「プロトタイプ店舗の総料理長が借金取りに怯えていては、最高のパフォーマンスなど出せないだろう。私はシステムに不確定要素を残すのが嫌いでね」 淡々とした口調だが、その言葉には絶対の自信と権力が裏打ちされていた。「君は、料理と店の経営にだけ集中しろ。外部のノイズはすべて私が遮断する」 冷たい路地裏の空気が、彼の放つ圧倒的な熱量によって塗り替えられていくようだった。「私が君の盾になろう。全てのトラブルから、私が君を守る。だから、君の腕を私に貸してくれ」 礼司は右手を差し出した。 節立って大きな、数々の経営判断を下し続けてきた手。 春菜はその手を見つめた。 翔太には裏切られ、手酷く捨てられた。 たった1人で日銭を稼ぎ、いつ取り立てが来るか分からない恐怖に怯えながら、先の見えない日々を送っていた。 だが目の前の男は、春菜の料理と頭脳の価値を認めてくれた。 すべての障害を自分の力で排除すると言い切っている。(……この人なら、本当に全部なんとかしてしまいそう) 感情論や同情ではない。極めて合理的な損得勘定に基づいた、ビジネスとしての提案――の、はずだ。 だからこそ信頼できると、春菜は思った。 彼にとって春菜は、投資する価値のある人間なのだ。 春菜は愛し合っていたはずの翔太に捨てられた。 長年の親友だと信じていた梨沙に裏切られた。 それゆえに礼司のビジネスを強調する言葉に好感を持った。(信じてみよう。御堂社長という人そのものではなく、彼のビジネス眼を) ただ1つ気になるとすれば、彼の両目に不自然なほどの熱が灯っていること。焦がれるような、熱烈な視線。 けれどそれも、春菜は単に「仕事上の熱意」と思うことにした。(……私も覚悟を決める) 春菜はエプロンで自分の右手を軽く拭いた。いつの間にか、緊張で汗がにじんでしまっていた。 それから、礼司の差し出した手をしっかりと握り返した。「分かりました。私の料理と経営のノウ
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