「客なんてどうせ、味の違いなんて分かりやしないわ。あの春菜が作った料理だって、ただの自己満足の塊よ。あんな女の料理の腕なんて、最初からこの店には不要だったの。追い出して大正解だったわ」(そうだ。春菜などいらない。いらないはずなんだ) 梨沙の言葉は、翔太の傷ついたプライドに心地よく滑り込んでくる。 翔太はすがるような目で梨沙を見た。「じゃあ、どうするんだ? このままじゃ君の父親……九条社長に愛想を尽かされる」「ふふん、そんなこと、とっくに対策を考えてあるわ」 梨沙はバッグから一通の企画書を取り出して、翔太の前に放り出した。「九条不動産の資金力を使って、大々的なプロモーションを仕掛けるの。今の時代、料理が美味しいから店が流行るんじゃないわ。『流行っている店に行っている自分』というステータスが欲しいだけのバカな客が、世の中の大半なのよ」「プロモーション……?」「ええ。美容系やグルメ系で何十万人もフォロワーがいる、有名なインフルエンサーを大量に動員するわ。この店で食事をしている写真をSNSに一斉に投稿させるの。もちろん、見た目がおしゃれできらびやかな料理の写真を添えてね」 梨沙は企画書の一部分を指し示してみせた。「それを見た若い子や見栄っ張りな大人たちが、こぞって予約を入れるように仕向ける。いわゆるステルスマーケティングってやつよ。西園寺のコラムなんて、ネットの派手な流行の波で一瞬で揉み消してあげるわ」 翔太は企画書に目を落とした。 有名なインフルエンサーたちが何人も名前を連ねている。 九条不動産による広告戦略は緻密に計算されて、失敗の余地はないように見えた。 企画書を読み進めるうち、彼は顔を輝かせた。「……これだ。これなら、あいつの料理なんかなくても、俺のブランド力と九条不動産の力があれば、いくらでも客を呼べる。『一ノ瀬』は、日本一トレンディな高級店として復活できるんだ!」 翔太は先ほどまでの焦燥感を忘れて、傲慢な笑みを取り戻した。 それまでごくわずかに残っていた、料理人としてのプライドが完全に消え
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