جميع فصول : الفصل -الفصل 20

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CASE:11 お前が可愛くて仕方ない

 夜中の1時。 静まり返った部屋の中で、莉央は眠れずにベッドの上でゴロゴロしていた。(……ねむれない)「辛いのか?」 隣で眠っていると思っていた慧が、ふいに目を開ける。「っ、すみません。起こしちゃいましたか?」「いや、起きてた。眠れないのか?」 コクリと頷く莉央を見て、慧は体を起こし彼女の頭をそっと自分の膝にのせた。「じゃ、こっちおいで」「……え?」「眠れない夜は、眠くなるまで甘やかそうって決めてるから」 そう言って、慧は莉央の髪をゆっくり撫でる。「まだしんどいか?」「いえ、大丈夫です。慧さんの看病のおかげです」「そっか。そうだと嬉しい。寝すぎて寝れないか?」「ううん……なんだか……そわそわして寝つけなくて」「じゃあ……」 慧は莉央の手を取り、指を絡める。「莉央が寝るまでこうしていよう」「それは、だめです……」「なぜ?」「………たぶん、ずっとドキドキして寝れないから……」 うっすらと赤い莉央の首筋。 それを見て慧の口角が上がる。「そういうことを言われると、もっとしたくなるなぁ」「え……慧、さん?」 驚いた莉央が慧を見上げると、慧の唇が耳元に触れて……。「……好きだよ」「っ、慧さん!?」「お前が可愛くて仕方ない」 優しくて甘い言葉がぽつぽつ落ちてくる。「す、す、す、ストップ!」「…………」 莉央は両手で慧の口を塞ぐ。 これ以上は恥ずかしすぎて顔が見れない。「もう、わかりましたから……」「………そう? でも俺は……」 慧が優しく莉央の両手首を掴んで。「まだ足りないな……」「っ!?」 柔らかな舌の感触が莉央の手に伝わる。 慧に掴まれた手首のせいで、逃げることはできなかった。「あ、あの……待って……」「クスッ……」 甘い甘い、世界でいちばん心地いい時間は莉央を夢の入口から遠ざけるだけだった。◆ 莉央の風邪が治って数日後の金曜日。 その日は社内の軽い飲み会があった。 部署も役職もバラバラ、他愛もない話題で盛り上がっていたとき……。「そういえば、白石さんって、最近めっちゃ可愛くなったよな~」「わかる! 雰囲気も柔らかいし、あの笑顔……あれは可愛いって」「俺、けっこう気になってるんだよね~。あのタイプ、めちゃ好み」 軽いノリの、男同士の会話。 誰もいないと思っていた背後に男
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CASE:12 せっかく我慢してたのに

 会社の飲み会で、二次会が解散になった頃。 帰ろうとした慧の腕を引っ張ったのは……酔ってふにゃふにゃの莉央だった。「えへ……慧さんっ……次はバー……いきましょ〜ぉ?」「……莉央、もう飲みすぎだ。今日はもう帰ろ……」「んー、まだいけます……!」 そうして向かったバーに到着して10分後。 莉央はソファ席でぐったり、完全に潰れていた。「……はぁ、やっぱりこうなったか」 困った顔をしながらも、慧は莉央を優しく抱き上げる。「……ったく、酔っても可愛いとかずるいだろ」 仕方なく近くのホテルの一室にチェックインし、莉央をベッドに寝かせて、額に冷えたタオルを置いた。 1時間ほどして、莉央がゆっくりと目を覚ます。「……ん、ここ……どこ……」「起きたか?」 ベッドの傍に腰をかけた慧が、静かに言う。 莉央はぼんやりした顔のまま、ふと慧を見上げた。「……私、なにか、やらかしました……?」「いや、飲みすぎて潰れただけ。送ろうと思ったけど、無理そうだったからここに」「ここ……?」 ぐるりとあたりを見渡して、そこがホテルだってことに気付く。「!!?? すみません! ほんと……すみません……」 顔を覆いながら、うつむく莉央。 「謝るな。明日は休みだしゆっくり休んでから帰ろう」「………はい」 どんな時でも優しい慧に莉緒の目がじんわりと熱くなる。(慧さん……普通だなぁ。私だけかな……こんなに意識してるの……) ぽつりと湧き出た不安が莉央の口から溢れ出す。「慧さん……」「どうした?」「…………やっぱり、私って……魅力ない、ですか?」「……は?」 慧は鳩が豆鉄砲を食ったような目で莉央を見た。「それは……どういうことだ?」「だって慧さん……全然その気配ないし。私が酔ってても、手ぇ出さないし。優しいけど、なんか、私って……女として、全然だめ……ですか?」 慧の目が、すっと細くなった。「……莉央、それ、酔って言ってる?」「……よく、わかんない、ですけど……ちょっとだけ、本音」 一瞬の沈黙。 次の瞬間、慧はそっと莉央の頬をつかんで、顔を近づけた。「言わなかったか? 俺、酔ってる女には手ぇ出さないって」「……はい」「でも、それが魅力ないっていう話になるなら……」 吐息が触れる距離で、目を伏せずに言った。「責任取ってもらうけど、
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CASE:13 そんな甘い声出さないで

 今年の社員旅行の行き先は温泉旅館。 研修という名目もあるが。 温泉に宴会にと、浮かれる社員たちの声がバスの中に響く。 莉央の隣には同期の女の子。 だけど、視線は少し前の席に座る慧の方へ。 仕事モードの時はスーツでばっちりキメていて、指示を飛ばすその横顔がもう……反則。 だけど今日は全員私服。(やっぱり……慧さんの私服姿、かっこいい……) そんなことを考えていたら、ふと慧と視線が合って。 目だけで、「大丈夫?」って聞かれてるようで。 莉央が少しうなずくと、慧の口角がほんの少しだけ上がってた。 ◆ 旅館に到着し少しの自由時間の後は大浴場へ。 その後も食事会があり、チーム対抗レクリエーション。 自然と慧を目で追う莉央。(あ、いた。浴衣っ……似合い過ぎる……) その色気につい見つめていると、またまた視線が合う。 いつもと違う雰囲気につい視線を逸らしてしまった。(ううう……絶対感じ悪いよね、今の……) 反省の念で、つい酒が進む。 酔い過ぎる前に莉緒は自販機に向かった。「水、水……」  ピ……ガコン!  気づけば後ろから、そっと伸びてきた手にボタンを押されていた。「慧さ……黒瀬部長!」「水だろ?」「はい、ありがとうございます」 でも、どうしてこんなところに慧さんが……? とか考えていると。「莉央、ちょっとこっちに来て」「はい」 慧に連れられてきたのは、慧の宿泊部屋。「ここって……」「俺の部屋。高木はまだ宴会場で飲んでる」「そ、そうなんですね……」 急な2人きりに莉央の心臓がドクドクし始める。 浴衣姿の慧にドキドキしっぱなしの莉央を慧が正面から抱き締めた。「はぁ……ずっとこうしたかった」「……私も、です」 久々の慧の心地のいい体温に、莉央は背中に手を回した。「莉央の浴衣姿、想像以上にやばいな」「それは、慧さんもですよ」「そう? ごめん、限界だからキスしていい?」「……はい」 ほんのりお酒の香りがするキス。 アルコールの匂いも相まって、酔いが回る。「ふぁ……んっ……慧さ、んっ……」「そんな甘い声出さないで……我慢できなくなる」「んんっ!」 声を塞ぐようなキス。 抱きしめ合うと薄い生地の向こうにある肌の温度が感じられる。「慧さ、ん……」 キスに夢中になっていたその時。 ガ
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CASE:14 だって、気付いてる?

「ん……やぁ、ほんとに、これ……バレちゃう……」「……しーっ。声、我慢な」 そう囁く慧の声が、信じられないくらい優しくて甘い。 そのせいで莉央の理性なんて、どこかへ溶けて消えてしまう。 そしてまた、深くて長いキス。「んんっ! ぁ、慧さん……」「……やばいな……莉央とのキス、クセになる……」「っ………そんなこと言わないでください……」「だって、気付いてる?」「何がですか」「さっきから俺の足に擦りつけてんの」「えっ!?」  なにが、だなんて聞けなかった。 無意識とは言え、夢中になっていたのは事実だから。 「すみませんっ……!」「いいから」  離れようとする莉央を腕の中に閉じ込める。「ほら、キスして……」「ん、もう……っ、ん」 離れたくない気持ちと、バレちゃいそうな緊張感で焦る気持ちがせめぎ合う。 それでもやっぱりキスしていたい。 しばらく夢中でお互いの唇を奪い合っていると……。 ガチャッ、バタン!「どうやら高木が出て行ったみたいだな」「ですね」 そっと押し入れをあけると、部屋は真っ暗で人の気配はなかった。「おいで、莉央」「ありがとうございます」 ようやく胸いっぱいに空気が吸える。 深呼吸をしてもやっぱりまだ莉央の頬は赤い。「顔、まだ赤いな」「慧さんのせいです」「ごめん。抑えきれなくて……」 慧は少しだけ眉を下げ、困ったように笑った。「あの、私少し外歩いてきます」「俺もちょうど同じこと考えてた」 ホテルのサンダルに履き替え、静かに部屋を抜け出す。 夜の海沿いの小道。 風が気持ちよくて、肌寒いくらいなのに莉央の頬は、まだぽぉっと赤かった。「……寒くない?」「はい、大丈夫です……でも……」「……ん?」「思い出すたびに、恥ずかしいです……」 莉央の言葉に、慧はふっと笑ってポケットから手を出す。「じゃあ……手」 その手が莉央の手を、やわらかく包み込む。 繋がれた手がじんわりと温かくて、莉央のドキドキはまた再燃する。「……これくらいなら平気だろ?」「…………」 慧の一挙手一投足に莉央は翻弄されっぱなし。 当の本人は気付いていないよう。(何されてもドキドキしちゃう……なんて言えないよ) ふわりと頬を撫でる風が心地よい。 ふたりで夜風に吹かれながら歩くその道はなんてことない
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CASE:15 さっきのお返しです

 ほとんど集中できないまま会議が終了。 結局あの後も、離れそうで離れない距離が続き。 時々、わざと触れてくる足。 会議が終わった瞬間、足はすっと離れた。(やっっっっと終わった!!) 心の中は安堵の色でいっぱいになる。 この後は短い休憩を挟んで、通常業務。 会議室を出ようとするとき。 後ろにいた慧が小声で話しかける。「顔、赤い……」「誰のせいですか……!」「俺」 ふっ、と不敵に微笑んだ慧は矢田に呼ばれて行ってしまった。(なにあれ、なにあれ、なにあれっ……!) ずるいと思っていてもやっぱり惚れた弱みで負けた気分。(……もう、やられっぱなしは悔しい……) ちら、と慧を見る。 何事もなかった顔で仕事してるその横顔に、ちょっとだけむっとする。(……ちょっとくらい、仕返ししてもいいよね) コピー機で資料を印刷している慧のもとへ、莉央がやってくる。「黒瀬部長、その資料、私も使いたいので……」「ん、これ?」 振り返った瞬間。 莉央が一歩、近づいた。(……ん?) いつもなら照れて距離を取るはずの莉央が、そのまま離れない。 むしろ、さらに一歩。「部長、ここ、ちょっとズレてますよ?」 そう言いながら、慧の肩越しに手を伸ばす。 ほぼ抱きつくみたいな体勢。「……白石さん?」「なんですか?」 莉央はあくまで普通を装う。 だけど距離は完全におかしい。 莉央の髪が、ふわっと慧の頬に触れる。 慧は小声で呟く。 「……近い」「そうですか?」「……わざと?」「どうでしょう?」 ちらっと見上げて、少しだけ笑う。 その表情に、慧の思考が一瞬止まる。(あー、くそっ……そうきたか)「……さっきのお返しです」「……は?」「会議中、足……当たってましたよね」「…………」 そう言って……すっと、慧の耳元に顔を寄せる。「……ああいうの、ずるいです」 小さく、囁く。 その吐息がかかる距離。「…………っ」 完全に不意打ちで、慧の動きがぴたりと止まった。(どっちがずるいんだか……)◆「……白石さん」「はい?」「それ、やり返しのつもり?」「はい^^」 数秒沈黙。「あれ……部長、顔赤い……ですよ?」「……誰のせいだよ」「さあ?」 にこっと笑う莉央。 その瞬間……。 慧の手が、莉央の手首を軽く掴む。
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CASE:16 好きな女には隠さない主義

「っ!?!?」「もう、俺が無理」 そのまま、頬に、こめかみに、軽くキスが落ちていく。「俺に仕返しって、大胆になったね。またやる?」「……もうしません……」「ふっ……残念」 くすっと笑って、最後に唇が触れる。 やさしいけど、逃がさないキスに息が乱れる。「……ほんと、かわいい」「……仕返し、失敗です……」「大失敗だったね。でもご褒美はあげる」「ご褒美……?」「ちゃんと仕返ししようとしたのは、褒めてあげないとな」 そう言って、今度はやわらかく抱きしめる。 さっきまでの余裕ない感じとは違う、安心させるような温度。「まぁでも、次からは覚悟してやって」「……努力します……」「じゃないと、こうなる」 もう一度、軽いキス。「全部俺のペースになるから」「……もうなってますけど……」「知ってる」 ……ちゅ。 どこまでも甘くて優しいキス。 こんなご褒美されるなら、やってみて良かったかも……。「あ、ちょ、慧さん……」「ん?」「ここ……玄関、です……」「そうだね。何か問題?」「いや、その……」 キスはしたい。 でもさっきから腰に回された手が背中をなぞる。 探るような手つきがどうにも落ち着かない。「ん……っ」 舌と舌が絡み合う。 唾液音が響く玄関。「け……慧、さんっ……」「んっ……はぁ、なに?」 キスしながらまさぐる手が上へ上へと這い上がる。 後頭部まで到達すると、耳の穴まで撫でられる。「んっ……!」 頭の中で音が反響する。「んんんっ……」 ドンドンっと慧の肩を叩くとようやく解放される。 「っはぁ……」「ご褒美、満足した?」「十分です」「もっと欲しくない?」「お、お腹いっぱいですよ」「俺はまだ足りないんだけど?」 そう言って、ゆっくりと唇を重ねる慧。 そのキスはとびきり優しくて、でもどこか独占欲の強い口づけだった。◆ 待ち合わせは、夜の駅前。 仕事終わりの人波の中、莉央はスマホを握りながらそわそわしていた。 すると……「お待たせ」 低く落ち着いた声。 振り向いた瞬間、黒いコート姿の慧が立っていた。「あ……っ」 思わず息を呑む。 シンプルな格好なのに、背が高くてスーツ姿の余韻が残ってる。 仕事中より少しだけ柔らかい表情。 何もかもがずるい。「なに、その顔」「……か
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CASE:17 甘やかして帰さない

 キラキラ輝くイルミネーション。「そろそろ帰るか」「そうですね」 でも慧はまだ手を離してはくれない。「慧さん?」「……やっぱり」 顎をそっと持ち上げられる。「莉央」 甘い声。 慧の指が、髪を耳にかける。 その仕草だけで、くらくらする。「……キスしたい」 低く落ちた声に、息が止まった。「嫌なら止める」 そんなこと言うのは反則だ。 こんな優しい顔されたら。 拒否なんて、できるわけない。 小さく頷くと、慧がふっと笑った。「……ありがと」 その瞬間。 引き寄せられて、唇が重なる。 優しい。 でも、熱い。 触れるだけのキスなのに、心まで溶けそうだった。 離れたあとも、慧は至近距離のまま莉央を見つめる。「はぁ……危な」「え?」「可愛すぎて、このまま帰したくなくなる」「~~っ」  耳元で囁かれて、また鼓動が跳ねる。 なのに慧は困ったみたいに笑った。「でも今日は我慢する」「慧さん」「その代わり……」 腰を抱かれる。 逃がさないみたいに。「次の休み、一日俺にくれ」  独占欲丸出しの声。「……はい」 答えた瞬間、慧が嬉しそうに目を細めた。 その顔を知っているのは……莉央だけ ◆ 帰り道。 少し冷たい夜風の中、慧が繋いだ手を離さないまま歩く。「……今日、すごく楽しかったです」「俺も」「また来たいですね」「うん。また来よう」 少し間が空いて、慧が覗き込んでくる。「次は、泊まりで?」「へ……っ!?!?」「そんな顔するってことは、嫌じゃないんだ?」「ちょっと、もう……ずるいですよ……」 慧がくすっと笑う。 そして、人通りの少ない場所で足を止めて……。 ちゅ……。 そっと、額にキス。「まあ俺は……夜景より、莉央見てる方が好きだけどな」「…………」「だからあんまり景色覚えてない」「そ、それは嘘です……!」「いや、本気」 繋いだ手が熱くて溶けそう。 一緒に過ごす時間はあっという間で。 気付けばもうすぐ莉央のマンション。 次の角を曲がれば……ってところで。「莉央」「はい?」「帰りたくない?」 どくん、と胸が跳ねる。「……っ」 慧がちらりと視線を向けて、少しだけ笑う。「顔に出てる」「……だって……」「ん?」「……今日、すごく楽しかったから」 小さな声
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CASE:18 俺が好きな人、知ってる?

「……え?」 会議室のドアを開けた瞬間、思わず固まった。  綺麗な人だった。 長い黒髪。  凛としたスーツ姿。  ヒールの音まで様になっている。  いわゆる、仕事のできる女。 その人は、資料を見ながら慧と話していた。「だから言ったでしょ。あなた詰めが甘いのよ」 「うるさいな」 「相変わらず可愛くないわね」 こんな砕けた話し方をする慧に驚く莉央。  動揺していると、慧がこちらに気づく。「白石。入れ」 「は、はい……」 席につくと、その女性が私を見た。  優しく微笑み軽く会釈までしてくれる。「初めまして、白石さん。九条麗華(くじょうれいか)です」 「し、白石莉央です」 「そんな緊張しなくていいわよ」 ふっと笑う姿まで完璧だった。  しかも。   「昔、黒瀬くんと付き合ってた仲だから」 「…………え?」 小声で呟かれた言葉に心臓が止まるかと思った。  その後の打ち合わせ、正直ほとんど頭に入らなかった。 元カノ。  黒瀬部長の。  しかも、こんな綺麗で仕事できて、大人の女性。  勝てる気がしない。 会議終了後。   「白石、資料まとめ頼む」 「……はい」 返事をしたものの、たぶん顔は死んでいた。  そんな私を見て、九条さんがくすっと笑う。「可愛い子ね」 「え?」 「黒瀬くんが夢中になるの分かるわ」 どくん、と胸が鳴る。「え、あの……」 「安心しなさい。もうとっくに終わった男だから」 さらっと言う。  大人すぎる。「むしろ昔より優しい顔しててびっくりしたわ」 九条さんはちらっと慧を見る。「昔はもっと冷たかったもの」 「余計なこと言うな」 「事実でしょ」 慧が少し面倒そうに眉を寄せる。  どこか入れない空気があるように感じて……。 莉央の胸にトゲが刺さったまま帰り道へ。  駅まで並んで歩きながら、莉央はずっと俯いていた。「莉央」 「……はい」 「元気ないな」 「そんなことないです」 「ある」 即答。  図星すぎて苦しい。  すると慧が立ち止まった。「……嫉妬した?」 低い声。  優しいのに、少し楽しそう。「……してません」 「ほんとに?」 「……だって」 言葉が詰ま
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CASE:19 弱ってるときほど、俺はそばにいたい

 ある日の夕方。 今日は在宅勤務にしておいて本当によかった……。 ベッドの中で丸くなったまま、莉央はうめき声をこぼす。「……いたい……」 お腹も、腰も、頭もなんか重くて、思考もふわふわしてまとまらない。 やる気も出ないし、寂しさがこみ上げてくるのはホルモンのせい? 何もしたくないのに、誰かそばにいてほしいっていう矛盾。 そんなとき。 部屋のチャイムが「ピンポーン」と鳴った。「……誰だろ?」 玄関を開けたそこには。「莉央、大丈夫か?」「慧さん!?」 紙袋を両手に抱えて立っていた慧。 シャツの袖をまくった腕がたくましくて、でもその目は優しい。「調子悪いっていうから、辛いんだろなと思って。顔、真っ青。予想以上だな」「すみません。わざわざ来てくださるなんて……」「とりあえず、横になってな。俺が全部やるから」 慧は迷いなくキッチンへ直行。 抱えていた紙袋の中には……。「わぁ、すごいこんなに? 私が好きなゼリーまで!」「必要そうなもん買ってきた。ほらカイロ」「ありがとうございます」 まるで慣れた手際でお茶を淹れて、スープをあたためる慧。 莉央はぼんやりと毛布にくるまりながら、それを見ていた。「慧さん、すごいですね……」「何がだ?」「すっごく慣れてる感じ」「……あ~、違う、勘違いするなよ。これは妹がしんどい時にやってたんだよ」「え、妹さんがいたんですか!?」「あ、言ってなかったか。ちょうど莉央と同じ年だよ」「へぇ、そうだったんですか。優しいお兄ちゃんなんですね」「莉央にはもっとしてあげたいけど」「……ほんと、やさしすぎて泣きそうです……」 慧がそっと莉央の目尻をぬぐう。 仕草も視線も、すべてが優しくて。「ほら、ちょっと寝てろ。昼は食べたか?」「まだ、です」「そっか。ならちょい待ってろ。作ってくる」「そ、そんな! 申し訳ないです……」「こーら。そんな顔すんな。しんどい日くらい、何も考えずに頼ってくれていい。俺のことも、もっと使って」「そんな……」「お前がしんどいときこそ、俺の出番だって、前にも言っただろ」 莉央の目から、じわっと涙がにじむ。「う、うぅ……こんなときにまで、優しいの……ずるい……」「うん。ずるくてもいいから、莉央が楽になってくれる方を選びたい」 そっと抱き寄せられて、あたたか
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CASE:20 おまけ①

【私の彼氏】 ある日の夜。 慧さんの家のリビングでまったりモード。 今日はお泊りだけど、家の主は私に家事の手伝いをさせてくれない。 夕食も片付けも、全部もてなしてくれる。(ほんと、完璧すぎるんだよね。彼氏だなんてまだ信じられない) 自然と慧さんを目で追う。 さすがにその視線に気がついたのか慧さんがコーヒーを持って隣にやってきた。「さっきからどうした? やけに熱い視線だったけど」「い、いや……だって」「ん?」 普段、かき上げている髪が降ろされているだけでこんなにも胸がときめく。「だって……こんなカッコよくて、完璧で、仕事もできる人が私の彼氏だなんて……今でも信じられないです」「急にどうした」「……片思いしてた時、こんな風になるなんて想像もしてなかったので……」「で? どう? 実際は彼氏になったけど、満足してる?」「そりゃあもう! 満点以上です!!」「ふ……くっくっくっ、それは良かった」 なんだか愛おしさがこみあげて、私は慧さんに抱きついた。「………莉央、そんな可愛いことしてたら、今夜寝かす自信ないんだけど」「え……!」 私の頬を両手ですくった慧さんは、壊れモノを扱うように、優しく甘く、キスをした。Fin◆【慧の嫉妬】 ある日の休日。 莉央は友人に誘われて出かけていた。 その時、たまたま通りかかった場所で、昔の同級生に会ってしまい……。 「なんか大人っぽくなったね」「今彼氏は? 連絡先交換しない?」 なんてことがあった。 もちろん全部断って友人とカフェを楽しんだ。 その話を、何気なく慧に話した瞬間、彼の瞳がすうっと細くなる。「……それ、俺の彼女に言ったって話?」「え、うん?」「莉央が言われたってこと?」「うん、あ……でも大丈夫だよ、ちゃんと断ったし……」「……だめだな」 慧が立ち上がり、莉央を背後から抱きしめる。「他の男に、いい女って感じさせないで」「え、な、なにそれ……?!」「そういう顔、俺の前だけにして」 慧の声は低くて、熱っぽい。 そのまま、首筋に唇が触れる。「……慧さん」「……俺、嫉妬してるんだけど、わかんない?」 そう言って、今度は正面から唇を塞がれる。 キスはいつもより強くて、ちょっと意地悪。 でも……心を全部持っていかれそうなくらい、甘い。「ねえ、……自分
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