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妻を「汚い」と捨てた夫。真実を知り嫉妬に狂う

妻を「汚い」と捨てた夫。真実を知り嫉妬に狂う

Von:  氷花Abgeschlossen
Sprache: Japanese
goodnovel4goodnovel
24Kapitel
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Zusammenfassung

逆転

執着

ひいき/自己中

偽善

カウントダウン

九条瑠璃(くじょう るり)と九条蓮(くじょう れん)が結婚して5年目のこと。瑠璃のもとに、親友から一枚の写真が送られてきた。 写真の中には、華やかなイルミネーションを背景に並んで立ち、同じ夜空を見上げている、蓮と彼の秘書である江崎奈美(えざき なみ)の姿があった。 友人からはこう添えられていた。【瑠璃、この奈美っていう女には気をつけたほうがいいと思う】 瑠璃は写真を数秒見つめると、思わず笑ってしまった。そして、軽い調子で返信する。【大丈夫。世の中の男が全員浮気しても、蓮だけはしないから】 そう言い切れるだけの自信が、瑠璃にはあった。 蓮は九条家の御曹司として知られる存在だが、その彼が瑠璃を心から愛していることは、周囲の誰もが知っていたし、奈美の美貌も雰囲気も育ちも、瑠璃と比べればかなり見劣りする。少なくとも瑠璃には、奈美が自分たちの関係を揺るがす存在だとは思えなかった。 瑠璃はスマホを置き、再び花を生け始める。この時はまだ、親友からの忠告を気に留めていなかった。 だが3日後の夜。蓮がシャワーを浴びている時に、ベッドサイドに置かれた彼の携帯の画面がふっと光った。ラインの通知だ。 瑠璃は覗き見るつもりはなく、ただ何気なく視線を向けただけだった。しかしその瞬間、彼女の目は画面に釘付けになった。 それは、奈美からの連絡だった。 そして、蓮が彼女につけていた登録名は――「いい子ちゃん」

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Kapitel 1

第1話

九条瑠璃(くじょう るり)と九条蓮(くじょう れん)が結婚して5年目のこと。瑠璃のもとに、親友から一枚の写真が送られてきた。

写真の中には、華やかなイルミネーションを背景に並んで立ち、同じ夜空を見上げている、蓮と彼の秘書である江崎奈美(えざき なみ)の姿があった。

友人からはこう添えられていた。【瑠璃、この奈美っていう女には気をつけたほうがいいと思う】

瑠璃は写真を数秒見つめると、思わず笑ってしまった。そして、軽い調子で返信する。【大丈夫。世の中の男が全員浮気しても、蓮だけはしないから】

そう言い切れるだけの自信が、瑠璃にはあった。

蓮は九条家の御曹司として知られる存在だが、その彼が瑠璃を心から愛していることは、周囲の誰もが知っていたし、奈美の美貌も雰囲気も育ちも、瑠璃と比べればかなり見劣りする。少なくとも瑠璃には、奈美が自分たちの関係を揺るがす存在だとは思えなかった。

瑠璃はスマホを置き、再び花を生け始める。この時はまだ、親友からの忠告を気に留めていなかった。

だが3日後の夜。蓮がシャワーを浴びている時に、ベッドサイドに置かれた彼の携帯の画面がふっと光った。ラインの通知だ。

瑠璃は覗き見るつもりはなく、ただ何気なく視線を向けただけだった。しかしその瞬間、彼女の目は画面に釘付けになった。

それは、奈美からの連絡だった。

そして、蓮が彼女につけていた登録名は――「いい子ちゃん」

その言葉が棘のように瑠璃の胸に刺さり、一瞬で耐えがたい痛みに襲われる。

頭の中が真っ白になった瑠璃は、ベッドの端に座り込んだ。指先が氷のように冷たくなっていく。

そんなはずがない。

瑠璃は今見たものが信じられなかった。

瑠璃と蓮が、歩き始めたばかりの頃から学生時代を経て、夫婦になるまで、ずっと一緒だったことは誰もが知っている。蓮の人生を振り返れば、どの場面にも瑠璃がいた。それほど長い時間を、二人は共に歩んできたのだ。

16歳のとき、蓮は全校生徒の前でスピーチをしていた。しかし、突然原稿を放り出したかと思うと、大勢の中にいた瑠璃に向かって叫んだ。「瑠璃!お前が好きだ!俺と付き合ってくれ!」

18歳の誕生日のとき、蓮は遊園地を貸し切った。そして、観覧車が頂上に達したとき、耳を赤くした彼が、指輪を取り出し、震える声で言ってくれたのだった。「瑠璃。俺と結婚してください。20歳になったら、真っ先にお前を迎えに行くから」

蓮は瑠璃を深く愛していたからこそ、それだけに、その独占欲の強さも人一倍だった。

自分以外の男が瑠璃の3メートル以内に近づくことを許さず、彼女が別の男に少しでも目を向ければ、3日間は機嫌が悪くなる。拗ねたり嫉妬したりしながら、最後には瑠璃が笑って謝り、「愛しているのはあなただけ」と言うまで許してくれなかった。

だが、瑠璃はずっと、これこそが理想の愛の形だと思っていた。

たとえ世界中の人が敵に回っても、蓮だけは違う。どんな時も、自分の味方でいてくれると信じていたのに。

今や、スマホの画面に表示された「いい子ちゃん」の短い文字が、蓮への信頼を一瞬で打ち砕いた。まるで頬を強く打たれたかのように、瑠璃が疑いもなく信じていたものが、音を立てて崩れ去っていった。

胸を何者かに強く掴まれているような激痛が広がり、息が詰まる。

彼女は震える指で、何度もそのIDを確認し、必死に記憶に刻み込んだ。

その晩、瑠璃は奈美のアカウントを追加した。

すると、まるで瑠璃が追加するのを待っていたかのように、すぐさま奈美からメッセージが送られてきた。【瑠璃さんですよね?私の連絡先を追加した理由は、なんとなく予想はついています。明日の午後3時、ブルーベイ・カフェに来てください。すべてをお話ししますね】

瑠璃はそのメッセージを見つめたまま、胸の奥がすっと冷えていくのを感じていた。

翌日、瑠璃がブルーベイ・カフェに入ると、悪びれる様子もなく、堂々とした態度の奈美がすでに待っていた。

瑠璃が席に着くや否や、奈美は瑠璃に携帯を差し出す。そこに表示されていたのは、停止された動画。

「これを見てもらえれば、知りたいことが分かると思いますよ?」その奈美の言葉には、優越感と挑発が混ざっていた。

瑠璃の指先が震えた。これを再生してしまえば、今まで築き上げてきた自分の美しい世界が崩れ去ってしまう……そんな気がした。

しかし真実という名のパンドラの箱は、破滅をもたらすとわかっていても開けずにはいられない。

大きく深呼吸し、瑠璃は再生ボタンを押した。

どうやらそれは、プライベートパーティーの動画のようで、薄暗い光の中、たくさんの人々が思い思いに楽しんでいる。

そして、何より目を引くのは、動画の中心で人目も気にせず激しく唇を重ねている蓮と奈美。二人は、熱に浮かされたように一心不乱だった。

さらに、囃し立てる周囲の友人たち。

二人が唇を離した後、誰かが笑いながら蓮を揶揄う。「蓮、奈美ちゃんとのキスはどうだ?瑠璃さんと比べて、どっちが刺激的?」

蓮は隣に座っていた友人の煙草を口にくわえると、冷めた表情で煙を吐き出しながら、残酷なまでに落ち着いた口調で答えた。

「比べること自体が間違ってる」

少し間を置いてから、好奇の視線の中、彼が淡々と付け加える。

「瑠璃とキスしたことはないし、もちろん、寝たこともない」

その瞬間、周囲が水を打ったように静まり返ったかと思うと、すぐにどよめきが広がった。

「はぁ!?嘘だろ!だって蓮、あれだけ瑠璃さんに夢中だったじゃん!付き合えることになった日なんて、嬉しさのあまりベロベロに酔っ払って、嬉し泣きしながら俺たちと朝まで騒いでたのに。まじで、手出してないっていうのか?」

灰を落とす蓮の眉間には、隠しきれない鬱屈した陰りが漂っている。数秒の沈黙の後、彼が吐き捨てた言葉がナイフのように、画面越しの瑠璃の心臓を切り刻んだ。

「うん。確かに、あいつのすべてを俺のものにしたいって思うほど、俺はあいつのことを想ってた。でも、あの拉致のことがあってから……」

拉致という言葉を出した蓮が、苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。

「瑠璃が汚れているように思えてならないんだ。俺が潔癖症ってこともあるかもしれないけど、あいつに触れようとするたびに……瑠璃を拉致した奴らも、同じように触れたんじゃないかって……」

まるでその光景を思い浮かべることすら耐え難いかのように、蓮は一瞬言葉を止めた。そしてしばらくして、彼がぽつりと呟く。

「汚いんだ。本当に、汚らわしい。どうしてもこのことだけが、受け入れられないんだよ」

蓮は自分の腕の中にいる奈美を見て、少し口調を緩めた。

「お前らは、俺が瑠璃に飽きて、もう好きじゃなくなったから、別の女と一緒になったって思ってるんだろ?

でも、そうじゃない。俺はまだ瑠璃のことが好きだ。でもあいつは、もう汚れてしまった……それに、奈美は瑠璃ほど完璧じゃないけど、汚れていない。だから、こいつの全てを俺のものにできる」

蓮が最後に放った一言は、瑠璃を地獄に突き落とす決定的な言葉だった。

「汚い瑠璃なんかより、ずっといい」

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第1話
九条瑠璃(くじょう るり)と九条蓮(くじょう れん)が結婚して5年目のこと。瑠璃のもとに、親友から一枚の写真が送られてきた。写真の中には、華やかなイルミネーションを背景に並んで立ち、同じ夜空を見上げている、蓮と彼の秘書である江崎奈美(えざき なみ)の姿があった。友人からはこう添えられていた。【瑠璃、この奈美っていう女には気をつけたほうがいいと思う】瑠璃は写真を数秒見つめると、思わず笑ってしまった。そして、軽い調子で返信する。【大丈夫。世の中の男が全員浮気しても、蓮だけはしないから】そう言い切れるだけの自信が、瑠璃にはあった。蓮は九条家の御曹司として知られる存在だが、その彼が瑠璃を心から愛していることは、周囲の誰もが知っていたし、奈美の美貌も雰囲気も育ちも、瑠璃と比べればかなり見劣りする。少なくとも瑠璃には、奈美が自分たちの関係を揺るがす存在だとは思えなかった。瑠璃はスマホを置き、再び花を生け始める。この時はまだ、親友からの忠告を気に留めていなかった。だが3日後の夜。蓮がシャワーを浴びている時に、ベッドサイドに置かれた彼の携帯の画面がふっと光った。ラインの通知だ。瑠璃は覗き見るつもりはなく、ただ何気なく視線を向けただけだった。しかしその瞬間、彼女の目は画面に釘付けになった。それは、奈美からの連絡だった。そして、蓮が彼女につけていた登録名は――「いい子ちゃん」その言葉が棘のように瑠璃の胸に刺さり、一瞬で耐えがたい痛みに襲われる。頭の中が真っ白になった瑠璃は、ベッドの端に座り込んだ。指先が氷のように冷たくなっていく。そんなはずがない。瑠璃は今見たものが信じられなかった。瑠璃と蓮が、歩き始めたばかりの頃から学生時代を経て、夫婦になるまで、ずっと一緒だったことは誰もが知っている。蓮の人生を振り返れば、どの場面にも瑠璃がいた。それほど長い時間を、二人は共に歩んできたのだ。16歳のとき、蓮は全校生徒の前でスピーチをしていた。しかし、突然原稿を放り出したかと思うと、大勢の中にいた瑠璃に向かって叫んだ。「瑠璃!お前が好きだ!俺と付き合ってくれ!」18歳の誕生日のとき、蓮は遊園地を貸し切った。そして、観覧車が頂上に達したとき、耳を赤くした彼が、指輪を取り出し、震える声で言ってくれたのだった。「瑠璃。俺と結婚してください
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第2話
汚い。汚らわしい。汚い瑠璃なんかより、ずっといい……この短い動画の中で、蓮は何度自分のことを「汚い」と言った?でも、これでようやく分かった。だから結婚して5年、蓮は一度も自分に触れようとしなかったのだ。蓮がプラトニックな恋愛を理想としていたからでも、自分を大切に想っていたからでもなく、ただ自分のことを汚らわしいと感じていただけだったなんて!18歳の時、蓮が拉致された。そんな彼を救い出そうと、瑠璃はたった一人で駆けつけ、命がけで彼を逃がした。その後、瑠璃は蓮の代わりに捕らえられ、三日三晩にわたって痛めつけられた末、救い出された時には全身血まみれだった。そんな自分のことを、蓮が汚らわしいと思っていたなんて……心臓がぎゅっと握りつぶされるように痛んだ。息もできないほど苦しくて、胸元を力任せに掴む。その時のことを思い出した。拉致犯の恐ろしい顔、冷たい道具の数々、果てしない暗闇と恐怖……最後まで抵抗して、女の身体だけは守り抜いた。しかし、彼らから受けた暴力と精神的なショックによる心の傷は、今でも残っている。瑠璃が救出された時、蓮は拉致犯たちを今にでも殺してしまうのではないかというほどの形相で睨みつけていた。そして、震える手で自分を抱きしめてくれた。だがその時、瑠璃は彼の瞳に、心配の表情だけでなく、理解し難い複雑な何かが混じっていたのを見ていた。それが何か、今やっと理解できた。あの時の複雑な感情の正体は……嫌悪感だ。彼は、自分のことを汚らわしいと思っていたのだ!でも、自分はそんなこと……!弁解したかったが、瑠璃は喉まで出かかた言葉を飲み込む。今さら蓮にこのことを話して、何になるというのだろう。彼に「汚らわしい」というレッテルを貼られて、もう5年だ。自分がどれだけ必死に訴えても、蓮が持ち続けてきた偏見の前では、何を言っても虚しく響くだけに違いない。一瞬で落ち込み、顔を青ざめさせている瑠璃を見て、奈美は満足げに笑った。そして、優雅にコーヒーを一口啜ると、鞄からある書類を取り出して瑠璃の目の前に差し出した。「瑠璃さん、こういうことなので、もう諦めてくれますか?このことは……もう蓮さんの心から消えないと思うので、このまま一緒にいても幸せになれないはずですから。これ、離婚協議書です。中に、『離婚届は代理の
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第3話
動画がまるで毒針のように瑠璃の目に刺さる。あまりの痛みに、もう目が開けられなかった。その瞬間、激しい吐き気に襲われた瑠璃は、慌ててトイレに駆け込んだ。しかし、何も吐けずに、ただ涙だけが溢れ出すばかり……トイレから戻ると、瑠璃は黙々と荷造りを始めた。自分の物を一つずつ、キャリーケースへ詰め込んでいく。まるで、ここにある蓮の気配を、1秒でも長く吸ってしまえば、窒息してしまうかのように、瑠璃の荷物を詰める手はとても速かった。片付け終わったとき、玄関からドアの開く音がした。蓮が帰ってきた。彼は高級ブランドの袋をいくつも提げ、いつもの優しい微笑みで瑠璃に話しかける。「瑠璃、ただいま。接待が長引いてて、こんなに遅くなっちゃったんだ。新作のバッグとネックレスだよ。どう?気に入ってくれると嬉しいな」前なら、喜んで蓮に駆け寄り、袋を受け取るや否や、すぐに抱きついていただろう。しかし今は違う。彼が奈美と肌を重ね合わせてから帰って来たこと、そして、今抱きつけばその身体に別の女の匂いが残っていることを、瑠璃は知っているのだ。虚ろな瞳で、蓮を見つめる。蓮も彼女の違和感に気づき、荷物を置くと肩を抱いて尋ねた。「どうした?顔色がすぐれないみたいだけど、気分でも悪い?」自分が真相を知ってしまったことを見抜かれたくなかった瑠璃は、必死に感情を押し殺し、顔を背けて答える。「ちょっと生理が辛くて……」すると、蓮がすぐに焦った表情を浮かべた。「なんで早く言ってくれないんだよ。待ってて。今からお湯を沸かして、何か温かい飲みものでも作ってあげるから」彼は慣れた手つきでエプロンをつけ、急いでキッチンへと向かった。すぐに湯気の立つハニーレモンティーが、瑠璃の目の前に差し出された。以前と変わらず、優しく彼女のお腹もさすり続けている。「まだ痛い?これを飲んだら、もうゆっくり休んだほうがいいよ」彼の声は蕩けそうに優しい。そんな本気で自分を心配しているような男を見て、瑠璃の心はちぎれそうだった。蓮、そんなことをしてももう遅いよ。あの動画を見なければ、この献身的な男が、裏で自分を「汚い」と思っていたなんて、いくら言われても信じられなかっただろう。情けなくも、再び涙が溢れて落ちてきた。痛みのせいで瑠璃が泣いていると思った蓮は、心を痛め、力強く彼女
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第4話
それからすぐに、今回のオークションの目玉である、眩い輝きを放つブルーダイヤモンドのネックレスが登場した。蓮は瑠璃を喜ばせるため、他のすべての入札者を圧倒する高値を一瞬で提示し、規格外の値段で競り落とした。会場がどよめきに包まれ、多くの羨望の眼差しが瑠璃に集まる。「九条社長は奥様を本当に溺愛してるみたいね」「ええ、本当に理想の夫婦だこと」しかし、スタッフがネックレスを運んできた時、蓮はいつもと違って、瑠璃の首にそれをかけようとはしなかった。ちらりとネックレスを見ただけで、瑠璃に優しく語りかけた。「瑠璃、このネックレス……少し傷があるみたい。傷がついているものなんて、お前にはふさわしくないから、次はもっと良いものを見つけてあげる」そう言うと、蓮は支払いの手続きのために席を立ち、その場を離れた。瑠璃が彼の背中を見送っていると、いつの間にか奈美も姿を消していることに気がつく。冷たい笑みを浮かべ、瑠璃もその後を追った。やはり、彼らは控室にいた。ドアが少し開いていたので、瑠璃はその隙間から中の様子を覗き見る。先ほど「傷がある」と言っていたあのネックレスを、蓮が優しく奈美の首にかけてあげていた。冷たいダイヤに触れながら、奈美は不安そうに言った。「こんな高価なもの……瑠璃さんじゃなきゃ似合わないよ……」そんな彼女の言葉を蓮は遮り、強引ながらも甘やかすような言葉をかける。「俺が似合うって言ってるんだから、似合うに決まってるだろ?」そう言って奈美の頬を撫でる蓮の瞳には、瑠璃がこれまでに見たこともないほどの深い愛おしさがこもっていた。「お前のスーツを安物だと馬鹿にしたやつがいただろ?だったら、俺が味方になってやる」感動のあまり目を潤ませた奈美が、爪先立ちをして蓮に唇を重ねた。蓮もそのまま彼女の腰を抱き寄せ、深く口づけを交わす。少しして、甘い吐息を漏らしながら、奈美が蓮を押し返した。「だめ……ここじゃだめだって……瑠璃さんが待ってるでしょ……」しかし蓮はもう押さえられないようで、奈美の顔を包み込むと、少し苛立たしさを滲ませた低くかすれた声で囁いた。「今はあいつのことなんてどうでもいい……いいから、俺とのことに集中しろ……」そう言うや否や、彼は再び深い口づけを奈美に落とした。お互いしか見えていないようで、激しくお
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第5話
強烈な屈辱と痛みが津波のように瑠璃を飲み込んでいく。呼吸が乱れ、身体も震えたが、叫び出しそうなのを必死にこらえた。その瞬間、嗅いだこともない女性用の香水の香りがするコートが、無造作に投げつけられ、瑠璃の顔を覆った。この香りは、奈美の香水!気持ちが悪い。吐き気がする。これなら、死んだ方がましだ!瑠璃が壊れそうになっていた、その時――ドンッ!!!鼓膜を裂くような音が響いた。暴走してきた大型トラックが、瑠璃たちの乗っていたロールス・ロイスに激突したのだ。衝撃で車体は制御を失い、横転する。車体がひっくり返る中、瑠璃は見た。危険を察知するやいなや、本能的に蓮が彼自身の体で奈美をかばった瞬間を……その反射的な行動は、焼けたナイフで心を刺されたような痛みを瑠璃の心に与えた。昔は、道を渡る時ですら心配そうに自分と手を繋ぎ、世界で一番大事なものを見るような目で、大切に守ってくれていたのに。今は……激痛と絶望に襲われた瞬間、瑠璃の目の前は真っ暗になって、意識が途切れた。どれくらい時間が経っただろうか。激しい痛みとともに、意識が少し戻った。外から、蓮が枯れた声で叫んでいるのが聞こえた。「瑠璃!瑠璃!」必死に目を開けると、変形した窓越しに、蓮が自分を助けようとしている姿が見えた。彼自身も怪我をしていて、顔は見たこともないほど怯えた表情を浮かべている。しかし、そんな蓮に奈美がしがみつき、泣き叫んでいた。「蓮さん!行っちゃ駄目!危険だよ!車が爆発する!救急隊を待った方がいいって!」「そんなの待っていられない!」蓮は目を血走らせ、奈美を振り払った。「もし瑠璃が死んだら……俺は生きていけない!」変形した車体の中でその「愛の告白」を聞き、瑠璃は激しい嫌悪感を抱いた。今さっきまで、自分の横で別の女と体を重ねていた男が、よくもそんな白々しい嘘を吐けるものだ。この状況に酔いしれてでもいるのだろうか?結局、蓮は決死の覚悟で壊れた車へと向かい、いつ爆発してもおかしくない状況の中、なんとか瑠璃を引きずり出した。彼が瑠璃を抱えてその場から離れた瞬間――ドンッ!!!轟音とともに火柱が上がった。瑠璃たちの乗っていたロールス・ロイスが、瞬時に巨大な炎と化す。蓮は瞬時に瑠璃の上に覆いかぶさり、その背中で全ての衝撃と熱波を受
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第6話
それから数日間、蓮はずっと瑠璃に付き添い、かいがいしく看病をした。食事を口に運んだり、体を拭いてやったり、ニュースを読み聞かせたり。まるで、今でも彼女を心から愛しているかのように、心の限りを尽くしていた。ただ、時折トイレに立ったり、荷物を取りに行ったりするたびに、蓮は携帯を取り出しては手早くメッセージを返していた。画面を見つめるその表情は、時に眉をひそめ、時にふっと緩む。そのたび、彼は自然な調子で瑠璃に言った。「仕事で少し急用ができちゃって。すぐ片付けるから」瑠璃はただ「うん」と力なく答えるだけで、そっと目を閉じて寝たふりをした。彼が何を見ているのか、瑠璃は全て知っていた。その「急用」の正体は、奈美から送られてくる、露骨に誘惑するような写真の数々。なぜなら、それとまったく同じものが、瑠璃の携帯にも送られてきていたから。奈美は瑠璃を傷つけることを楽しんでいるかのようだった。手に入れた勝利を誇示するように、その事実を次々と見せつけてくる。だが、瑠璃の心はとっくに傷だらけで、もう痛みなど感じなかった。すべての手続きが終わり、この苦しみから解放される日を静かに待つだけ……雲ひとつない天気のいい日、瑠璃は退院した。退院の手続きを済ませた直後、瑠璃の携帯に霊園の管理事務所から電話が入った。大雨が続いたせいで両親の墓が崩れてしまい、すぐに別の場所へ移して直す必要があるという。その知らせは、ただでさえ傷ついていた彼女の心に、さらに重くのしかかった。両親は、瑠璃にとって何よりも大切な存在だった。だからこそ、触れることが怖かった。蓮も、当然のように付き添ってくれた。しかし、彼が車のドアを開けた瞬間、瑠璃は息を呑む。なんと助手席に、奈美が座っていたのだ。「瑠璃さん」奈美が振り返り、仕事用の完璧な笑みを浮かべた。しかし、その瞳の奥には得意げな色が浮かんでいる。「今日は遠出をするから、車内でも仕事ができるようにと、九条社長の方から指示がありましたので、私も同行させていただきます」蓮はきまずそうに、小さな声で言い訳をした。「瑠璃、仕事が溜まってて……大目に見てほしい」瑠璃は爪が食い込むほど手のひらを強く握りしめ、痛みで必死に冷静さを保った。何も言わず、後部座席のドアを開けて車に乗り込む。車が走り出すと、蓮はバッ
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第7話
茂みの中で、蓮が奈美を太い木の幹へ押しつけていた。その手つきは荒々しく、声には苛立ちが滲んでいる。「こんな時に、そんなことするのか?!」奈美の服は乱れ、頬には赤い指の跡が残っていた。それでも彼女は艶っぽい眼差しを向け、蓮にしがみつく。「蓮さん……誘ってるんじゃないの。ただ怖かっただけ……このことで、あなたに見放されるんじゃないかって……だから、ちゃんと謝りたかったの」「謝りたい?」蓮が小さく笑った。その声は、先ほどよりずっと柔らかい。「確かに腹は立った。でも、今はこうして……お前が俺の機嫌を取ってくれてるだろ?」彼は奈美に顔を近づけ、自分が叩いて赤くなっている頬に優しくキスをした。「痛いか?瑠璃がいたから、さっきはお前にあんな風に当たってしまった……ごめんな」蓮は彼女の髪を撫で、低い声で言った。「後で……たっぷり埋め合わせをしてやるからな、ん?」「うん……」奈美が満ち足りた表情で彼の胸に顔を埋めた。その様子を見ていた瑠璃は、目眩と立ちくらみを覚えた。全身の力が一気に抜け落ちていく。自分がどん底に突き落とされていたその時。両親の遺灰が雨に流され、何ひとつ残らなかったその時に……蓮は、すべての元凶である奈美と一緒にいた。しかも、人目のない茂みの中で。自分の苦しみなどなかったかのように、二人だけの世界に浸っていたのだ。それにあろうことか……彼自身が奈美を叩いたことで、心を痛めている。あまりの馬鹿馬鹿しさと突き刺さるような痛みに、瑠璃は立っていられなくなった。背を向けて逃げようとしたその時、足元を滑らせ——「あっ!」バランスを崩し、濡れた石の階段を瑠璃はそのまま転げ落ちていった。後頭部を階段の角に強打し、激痛とともに目の前が真っ暗になっていく。目を覚ますと、そこは自宅の見慣れた大きなベッドの上だった。瑠璃が目を覚ますと、ベッドのそばに座っていた蓮はすぐにその手を握り、焦りと後悔が浮かんだ顔で瑠璃を見つめた。「瑠璃!やっと起きた!ごめん、全部俺のせいなんだよ」焦ったように言い訳を始める。「遺骨入れを買いに行っていたんだけど、もどってくる道で車が急に動かなくなって。しかも豪雨だっただろ?それで戻ったときにはもう……階段でお前が倒れてたんだ……」血の気のない瑠璃の顔を見つめ、蓮は宥めるように続けた。「そんなに気に
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第8話
「はぁっ?!」湊が息をのんだ。「お前……あんなに瑠璃を大切にしてただろ?以前は指に小さな切り傷がついただけでも、まるで大怪我みたいに取り乱してたのに、今は奈美のために、隠れて彼女の腎臓を奪おうっていうのか?俺の聞き間違いだよな?」湊は蓮を鋭く睨みつけた。「正直に答えろ。お前、本気で奈美に惚れてるのか?!」部屋の空気が張り詰める。あまりに長い沈黙だったため、瑠璃はもう答えは返ってこないと思った。すると、耳慣れた、しかしどこか見知らぬ人のような蓮の声が聞こえてきた。そこには微かな開き直りが混ざっている。「惚れてるからって、それが何だって言うんだよ?」蓮は一呼吸置き、当然のことだと言わんばかりに続けた。「愛と体の関係は、切り離せるものじゃない。それに、この数年、ずっと俺のそばにいて、体を重ねてきたのは奈美だ。そんな相手に惹かれたとしても、不思議なことじゃないだろ?瑠璃のことは……」彼の声が低くなった。彼自身でも気づいていないであろう苛立ちと嫌悪感が漏れている。「愛していないわけじゃない。ただ……あいつのことは汚いって思ってしまうんだよ。だから触れることはない。それで……自然と情も無くなる。このことはもういい。これ以上聞くな」蓮は話題を切り上げるように冷たく言い放った。「奈美に時間は残されてないんだ。手術が終わって瑠璃が目覚めたら、拉致されて腎臓を奪われたと伝えてくれ。怪しまれないようにな。後で……きちんと償うつもりだから。奈美に惚れてるけど、瑠璃への情まで消えるわけじゃない。だから、この件……隠し通す」隠し通す……奈美に惚れてる……あいつのことは汚い……自然と情も無くなる……その一言一言が熱い鉄の塊のように、瑠璃の耳を焼き、心を突き抜けた。蓮は自分を汚らわしいと嫌い、浮気をするだけでなく、他の女に本気になっていたのだ。10年間、彼に愛されていると信じていた。しかし、自分などの都合よく取り出せる臓器を持ち、新しい女を喜ばせるための……ただの「道具」に過ぎなかったのか?!耐え難い痛みとあまりの屈辱に、瑠璃は喉が裂けるほど叫びたかった。しかし口は塞がれ、子猫が鳴くような絶望的な鳴き声しか出せない。溢れる涙が、目隠し用の布を濡らしていく。必死に抵抗しても無駄だった。足音が近づいてき
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第9話
退院後、蓮は優しく瑠璃に言った。「瑠璃、もうすぐ俺たちの結婚記念日だろ?ちゃんと準備をしたいから、ここ数日は帰れないと思う。お前は、家でゆっくり休んでて」それからというもの、言葉通りに蓮は一度も帰ってこなかった。一方で、頻繁に更新されるようになった奈美のSNS。高級なプレゼントや、豪華なホテル、さらにはプライベートビーチの写真まで。添えられた文章も匂わせるような内容で、恋に浮かれた女の自慢げな雰囲気があふれている。どの写真にも男性の顔こそ写っていないものの、骨ばったその手と、腕に光る高価な時計から、それが蓮であると瑠璃は一目で分かった。しかし、そんな投稿を見ても、瑠璃の心が波立つことはなく、むしろ少しおかしくて笑えてきた。彼女は黙々と荷造りを進め、解放の瞬間をただ静かに待ち続ける。結婚5周年を迎えた朝、ついに一本の電話が入った。「もしもし。九条瑠璃様のお電話でお間違いないでしょうか?こちら、法律事務所の者です。離婚に関するお手続きがすべて完了し、離婚届も無事受理されましたので、ご報告のお電話を差し上げました。また、離婚届受理証明書を当事務所でお預かりしておりますので、ご都合のよい時にお立ち寄りください」電話を切ると、瑠璃は深く息を吐き出した。ついに……終わった。まとめていたキャリーケースを手に、迷わず家を出る。その時、蓮からのラインが届いた。【今夜7時、ホテル・プラチナムの展望レストランを予約したよ。記念日ディナーとサプライズを用意してる。待ってるからな】メッセージを眺めながら、瑠璃の口元に冷ややかな笑みが浮かぶ。サプライズ?こっちもあなたに「サプライズ」があるんだよ。気に入ってくれるといいな。そのメッセージに返信はせず、すぐに離婚届受理証明書を受け取りに行くと、そのままタクシーで空港へと向かった。携帯はそのまま空港まで見送りに来てくれていた友人に渡す。「これ、代わりに処分しておいてくれる?」友人との別れを惜しんだ後、瑠璃は振り返ることなく搭乗ゲートへと向かった。時を同じくして、ホテル・プラチナムの最上階では、特注のタキシードに身を包んだ蓮が瑠璃を待っていた。ロマンチックな演出の数々、巨大なハートの薔薇にキャンドルの光、そして心地よいバイオリンの音色……何もかもが完璧だった。
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第10話
蓮は雷に打たれたように、誰もいないリビングで立ち尽くした。肌を重ね合う奈美と自分。ほのかな照明に照らされた薄暗い空間で、濃密な空気をまとった二人の姿と、奈美の甘えるような声。そして、気持ちを昂らせた自分が囁く優しい言葉の数々……そのおぞましい証拠は高画質で鮮明に映し出され、かつて瑠璃と愛を育んだこの部屋に、大音量で鳴り響いていた。「やめろ!消せ!今すぐ止めろ!」蓮は激怒した獣のようにテレビへと飛びかかり、狂ったようにリモコンを押しては、電源コードを引き抜こうとあがいた。だがリモコンは反応せず、電源コードもビクともしない。動画は非情にも流れ続けている。これは、瑠璃が蓮に彼自身の汚らわしさを思い知らせるため、去り際に用意した「贈り物」だった。蓮は画面を殴りつけ、叫んだが、映像は止まらない。画面の中で奈美に優しくささやく自分の顔を見て、蓮は自分がひどく醜く、汚らわしく感じた。動画の最後で、画面が切り替わった。そこは自宅の寝室。化粧もせず、部屋着を着た瑠璃がベッドに座っている。その顔は少し血の気がなかったが、目は氷の張った湖のように静まり返っていた。瑠璃がカメラに視線を向ける。まるでカメラ越しに、真っ直ぐこちらを見据えているようだった。その声は決して大きくないのに、一言一言が胸に突き刺さる。感情をすべて使い果たしてしまったような虚ろさと、もう何ものにも揺るがされない決意を滲ませながら、瑠璃が静かに口を開いた。「ねえ、蓮」瑠璃の口元に、皮肉げな笑みが浮かぶ。「本当に汚いのは、一体誰だろうね?」画面は、瑠璃の瞳を映したまま静止し、そこにはもう、蓮の姿は映らなかった。そして次の瞬間、画面は暗転する。真っ黒になったモニターは、まるで底の見えない棺のようで、蓮が抱いていたわずかな希望も、彼女をごまかし続けてきた言い訳も……その闇の中へ、すべて葬り去られてしまった。蓮の心が完全に折れ、頭が真っ白になった。「瑠璃、瑠璃!出てきてくれ。俺の話を聞いてくれよ。お前が思っているようなことじゃないんだ!」家の中を探し回ったが、瑠璃の姿はどこにもない。蓮は悟った。瑠璃は本当に自分のもとから去ってしまったようだ……自分の裏切りを知り、一言も告げずに消えてしまった。混乱の果て、今度は強烈な怒りが彼を襲う。携帯を掴んだ蓮は震
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