Todos os capítulos de 捨てたはずの恋人が今さら執着してきますが、僕は自分の道を描く: Capítulo 51 - Capítulo 54

54 Capítulos

第五十一話

 あれから一ヶ月。 渉は大学の試験に追われていた。 講義に出て、ノートをまとめ、過去問を探して、空いた時間があれば図書館へ行く。 単位を落とすわけにはいかなかった。 親から仕送りをもらって大学へ通わせてもらっている以上、遊んでばかりいるわけにもいかない。 そのため、バイトにもほとんど入れなかった。 週一回。それが、この一ヶ月の渉にとって唯一のバイトの日だった。 久しぶりに店へ来た渉は、休憩時間になると賄いを食べた。「うま……」 思わず声が漏れる。久しぶりにまともな食事をした気がした。 試験期間中は食費すら惜しくなって、コンビニのおにぎりやパンで済ませる日も多かった。 それだけに、店の賄いはありがたい。 温かい料理を腹に入れると、ようやく身体の奥から力が戻ってくるようだった。「おい、例の……宙さんが来てるよ」 突然、明先輩が顔を出した。「……え?」「宙さん」 その名前を聞いた瞬間、渉の箸が止まった。 チーフもこちらを見る。 どうやら明先輩から、渉があの男から名刺をもらったことを聞いているらしい。 ……言わないでほしかった。 そう思ったが、今さらだった。こういう話は広まるのが早い。「さっき俺が水を持っていったんだけど、今日は一人だ」 明先輩がニヤニヤする。「それで、渉を呼んでくれって」「……僕を?」「おい、指名じゃんかよ」 明先輩が肘で渉の膝をぐいぐい押してくる。「いや、その……」 渉は困った。 あれから一ヶ月。 結局、宙の家には行かなかった。 連絡もしなかった。事実上、無視していたようなものだ。「何度か来ていたみたいだぞ」 チーフが言った。「……そうなんですか」「ああ」 渉は少しだけ気まずくなった。それでも、今さら逃げるわけにもいかない。 チーフは渉の肩を軽く叩いた。「まだ君は学生だ。何かいいきっかけになるかもしれない」「……」「可愛がってもらいなさい」 その言葉に押されるように、渉は立ち上がった。 制服の襟元を整える。深く息を吸う。 仕事だ。ただ、それだけだ。 そう自分に言い聞かせて、VIP席へ向かった。 ドアの前で一度だけ姿勢を正す。そして、ゆっくりと扉を開けた。「失礼します」「……ようやく会えたね」 そこには宙が一人で座っていた。 以前のように、隣に若い男はいな
last updateÚltima atualização : 2026-09-01
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第五十二話

 その夜。 宙は渉の退勤時間まで待っていた。店を出ると、すでにタクシーが用意されている。「乗りなさい」「……はい」 渉は後部座席に乗り込んだ。窓の外を眺める。 高層ビル。煌々と輝く看板。夜でも明るい街。 田舎では見たことのない景色が次々と流れていく。 やがてタクシーは、高級マンションが立ち並ぶ一角で止まった。「ここ……?」「ああ」 宙が先に降りる。渉も続いた。 マンションの中へ入り、エレベーターに乗る。扉が閉まる。 ふたりきりになった。思ったよりも狭い。 いや、正確には狭く感じる。宙との距離が近い。 渉は無意識に一歩後ろへ下がった。 すると宙が、その距離を詰めるように腕を伸ばした。「……」 身体が触れる。香水の匂いがした。 店では気づかなかった、少し甘い香り。渉は戸惑いながら顔を上げた。 エレベーターのガラス越しに、東京の夜景が見える。 無数の光。まるで街そのものが星空になったようだった。「……綺麗」「夜景が?」「……はい」 宙は渉を見る。「君の瞳も綺麗だよ」「……」 じっと見つめられる。その視線に、渉はまた身体を固くした。「……代わりになるな」「え?」「なんでもない」 宙が笑った。そして、不意に渉の唇へ自分の唇を重ねた。 温かかった。微かにワインの味がする。 渉は驚いた。けれど、なぜか拒むことができなかった。 むしろ……胸の奥に張り詰めていた何かが、ぷつりと切れた。 涙が頬を伝う。「……え?」 自分でも、なぜ泣いているのか分からない。「なんで泣いてるんだい?」「……なんでも、ないです」 宙の親指が、右目から流れた涙を拭った。「今夜は泊まれるかい?」「……」「まあ、ここから帰るのも大変か」 返事をする前に、エレベーターが止まった。 扉が開く。 渉はしばらく動けなかった。そして、小さく答えた。「……はい」 部屋に入る。広い玄関。広いリビング。大きな窓。そして、カーテンの向こうに広がる東京の夜景。 明かりをつけなくても、街の光だけで部屋の輪郭が分かるほどだった。「……すごい」 渉は思わず呟いた。 自分が暮らしている部屋とは、何もかも違う。けれど、景色に見惚れている暇はなかった。 背後から宙の腕が回ってきた。「君、地方出身だろ?」「……はい」「都会に慣れようと
last updateÚltima atualização : 2026-09-02
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第五十三話

「ああっ……」 広いベッドの上に、渉は乾き切っていない身体をうつ伏せに押し倒された。 まだ浴室の温もりが身体の芯に残っている。 髪の先からは、わずかに水滴が落ちていた。首筋や肩にもまだ湿り気が残り、シーツに触れた肌がひやりとする。 その上から宙が覆い被さる。温かい。 身体と身体の距離が近くなり、渉は思わず息を止めた。 身体がベッドに沈む。 その瞬間、ふわりと甘酸っぱい香りが立ち上った。 自分の身体からも、同じ香りがする。 渉は少しだけ顔を横に向け、自分の腕に鼻を近づけた。「……」 知らない香りだった。甘いけれど、ただ甘いだけではない。 どこか爽やかで、それでいて肌に残るような柔らかさがある。 香水のようでもあり、石鹸のようでもある。 渉が今まで使ってきた安い石鹸とは、明らかに違った。 自分からこんな匂いがする。 その事実が、妙に現実感を失わせていた。 シーツにも、その香りが残っている。ふっと鼻先をくすぐる。 それだけで、さっきまでいた浴室の光景が鮮明に蘇ってきた。 宙の浴室は、渉がこれまで使ってきたものとは何もかも違っていた。 広いバスタブ。 身体を伸ばしても余裕のあるほどの大きさ。 そして、浴室全体を満たしていた高級な香水のような香り。 渉は最初、落ち着かなかった。 こんな場所に自分がいることそのものが場違いに思えた。 けれど宙は、そんな渉を急かさなかった。 バスタブの中で、渉の身体を丁寧に洗ってくれた。泡を立てて、ゆっくりと。肩から腕へ。 背中へ……そして……疲れて力の抜けた身体を労わるように。 渉は、されるがままになっていた。恥ずかしさはあった。 けれど、それ以上に不思議な感覚だった。 誰かにこんなふうに世話をされることなんて、ほとんどなかったからだ。 いつもならシャワーだけで済ませている。 だから、身体を洗ってそれで終わり。 使っている石鹸だって、近所の店で安く買ったものだ。 香りなど気にしたこともなかった。風呂は身体を綺麗にするためのもの。 ただ、それだけだった。 けれど、この浴室にいると、それすら違って感じられる。 石鹸も。シャンプーも。浴槽も。タオルさえも。 何もかもが、自分の知っているものとは違う。そして何より、肌に残ったこの香り。 湯から上がったあとも消えず、身体を包み
last updateÚltima atualização : 2026-09-03
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第五十四話

 渉はうつ伏せになった。 けれど、胸の奥で激しく鳴っている心臓は、なかなか落ち着いてくれなかった。 身体の内側まで熱を持っているような感覚がする。呼吸を整えようとして、ゆっくり息を吸う。そしてふぅ、と吐く。 それでも鼓動は耳のすぐそばで鳴っているように大きく感じられた。止まらない、激しい鼓動が。 そして、その熱を感じているのは渉だけではなかった。 背中越しに、宙の体温が伝わってくる。すぐ近くにいる。 その事実を意識するだけで、また心臓が大きく跳ねた。 渉は目を閉じた。 久しぶりだった。こんなふうに、人の温もりに包まれるのは。 東京へ出てきてから、ずっと一人だった。 大学でも、サークルでも、バイトでも、それなりに人と話してきた。 それでも、自分の弱さを預けられるような場所はなかった。 だからなのかもしれない。 今になって、堪えていたものが一気に込み上げてきた。 目の端から、涙がこぼれる。「……」 頬を伝って落ちた涙が、シーツに小さな跡を残した。「大丈夫かい?」 渉は答えようとした。けれど、声が出てこない。 何が大丈夫なのか、自分でも分からなかった。 苦しいわけではない。怖いわけでもない。 ただ、今まで張り詰めていたものが、少しずつほどけていく。 その感覚に、自分自身が戸惑っていた。 しばらくしてから、渉は小さく頷いた。「……はい」 ようやく、それだけを返す。声は少し震えていた。それでも息はできる。 さっきまで速かった心臓の鼓動も、少しずつ普段の速さへ戻っていく。 大丈夫。 そう自分に言い聞かせるように、もう一度ゆっくり息を吐いた。 すると、宙の手が渉の手を探すように伸びてきた。 指先が触れる。そして、そのまま手を握られた。「……っ」 途端に、また鼓動が速くなる。 さっきまで落ち着きかけていたはずなのに。胸の奥が大きく跳ねる。渉は握られた手を見つめた。 その手の温かさが、妙に鮮明だった。 宙は何も言わない。ただ、手を握っている。その温もりを感じながら、渉は目を閉じた。 まだまだ……。 まるで、身体のほうがそう告げているかのようだった。 まだ、完全には落ち着けない。まだ、この温もりに慣れるには時間が必要なのだと。 それでも渉は、その手を振りほどかなかった。ゆっくりと渉は仰向けになり宙と目を合わ
last updateÚltima atualização : 2026-09-04
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