日本支社への異動が正式に決まり、二人の部屋には少しずつ段ボールが増えていった。こうやって荷造りしたのも2年ぶりだ。あの頃は無我夢中でいらないものも捨て自暴自棄だったと思い出す。 「……なんだか不思議ですね」 圭は本棚から一冊のノートを取り出す。 そこには、海外へ来たばかりの頃に描いたデザイン案が残っていた。 まだ右手が思うように動かず、左手で描くことにも慣れていなかった頃。 線は今よりも不安定で、何度も書き直した跡がある。涙か汗かわからない染みもある。それを見るたび悔しかった感情を思い出す。 「これ、こっちにきて最初の頃のだろ」 「はい……」 圭は少し笑った。 「この頃は、本当に左手で描けるようになるなんて思ってなかったです」 海斗は隣からそのノートを見る。 「でも描いた」 「……」 「諦めなかった」 その言葉に圭は少し目を伏せる。 二年前。 右手を失ったような感覚になり、自分にはもう何もできないと思っていた。 宙の元を離れても、一人では何もできない。 そう思い込んでいたけれど。 「海斗さんがいたからです」 圭が言うと、海斗は少し困ったように笑う。 「俺だけじゃないよ」 「え?」 「圭自身が頑張ったんだ」 その言葉が、今でも嬉しかった。 宙はいつも言った。できない。無理だ。自分がやった方が早い。俺がいないと何もできない。 でも海斗は違った。 失敗しても、時間がかかっても、圭自身ができるようになるまで待ってくれた。 「……この部屋も片付けるんですね」 圭は周りを見渡す。初めて海外で暮らした場所。 仕事から帰ってきて、二人で食事をした。時には仕事で疲れて会話もなく眠った。 右手の治療の日、不安で眠れない夜もあった。その時海斗がそばで寄り添って寝てくれたことを思い出す。 「寂しいか?」 海斗が聞く。圭は少し考える。 「寂しいです」 正直に答えた。 「でも……」 窓の外を見る。 「帰る場所があるって思えるのも、初めてです」 海斗は静かに微笑んだ。 「……成長したな」 「子供じゃないですよ」 「知ってる」 二人で笑う。その笑い声が、部屋に響いた。 荷物をまとめ終えた夜。 簡単な夕食を取りながら、圭は
Última atualização : 2026-08-07 Ler mais