小泉陽翔(こいずみはると)は、キッチン用品メーカー〝マドカ〟に勤めて三年目になる。 今日も、陽翔の企画は通してもらえなかった。 否── 陽翔の企画は、企画会議の議題にすら上がらなかった。「神谷さん! なんで僕の企画、通してくれなかったんですか? 今回は、まあまあ良いって言ってくれたのに!」 会議室を出たところで、陽翔は上司の神谷悠真(かみやゆうま)に声を掛ける。「まあまあ良いとは言ったが、通すとは言ってないだろう」 しれっと躱される。「でも先日、良いと言ったら通してやるって……」「そうだ。良いと言ったら通してやると言った。〝まあまあ〟じゃ駄目だ」 そう言い置いて、神谷はオフィスに戻っていってしまった。(くそ! 騙された!) だがこれは、いつものことだ。 アルファの中でも〝より優れたアルファ〟と評される神谷は、陽翔と同期なのに既にスーパーバイザーとなっている。 勤続三年目。 オメガの陽翔は、未だ一度も企画が通ったことがない。 廊下を、オフィスへと戻っていく同僚たちが、陽翔をクスクス笑いながら去っていく。 それもまた、いつものことだ。(これが、アルファとオメガの差……か) そんなことは考えたくない。(雇用均等とか、オメガの社会進出とか、政府は言うけど……) 周りの同僚や社員が囁く陰口で、その〝差〟は常に話題に上る。「神谷さんに敵うわけないのに」「季節毎に一週間、特別休暇もらってる〝オメガ様〟が、一端に仕事出来るんですかね?」 色濃いオメガ差別の前に、苛立ちが募った。(それにしても、ムカつくっ!) 負けん気の強い陽翔は、ガッつと壁面を蹴った。
Last Updated : 2026-06-10 Read more