「直ちに中枢へマルウェアを送り込みたまえ。データを書き換え、あの忌々しいAIシステムを完全に停止させるんだ」「了解しました。ただちに実行します」 これはもちろん、違法行為だ。 だが灰谷は考える。露見しなければいい、と。 そしてバレないだけの自信もあった。 いくつものダミーサーバーを経由し、痕跡は完全に消した。 警察だろうが御堂ホールディングスだろうが、逆探知などできるはずがない。 証拠がなければ犯罪は証明できない。 責任者がタブレットを操作すると、モニター上のゲージが急激に伸び始めた。 ネクサスが用意した悪意あるプログラムが、御堂のサーバーの深部へと入り込んでいく様子が確認できる。「これで終わりだ。御堂礼司の社運を賭けたプロジェクトは、プロトタイプ店舗の段階で頓挫する」 灰谷はデスクの上のグラスを手に取り、サプリメント飲料を喉へ流し込んだ。(栄養補給などサプリメントと完全食で十分だ。何故世の中の人間は味だの食べる相手だのにこだわるのか。無駄でしかない) 明日の朝には、御堂ホールディングスのAIシステムに致命的な欠陥があるという情報を市場に流す。 株価は暴落し、信用は地に落ちる。そこを狙って、ネクサスが吸収合併に向けたTOBを仕掛ける手はずになっていた。 株価が地に落ちた相手など、実にお買い得な物件に過ぎない。「広報部へ連絡したまえ。買収に向けたプレスリリースの準備を進めるように。各メディアへの根回しも忘れるな」「はい。すぐに手配いたします」 責任者が足早にオフィスから退出していく。 灰谷はモニターの光を見つめながら、勝利の味を反芻(はんすう)しようとした。 だが、彼の舌にはサプリメントの無機質な甘みしか感じられない。 先日偵察として食べたハルナズ・キッチンの料理も同じだった。 どれほど客が喜ぼうとも、灰谷にとってはただの栄養素の塊にすぎない。 人間の感情や料理の温かみなど、計算式には組み込めない不要な要素だ。「さあ、御堂。
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