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All Chapters of 彼が手放した女性: Chapter 591 - Chapter 600

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第591章 – アレクサンダーの依頼

彼女は首を横に振り、視線は虚空を見つめていた。「無理よ、ジュリアン。彼のことを考えるたびに、薬のこと、嘘のこと、彼を待つ夜のこと、恐怖のこと、恥辱のことばかりが目に浮かぶの。彼が求めているものを与えることなんてできないわ。」「エリーズ、あなたは彼に何も借りはないわ。」「でも、もし断ったら、後悔するかもしれない。」彼は彼女の手を取り、自分の手と絡めた。「何を後悔しているんだ?処刑人が要求する赦しを与えなかったことをか?」彼女は彼を見上げ、その視線の中に、静かで揺るぎない強さを見出した。「彼は死ぬわ、ジュリアン。」「そうだ。そして君は、この出会いがあろうとなかろうと、生き続けるだろう。」彼女は翌日ソフィーに電話をかけ、その後デラランド博士と追加の面談を行った。心理学者は彼女の話を遮ることなく聞き、そしてただこう言った。「エリーズ、この面談に何を期待していますか?そこで何を見つけたいと思っていますか?」エリーズはしばらく考えてから答えた。「もしかしたら、説明があるのかもしれない。理由があるのかもしれない。」「本当に彼がそれをあなたにくれると思う?」彼女はうつむき、静かに震えながら言った。「そうは思わないわ。彼自身、なぜこんなことをしたのか分かっていないと思う。」「では、なぜ行くのですか?彼のためですか?それともあなたのためですか?」日が経ち、答えはゆっくりと彼女の心の中で熟していった。まるで、時間をかけて落ちる果実のように。ある朝、目覚めたとき、彼女は自分が何をすべきか分かっていた。彼に会いたくなかった。今は。彼が彼女に与えた苦しみを考えると。しかし、彼女はその怒りを毒のように心の中に閉じ込めておくのも嫌だった。だから、彼に電話する代わりに――彼女にはその気力がなかった――彼女はオフィスの机に座り、一枚の紙を取り出した。「アレクサンダー、お手紙を受け取りました。あなたに会いに行くつもりはありません。行けませんし、行きたくもありません。あなたが私にしたことは、私を破壊し、完全に打ちのめしました。そして、私が自分自身を立て直すのに何年もかかりました。あなたに苦しんでほしいとは思いませんが、あなたが求める赦しを与えるつもりもありません。
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第592章 – アレクサンダーの依頼

でも、あなたを許します。あなたのためではなく、私のために。あなたを憎み続けるということは、私の人生にあなたの居場所を与えることになるけれど、あなたはもうそんな資格はない。あなたを許し、そしてあなたを忘れます。さようなら、アレクサンダー。彼女は本名であるエリーズ・ルノワールと署名し、その紙を封筒に入れて、その日のうちに投函した。夕方帰宅すると、ジュリアンが庭で最後の落ち葉を集めていた。彼女が近づくと、彼は姿勢を正し、彼女は彼に微笑みかけた。「終わったわ」と彼女は簡潔に言った。「書き終えたのよ。」"ご気分はいかがですか?"「軽いわね。」彼女は澄んだ冬の空気を吸い込み、灰色の空を見上げて微笑んだ。「とても軽いわ。」その晩、彼女はノートにこう書いた。アレクサンドルは死ぬ前に私に会いたがっていた。私は断った。憎しみからでも、恐れからでもない。もう彼に何も借りはないからだ。時間も、涙も、許しも。私は彼に手紙を書いた。簡潔で、シンプルで、最後の手紙を。今朝投函した。そして今夜、ようやく息ができる。何年もぶりに、本当にページがめくられたような気がする。もう彼は私に何もできない。彼自身も、彼の記憶も。私は自由だ。
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第593章 – アレクサンダーの手紙

返事は10日ほど後に届いた。ごく普通の白い封筒に入っていて、差出人の住所は書かれていなかった。12月のある朝、窓に霜が降り、街が目覚め始めた頃、エリーズはオフィスの郵便受けでそれを見つけた。封筒に書かれた筆跡を見て、彼女はすぐにそれが自分だと分かった。何百枚もの処方箋で見てきた、細く、斜めに傾いた、ほとんど判読できないような筆跡だった。心臓はドキドキしたが、意外にも手は震えなかった。彼女は書斎に一人きりになるまで待ってから、その手紙を開けた。手紙は長かった。前のものよりずっと長かった。手書きの6ページ。読み進めるにつれて、まるで書いている手が一語ごとに疲れていくかのように、文字はどんどん震えていった。彼女は深呼吸をして、読み始めた。「エリーゼ、お手紙を受け取りました。お会いできないだろうとは思っていましたが、その気持ちはよく分かります。おっしゃる通り、私はあなたの時間も、涙も、許しも受けるに値しません。でも、死ぬ前に、これまで言えなかったことをあなたに伝えたいのです。自分を正当化するためではありません。私のしたことに正当化の余地などありません。ただ、知っておいてほしいだけです。真実、ありのままの真実を、せめて一度だけでも伝えたいのです。なぜあんなことをしたのか、自分でもわからない。何年も考え続け、数えきれない夜を答えを探し求めてきた。しかし、答えは見つからなかった。いや、むしろ、あまりにも多くの答えを見つけてしまった。恐怖、プライド、臆病、嫉妬、そしてすべてを支配したいという欲求。それらすべてが同時に、そしてどれ一つとして切り離すことはできなかった。エリーゼ、君に出会うずっと前から、僕は傷ついた男だった。そして、自分を癒すどころか、僕を愛してくれる人たちを傷つけてしまった。あなたと結婚した時、私はあなたを愛していました。本当に。少なくとも、あのぎこちなくて、独占欲の強い愛で、あなたを愛していると思っていました。あなたはとても聡明で、生き生きとしていて、輝いていました。あなたを失うのが怖かったので、あなたをコントロールしようとしました。薬はまさにそのためのものでした。あなたをそばに留め、あなたが離れていかないように、あなたの知らないうちにあなたを縛り付けるための手段だったのです。
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第594章 – アレクサンダーの手紙

サラは私にとって何の意味も持たなかった。彼女は気晴らしであり、逃避であり、私が破壊している現実から目を背けるための言い訳だった。私は彼女を愛したことなど一度もない。私が愛したのはあなただけだった。そして、それが最も恐ろしいことだ。私はあなたを愛し、そしてあなたを傷つけた。私はあなたを愛し、そしてあなたに嘘をついた。私はあなたを愛し、そして5年間、毎朝あなたを毒した。「恥ずかしいよ、エリーズ。決して消えることのない、息苦しい、夜も眠れないほどの恥辱だ。君が去ってから、司法制度が僕の罪を暴いてから、僕は孤独に、後悔に苛まれながら、引きこもって生きてきた。母さえも僕に背を向けた。サラは何も言わずに去っていった。同僚たちも僕を避ける。僕に残されたのは、内側から僕を蝕むこの病だけだ。それも当然のことだ。」手紙の残りの部分は、二人の出会い、結婚式、最初の幸せな数ヶ月といった思い出を呼び起こした。アレクサンドルは、自分の嘘、裏切り、臆病さを告白した。何年も会っていない娘のアリスについて語り、アリスが自分を知りたがらないだろうと分かっていた。かつて中傷しようとしたジュリアンについて語り、今では彼が自分よりも優れた人間だと認めた。孤独、眠れない夜、体を蝕む癌、そして魂を蝕む恐怖について語った。そして、最後のページで、彼女の声は変わったように聞こえた。「あなたは私を許すと書いてくれた。私のためではなく、あなた自身のために。私はその言葉を何度も何度も読み返した。それは私の暗闇の中の唯一の光。私はあなたの許しを受けるに値しないけれど、それを恵みとして受け取る。あなたは私よりもずっと素晴らしい女性。あなたはいつもそうだった。」エリーズは震える指で手紙を置き、肘掛け椅子に深く腰掛けた。読みながらずっとこらえていた涙が、静かに、そしてとめどなく流れ出した。彼女はアレクサンドルのために泣いているのではない。かつての自分のために、無駄にした年月のために、無駄にした苦しみのすべてを嘆いていたのだ。そして、すべてが終わったことを悟り、安堵の涙も流していた。もう彼には何もできない。彼自身も、彼の記憶も、もう彼女に何もできないのだと。
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第595章 – アレクサンダーの死

彼女は手紙を受け取り、もう一度読み返すと、ためらうことなくそれを破り捨てた。二つに、四つに、八つにと破り、破片が紙吹雪のように机の上に散らばるまで破り続けた。それからそれらを拾い集め、机の下のゴミ箱に投げ込んだ。アレクサンダーには返事をしない。二度と彼と話したくない、二度と彼の声を聞きたくない、二度と彼の名前を見たくない。彼女が彼に与えた許しは、彼のためではなく、彼女自身のためだった。彼女は彼にこれ以上何も借りはない。その日の夕方、彼女は家に帰ると、ジュリアンをぎゅっと抱きしめた。「もう終わりよ」と彼女は彼の肩に顔をうずめてささやいた。「彼は長い手紙を書いて、すべてのことを許してほしいと頼んできたの。でも、私はその手紙を破り捨てたのよ。」ジュリアンは何も質問せずに彼女と握手をした。彼は理解していた。その夜、暗闇の中で横たわりながら、エリーズは愛する人の穏やかな寝息、遠くで聞こえる時計の音、木々を揺らす風の音に耳を傾けていた。彼女は、長年にわたる苦闘、恐怖、そして怒りを思い返した。そして、ついに心の平安を得たのだと、確信した。アレクサンダーの手紙は最後の難関だった。今、道は開けた。***その知らせは1月のある朝、弁護士クレマンからの電話で届いた。エリーゼは台所で娘たちの朝食を用意していた時、カウンターの上で携帯電話が振動した。彼女は布で手を拭き、画面を見ると、弁護士の名前が表示されているのを見て、胸が締め付けられるような思いがした。クレマン弁護士は理由もなく電話をかけてくることは決してなく、最近は、電話がかかってくるたびに深刻な知らせが伝えられるようだった。「エリーズ、こんなに早くからお邪魔して申し訳ないんだけど、あなたにお伝えしたいことがあるの。」弁護士の声は冷静でプロフェッショナルだったが、エリーゼはその声にどこか重苦しい響きを感じ取り、息を呑んだ。「アレクサンドル・ヴァニエ氏は昨夜、サン・アンドレ病院で亡くなりました。膵臓がんの進行が予想以上に速く、医師たちは何も手出しができませんでした。」
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第596章 – アレクサンダーの死

その後に訪れた沈黙は、まるで深淵のようだった。エリーズは身動き一つせず、受話器を耳に押し当て、最後の一滴を吐き出すコーヒーメーカーをじっと見つめていた。弁護士の言葉が頭の中で渦巻き、互いにぶつかり合い、意味をなさない。アレクサンドル。死んだ。5年間も人生を共にし、浮気をし、辱め、毒を盛った男。憎しみで彼女を追い詰め、脅し、法廷に引きずり込んだ男。数週間前に、返事も書かずに破り捨てた、長い謝罪の手紙を書いてきた男。その男が死んだ。あの夜。病院の病室で、たった一人で。「エリーズ?まだここにいるの?」彼女はまばたきをし、体を震わせた。「ええ。ええ、ここにいます。」「ニュースが広まる前にあなたに知らせたかったんです。彼の悪名高さを考えると、おそらく地元紙に記事が出るでしょう。私から直接あなたに伝えたかったんです。」「ありがとうございます、師匠。」「葬儀は金曜日に家族のみで執り行われます。母親が手配を担当していますので、もちろんご参列いただく義務はありません。」エリーズはうなずくだけで、何も答えられなかった。数分後、指の感覚が麻痺した彼女は電話を切り、長い間キッチンの真ん中でじっと動かずにいた。周囲の世界は何も変わっていなかった。コーヒーメーカーは唸り、冷蔵庫はブザーを鳴らし、1月の雨が窓を叩いていた。それなのに、まるで目に見えないベールが剥がれ落ち、これまで信じてこなかった現実が露わになったかのように、すべてが突然違って見えた。アレクサンドルは死んだ。本当に死んでしまったのだ。彼女はもう二度と街で彼に会うことも、匿名の手紙を受け取ることも、彼に似た人影を見て飛び上がることもないだろう。彼は彼女の人生から、完全に、取り返しのつかないほど消え去ってしまった。そして、本来なら安堵をもたらすはずのこの考えが、彼女を奇妙な、ほとんど言い表せない不安で満たした。数分後、ジュリアンが階下に降りてきた。髪は乱れ、目はまだ眠気で腫れぼったい。彼はエリーズの顔を見て、ぴたりと足を止めた。「どうしたんだ?」「アレクサンダーは死んだ。」彼はその打撃を冷静に受け止め、ゆっくりと頷いた。「いつ?」「今夜。病院で。」
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第597章 – アレクサンダーの死

彼は彼女に近づき、そっと彼女の肩に手を置いた。「気分はどうですか?」彼女は少し考えてから、適切な言葉を探しながら答えた。「わからない。変な感じ。安心したり、幸せになったり、自由になったりするはずなのに。ある意味ではそうなんだけど。でも同時に、こんな気持ちになるの…」" 何 ? "「何もない。あるいは、ほとんど何もない。まるで大きな虚無のようだ。」ジュリアンは彼女を腕の中に抱き寄せ、しっかりと抱きしめた。「どんな感情を抱いていても、それはごく自然なことだ。たとえその人が君を傷つけた相手だったとしても、人の死に対する反応に正しいも間違いもない。」彼女は彼の肩に頭を預け、涙をこらえながら頷いた。泣いてはいなかった。おそらく泣くこともなかっただろう。この男のために流した涙は、何年も前に、孤独な夜、裁判、そして人生を立て直すための数ヶ月の間に、すべて使い果たしてしまった。もう残っていなかった。しかし、そこには空虚感が確かに存在していた。それは巨大で、めまいがするほどで、まるで家具でいっぱいだと思っていた部屋が、突然がらんとしていることに気づいたような感覚だった。少女たちは走ってやって来た。まずレアが、そのすぐ後ろにアリスが続いた。二人は朝食をせがみ、食卓の席を巡って言い争い、そして大声で笑った。エリーズは彼女たちを見守りながら、娘のアリスが父親を知ることはないだろうという悲しみが胸を締め付けた。アリスは、人々が父親について語る内容――沈黙、不在、嘘――しか知ることができないのだ。そして、この死は、たとえどれほど辛いものであろうとも、娘にとってはある種の解放なのかもしれない。決して真に存在しなかった亡霊の終焉なのだから。
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第598章 – アレクサンダーの死

その日は夢のように過ぎていった。エリーズは、ソフィー、キャサリン、そして訃報を聞いた協会のボランティアたちからのメッセージに返信した。ジュリアンの妹であるクレールから電話があり、続いてグランデ氏からも電話があった。皆が支援と哀悼の意、そして愛情を伝えてくれた。エリーズは落ち着いた、ほとんど機械的な声で感謝を述べ、そのたびに自分の人生がどれほど変わったかを実感した。今、彼女を取り囲み、愛し、支えてくれるこれらの人々は、数年前には存在しなかった。人生を立て直すための曲がりくねった道で、彼女が彼らを見つけたのか、あるいは彼らが彼女を見つけたのか。そして今、彼らはアレクサンドルの死さえも揺るがすことのない、彼女を守る砦となっていた。その日の夕食後、彼女はジュリアンと居間に座っていた。娘たちは寝ていて、家の中は静まり返り、雨は容赦なく単調に降り続いていた。彼女は彼の手を取り、指を絡ませて、静かに言った。「葬式には行きたくないの。」ジュリアンはうなずいた。「誰も君に強制しているわけじゃないよ。」「恨みからでも、恐怖からでもない。ただ…もうあそこでやるべきことは何もない。手紙で彼を許した。彼はそれを知っていた。墓場に行っても何も変わらないだろう。」「自分を正当化する必要はない。」彼女は彼の肩に頭を預け、目を閉じた。「ねえ、不思議なことなんだけど。何年も、彼がいなくなる夢を見ていたの。死んでしまうとか、去ってしまうとか、存在しなくなってしまうとか。なのに、それが現実になった今、喜びは感じない。ただ…一種の安らぎを感じるだけなの。」「もしかしたら、喜びよりも良いのかもしれない」とジュリアンは言った。「喜びは束の間だが、平和は永遠だ。」彼女はうなずき、二人は長い間、雨音に耳を傾けながら黙っていた。葬儀当日の金曜日、彼女は何事もなかったかのように協会の事務所へ出勤した。電話応対をし、新たに2人の受益者を迎え入れ、朝のサポートグループを率いた。墓地には行かないことに決めたものの、家に閉じこもって思い悩むのも嫌だった。仕事、活動、そして人との繋がり――それが彼女を支えていたのだ。
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第599章 – アレクサンダーの死

午後遅く、最後のボランティアが去った後、彼女は広い部屋に一人座っていた。そして、その時、涙が溢れ出した。すすり泣くような泣き方ではない。ただ、数滴の静かな涙が、抑えようともせずにゆっくりと頬を伝って流れ落ちた。彼女はアレクサンドルのために泣いていたのではない。かつての自分のために、無駄にした年月のために、あの無意味な苦しみのために泣いていたのだ。そして、安堵の涙でもあった。あの章がようやく閉じられたことを、彼女は知っていたからだ。その晩、アリスを寝かしつけた後、エリーズは娘のベッドのそばにひざまずき、眠るアリスを見守った。アリスはまだ8歳だったが、父親が亡くなったことを漠然と知っていた。エリーズはその日の朝、詳しいことは何も言わずに、簡単な言葉でアリスに告げた。「お父さんはとても具合が悪かったのよ。天国へ行ってしまったの」。アリスは深刻な表情でうなずき、学校に行けるかと尋ねた。そして、生活は続いていった。立ち上がると、エリーズは静まり返った部屋に囁いた。「彼はもう二度とあなたを傷つけないわ、愛しい人。あなたも、私も。」彼女はその夜遅く、ノートにこう書き記した。アレクサンドルは死んだ。昨夜、病院の個室で一人きりで。今朝知らされて以来、私は無関心と混乱の間を漂っている。葬儀には行かなかった。行きたくなかったし、行く必要もなかった。手紙で彼に許しを告げたのは、彼のためではなく、私のためだった。もう彼に言うことは何もなかった。今夜、初めて泣いた。彼のためではなく、自分のために。かつての自分のために、無駄にした年月のために。そして、安堵の涙もあった。終わったから。本当に終わった。彼はもう私にもアリスにも何もできない。円環は完成した。ページをめくって前に進める。自由だ。やっと。
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第600章 – 相続拒否

召喚状は2月のある朝、公証役場の印鑑が押された封筒に入って書留郵便で届いた。エリーゼは、協会に関する何らかの事務手続きだろうと、何気ない好奇心で封筒を開けた。しかし、そこで目にしたものは、彼女を息を呑ませた。ボルドーの公証人であるデルクール氏は、故アレクサンドル・ヴァニエが遺言で彼女にかなりの額の遺産を遺贈したことをエリーズに伝えた。その額は25万ユーロで、相続税や他の受遺者への遺贈を差し引いた後の、彼の遺産の可処分部分に相当する。手紙には、この遺贈は「無条件かつ留保なし」であり、エリーズが受け入れるか否かは彼女次第であると明記されていた。25万ユーロ。数年分の給料に相当する金額で、家を買い、娘たちの教育費を捻出し、将来を保障するのに十分な額だ。彼女を破滅させた男の金。5年間、彼女に避妊薬をビタミン剤だと信じ込ませていた男。彼女を辱め、裏切り、脅迫し、裁判に引きずり込んだ男。彼女は震える手で手紙を置き、一番近い椅子にどさりと腰を下ろした。混乱と苦痛に満ちた記憶の洪水が彼女を襲った。白い錠剤、毎朝彼が差し出してくれた一杯の水、お決まりの質問「ビタミンは飲んだかい?」、そしてソファで彼を待ちながら鍵が鍵穴に入る音を耳を澄ませていた夜の光景が、再び目に浮かんだ。サラの見下すような笑み、義母のほのめかし、娘を脅迫する匿名の手紙。すべては、この日のために。そして今日、この男が彼女にお金を差し出すために。彼女の最初の衝動は拒否することだった。断固として。きっぱりと。彼女は彼から何も望んでいなかった。彼の愛も、憎しみも、お金も。しかし、その金額があまりにも大きかったので、彼女はためらってしまった。結局のところ、それは一種の償いではないだろうか?失われた年月、耐え忍んだ苦しみ、受けた屈辱に対する補償ではないだろうか?これほど多くのものを与え、これほど多くのものを犠牲にし、これほど多くのものを失った彼女には、この補償を受ける権利はないのだろうか?
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