ふと、圭は夢を見た。本当に眠かったのだろう。すぐ夢と分かった。 海斗のような時差ぼけはない。それでも、日本へ戻るまでの慌ただしさや新しい生活への緊張で、身体の奥には疲れが残っていた。 だからだろうか。眠りに落ちた圭は、深いところへ引き込まれていった。 これは……夢だ。すぐにそう分かっていた。 そこは、現実にはないような、ふわふわとした空間だった。 自分がどこかで眠っている。けれど、自分の意思では動いていない。 身体は勝手に動き、決められた場所へ進んでいく。 まるで、自分自身が映画の中に入り込んで、その映像を外側から見ているようだった。 圭は周囲を見回した。そして気づく。 ……ここは、今じゃない。今の夢を見ているわけではないんだ。 過去だ。過去の場面だ。 覚えのある空気。覚えのある匂い。 圭は作業着を着ていた。まだ真新しい。ヘルメットもかぶっている。 周囲には大勢の作業員がいて、建物の骨組みが姿を現している。 「……ここは」 美術ホールの別館。自分のデザインが採用され、建築が進んでいた頃だ。 毎日のように現場へ足を運んでいた。夢の中の圭は、軽い足取りで歩いている。 右手も自由だった。その右手で資料を持ち、指示を出し、時には作業員に声をかける。 何の不自由もない。 その光景を見ている圭の胸がざわついた。 「……ダメだ」 声にならない声が頭の中に響く。 「ダメだ、進むな……」 けれど、身体は止まらない。 まるでフィルムが決められた速度で回り続けるように、時間は進んでいく。 天気のいい日だった。青空が広がっていた。 ところが突然、空が暗くなった。激しい雨が降り出す。 風まで強くなり、現場は一時騒然となった。 やがて雨は嘘のように上がった。空には再び陽が差し込む。 「変な天気だな」 誰かが笑った。 圭も周囲の人間に挨拶をされ、それに応える。 いつもと変わらない。何も変わらない一日。 ……そのはずだった。 圭の鼓動が少しずつ速くなる。 「……ダメだ」 分かっている。この先に何が起こるのか。 身体が覚えている……空気。匂い。風の流れ。 そして、あの時の感覚。ふと左手の時計を見る。 午後一時半を少し過ぎた頃。昼休憩が終わったばかりだっ
Última atualização : 2026-08-25 Ler mais