俺、時沢晴人(ときざわ はると)は、陸崎汐音(りくざき しおん)を五年間愛し続けた。そして彼女は、俺の婚約者になった。けれど、祖父が病で息を引き取ろうとしていたとき、汐音は手を差し伸べてくれなかった。きっかけは、時沢家の養子が彼女にそう吹き込んだことだった。この機会に俺の尖った部分を削ぎ落として、少しは打たれ強い人間にしてやればいい、と。祖父は誰にも助けを求められないまま息を引き取った。俺は彼女の望みどおり、尖っていた部分を削ぎ落とされ、打たれ強くなり、もう彼女にまとわりつくこともなくなった。もちろん、彼女を愛することもなくなった。……足を引きずりながら市街地へ戻ったとき、俺は界隈の笑いものになっていた。みんな好き勝手に噂していた。時沢家が連れ戻した、幼い頃から行方知れずだった御曹司は、大した能もないくせに気位だけは高く、すでに会社に入っている養子と公然と揉め、両親まで脅したあげく、最後は一文無しで家を飛び出した。しかも、数万円すら人に借りるしかなかったのだ、と。以前俺を辱めた遊び人たちは、どこから俺の消息を聞きつけたのか、堂々と仲間を引き連れて市街地に集まり、隠す気もなくスマホを取り出して俺に向けた。俺は顔を隠して尊厳を守ろうと、手を上げることすらしなかった。そもそも俺に残っていた尊厳など、金貸しどもに少しずつ踏みにじられ、とっくに消え失せていたからだ。地面に跪かされ、自分で自分の頬を叩かされたあの時から、俺はもう、こんなくだらない体面に心を動かされなくなっていた。昔の、どこへ行っても問題を起こし、ハリネズミのように全身に棘をまとって、心の奥の劣等感を隠していた時沢晴人は、もう死んだ。彼を殺したのは、時沢家であり、汐音だった。ふいに、数台の黒塗りの社用車が、周囲の目など気にも留めない様子で堂々と乗りつけてきた。あの遊び人たちはナンバーを見るなり、すぐに四方へ散っていった。先頭の一台は派手さこそなかったが、俺はその中に誰が乗っているのか知っていた。陸崎グループを取り仕切る陸崎汐音。俺の婚約者でもある女だ。俺はその車を見つめ、無意識に足を止めた。それから踵を返し、別の道へ回ろうとした。ドアが開き、スーツ姿の女性が降りてきた。彼女は俺の前まで来ると、俺の顔と身なりを見て、一瞬だけ驚いたよ
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