とてつもない無力感と恐怖が、蓮を襲う。蓮は魂が抜けたように、冷たく静まりかえったあの家へと戻った。散らかったリビングの様子が、今さっきの出来事すべてが現実なのだと告げている。足元をふらつかせながらキャビネットへ歩み寄り、ウィスキーボトルを一瓶掴むと、そのまま一気に流し込んだ。液体が喉と胃を焼けるように刺激したが、凍りついた身体が温まることはなかった。荒れ果てた床に座り込む彼の目に、ふと酒で濡れた書類が留まった。それは奈美から渡され、中身も見ずに署名した離婚協議書だった。「汚いんだ。本当に、汚らわしい……」「瑠璃とキスしたことはないし、もちろん、寝たこともない」「奈美は瑠璃ほど完璧じゃないが、純潔だ……」「惚れてるからって、それが何だって言うんだよ?」「この件……隠し通す」「後で……きちんと償うつもりだから……」かつて自分が吐いた身勝手な言葉の数々が、呪いのように頭の中でこだまする。先ほどの、目を背けたくなる生々しい映像、霊園で泣き崩れる瑠璃を置いて、茂みの中で奈美と愛を囁き合っていた自分。そして、奈美を助けるために瑠璃の腎臓を奪うべく、病院で冷たく言い放ったあの言葉……「おえっ……」激しく酒を吐き出し、むせこむ蓮。内臓がかき混ぜられているのかと思うほどの痛みに襲われた。10年もの間自分を愛してくれた、自分にとっても命そのものだった彼女に対し、自分はどれほど残酷な仕打ちをしてきたのか……その事実に、蓮は初めて気がつく。頭を抱え、まるで傷ついた野獣のようにうめき声を上げると、酒の酔いがようやく彼の頭を麻痺させ始めた。散らかった床の上で崩れるように意識を失い、深い夢の中へと落ちていった。夢の中の彼は、光り輝く16歳の頃のグラウンドにいた。白いシャツを着た若き自分は、スピーチを終え、壇上から大声を張り上げる。驚く全校生徒の視線が集まる中、ポニーテールの女の子が、呆然とこちらを見上げている。「瑠璃!お前が好きだ!俺と付き合ってくれ!」夢の中の景色はあまりにも鮮明で、少年の瞳に宿る愛情と緊張が、痛いほど伝わってきた。そのとき突然、少年がこちらへ顔を向けた。その少年の瞳に映るのは、情けなく、酒に溺れ床に這いつくばる大人になった蓮だった。少年の目に宿っていた輝きはみるみる消え去り、深い失望と怒りへと
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