All Chapters of 冷徹社長の甘い罠〜執着溺愛が始まった: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

澪を世に知らしめるため、今日のパーティーには武司が東都中の名士を招待しており、広い会場には、軽く100人を超える人間が集まっていた。壇上にいた澪だったが、それでも真っ先に目に入ったのは、隅にいる匡介の姿。半月ぶりに見ても、彼は以前と変わらず、気品があり、冷ややかで、そしてひときわ端正な容姿をしている。しかし、澪は胸の中で卑屈になった。自分が去ったことなんて、あの男にとっては何でもないんだろうな、と。それもそうだ。自分など、彼にとってはいてもいなくてもいい存在だったのだから。だからこそ、再びその圧倒的な佇まいを目にしても、澪の心は微塵も揺れることはなかったし、匡介の射抜くように自分を見つめる視線を感じても、澪は視線を向けなかった。だが、つい考えてしまう。自分が黒崎家の娘だと知った時、彼は一体何を思ったのだろう?自分を邪険に扱ってきたことを、少しでも後悔したりするのだろうか?まぁ、結局のところ、身寄りのない自分を都合のいい女として手元に置いておいただけなのだから、特に何も感じないのだろうけど。堂々と匡介の隣に立てるのは、やはり彼に見合う女性だ。しかし、今の澪には匡介と対等に渡り合えるだけの立場がある。だが、もう彼のそばに立ちたいとは思えなかった。とはいえ……彼の方は今、後悔しているのだろうか?武司の後ろで一通りの挨拶を済ませると、澪は体調不良を理由に会場を抜け出した。これ見よがしに視線が集まる社交界には、何年経っても馴染めない。匡介と一緒にいた3年間、それ相応の身分の人と関わることはあっても、澪の容姿が人目を引き、じろじろと見られることを匡介が嫌ったため、こうした大規模な社交の場に連れ出されることは滅多になかった。加えて澪自身も、品定めされるような視線が苦手だった。だからほとんどの場合、澪は匡介を裏から支えていた。この長年離れ離れになっていた娘に対して、武司はかなり甘いところがあった。というのも、澪の顔を見るたびに、亡くなった妻の面影をどうしても重ねてしまうからだった。だから社交に身が入らない澪に対しても、特に何も言わずに優しく見守っていた。再会できた娘を慈しむ武司の眼差しには愛が溢れていた。本当に、亡き妻の生き写しだった。かつて、綾もまたこうした偽りだらけの社交場は苦手だった。武司と会場に入るや否
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第12話

今この場で繁が昔話を蒸し返してきたのは、ひとえに黒崎家と程島家の縁談を再び結ぼうとしてのことだ。以前であれば、武司もその提案を真剣に検討したかもしれない。程島家のことは手にとるように分かっているし、何より修平のことは幼い頃から見てきたからだ。しかし、苦難を乗り越えてようやく生き別れていた娘の澪を取り戻した今、それが彼にとって何よりの喜びだった。縁談に関しても、澪本人の意志が何より優先であり、無理強いする気など毛頭ない。だから、武司は静かに言った。「繁、私たちはもういい歳だ。いまさら分からないなんてことはないんだよ。でも、子供たちの結婚については、本人の意見を尊重しよう」繁と武司が話している時、修平が口を開くことはなかった。武司の元を離れた時、修平はたまらず繁に聞いた。「父さん、澪さんは黒崎家に戻ったばかりなのに、こんなタイミングで縁談を匂わせたら、あまりよくなかったんじゃないの?」繁は面白くなさそうに答える。「修平。お前は、本当に人が良すぎるんだ。こっちが黙っていれば、他にいくらでもライバルが出てくる。今日どれだけ多くの出席者が、同じ魂胆を持っていると思っているんだ?俺がお前の代わりに言い出してやらないと、うちは関心がないと思われてしまうだろ?だから縁談が浮上しても、一番に名前が挙がらなくなってしまう。それに、お前はもう28歳なんだぞ?なのに、まだまともな相手も見つけられないから、俺がわざわざお前のために汚れ役を買って出てるんだ。まったく、根回しというものを知らないのか!ずっとそんなんだと、一生医学書だけを抱えて一人で死んでいくことになるからな!」名家に生まれたものの、修平は商売というものに全く興味がなかった。当時、修平は父である繁が勝手に決めていた経営学部ではなく、あえて医学部を選んで進路を変更した。その結果、繁は腹を立て、丸1か月も修平と口をきかなかった。ここ数年、修平は医学に没頭し、若くして主任医師まで上り詰め、家業にはほとんど関与していない。今日だって、もし繁によって強引に連れてこられていなければ、今頃は病院で夜勤をこなしていたはずなのだ。修平が独身なのは、社交が面倒だからというわけではない。人付き合いの場に参加することは少ないものの、一度会ったことのある人間の顔は、基本的に忘れることがないほど
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第13話

さきほど澪が武司のそばに現れたのを見た瞬間から、匡介の胸の中の衝撃は、いまだに収まる気配がなかった。ふと、2週間前に謎の口座から柊グループへ振り込まれた1億2000万円のことを思い出す。あれは、澪の違約金を立て替えるというものだった。おそらく、あれは武司によるもので、匡介が疑っていたように、澪がどこか別の男に媚を売って用意した金ではなかった。黒崎家ほどの資産家にとって、1億2000万円など微々たるものだ。それに、澪の存在を追跡できなかったのも、彼女が黒崎家という巨大な守りの中に戻っていたからに過ぎない。そう理解すると、ここ半月ほど感じていた胸のつかえが、少しだけ和らいだような気がした。少なくとも澪は、自分の元を去って別の男と関係を持ったわけではないのだから。自分がなぜこうも苛立つのか分からぬまま、匡介はグラスを手に武司へと近づいた。柊家と黒崎家は、深い仲というわけではないが、かといって疎遠な間柄でもない。そのため、歩み寄ってくる匡介を見た武司は、軽くグラスを合わせて応じた。匡介はありきたりな祝いの言葉は省き、武司に直接切り出す。「黒崎社長。例の1億2000万円の件ですが、そのうち返金しますから」武司はにこりと微笑んだ。「その必要はありませんよ。この3年間、私の大事な娘があなたにお世話になりましたから。それに、契約違反なのは我々の方ですので」その言葉を聞いて、匡介のグラスを握る指先がぐっと強まる。これはどういう意味だ?まさか、澪は本当に自分と関係を切るつもりなのか?胸に言い知れぬ動揺が走る。それでも匡介は、必死にその不安をねじ伏せた。澪はただの都合のいい女に過ぎない。それにこの3年、自分は彼女に尽くしてきた。何不自由ない生活を与え、一番いいものを揃えてやった。澪が大人しく言うことを聞いている限り、願いを拒んだことなんて一度もないのだから。名のある関係こそ与えなかったが、自分なりに、澪を傷つけるようなことは一切していないつもりだ。仕事だって一緒で、3年前の世間知らずな学生だった澪を、一人前の仕事ができるようになるまで教育してやったのも自分ではないか。彼女がこの数年間で培った経験は、1億2000万円などではとうてい足りないと思うのは自分だけなのだろうか?それに……名のある関係など、匡介
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第14話

匡介と澪の過去の3年間、彼らがどんな関係だったのか、匡介が澪に何をしてきたのか、武司は既に調べ上げていた。武司は匡介という人物を深く知るわけではないが、彼が最近ビジネス界で巻き起こしている騒動については耳にしていた。日付を辿ると、それはちょうど武司が澪を黒崎家に連れ戻した時期と重なる。今、武司は顔には出さないものの、心の中では全てを悟っていた。手段こそ乱暴だが、匡介は愛娘である澪を本気で大切に思っているのだ。そして澪の方も、はっきりとは口にしないが、どこか憂いを帯びた表情を見る限り、匡介への想いが残っていることは明白だろう。柊グループと黒崎グループは、家柄を見ても釣り合いが取れる。しかし匡介のこの恋愛の扱い方には、武司としても到底賛同できなかった。思わず心の中でため息をつき、「まったく、父親の悪い癖をそのまま受け継いでいるな」と苦々しく思うのだった。そうは言っても、先ほど匡介に向けた感謝の言葉には、嘘はない。この3年間、澪は確かに匡介から多くの庇護を受けてきた。だが、以前ホテルで駿という下劣な男が澪に手を出そうとした場面を思い出すたびに、武司の目は自然と冷たさを帯びる。1ヶ月前、澪が自分の実の娘だと確認してからというもの、武司はふと、二人が初めて出会ったときの光景を思い返すようになっていた。あのとき澪は、駿から逃れるために必死の形相で、思わず自分の足にしがみついてきた。直ちに武司は、駿のバックである明和興産と石原家に対する制裁を水面下で開始する。しかし制裁の途中、部下から、駿が何者かに襲われ、病院に入院しているという報告が入った。自分以外にも駿を潰そうとしている者がいたということに、その時の武司は少し驚いた。そこで調べてみると、裏で糸を引いていたのは匡介の息がかかった人間だったのだ。そもそも、あの日澪を駿のもとへ差し向けたのは、他でもない匡介だったのでは?それでも、匡介に急いで手を出さなかったのは、順を追って叩くつもりだったからであり、柊家という巨大な壁もそう簡単に倒せる相手ではなかったからだ。それなのに、匡介が駿を攻撃したとなれば、澪のために報復したということ以外考えられない。明和興産と柊グループは、戦略的な提携関係にあるというのに。そうなれば、駿に澪を汚させることが匡介の本来の目的ではな
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第15話

このとき匡介は、武司のあまりに距離を置いた態度と、澪の露骨な拒絶に、どうしようもない苛立ちを覚えていた。それに、武司が澪を引き取った以上、この3年間に自分たちの間で何があったのかも、当然把握しているはずだということは、匡介にも理解できている。しかし、先ほど一瞬、匡介は考えていたのだ。武司がこの流れのまま、澪を自分に嫁がせるのではないか、と。結局のところ、家柄もつり合っているのだから。匡介自身は気づいていなかったが、相手が澪ならば、政略結婚もそこまで嫌ではないという気持ちが芽生えていたのだ。だが、ついこの間、自分との関係を断ち切りたいと言い切った澪の顔を思い出すと、あまりに都合の良い幻想のようにも思えてくる。匡介よりも長く生きている武司は、そんな深く眉間にしわを寄せている匡介の表情を見ただけで、彼が何を考えているのか手にとるように分かった。澪の恋愛関係には、もともと口を挟まず自然に任せるつもりでいた。しかし、この匡介という男は恋愛に関してあまりにも疎すぎる。少し手を出さなければ、愛する娘が再び深い悲しみに暮れてしまうのは明白だろう。そこで武司は切り出した。「柊社長、君はなぜ澪が施設で育つことになったのか、理由を知っているかい?」匡介は言葉を詰まらせた。武司から直接この件を振られるとは思っていなかったのだ。澪と一緒にいたこの3年間、彼女の頼みもあって匡介は澪の身辺調査を何度も試みていた。しかし、手当たり次第に関係を洗ってみても、分かるのは子供の頃に何度か売られ、最終的に施設にたどり着いたということだけ。澪の両親については何も手がかりがつかめなかったのだ。だが、現在の武司の娘への愛着ぶりを見ていると、自分たちで捨てたとは思えない。そんな疑問を抱きながら、匡介は静かに首を横に振る。「昔、妻と喧嘩をした時、感情的になった妻がそのまま実家に帰ってしまったんだけど、それが数ヶ月も続いてね。でも、私もプライドが邪魔して、彼女の安全が確認できた後は頭を下げるのも情けないと考えてしまい、気持ちが収まるまでは放っておくことにしたんだ。でも、澪に関しては、仕事に追われて育児にかけられる時間もなく、ベビーシッターに任せっきりだった。ところが現実は厳しく、血のつながらない他人には、どれだけ金を積んでも子供を愛してもらうことなど
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第16話

その言葉に、匡介は思わず反論した。「俺は澪を本気で傷つけるつもりなんてありませんでした」だがその言葉を聞いた瞬間、武司の表情に初めて明確な怒りが浮かぶ。「君は本当に、父親の悪いところを、そっくりそのまま受け継いでいるよ!気が向いたときに高価な贈り物を渡す、それで澪を大事にしてきたって言えるのか?この3年間、澪ははっきりとした関係ももらえないまま君のそばにいた。その間、彼女がどれほど君に尽くしてきたと思っている?君は、澪が金目当てでついてきたとでも思っているのか?それは、違う。彼女はただ君のことが好きで、そばにいたかっただけ。それなのに君は、その気持ちを踏みにじり続けた。この3年間、君にとって澪は一体何だったんだ?呼べば来て、不要になれば捨てるペットか何かだと思ってたんじゃないのか?父親に紹介された見合い相手に会いに行く君を、黙って見送り続けた彼女の気持ちを考えたことはあるか?それとも、彼女は君にすがるしかない存在で、我慢するのが当然だとでも思っていたのか?澪の世界では、この3年間、君がすべてだった。君のことが彼女のすべてだったんだ。だから、澪は一度も不満を口にしなかった……だが君はどうだ?機嫌がいいときだけ優しくし、甘い言葉で繋ぎ止める。だが気に入らなければ……腹痛で苦しんでいる彼女を暴雨の高架の上に一人置き去りにした。深夜には家から追い出し、行き場を失わせた。君を最も必要としていたときに、他人へ突き出した。あの日、澪が私に会わなければ、明和興産のドラ息子に殴られる程度では済まなかっただろうな!それに、君の新しい秘書に嵌められ、澪が製氷室に閉じ込められて死にかけていたとき、君はどこにいた?明和興産の息子に乱暴されかけたとき、君はどこにいた?まるで自分がすべてを掌握しているとでも思っているのか。自分の手の届かないことなど何もないと?柊社長。胸に手を当てて考えてみろ。君のやってきたことは、本当にまともな男のすることか?それが、君の愛している女への態度なのか?」武司は、自分の人生の中でこれほど一息に言葉を吐き出したことはなかった。しかし、最愛の娘が味わった悔しさを思うと、言わなければ気が済まなかったのだ。「いいか?二度と、私の娘を傷つけるな。次があってみろ、ただじゃおかないからな!」武司はグラスを一気に飲
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第17話

というのも、峰行自身が「愛」というものがどういうものか、正しく理解していなかったから。だからこそ澪に対して匡介は、強引で、独裁的で、支配的だった。彼女には自分の言うことを聞いてほしかったし、余計な波風を立ててほしくなかった。ただ大人しく自分のそばにいてくれれば、それでよかったのだ。ここ数年、澪は仕事でもプライベートでも、文句の付けようがないほど、匡介に対して献身的に仕えていた。だが、どれだけ穏やかな人でも感情はあるもので、澪だって例外ではない。匡介のもとにいても愛されている実感はなく、二人の未来も描けなかった。だから、彼女は離れることを選んだのだ。武司からの言葉で、匡介の頭もようやく少し冷えていた。そのことに関して、匡介も何も言い返せず、自らの非を認めるしかなかった。だが、莉奈が裏でそんな卑劣な手を使っていたことなど、露ほども知らなかった。まさか、製氷室に閉じ込めて凍死させようとしていたなんて。幸いスタッフが救い出してくれたそうだが、もしそうでなければ、自分は今ごろ澪に会うことすらできていなかったはずだ。莉奈を社長秘書にしたのも、澪が嫉妬して、自分のところに謝りに来ればいいという、ただのあてつけに過ぎない。公衆の面前で抱き寄せたり、送迎をしたりして刺激はしたが、莉奈と一線を越えたことなど一度もなかった。結局、この3年間、匡介には澪以外の女性は誰一人いなかったのだ。たとえ関係に名前がなかったとしても、匡介の心も目も、澪だけだった。澪に出会ってからというもの、匡介は他の女性に一切興味を持てなくなっていたのだ。そもそも澪は、まだ何も知らない白紙のような存在だった頃から、ずっと匡介のそばにいた。この数年で彼女に重ねられたすべての色は、匡介自身の手によって染められたものだった。匡介は言い知れぬ苛立ちから、会場から抜け出して庭をあてもなく歩いていた。すると、ブランコに腰掛けて風に当たっている澪を見かけた。金色のドレスに身を包み、ティアラを載せた彼女は、まるで地上に舞い降りた精霊のように美しい。その姿を目にした途端、最近ずっと胸を占めていた怒りの炎が、嘘のように消えていった。匡介は思わず見惚れ、小さく声を漏らす。「篠原……」本当に、随分と会っていなかった気がする。呼びかけに気づいた澪は、何ひとつ情が宿
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第18話

匡介から急に下の名前で呼ばれ、澪は思わず眉をひそめた。決して、初めて呼ばれたわけではない。むしろ、二人が付き合い始めた当初、匡介は好んで下の名前を呼んでいた。過去の自分は、匡介から下の名前で呼ばれるたびに、心を奪われていた。やがて、澪が社長秘書として匡介の側に立つようになると、匡介は自分を「篠原」と呼ぶようになった。それでも、ベッドの上の時間だけは、彼は優しく、何度も澪と呼んでいたのだが。しかし、まぁ、この演技力は賞賛に値するだろう。自分たちの間にはあれだけのことがあったのに、まるで何事もなかったかのように平然と近況を尋ねるなど、呆れてものも言えない。澪は自嘲気味に口角を上げ、ふっと笑みを漏らしてから、匡介を見つめた。「お陰様で、楽しく過ごしてます。何せ、柊社長の元から離れられたんですもの。嫌なことなんて何もありませんから」その言葉に匡介の心はちくりと痛んだ。彼女がこう言うということは、自分の側にいた時はあまり幸せではなかったのか?いや、確かにそうだろう。かつて自分は彼女を深く傷つけてしまったのだから、彼女が幸せだったはずがない。「俺は最近、全然調子が上がらないんだ。澪、お前がそばにいてくれないと食事も喉を通らないし、眠りも浅い。それに、他の秘書たちの働きぶりも以前より落ちた気がする」匡介は一言ずつ、愚痴をこぼすように身の上を語ったが、今の澪の心には何も響かなかった。「柊社長のご要望通り、私の仕事はすべて白川さんに引き継ぎましたよ?仕事の流れから日常生活の習慣まで、教えるべきことは教え終えています。それを彼女がどの程度習得できたかは、私の知ったことではありませんので。もしそのことで、私を責めるというのであっても、私は非を認めるつもりはありません。それに、子会社の代表権についても期限が来れば契約通りに書類を送りますので、ご心配なさらないでください」心が痛んだ匡介は、手を伸ばしかけたが、澪に冷ややかな目つきで避けられた。しかし彼は強引に引き留めることなく、切実な様子で頭を下げる。「澪、すまなかった。白川に仕事を教えろと言ったのは、俺の目の前でお前がまるで関心がないような素振りを見せるのが耐えられなかったからなんだ。彼女を使って気を引こうとした、そんな卑怯な手段だったよ。苛立ちでもいいから、俺に気持ちを向
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第19話

「匡介さん、私は3年間もあなたの都合のいい女でいたんですよ?だから、もううんざりなんです。3年前、どん底にいた私を助けてくれたことや、ずっと贅沢な暮らしをさせてもらったことには感謝しています。だから、この3年間、秘書として尽くしてきたことと、この前父が渡した1億2000万で、全てを終わりにしていただけませんか?ただ、私が何も分かっていなかっただけでした。私は本当の愛情を見つけたと思っていたのに、あなたは私のことを、単に仕事のできる秘書、そして都合のいい女としか思っていませんでした。それでも、世間知らずな私は、あなたの甘い言葉を信じて、将来を夢見ていたんです。でも、夢からはもう醒めました。だからこれからは、完全に縁を切ります。二度と会うこともないでしょうから」澪はそう言い捨ててブランコから立ち上がると、振り返ることなくその場を去った。呆然とその場に立ち尽くし、彼女の後ろ姿を見つめていた匡介だったが、初めて追いかける勇気が出なかった。澪が庭の小道を歩き、ホテルを出ると、高級車のそばで武司が待っている。澪はスカートの裾をそっと持ち上げ、歩み寄った。「お父さん、出るなら私に言ってくれればよかったのに」微笑んで澪を見つめる武司。「会場が少し暑かったから、先に出て外の空気を吸っていたんだよ。それに、久しくこういう場には出ていなかったからな」今日のこの食事会は、本来なら武司が澪を東都の上流社会へ正式に紹介するために、わざわざ設けたものだった。しかし今となっては、その場の主役であるはずの二人とも、すでに席を立ち、会場を後にしてしまっていた。澪は少し心配になった。「主催した私たちが先に帰っちゃったら、あまり良くないんじゃないかな?私、挨拶しに戻るよ。黒崎家は礼儀がなってないって思われても困るしね」武司はしっかりした娘を見て、感慨深くなった娘の耳元の髪をそっと直して言う。「いや、帰ろう。お前は黒崎の娘なんだ。誰かの顔色を窺う必要なんてないんだよ」澪の瞳が潤んだ。これが家族の支えというものなのだろうか?昔は一人で戦い、余計な摩擦を避けるために他人の機嫌ばかり窺っていた。でも、黒崎家に戻った今はもう違う。父は自分に「人の顔色など窺うな」と言った。そうだ。最初からそうであるべきだったのだ。……黒崎邸への帰り道、澪の浮かな
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第20話

澪は首を振って、慌てて断る。「そんなことしなくていいよ、お父さん。柊社長は確かに横暴だけど、そこまでひどい人間ってわけでもないから。ただ、昔の私が馬鹿だっただけ。あの人のそばに3年もいたなんて……本当、目が覚めるのが遅すぎたよね」武司は澪を見て、一つ溜息をついた。「澪、まだあの男のことが好きなんだろ?お前は私と綾の娘だ。だから、私たちと一緒で恋の仕方も頑固で一途なんだよ。今の澪があいつを許せないのは分かるけれど、完全に忘れることだって難しいんじゃないかな?」澪は黙り込んだ。つまり、それが答えなのだろう。武司は澪の頭を撫でて、優しく言った。「澪、お前がどんな決断をしようと、お父さんはお前を支持するよ。まあ、もし本当に離れられないっていうのなら、無理に別れることもないんだ。だって、柊家と黒崎家は、一応同じくらいの家柄だからね」そうは言うものの、澪には父がまだ柊家を少し毛嫌いしているような気がした。人生とは、本当におかしなものだと思う。匡介のそばにいた頃、一番願っていたのは同じくらいの家柄を得て、誰の目も気にせず堂々と一緒にいること。当時の柊家が、孤児の澪を妻として受け入れるはずもなかったから、二人の関係は、一生誰にも明かせないままで終わるはずだったのだ。それなのに、匡介に見合う家柄になった今、澪はもう、彼と永遠に添い遂げたいとは考えていない。武司の話は続いた。「柊社長は確かに父親に似てひねくれたところはあるが、そこまで救いようのない男じゃない。ただ、幼少期の家庭環境のせいで、人を愛することや、どう想いを伝えるかが分からないだけなんだと思うよ。あの家は権威主義の塊だから、父親は柊社長に対して昔から厳しく、気に食わなければ手をあげることもあったらしい。あの人も一線を退いたが、権威を振りかざす性質は変わっていないから、柊社長にとっても、結婚と恋愛は最初から別物として認識されていたのかもしれないよ。だから彼の中では、愛するということが、自分のものにし、心を開き、経済的に支えることとイコールだったのかもな。澪、実はあの3年間、二人で過ごした良い思い出も少しはあったんじゃないか?確かにあの男は強引だし、口も悪い。だけど本当に救いようのない人間だったら、私の大切な娘が3年も離れられずにいるわけがないと思わないかい
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