料亭を出たところで、静浜に戻る若桐を送るために、真壁は響野たちと別れた。 二人で連れ立って、駅までの道を歩く。「本当は、守さんが副官になってくれたらな……って思ったんですけど……」「莫迦。副官ってのは、若いのが勉強のために付く職だ。こんなロートルで、席を埋めたら駄目だろう」「はい……。きっと守さんにはそう言って断られるだろうと思ったから……」 そこで真壁は、立ち止まった。 若桐が、気付いて振り返る。「どうした?」「浜松と静浜だって、遠いって思うのに……」「なんだ。今までだって散々遠い所に赴任してただろ?」「……僕、少しでも早く傍に戻りたいと思って、すごく頑張りました」 それは、若桐も痛いほど分かっている。 真壁の昇進が異例の速さだった理由は、当人の努力の賜物だ。 だが、その真意は出世ではなく、希望の赴任先に留まる〝発言力〟が欲しかったからだと知っているから。「……でも、今度の赴任先は市ヶ谷です。いつ戻れる……どころか、もう浜松に戻ること自体が無理かもしれない……」 ぎゅうっと、真壁が両手を握る。 光線の加減で顔は見えなかったが、声の震えは泣いているようにも聞こえた。「あ〜、それだけどな……」 若桐は、後頭部をポリポリと掻いた。「実は、市ヶ谷に来ないかって話。まだ生きてるんだ……」「えっ……?」 立ち止まったままの真壁の傍に、若桐が歩み寄る。「まぁ、会える頻度は、今とあんまり変わらんかも知らんがな」 真壁は、若桐の体を抱きしめた。「莫迦っ、こんな街中で……」
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