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第6話

Author: 刹那忍
深夜まで待っていると、父がようやく会社から帰ってきた。

俺はスーツケースを引いて、父のもとへ向かった。

スーツケースの中には、古びた安物の服が数枚入っているだけだった。時沢家に見つけられる前日、祖父が俺に詰めてくれたものだ。

俺は涙を拭い、ファスナーを閉めて、スーツケースを玄関に置いた。それから父の書斎へ向かった。

父の返事を待ってから、俺はようやくドアノブを回して中に入った。

「お父さん」

俺は目を伏せ、おとなしく脇に立った。

父はしばらく、俺を頭の先から足元まで見つめていた。露出している肌が傷だらけなのを見て、唇を震わせた。

「晴人、父さんは全部知っている。私たちが悪かった。あのときお前のカードを取り上げたりしなければ、お前はこんなことには……」

俺は、あの悪夢のような出来事をもう二度と口にされたくなかった。初めて感情を抑えきれず、父の言葉を遮った。

「お父さん、俺、家を出たい」

父は力なく椅子の背もたれにもたれた。

「晴人、やはり私たちを恨んでいるんだな。

それも当然だ。お前を守れなかったのは、全部私たちのせいだから。

ただ、お母さんはお前が出ていくのを、きっとつらがる」

俺は目を伏せ、自嘲するように言った。

「家には悠真がいるでしょう」

「では、汐音は?お前は汐音のことがいちばん好きだったじゃないか。それでも離れられるのか」

俺はしばらく黙った。

確かに、俺が汐音を好きだということは、誰もが知っていた。彼女が一度俺を助けてくれたから、俺はどうしても彼女の後ろ姿を追わずにはいられなかった。

周囲の連中は、俺を汐音に尻尾を振る犬だの、どこへでもついて回る金魚のフンだのと陰で笑っていた。

けれど、あいつらは知らない。

悔しさのあまり悠真の真似をしようとして、かえって会社に数億円もの損失を出してしまったときも。

それでも俺のそばに立ち、「商売には損をすることもあれば、得をすることもある」と、迷いなく優しく言ってくれたのは汐音だけだった。

誰かに嘲られ、俺が反射的に殴り返したときも、そばにいて、よくやったと嬉しそうに言ってくれたのは汐音だけだった。

俺たちは一緒に食事へ行った。彼女は俺が贈った花を受け取ってくれたし、俺の誕生日も覚えていてくれた。

けれど、悠真が海外から戻ってきてから、彼女は変わった。

薔薇の棘は、自分を守るためにあるのだと教えてくれたのは彼女だった。

人は少しくらい尖っていたほうが、いじめられずに済む。まして俺は時沢家の人間なのだから、尖る資格がある。

そう言ったのも彼女だった。

なのにその後、その棘が自分に刺さるようになると嫌がり、それをすべて抜き取って、俺を飼い慣らそうとしたのも彼女だった。

「陸崎社長との婚約は、ここで解消してほしい」

俺は顔を上げて父を見た。それは父に告げる言葉であり、自分に言い聞かせる言葉でもあった。

「もう陸崎社長に付きまとうことはしない」

父は深くため息をつき、俺の意志を悟ったように、カードを俺の手のひらに押し込んだ。

「たまには帰ってきて、顔を見せてくれ」

俺は無意識にそのカードを握りしめ、父に頭を下げた。

「ありがとう」

「これからは父さんが定期的にお金を振り込む。家に住みたくないというなら、それでもいい。

お前はずっと、私たちの子どもだ。帰りたくなったら、いつでも帰ってきなさい」

俺は、その遅すぎた気遣いに何も答えず、迷わず踵を返した。

「送ろうか」

俺は首を横に振った。自分でもよくわかっていた。俺が時沢家にいる限り、汐音のそばにいる限り、心の傷は永遠に癒えない。

過去を忘れなければ、もう一度やり直すことなどできない。

そして父もわかっていたのだろう。今回のことで、俺と彼らの間にはもう消せないわだかまりができてしまった。俺に恨まれないためにも、父は俺を行かせるしかなかった。

汐音がどんな反応をするかなんて、もう俺が気にすることではなかった。

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