あれから一ヶ月。 渉は大学の試験に追われていた。 講義に出て、ノートをまとめ、過去問を探して、空いた時間があれば図書館へ行く。 単位を落とすわけにはいかなかった。 親から仕送りをもらって大学へ通わせてもらっている以上、遊んでばかりいるわけにもいかない。 そのため、バイトにもほとんど入れなかった。 週一回。それが、この一ヶ月の渉にとって唯一のバイトの日だった。 久しぶりに店へ来た渉は、休憩時間になると賄いを食べた。「うま……」 思わず声が漏れる。久しぶりにまともな食事をした気がした。 試験期間中は食費すら惜しくなって、コンビニのおにぎりやパンで済ませる日も多かった。 それだけに、店の賄いはありがたい。 温かい料理を腹に入れると、ようやく身体の奥から力が戻ってくるようだった。「おい、例の……宙さんが来てるよ」 突然、明先輩が顔を出した。「……え?」「宙さん」 その名前を聞いた瞬間、渉の箸が止まった。 チーフもこちらを見る。 どうやら明先輩から、渉があの男から名刺をもらったことを聞いているらしい。 ……言わないでほしかった。 そう思ったが、今さらだった。こういう話は広まるのが早い。「さっき俺が水を持っていったんだけど、今日は一人だ」 明先輩がニヤニヤする。「それで、渉を呼んでくれって」「……僕を?」「おい、指名じゃんかよ」 明先輩が肘で渉の膝をぐいぐい押してくる。「いや、その……」 渉は困った。 あれから一ヶ月。 結局、宙の家には行かなかった。 連絡もしなかった。事実上、無視していたようなものだ。「何度か来ていたみたいだぞ」 チーフが言った。「……そうなんですか」「ああ」 渉は少しだけ気まずくなった。それでも、今さら逃げるわけにもいかない。 チーフは渉の肩を軽く叩いた。「まだ君は学生だ。何かいいきっかけになるかもしれない」「……」「可愛がってもらいなさい」 その言葉に押されるように、渉は立ち上がった。 制服の襟元を整える。深く息を吸う。 仕事だ。ただ、それだけだ。 そう自分に言い聞かせて、VIP席へ向かった。 ドアの前で一度だけ姿勢を正す。そして、ゆっくりと扉を開けた。「失礼します」「……ようやく会えたね」 そこには宙が一人で座っていた。 以前のように、隣に若い男はいな
Última atualização : 2026-09-01 Ler mais