それに、匡介が口にした「社長秘書」とは、もちろん莉奈のことではなく、遠回しに澪のことを言っている。莉奈の仕事ぶりが酷いことは誰もが知っており、黒崎グループとの重要なプロジェクトを任せたりするはずがなかった。しかし、澪が匡介との昔話を避けたがっていることを見抜いた彼は、あえて話をすり替えたのだ。匡介のやり方を熟知している澪からすれば、そのプロジェクトを秘書室の誰かに任せるのではなく、最も信頼している、かつ損な役回りとなる誠に押し付けることは明らかだった。澪は少々苛立ちながら、何とか気持ちを落ち着けて言った。「まさか、そんなに社員思いの方だったとは、存じ上げませんでした。では、柊社長、私はどこで仕事をすればよろしいですか?」明らかに不満そうでいながら、妥協せざるを得ない澪の様子を見て、匡介は面白くなった。彼は澪が以前使っていたデスクを指差す。「あそこはどうだ?社長室から一番近いから、連絡を取りやすい」澪は眉をひそめた。なんだか腹がたつ。3年かけてやっと離れたはずのその席へ、自分はまた戻らなければならないのか?躊躇う澪を見て、匡介は眉をくいっと上げ、冗談っぽく続ける。「もし篠原さんが、あそこでも遠すぎると感じるなら、俺のデスクを半分貸してもいいけどな」それを聞いた瞬間、澪だけでなく、周りで聞き耳を立てていた人々の瞳も驚きで見開かれた。自分たちはここから離れるべきでは……?しかし、社長が立っている以上、先に腰を下ろすわけにもいかない。彼らは興味津々の顔で、事の成り行きを固唾を飲んで見守る。匡介ならやりかねないと感じた澪は、すぐに自分の荷物を例のデスクに放り投げ、悔しさを滲ませながら言った。「お気遣いありがとうございます。こちらの席で十分ですので」それを見て、匡介の口角が少し上がった。澪はもう以前の、言いなりでひたむきな社長秘書ではない。感情を隠さず、こうして逆らってくる彼女の変化が、今の匡介には新鮮だった。目的を達成した匡介は上機嫌で、まだ周りで固まっている社員たちに目をやった。「全員、自分の持ち場へ戻れ。今月はよくやった。今のところ、最も重要なのは黒崎グループとの提携だから、他の案件は少し優先度を下げても構わない。期限については追って杉本経由で伝えるから、進捗管理はあいつに連絡しろ」要するに、面倒事を
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