午前の打ち合わせを終えて廊下を曲がった瞬間、真壁の視線を釘付けにするものが視界に飛び込んできた。 見慣れたフライトスーツではなく、公務の制服姿だが……、見まごうはずもない。 あれは、若桐の後ろ姿だ。 胸が高鳴り、歩く速度が自然と早くなる。 静浜で教官をしている若桐が、浜松基地に来るのは珍しい。(しばらく連絡が無かったのは、またなにかサプライズを企んでいたんですか?) 理由がなんであれ、なにより元気な顔が見られた嬉しさが先に立つ。「若桐教官!」 だが、こちらに振り返った若桐は……。 真壁が期待するような、いつもの笑みを浮かべてはくれなかった。「お疲れさまです、一佐」 すっと上げられた右手は、教科書通りの敬礼。 声音は堅く、事務的な挨拶のみ。「まもるさ……」 飛び出しそうになった言葉を飲み込む間に、視線は外された。 若桐と共に来たらしい、静浜で見慣れた教官たちが、がやがやと廊下を歩いていく。 集団と一緒に歩く若桐は、視線を無理やり固定しているかのように、視界に真壁を写さず……。 いくつもの足音が脇を抜けていく中で、自分の横を若桐が通り過ぎる。「わ……若桐教官!」 咄嗟に、真壁は若桐の二の腕を掴んでいた。(なんで、連絡をくれないんですかっ!?) どうしても問いただしたいその質問は、向けられた硬質な視線に押されて、声にならなかった。 若桐の視線が、ゆっくり落ちて、掴んでいる二の腕を見る。「すみません、一佐。ご要件は、改めて」 ギシッと、歯車が狂うような音が、頭の中に響いたような……。 若桐の言葉の意味が、理解できない。 だが、そっと当てられた手が、掴んだ真壁の手を除ける。 公共の場では、これは逸脱した行為だ。
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