシーザーサラダドレッシングとパルメザンチーズがかかっていて、ミニトマトが添えられている。トーストはこんがりきつね色。ジャムの瓶がいくつか置かれている。苺ジャムとブルーベリージャム、それからみかんジャム。今日はどのジャムにしようかな、と波瑠は思いながら席についた。ベーコンエッグの目玉焼きの黄身はちょうどよく半熟で、実においしそうだった。コーヒーはマグカップにたっぷりと。「波瑠さん、コーヒーに牛乳入れますか?」 波瑠はときどき、コーヒーをミルクコーヒーみたいにして飲む。「ブラックでいいわ」「わかりました。じゃあ、食べましょう」「いただきます!」「いただきます」 二人で手を合わせてから、食べ始める。 キャンディは自分のごはんを食べ終わっていて、二人の足元をうろうろしていた。キャンディのふわりとした感じが、あたたかいと波瑠は思った。 波瑠は少し悩んで、少し酸味のあるみかんジャムを手に取った。トーストの半分に丁寧に塗る。千颯はブルーベリージャムをつけていた。「ねえ、うちにシーザーサラダのドレッシングってあったかしら?」「作ったんですよ。ネットで見て。……どうですか? クルトンはなかったので、ないままですが」「おいしいよ!」 ロメインレタスはシャキシャキしていて、そこにほのかな酸味のあるドレッシングとパルメザンチーズが加わり、新鮮な野菜の味が引きたてられた。「よかったです」 千颯が笑い、波瑠も笑う。 少し遅い時間の、日曜の朝ごはんは幸福そのものだった。 波瑠は黄身がこぼれてしまわないように、トーストの残り半分にベーコンと卵を乗せ、トーストと一緒に食べる。黄身のとろりとした甘味とベーコンの塩味が口の中でいっぱいに広がった。波瑠はそのまま、黄身がこぼれないように気をつけながら、一気に食べた。「ああ、おいしい!」
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第36話 一緒にいて、居心地のいい人――初めての

「もちろんよ。昨日もそう言ったわ」 波瑠は気持ちを込めて、ゆっくりと言った。「……ふいに不安になって……昨日の聖羅の話、聞いたでしょう?」 千颯は顔をしかめた。「――聞いたわ」「僕、父が再婚した相手である新しい母親とうまくやっていけなくて。小学校六年生のときに実の母が亡くなって、一年も経たない中学一年生のとき、父は再婚したんです。新しく妹も出来て。……いつも家では緊張していたんです。何もかもが、母が生きていたときとは変わってしまって、どうしても馴染めなくて。……たぶん、僕、母のことを消し去ろうとする行動を、ほんとうはどうしても許せなかったんだと思います。だから、継母にも妹の聖羅にも、初めから心を開けなかった。……聖羅は、僕が聖羅には優しかったと言っていたけれど、僕は少しもそんなつもりはなかったんです。ただ、揉め事になるのが面倒だったから、そうしていただけで。継母も――気持ち悪くて……どうしても駄目で――」「うん」「ずっと継母の視線が怖くて。……聖羅も、他の女の子たちも。……僕、夜中にあの人が僕のことを触っているのに気づいたとき、ほんとうに恐怖を覚えました」「……お父さんには相談したの?」「していません。――とても出来るような感じではなくて」「……そう」「……だから、ずっと夜、眠れなかったんです。浅い眠りを繰り返して。……夜中にドアノブががちゃってしたのに気づくと、もうそこから眠れなくて」「大変だったわね」「……ここでほんとうに久しぶりにぐっすり眠れたんです」「よかったわ」 波瑠はそう言うと、千颯の頭を撫でた。「波瑠さん」 千颯は、千颯の頭を撫でる波瑠の手を取
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第37話 鍋を食べる

 遅い時間に朝ごはんを食べたので、二人ともお昼ごはんの時間にはお腹が空かず、お昼ごはんは抜いて早めの晩ごはんを食べることにした。「ねえ、晩ごはんは何?」「鍋にしようと思っています」「鍋! いいわねえ。ポン酢で食べるやつ?」「そう、ポン酢で食べるやつです」「きのこ、入れて欲しいな」「入れますよ。鶏団子を入れます」「鶏団子! あのね、鶏肉に生姜も入れて丸めて欲しいな」「鶏団子に生姜入れますよ。あと長葱も」「きゃーん、おいしそう! あのね、鍋には水菜入れるんだよね? お買い物で買ったから」「そうですよ」「楽しみ!」「すぐ出来ますから、波瑠さんはのんびり待っていてください」「わたし、シーツとかお布団とか、お片付けして待ってるね。それから、こたつで食べたいな、鍋!」「居間で?」「そう、居間で、こたつに入りながら」「いいですねえ」「あのね、卓上のクッキングヒーターがあるのよ。そういうの、準備しておくね!」 千颯が嬉しそうに笑ったので、波瑠も嬉しくなった。 波瑠はシーツや布団を片づけ、それから掃除機をかけた。猫がいるので、こまめに掃除をしなくてはいけない。「にゃー」 キャンディは掃除機をかける波瑠にまとわりついてきて、とてもかわいかった。「ふふ」 掃除機をかけおわると、波瑠は少しキャンディと遊んでから、卓上のクッキングヒーターを出してこたつの上に乗せた。 取り皿やお箸を用意しようと台所に行く。「波瑠さん、鍋出来ましたよ」「ちょうどいいわ! 私も片づけ終わって、クッキングヒーターも出したの」 こたつの上に置いたクッキングヒーターに土鍋を乗せる。 千颯が土鍋の蓋を取ると、ふわっと蒸気が立ち昇った。「いいにおい!」 鍋はくつくつ煮えていて、鶏団子と葱と水菜が入っていた。波瑠が好きな、椎茸とえのき茸も入っていたし、ごぼうのささがきや焼き豆腐も入っていて、湯気を立てていた。「おいしそう!」「昆布出汁で煮たんです」「ポン酢で食べる!」「はい、波瑠さんの好きなポン酢」「そう、このポン酢がおいしいのよね。味が濃くて柚子の味がちゃんとして」 二人は向き合って座り、鍋をつついた。「今日は土鍋をこれに使ったので、ごはんがないんです」「しめにうどん入れればいいと思うの」「そう言うと思って、用意してありま
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第38話 フレンチトーストの朝ごはん

 千颯はごはんを作るとき、いつも波瑠の顔を思い浮かべていた。 波瑠さんはどんな顔をするだろう? 喜んでくれるかな? 好き嫌いのない波瑠は、だいたい何を作っても嬉しそうな顔で「おいしそう!」と言ってくれるのだけど。そして、ほんとうにおいしそうに食べてくれる。 三月に入った土曜日、千颯は今日の朝ごはんは何しにようかなと考えていた。 最近、週末はのんびり朝ごはんを食べて、二人でゆっくりとコーヒーや紅茶を飲むことが多かった。その時間はとても穏やかないい時間だった。 買ってから少し時間が経ってしまった食パンが目について、千颯は、一瞬焼こうかと思ったけれど、ふとフレンチトーストにすることを思いついた。フレンチトーストを作るのは初めてだった。 波瑠さん、喜んでくれるかな。 ボウルに卵と牛乳と砂糖を入れて、よく混ぜる。それからそこに、四つに切った食パンを浸す。熱したフライパンにバターを入れて溶かし、そこに卵液に浸した食パンを手早く入れていく。残った卵液をパンの上にかけて、一緒に焼く。 焼き色がついたらひっくり返し、裏面も焼く。 あっという間に出来る、お手軽なフレンチトースト。 サラダを盛りつけ、フレンチトーストを乗せ、コーヒーメーカーをセットする。 それから千颯は波瑠を起こしに行った。 襖越しに声をかける。「波瑠さん、ごはんですよ」「はーい! おはよう、千颯くん!」 襖ががらっと開いて、波瑠が元気よく出て来た。 波瑠さんは、起きているけど、僕が呼びに来るのを待っているときがある、と千颯は思う。それは甘やかな思いだった。「おはようございます」「おはよう。ねね、今日の朝ごはんは何?」「フレンチトーストです」「フレンチトースト! きゃー、初めてね。楽しみ」 波瑠はスキップをする勢いで食卓へと向かう。波瑠の後ろから台所へ向かった千颯は、「おいしそう!」という波瑠の声を聞き、満足する。「千颯くん、私、フレンチトースト、好き」「波瑠さんは好きなものが多いですね。これ、
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第39話 一緒にお出かけ――これってデート?

 本屋を見て服屋を見て。 その他、気になるお店を二人は見て回った。そして映画館のある階に着いたとき、波瑠は言った。「ねえ、千颯くん、映画観ない?」 千颯は、すぐに「いいですよ」と答えることが出来なかった。「あの……」「ん? 観たいの、ない?」「……そうじゃなくて、僕、暗いところが怖いんです」 千颯は思い切ってそう言った。波瑠は千颯の次の言葉を待って、千颯の顔を見て黙っていた。「……継母が夜中に僕のことを触っていて気持ち悪かった、と話したと思うんです」「うん」「頰を触られただけだけど、気持ち悪くて。僕、それ以来、夜眠るときはベッドをドアの前まで移動させて寝ていたんです。――入れないように。だけど、夜、ドアノブが、がちゃがちゃってすることがあって――だから、暗いところは……」 暗がりにいると、あの光景を思い出してしまう。 恐怖心と一緒に。 千颯が言葉を詰まらせると、波瑠は千颯の手を両手でそっと包み込むようにして、言った。「ごめんね、千颯くん、つらいことを言わせてしまって。……大丈夫よ、分かったから。映画はね、おうちで観ましょう」 波瑠は千颯の顔をまっすぐに見て、にこりと笑った。「波瑠さん」「暗いところはやめて、ごはん食べに行こう?」「……はい!」 二人は自然に手をつないで歩き出した。 波瑠の手から、あたたかい気持ちまで伝わってくるようだ、と千颯は思った。「ねえ、千颯くん。もしかして雨戸を立てずに眠ることが多いのも、そのせい?」「……ごめんなさい。雨戸を立てると、真っ暗になってしまって……怖くて。電気を点けたままだと、なかなか眠れなくて。でも、自然の月明かりならぐっすり眠れるんです」「じゃあね、これからは悪天候じゃない限り、雨戸は開けた
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第40話 波瑠の家族のこと

 聖羅に会うことを心配していた千颯だったが、ばったり会ったのは、波瑠の家族だった。「波瑠、久しぶりね」「お久しぶりです」「元気だった? ちっとも来ないから」「元気です」「……そちらは?」 波瑠の母親は千颯に視線を向けて、そう言った。「あ、うん。今、一緒に住んでいるの」「え? ……そうなの」 波瑠の母親も驚いたようだったが、千颯はもっと驚いた。 ……その言い方だと、きっと彼氏だと思われてしまう。波瑠さんはどうして適当な嘘を言わなかったのだろう? いくらでも嘘が言えたのに。「お母さんも、お父さんも。それから、真珠も琥珀も元気?」「元気よ。変わりはないわ」 と波瑠の母親が言い、父親は頷き、高校生くらいの女の子の方が「今度高三になるんだよ、お姉ちゃん。琥珀は今度高二だよ」と言った。「二人とも、勉強頑張るのよ」「ねえ、お姉ちゃん、またうちに来てよ。真珠、話したいことがあるんだよ」「今度ね」「約束だよ。琥珀だって、お姉ちゃんに会いたいって思ってるよ!」 琥珀は真珠の横で少し照れくさそうにしていたけれど、波瑠に会えて嬉しそうなのが、千颯にも感じられた。「うん、分かったわ」 波瑠はそう言ってにっこりすると、またいくつかの会話を重ねた。そしてその後、「じゃあ、またね」と手を振った。「お姉ちゃん、またね!」 という真珠の声がよく響いていた。 波瑠の家族が視界から消えたと思ったら、波瑠が千颯の手を握った。「……波瑠さん?」「――緊張した……!」「波瑠さんの、お父さんとお母さんときょうだい?」「そうなの。……私、中学生になったときから、今の家でおばあちゃんと暮らしていたから、一緒に暮らした記憶が遠すぎて。……緊張しちゃうんだよね」「そうなんですね」 千颯は、波瑠が以前に「あの家には私の居場所はない」と言っていたことを、悲しく思い出していた。波瑠さんが家を出た理由は何だろう? ――いつか波瑠さんが自分から話してくれるまで待とう。「真珠も琥珀も大きくなったなあ。びっくりしちゃった。……何年も会っていなかったから」「またうちに来てよって、言っていましたね」「う~~~~行きたくない
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