神谷は、陽翔が企画の提案を出してこないことを、疑問に感じていた。(救急車の一件で、周囲の目が厳しくなったからな……。よほど力を入れた企画を練ってるんだろうか……?) 今まで、企画を却下されて、陽翔が折れたことは一度も無い。 新卒のアルファや、中堅のベータも、陽翔にするような指摘をすれば、たちまち卑屈になるのを、散々見ている。「神谷くん。朝礼中、失礼するよ」 朝のミーティングを兼ねた朝礼の途中、課長がオフィスに顔を出す。「なんでしょう?」 課長は皆を集めたまま、神谷の隣に立った。 そして、なぜか陽翔に目配せをし、それに従うように陽翔も前へと進み出る。「突然だが、今月いっぱいでこちらの小泉陽翔くんが退職することになった」 神谷にとって、それは青天の霹靂だった。 だが、課長は神谷の様子に気付きもせずに、言葉を続ける。「引き継ぎは既に、あ〜……、そっちの……」 課長が視線を巡らせると、長野が挙手をする。「長野です」「そう、その長野くんに任せているので、なにかあったら長野くんに相談するように。小泉くんは明日から有給消化で、退職日まで出勤はしない。以上だ」 課長の横で、陽翔は頭を下げる。「お世話になりました」 突然の発表にぽかんとなっていた同僚たちは、陽翔の挨拶のあとに、どうしていいかわからない様子で、まばらに拍手をした。「では、解散」 課長は一言告げて、さっさとオフィスから去っていく。 皆はなんともいえない空気で顔を見合わせていたが、陽翔は自分のデスクへ向かうと、黙々と私物を段ボールに詰め始めた。「小泉、ちょっと来い!」 言うが早いか、神谷は陽翔の腕を掴むと、オフィスから引っ張り出し、人けのない会議室に連れ込んだ。「痛い! 放せ!」「どういうことだ!」「どういう…
最終更新日 : 2026-06-17 続きを読む