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All Chapters of 空に墜ちる -if-: Chapter 61 - Chapter 70

71 Chapters

7-3

「ところで、これなんだ?」 テーブルに置いてあるタブレットを指さし、若桐が問うた。「あ、これは、カミサンもオンラインで参加させようと思って……」 響野がタブレットの電源を入れる。「莫迦! 妊婦にいらん気苦労を掛けるな!」 麗子は、いきなり若桐が響野を説教している姿が映し出されて笑った。「若桐さん、お久しぶりです」「よう、麗子ちゃん。体調は大丈夫かい?」「はい。実家でゆっくりさせてもらってるので」「気分が悪くなったら、早めに退席するんだぞ」「やだ。若桐さんのほうが旦那より気遣い上手!」 うふふと麗子が笑う。「あの〜、ヒトリモンの若桐さんが、なんでそんなに分かるんです?」「自分のカミサンじゃなくても、同僚に何人も妊婦がいたからな。がさつな訓練生から、守ってやらなきゃならないんだよ」「さすが名前が〝守〟なだけありますね!」「響野……おまえ、まだそんなオヤジギャク言うような年じゃねぇだろ……」 仲居が料理を運び、麗子に角田を紹介したところで、響野が件の〝証拠写真〟を取り出す。「なんですか、これ?」「密告者から送られてきた写真だそうだ」「あ〜。こりゃあ、悪意満々な写真っすねぇ! で、こっちが真壁一佐で、こっちは……?」「全員一致で、当時、静浜で教鞭をとっていた〝藤原三佐だろう〟となった」「なるほど、なるほど」「角田くんには、出来たらこの密告者が誰かを、調べて欲しいんだが」「おおっと! それはちょっと、守秘義務に抵触しそうですね」「やっぱり、駄目か……」 ううん……と、若桐は腕組みをする。「ちょこっと、意図せず。うっかりなんかの拍子に分かっちゃったりする可能性はあるんで。話題の流れで、話が出ることもなきにしもあらずです」「え…&
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8:霧の中

 休日、市ヶ谷駅の改札を抜けたところで、若桐は目についたカフェで甘口のコーヒーを購入した。 甘党の藤原に、差し入れのためだ。 若桐がアポイントを取ると、藤原はすぐにも応じてくれた。 入口にも話を通しておいてくれたらしく、身分証を提示するとすぐにも藤原が顔を出す。「若桐さん、お久しぶりです」「よう、久しぶり。これ、みんなで食ってくれ」 差し入れのカフェの他に、浜松で買ったうなぎパイの箱を差し出すと、藤原が笑う。「相変わらずですね。ありがとうございます」「いや、わざわざ時間を割いてもらってるからな」 面談室に通されて、若桐と藤原は向かい合った。「それで、今日は?」「うん。きみのところに、なんか身上調査のようなもの、なかったかい?」「えっ、なんでご存知なんですか?」「ああ、うん。実は……」 若桐は少し言葉を濁した。「きみと、訓練生時代の真壁が、不倫していたという噂が出ていてな」「真壁?」「静浜で、俺と教鞭取ってた時に教えた、背のでかい……」「ああ! あの綺麗な顔した〝どちて坊や〟!」 藤原の返事に、若桐は思わず吹き出した。「藤原くん、きみ、年齢詐称してるのか?」「あ、ネタが古すぎました? でもあの子、授業終わりに〝どちてどちて〟って質問攻めにしてくるの、得意だったじゃないですか」「確かに……な」 若桐は苦い笑いを浮かべる。「もっとも、あんなに熱心に聞いてきた生徒、あとにも先にもいなくて。教官冥利にはつきますけどね」「そうだな」「え……でも、あの真壁と、私が、不倫?」「ああ。真壁に昇進の話が出たら、きみと不適切な付き合いがあったと密告があったらしい。もし、本当にそんな密告があったなら、市ヶ谷にきみを推した俺としては、きみの履歴に傷が付くと思ってな」「傷って言えば、離婚した時点でボロボロ
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8-2

 真壁の執務室の扉を、またしてもノックもなく開けて響野が入ってきた。「おう、メッセージ見たかっ?」「三佐、困ります!」「西條君、ありがとう。少し、休憩入れてきて」 真壁は立ち上がると、西條に席を外すように言った。 西條は、真壁の顔を見て、それからちらっと響野の顔を見て、もう一度真壁を見たところで「わかりました」と言って席を離れた。「こう頻度が高いと、本当に西條の胃に穴が空く。仕事が済んでからにしろ」「いや、若桐さんの〝かじま〟ってのが気になってなぁ」 響野はそのまま、執務室の応接セットにぼすんと腰を据えた。「それは、僕も気になった。しかし、同期に〝かじま〟なんて名のやつはいない」「なんだ、調べたのか?」「調べてはいない。同期の顔と名前は暗記している」「教官の藤原さんは覚えてないのに、同期は覚えてるのかっ!」「実務に必要になるだろ?」 きっぱりと言い切られ、響野は少し呆れ顔になった。「本当におまえは、合理主義だよ。若桐さん以外は」 響野のため息と、扉のノックはほぼ同時だった。「入れ」「堂島二佐、出頭しましたぁ!」 入ってきた顔に、響野は驚きを隠せない。「堂島? おまえ、今は横須賀勤務じゃなかったか?」「〝かじま〟の名前に心当たりがないかと思って、堂島と狩谷に連絡をしようと思ったら、ちょうどこっち来てたから寄ってもらったんだ」 一応、敬礼をしたものの、堂島もすぐに態度を崩して響野の隣に座る。 真壁と響野、それに堂島と狩谷は、訓練生時代の同期であり、班として寝起きを共にした友人だ。「同窓会にしたって、真壁から声がかかるとは思わなかったな」「同窓会じゃない」「狩谷は、今、市ヶ谷だっけ?」「広報室だ。僕が松島にいたころ、副隊長をしていた跡部一佐と一緒だと思う。だが、今は勤務中で返信はなかった。堂島、これを見てくれ」 真壁はタブレットの画面に、件の〝証拠写真〟を映し出す。
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9:悪意

 情報を共有するために、若桐と真壁、それに響野は、再び件の料亭に集まっていた。「あれ? 角田くんは?」「一応メッセージは入れておいたんだが、返信がなくてな」 若桐の答えに、真壁と響野は顔を見合わせる。「それで、狩谷とは連絡取れたのか?」「メッセージにオンライン会議の時間を送っておいたら、参加すると返信がありました」『俺は、既にインしてます』 テーブルの上のタブレットは、分割画面になっており、片方に堂島が写っていた。「お連れ様が到着されました」 仲居の声に、一同は角田が来たのだとそちらを見たが。 全く見も知らない男が立っている。「初めてお目にかかります。僕は牧瀬と申します。角田のメッセージボックスにここへの日時指定があったので……」「えっ? えっ?」 牧瀬は部屋に入るなり、サッと正座すると深々と頭を下げた。「申し訳ありません。角田は昨日付で退官しました」「はあっ?!」「ちょっと待ってくれ……。退官……?」 若桐はめまいを感じたが、真壁も響野も大差ない様子で戸惑っている。「はい。最初は佐藤三佐の後任を引き受けたんですけど、どうしても佐藤さんの補佐を続けたいと言って、追いかけていってしまいまして……」「じゃ、きみは……角田くんの後任?」「はい」「えっ? それじゃあ、今日は謝りに来たの?」「もちろん、謝罪の意味もありますが。こちらのメッセージを確認して、角田に確認を取ったところ、佐藤さんから返信があって〝必ず力を貸すように〟と……」「え〜と……、じゃあ角田くんにした話を、聞いては……?」「いません。外部の人になってしまったからって、勤務中は佐藤さんが電話に出てくれないんです」「それ…&hellip
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9-2

 角田が電撃退官してしまったことを受け、一同は後任の牧瀬に最初から事の顛末を語った。「概要はわかりました。……えっと、ちょっと中座しますね?」「どちらに?」「ボスに、電話して良い時間になったので。角田に状況も確認してみます」「ああ、よろしく」 部屋から出ていった牧瀬の背を見送ると、タブレットの向こうで堂島が溜息を吐いた。「どうした?」『いや、警務と口聞くのなんて、緊張しますよ! なんでみんな、平気なの?』「協力してくれているんだから、こちらも相応の態度を示すのは当たり前では?」「俺は緊張してたよ? でもまぁ、悪いことしてるわけじゃなし?」 真壁と響野の答えに、堂島は納得しかねる顔をする。『若桐教官は?』「緊張しまくりに決まってんだろ」 その答えに、全員が「どこが?」と言った。「あ、狩谷がログインするみたいですよ」 画面に三個目のウィンドウが現れ、狩谷の顔が映し出される。『うわ! どうした狩谷! 激ヤセしてねっ?』 堂島の発言に、響野と真壁も同意して頷いた。『いやぁ……、今の部署、結構きついんだわ』「だが、狩谷は実機に乗るより、広報担当しているほうが楽しいと言ってなかったか?」『ココくるまでは、そー思ってたんだけど。上司とソリが合わなくてなぁ』「おまえの上司って……、跡部さんじゃなかったか?」『なんだ、真壁。知ってるのか? あ、そういやあの人、ブルーにいたんだっけ? おまえ、被ってんの?』「ぴったり被ってる。跡部さんは、ずっと副隊長だった」『あの人、きつくね?』 狩谷の問いに、真壁は首を傾げる。「いや……、それほどとは……」『それ、たぶんものすごく間違った見解だと思う……』 返したのは、堂島だ。「
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9-3

「角田は、この写真は監査に郵送で送られたことと、その郵便が外部のものではなく、省内便を利用した切手のない封書であったことを調べていました」「彼、調べてたならちゃんと引き継ぎしてから退官しなよ……」 若桐のコメントに、牧瀬が申し訳なさそうな顔になる。「本当に、すみません」「いや、謝らないで。無茶な頼みをしたのも悪かったし……」『ミステリー物なら、外部の郵便を使うところじゃね?』 堂島が、勝手な意見を述べた。「封筒の出どころは、分からなかったのか?」「角田が言うには、市ヶ谷の可能性が高いってことでした。……ただ、あの人、勘働きと称して憶測で物を言うので、本当かどうかは、ちょっと調べてみないとわからないですね」『ところでさぁ、これってなんの集まりなの?』 今更、狩谷がそんなことを問う。「あ、そうか! 狩谷は中途参加だから……」『てっきり、同期のオンライン飲み会だと思ってたけど。違うの?』「全然違う。そもそも、同期のオンライン飲み会に、なんで若桐さんいると思ってんだよ?」『そういや、そうだ。……ああ、俺も響野にツッコミされるようじゃ、オシマイだぁ〜』 狩谷が、ことさら大げさに頭を抱えた。「そもそも、おまえがこんな写真を撮るから!」 響野が件の〝証拠写真〟を、画面に見えるようにぐいとカメラに向ける。『うわ! なっつかしい! 麗しの藤原教官と密会する真壁の図!』「おまえのそのノリが、今、どえらい波紋を呼んでるんだよ……」 若桐が眉間を押さえて、深い溜息を吐く。『えっ? なんです?』 狩谷はきょとんとした顔になった。「実は、真壁が将補の候補に上がったんだ。だが、そのタイミングでこの写真が〝訓練生時代に教官と不倫してた〟証拠写真として、監査に密告された」『えっ&hellip
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10:顛末

 若桐が、料亭の席で待っていると、そこに山城が現れた。「遅くなりまして」「いや、築城の群司令を呼び出して、悪かったなぁ」「むしろ、会って話がしたかったぐらいです」「えっ? なんかあったっけ?」 山城が向かい側に腰を下ろしたところで、若桐はビールを差し出した。 グラスを手に取り、山城は若桐の酒杯を受ける。「俺は、もうちょっと手元で真壁をしごいてやりたかったんですよ。群司令に昇進したとき、飛行隊長を真壁に……と思ったんですが。あいつ、てっきり浜松に戻っちゃって。若桐教官、真壁を甘やかしすぎじゃないですか?」「なんで、そこで俺の話になるんだよ?」「顔に全部、書いてありますよ。……もっとも、真壁は浜松でもしっかり成果を出したようですね。なんですか、俺も追い抜いて将補ですって?」「まだ、決まってないんだって」「いや。さすが若桐教官の肝いり、恐れ入りますよ」 はははと笑う山城は、困り果てている若桐を面白そうに眺めている。「お連れ様が到着なさいました」 仲居の声がして、ふすまが開くと、そこに跡部が立っていた。「山城隊長!」「おお〜、跡部! 久しぶりだなぁ!」「えっ……? 若桐教官? どういう顔ぶれなんです?」「ま、ちょっとした同窓会だ。座れ、座れ!」 山城は跡部を招き入れ、隣に座らせ、さっそくグラスを握らせた。「市ヶ谷はどうだ? 田舎と違って世知辛いだろう?」「まぁ、なんとかやってますよ」 跡部は山城の注いだビールに口をつける。 そこに再び、仲居が声を掛けてきて、ふすまが開いた。「こんばんは」「失礼します」「ご無沙汰してます」 真壁に響野、堂島と狩谷、それに牧瀬と最後に藤原が続いて部屋に入ってきた。「え……?」 跡部が狼狽えるのを無視して、集まった者たちは各々席につい
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10-2

 最初に、牧瀬がスッと前に出る。「初めまして。僕は警務の牧瀬と申します。本日は、跡部一佐に内々でお伺いしたいことがありまして……」「ちょ……、待ってくれ! 山城さん! あんまりじゃないですか!」「いや、俺も知らない。……若桐教官、これは……?」 警務と聞いて慌てる跡部と、驚き顔の山城に、若桐は首を横に振った。「俺も頼まれただけでね。だが、そう込み入った話でもない……と、こちらの牧瀬くんは言ってる」「まず、この会話を録音することをご了承ください」 牧瀬は、机の上にICレコーダーを置いた。「待て! こんな酒を飲んだあとで、調書を取られるなんて、冗談じゃないぞ!」「調書ではありません。ただ、少々お話を伺いたいだけです。ご了承いただけない場合は、場を改めてお話を聞くことになりますが?」 牧瀬の言葉に、跡部は目を泳がせたあとに、仕方ないといった様子で〝同意〟を示し頷いた。(牧瀬くん、やるなぁ……) 跡部はてっきり〝会話を録音出来ないなら、事を荒立てて公的に取調べをされる……〟とでも、思ったのだろう。 もちろん、この場を設けたのも若桐である。 牧瀬に、場を仕切っているようなふりをして欲しい……とも頼んだ。(相手が警務の人間なら、気後れするだろうからな) 牧瀬は、おもむろに一枚のコピーを取り出した。「こちらは、先日監査に送られてきた〝密告文〟のコピーです」「じゃあ、あんたは真壁の内偵をしてるのかっ! ……だが、もしそうなら、なぜ本人がここにいる!」「内偵ではありません。僕が調査しているのは、この密告書の真偽の確認です。こちらの文章に見覚えは?」「ない」「ですが、こちらの文章は、市ヶ谷の省内便で監査に送られてきたことは分かっているんですよ
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11:エピローグ

 数ヶ月後。 防衛省の人事発表に、真壁の名があった。「39歳にして、将補に昇進か」「同期として、誇らしいぞ!」 件の料亭で、響野が真壁のために席を用意してくれていた。 席には堂島と狩谷もいる。「おめでとうございまーす」 タブレットの向こうの麗子が、腕に小さな赤ん坊を抱いて挨拶をしてきた。「おおー! 麗子ちゃんこそ、出産御苦労様! おめでとう!」「おめでとうございます」 画面を覗き込み、一同が口々に祝いを述べる。 途端に腕の中の赤ん坊が、ほにゃほにゃと泣き出した。「あ、ごめんなさい。離席するわ」 挨拶もそこそこに、画面が暗くなった。「出産には、立ち会ったのか?」「今回こそはね!」 ふんっと、響野の鼻息が荒い。「奏真(そうま)くんの時は、立ち会わなかったのか?」「里帰り出産だったんですが、俺は百里にいましたし」「あ、そうか」「今日は、いいのか?」「や、カミサンまだ実家なんすよ。俺より親父さんのほうが浮かれてて、帰してくれないんす」「おまえと二人より、実家のほうが子育て楽なんじゃないのか?」「それは言わんでください……」 げんなり顔で響野が言った。「まぁ、そう言うな。これは、俺らから……」 出産祝いと書かれた祝儀袋を、全員がポケットから取り出して差し出した。「すまんなぁ。ありがたくいただく」「おまえ、相変わらずカミサンにアタマ上がらないのか?」「うちのカミサン、最強だから……」 ため息を吐く響野に、堂島が笑う。「そんなら、ズームが切れたの、困ったな……」 ほぼ独り言のように、真壁が言った。「なんだ?」「実は、西條を副官として帯同したいと思って打診をしたら、響野が来るからいやだと言っ
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11-2

 同期の四人に若桐を加えた宴席は、真壁の昇進と響野の第二子誕生を祝って、遅くまで続いた。「そういう狩谷も、二佐に昇進だって?」「じゃあ、三佐は響野だけか……」「いや、この先、真壁の副官として、ばんばん上がるだろ? あっちゅーまに狩谷も追い越されるぞ」 酔いが回った堂島は、狩谷の背中を叩く。「実際、そうかもな。今回の俺の人事は、跡部一佐が抜けたから、席を詰めただけだし」「おまえはウザい上司がいなくなって、清々したろ?」「そもそも、跡部が狩谷に圧掛けてたの、狩谷が真壁の同期だったからだしなぁ」 響野の言葉に、真壁は溜息を吐く。「僕、あんなに跡部さんに嫌われていたなんて、全然気付きませんでした」「いやぁ、あの人が一番拗らせてたの、若桐さんだろ?」「なんで、俺なんだよ?」 不満そうな若桐に対し、響野に同調した堂島が首を振る。「や、絶対若桐教官にでしょ。おかんネットワークに組み込んでもらえなかったって、あんなにがなってたじゃないですか」「おまえらは、本当に分かっちゃないな!」 ぐいっとビールのグラスを空けてから、若桐は堂島と響野にビシッと指を向けた。「あいつは、山城に認めてほしかったんだよ! だからこそ、戒告処分された跡部を、山城が築城に呼び寄せたんだろ!」「えっ? あれって左遷じゃないんですか?」「ちゃうわ! 跡部レベルの佐官が、足の引っ張り合いで虚偽の密告したなんて理由で戒告されたら、もう完全に出世できなくなるだろ? あのまま放っておいたら、本人が依願退職しちまうからって、山城は引き止めるために呼んだんだ」「ええ〜? 俺ならあんなことされたら、幻滅して切りますけどねぇ」「俺はぁ! あの人の拗らせは、藤原教官への恋心だったと思いますけどねぇ!」「うわ! 狩谷、おまえいつのまにウイスキーなんか飲んでんだよ?」「駄目だ、こいつ完全に酔っ払ってる!」 場の空気は、すっかりお開きムードになった。
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