九条瑠璃(くじょう るり)と九条蓮(くじょう れん)が結婚して5年目のこと。瑠璃のもとに、親友から一枚の写真が送られてきた。写真の中には、華やかなイルミネーションを背景に並んで立ち、同じ夜空を見上げている、蓮と彼の秘書である江崎奈美(えざき なみ)の姿があった。友人からはこう添えられていた。【瑠璃、この奈美っていう女には気をつけたほうがいいと思う】瑠璃は写真を数秒見つめると、思わず笑ってしまった。そして、軽い調子で返信する。【大丈夫。世の中の男が全員浮気しても、蓮だけはしないから】そう言い切れるだけの自信が、瑠璃にはあった。蓮は九条家の御曹司として知られる存在だが、その彼が瑠璃を心から愛していることは、周囲の誰もが知っていたし、奈美の美貌も雰囲気も育ちも、瑠璃と比べればかなり見劣りする。少なくとも瑠璃には、奈美が自分たちの関係を揺るがす存在だとは思えなかった。瑠璃はスマホを置き、再び花を生け始める。この時はまだ、親友からの忠告を気に留めていなかった。だが3日後の夜。蓮がシャワーを浴びている時に、ベッドサイドに置かれた彼の携帯の画面がふっと光った。ラインの通知だ。瑠璃は覗き見るつもりはなく、ただ何気なく視線を向けただけだった。しかしその瞬間、彼女の目は画面に釘付けになった。それは、奈美からの連絡だった。そして、蓮が彼女につけていた登録名は――「いい子ちゃん」その言葉が棘のように瑠璃の胸に刺さり、一瞬で耐えがたい痛みに襲われる。頭の中が真っ白になった瑠璃は、ベッドの端に座り込んだ。指先が氷のように冷たくなっていく。そんなはずがない。瑠璃は今見たものが信じられなかった。瑠璃と蓮が、歩き始めたばかりの頃から学生時代を経て、夫婦になるまで、ずっと一緒だったことは誰もが知っている。蓮の人生を振り返れば、どの場面にも瑠璃がいた。それほど長い時間を、二人は共に歩んできたのだ。16歳のとき、蓮は全校生徒の前でスピーチをしていた。しかし、突然原稿を放り出したかと思うと、大勢の中にいた瑠璃に向かって叫んだ。「瑠璃!お前が好きだ!俺と付き合ってくれ!」18歳の誕生日のとき、蓮は遊園地を貸し切った。そして、観覧車が頂上に達したとき、耳を赤くした彼が、指輪を取り出し、震える声で言ってくれたのだった。「瑠璃。俺と結婚してください
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