جميع فصول : الفصل -الفصل 20

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第10話「再会と、俺が選んだ道」

 監視モードに切り替えたモニターには、石造りの通路を慎重に歩く一人の老人の姿が映っていた。 その姿を見た瞬間、俺は凍りつく。「……は?」 映っていたのは、前世――社畜として死ぬ直前に、俺に声をかけてきた、あのホームレスのおじいさんだった。 まさかこんな形で再会するとは。「ゼトス!」『はい、主!』「そのおじいさんの周囲から魔物を遠ざけろ! 絶対に手を出させるな!」『御意!』 ゼトスは即座に行動に移った。 そのやり取りを見ていたレイラが、不思議そうに俺へ問いかけてくる。「|主《マスター》、どうかされたのですか? あの人間がなにか?」「別になにかってわけでもないし、そんな知り合って長いわけでもないんだが……あのおじいさんには、変わろうと思う“きっかけ”をもらったんだ」「なるほど、今の|主《マスター》があるのはその人のおかげというわけですね」「ある意味な。ちょっと、行ってくる」 俺は浮遊したまま、老人の元へと向かった。 ◆  久しぶりの対面。 老人は俺の姿を見た途端、驚愕の表情を浮かべ、後ずさる。「おじいさん、久しぶりだな」 俺は穏やかに声をかけると、言葉を続けた。「残念なことに、老い先が短かったのは、俺の方だったよ」 その言葉に、老人は怪訝な顔をしつつも、徐々にその目を見開き――「まさか……あの時の……!」 俺は静かに頷いた。「魔物払いはしてある。出口に向かいながら、少し話しませんか?」 並んで歩きながら、俺はあの後に起こったこと――死んで魔王として転生したこと、このダンジョンを任されたことなどを簡単に説明した。 すると、老人も語り出した。「わしはあの地震の時、偶然安全な場所におってな……命だけは
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第11話「資源と欲望と、ダンジョン経済」

 このダンジョンが生まれてから、はや数か月――。 ダンジョン「双角の迷宮」は、日に日に拡張され、今では十階層を数えるまでになっていた。  最下層である十階層には、オーガキングを中ボスとして配置済み。巨体に見合わぬ俊敏性と、重魔力をまとった打撃は、並の冒険者では手も足も出ないだろう。 それだけじゃない。 最近の発見で、さらに興味深い事実が判明した。「どうやら、冒険者が戦闘で使う“魔力”ってやつ……あれ、ダンジョンで消費されると経験値として換算されてるっぽいんだよな」 そう、敵を倒さなくても、戦闘行動そのものが“経験”としてダンジョンに蓄積される。 つまり、人を殺さずともダンジョンは育つ。魔素の流れが、そういう仕組みになっているらしい。 だから、俺は思い切って方針を変えた。 戦いに来た冒険者には報酬を――それも“ゲームっぽく”出してやることにした。 週に一度、特定の場所に中級宝箱。 月に一度、上級宝箱。 このちょっとした“ご褒美イベント”が功を奏したのか、ダンジョンの知名度は爆発的に広まった。  探索にくる冒険者の数は日々右肩上がり。配信されてる効果もあってか、SNSではハッシュタグ「#双角チャレンジ」が連日トレンド入りしている。 今日も、俺はモニターの前でそんな様子を見守っていた。「……さて、そろそろ宝箱の更新タイミングかな」 そう呟いたところで、隣に控えていたレイラが静かに口を開く。「|主《マスター》。どうして人間たちは、こうも懲りずに攻略しようとするのでしょうか?」「ん? ああ……そうか。レイラたちは、人間界のことを知らないんだったな」 俺はモニターから目を離し、少しだけ説明モードに切り替えた。「人間界じゃ、もうまともな資源ってほとんど枯渇しかけててな。ダンジョンから得られる鉱石や植物は、純度が高くて希少性も高い。高額で取り引きされるってなれば、そりゃあ、欲しがるわけだ」「資源……です
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第12話「魔王とダンジョンと資本主義」

 記事の見出しが、視界の中で点滅していた。『冒険者組合と数社の大企業が“双角の迷宮”制圧に向け、攻略を正式に発表』 その文言を見た瞬間、俺は思わず眉をひそめる。「遅かれ早かれくるとは思ってたけど、やっぱりきたか……」 レイラが傍らで静かに画面を覗き込む。「|主《マスター》、ついに動き出しましたか?」「ああ。組合も企業も、このダンジョンを奪いに本腰入れてきたってことだ」 ――だが、そこでふと疑問がよぎる。「なぁ、レイラ。ちょっと確認したいことがあるんだが」「なんでしょう?」「例えば……この“ダンジョン”のコアって、俺自身なわけだよな? 他のダンジョンみたいに、誰かがダンジョンコアを制圧できれば所有権を主張できるだろうけど……俺の場合ってどうなるんだ?」 人間だった頃の知識では、世界中で確認されている魔王の数は片手で数えるほど。そのうち、実際に倒されたのは一人だけ。そしてその魔王のいたダンジョンは、今も消滅せず、国家管理下で運用されている。「俺が知ってる魔王のダンジョンは、魔王が倒されてもダンジョンが消えなかったんだ。例外ってあるのか?」 レイラは首を横に振る。「例外はありません。ダンジョンコアが破壊されれば、そのダンジョンは確実に消滅します。ただし……|主《マスター》のように“ダンジョンコアを取り込んだ魔王”という存在は、私の知る限り前例がありません」「……俺は特殊なタイプってことか」 俺が倒されたら、このダンジョンも消える。そう考えると、さすがに身が引き締まった。 そのとき、ゼトスがコアルームに戻ってきた。「戻りました、主!」 ……ん? なんか様子がおかしい。「って、ゼトス! その肩……怪我してるじゃないか!?」「ご心配なく! ただのかすり傷です! 少々手こずった相手がいただけでして!」 血が滲んでるじゃねえか。俺は急いで回復薬
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第13話「元人間、現魔王。迷いと覚悟の狭間で」

 五階層の中ボス部屋。そこに、男女三人組の冒険者たちがついに到達した。 剣士の男を先頭に、後方に魔法使いの女性、そして重装備を身にまとった大盾持ちのタンク職の男。 息を整えながらも、三人はすでに戦闘態勢だった。部屋の奥には、禍々しい瘴気を漂わせながらマザーウィッチが佇んでいる。 次の瞬間、剣士が地を蹴った。疾風のごとく距離を詰め、マザーウィッチの懐へと踏み込む。刃が風を裂くように振り下ろされるが、マザーウィッチは杖を一振りし、毒霧を纏って後退。 すぐさま魔法使いの女が詠唱を完了させ、火球を連続で放つ。マザーウィッチの逃げ道を遮るように炎が炸裂し、タンクが盾を構えて突進する。連携は完璧だった。 連撃の嵐に、マザーウィッチは防戦一方。距離を取ろうにも、それすら許されない――じわじわと追い詰められていく。 レイラが小さく唸るように言った。 「……なかなか、やりますね」 ゼトスも尾を振りつつ低く唸る。 「さすがに、ただの冒険者とは一線を画してますな」 しかし――マザーウィッチが静かに呪文を唱えると、空間に黒い魔方陣が足元に広がると同時に、空気が軋んだ。 そこから、呻くような声と共に――魔物たちが這い出してくる。 ゴブリン、インプ、ナイトメア、影狼。どれも数は多くないが、奇襲としては十分な効果があった。 タンクの男が咄嗟に前に出て魔法使いの女性を庇い、剣士が切り込むも、数の差で徐々に押されていく。 マザーウィッチは距離を取り、再び瘴気を撒きながら幻術を重ねていく。フィールドの霧が濃くなり、冒険者たちの視界が奪われていく。 やがて、魔法使いの女がふらりと膝をついた。 「もう、魔力が……っ」 タンクの男が彼女を支え、後退しようとするが、入口に続く扉は微動だにしない。 ゼトスが目を細めた。 「主、こやつら逃げるつもりではないでしょうか?」 俺は首を横に振る。「んや。五階層と
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第14話「訓練場にて――魔王、初めての戦い」

 ――翌日。 新たに強力な冒険者が現れることを想定し、俺たちは早速動き出した。「|主《マスター》、調べたところ、ランクアップの条件を満たしているのは、ゴブリンが三体、スケルトンが一体、スライムが二体です」 レイラが報告してくる。 条件を満たす魔物が、思ったよりも少ないのは意外だった。だが、質の高い個体が数体でも進化すれば、ダンジョン全体の戦力は格段に上がる。なにより、この“ランクアップ”という試み自体が、俺にとっても大きな転機になる予感があった。「よし、それじゃあ準備を始めようか」 俺はすぐさまコアルームの一角を拡張し、新たに“訓練場”を作り出す。 広々とした円形の広場。床には魔法陣と連動した制御ラインが走り、壁際には観察用のクリスタルスクリーンがいくつも設置されていた。中央には魔素の循環を制御する柱。まるでゲームのボス部屋のような、荘厳な雰囲気すら漂っていた。「おぉ……」と、ゼトスが感嘆の声を漏らす。「さすがは主。短時間でこの規模の施設を作るとは……」「昔遊んだゲームのステージを真似ただけなんだけどな」 さっそくレイラの指示で、ゼトスが条件を満たした魔物たちを訓練場へ呼び寄せる。個体数こそ少ないものの、どれも一定以上の実戦経験を積んできた個体ばかりだ。緊張感を滲ませながら整列した魔物たちに、俺は静かに告げる。「それじゃあ――始めようか。“ランクアップの儀”を」 俺の言葉と同時に、訓練場の中央に配置された魔法陣が淡く光を放つ。その輝きが、魔物たちの足元に伝播していき、やがて彼らの身体を包むように黒い繭が生まれた。 不気味なほどの静寂が場を支配する。 繭に包まれた彼らの姿は、もはや確認できない。だが、そこには確かに“変化”の兆しがあった。 数分――いや、もっとかもしれない。 最初に崩れた繭は、音もなく砂のように崩れ、中には何も残されていなかった。続いて二体、三体と崩れ――「……失敗、ですね」
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第15話「支配者の資質」

 訓練場に静寂が満ちる。 対峙するのは、進化を遂げた“ゴブリンロード”と“ビッグスライム”――そして、俺。 宙に浮かび、闇の魔力を体内で巡らせながら、じりじりと間合いを測る。敵意はない、だが殺気はある。この空気感が、妙に心地いい。「さあ、来い」 その一言を皮切りに、ゴブリンロードが咆哮を上げて突っ込んでくる。重たい金属音と共に振り下ろされる巨大な斧。その風圧すらも切り裂くかのような一撃を、俺はふわりと滑るように回避する。 次の瞬間、ビッグスライムが圧縮したスライム弾を射出。空気を震わせて飛んできたそれを、俺は魔力を放ち、弾き飛ばす。 ――悪くない。力も、スピードも、進化前とは別物だ。「試してみるか」 俺は手をかざす……いや、正確には“意識を集中”させた。そこから滲み出す黒の魔力は、滑らかに、そして鋭く空間を染め上げる。「《シャドウニードル》!」 足元から飛び出した闇の棘が、ゴブリンロードの脚をかすめる。その反応速度もなかなかだった。すぐさま、次の呪文を紡ぐ。「《ナイトチェイン》」 闇の鎖がうねり、ビッグスライムの身体に巻きつく。数秒間の拘束、それだけで戦況が変わる。 ――攻撃系、捕縛系、妨害系。 闇魔法、万能すぎないか?「楽しいな……!」 思わず笑みが漏れた。俺はくるくると回避しながら、的確にカウンターを差し込む。二体がかりでも攻撃が当たらない。いや、当てさせていない。 訓練場の端で見守っていたレイラとゼトスは、その様子に目を見張っていた。 「……想像以上ですね、|主《マスター》は」 レイラが、わずかに驚きと感嘆を込めて呟く。 「ふむ……レイラ殿。もし主と戦うとしたら、勝てますか?」 ゼトスがふいに問いかける。 レイラは少しだけ沈黙し、慎重に言葉を選ぶように答えた。「“現段階”なら勝てます。ですが……戦闘経験のない今で
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第16話「忍び寄る影、S級の脅威」

 双角の迷宮に、静かな時間が流れていた。 進化を遂げた“ゴブリンロード”と“ビッグスライム”がダンジョンに加わったことで、戦力はさらに安定。新たな配置により死角も減り、増加する冒険者たちにも、以前に比べて柔軟に対応できるようになっていた。 モンスターの巡回ルートはゼトスとレイラが調整しており、各階層に適切な配置がなされている。レアアイテムの再配置や、低階層におけるギミックの更新も進められ、ダンジョンそのものの質は日に日に向上していた。 だが、妙だった。 そんなある日、コアルームで浮かびながらモニターを眺めていた俺は、ふと小さく唸る。「……最近、三階層までの到達率が、やけに高くねぇか?」 統計データによると、ここ一週間で潜った冒険者のほとんどが三階層まで踏破している。たしかに、ここ最近はBランク帯の冒険者が増えてきていたが、それにしても進みが良すぎる。「以前は一階層で迷う者が大半だったのに、最近は一時間もあれば三階層までたどり着く……さすがに変だな」 そのとき、レイラがモニターの調整をしながら口を開いた。「|主《マスター》。冒険者たちは“配信”という手段を使ってダンジョン内の情報を流しているのですよね?」「ああ、そうだな。視聴数稼ぎと収入目的が主だろうけど……」 言いかけて、俺はふと息を飲んだ。「……まさか」 予感が脳裏に閃いた瞬間、俺はネット検索に意識を向けた。 ダンジョンシステムと連動する情報収集モードに切り替え、脳内モニターでブラウザを起動。キーワードは――「双角の迷宮 攻略」。 ページが読み込まれるのに時間はかからなかった。 そして、そこに表示されたのは――「やっぱり、出てやがる……」 攻略情報がまとめられた大型サイトの中に、“双角の迷宮”の詳細な項目ができていた。投稿者や配信者の記録をもとに階層構造が再現されており、出現モンスターの行動パターンや、設置トラップの特徴、さらには“中級宝箱”や“転送トリ
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第17話「決断できぬ魔王、ゼトスの咆哮と、閃きの種」

 どうすればいい。 どうすれば、止められる……? 俺――ヴァルト・ノクスが佇む空間には、張りつめた沈黙が満ちていた。 目の前の管理画面では、S級冒険者たちが軽やかに階層を踏破していく様子が映し出されている。 第二階層。突破。 第三階層。突破。 第四階層――そして、第五階層までも。 さっき配置したばかりの“マザーウィッチ”すら、時間をかけることなく討伐された。 まるでレイドボスのような存在だったはずの魔物が、情報と連携の前には障壁にすらならない。 レイラが無言で隣に立つ中、俺の表情はどんどん険しくなっていった。 くそ、配信された攻略情報を見てるのか? 動きに迷いがなさすぎる…… それに、罠の配置も、魔物の出現パターンも、まるで事前に把握していたかのような手際だ。  見えない“観客”の存在が、まるで背後に渦巻いているような気さえする。  それでもまだ、まだ第六階層がある。  今まで誰も辿り着いていない未知の空間――そこにたどり着いた時、ようやく奴らの勢いを止められるかもしれない。 そう願った、その瞬間だった。「主、申し訳ないッ!」 ゼトスが画面を睨みつけながら、突然立ち上がり、そのまま駆け出す。「ま、まてっ! ゼトス!」 わかっている。このままでは、いずれあの冒険者の剣は俺に向くことを。 ゼトスがそれをなんとしても阻止しようとしていることも。 そんなゼトスの忠誠心が俺の制止を振り切り、転移陣の先へと向かわせた。 レイラは目を伏せ、沈黙を貫いている。 その横顔は、どこか寂しげで、それでいて俺を信じているようにも見えた。 ああ、もう――どうすりゃいいんだよッ! 怒りと焦燥が渦巻き、俺は吠えるように言葉を漏らす。 すると、沈黙を破ったのはレイラだった。「……|主《マスター》、大丈夫です。|主《マスター》は、立派な“魔王
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第18話「青焔の一閃、そして現る災厄の影」

 タンク役の冒険者――筋骨隆々の大盾使いが、正面から飛びかかってきた第二形態のオーガキングと衝突した瞬間、空気が震えた。 ズドォン!! と鈍い音が階層に響く。 が、当然のように── 加速が乗ったあの体格からの突進、質量と速度の暴力に人間の身体が耐えられるわけがない。 案の定、タンクは吹き飛ばされ、石床を転がりながら柱に叩きつけられて停止した。 モニター越しに見てる俺ですら痛みを感じそうだった。 ていうか、生きてんのか……? だが、それを待つ間もなく、前衛の剣士が駆ける。炎を纏ったロングソードが閃光のように振るわれ、オーガキングの肩口を斬り裂いた。 轟音とともに火花が散る。 即座に距離を取る剣士。 冒険者の動きに対応するように、オーガキングも身を翻し、再び膨大な魔力を拳に込めて構え直していた。 だが、ここで後衛が動いた。ヒーラーの少女が魔力を練り、即座にタンクへ回復魔法をぶち込む。 ぐん、と体が跳ねるようにタンクが立ち上がり、再び前衛へと戻った。「全体強化バフ、入れます!」 少女の詠唱が終わると、全員の身体が淡く発光した。攻防両面を引き上げるバフスキル……チームの質が高い証拠だ。 ……思ってたより優秀だ。立て直しが早すぎる。 一度でオーガキングの挙動を把握した彼らは、すぐさま連携を取り直し、再び攻勢に出る。 一手。 また一手。 攻撃が続くたび、オーガキングの巨体が翻弄されていく。 その攻撃の波の中、剣士の剣が再び燃え上がった。その勢いが強くなり、青白い炎へと変化する。 瞬間、剣士が低く構えた。足元に魔方陣が展開され、魔力が渦を巻く。空気が揺らぎ、炎が絞り込まれ剣先へと集まっていく。 ――青焔・一閃。 次の瞬間、剣士の姿が霧のように消えたかと思えば── ズバン!!!! 青い閃光が描いた斬撃は一直線にオーガキングの
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第19話「奇襲の咆哮と、交差する絆」

 霧が巻いたように、ゼトスの巨体がその場から掻き消えた。 それが単なる瞬間移動などではないことを、彼らは即座に理解する。「背後ッ!」 タンク役の冒険者が叫ぶよりも先に、空を裂く鋭い爪が振るわれた。 だが、剣士はすでに反応していた。反射で剣を振り上げ、ゼトスの爪と打ち合うように軌道をずらす。火花が散り、斬撃は逸れ、すぐさま後方から怒声が響く。「シールドバッシュ!」 タンク役の冒険者が盾ごとゼトスに突進し、その巨体を真正面から弾き飛ばした。 ズンッ、とゼトスがわずかによろめく。しかし、巨体ゆえに体勢を崩すことはなく、今度はその巨大な尻尾が唸りを上げてタンクを薙ぎ払う。 衝撃で吹き飛ばされたタンクは床を滑り、壁に背中をぶつけて止まる。床には浅くヒビが入り、その衝撃の凄まじさが窺えた。 だが、タンクの顔に怯えの色はない。痛みに歯を食いしばりながら、すぐに体勢を立て直そうと足を踏ん張る。 ……次は回復か? ゼトスの赤い双眸が、後衛のヒーラーを鋭く捉える。だが、少女は回復魔法を放つ気配もなく、ひたすら魔力を編んで何かの詠唱を続けていた。 回復じゃない……? ゼトスが一瞬判断を迷ったその隙に、吹き飛ばされたはずのタンクが、自力で立ち上がる。 そして剣士と目を合わせると、ふたり同時に武器を投げ合った。 剣士は盾を。タンクは剣を。 空中で交差した装備が、見事にそれぞれの手へと収まる。 何のためらいもなく、それぞれがその武器を構えた。違和感もぎこちなさもない。まるで、最初からそれが“持ち場”だったかのように。「……何……?」 ゼトスが低く唸る。喉の奥から漏れた声には、確かな動揺の色があった。 次の瞬間、飛来する氷の棘――ゼトスの咆哮と共に放たれた氷魔法を、剣士が盾で防ぎ、タンクが雷を纏わせた剣で突っ込む。 ズバッ!と雷光が走り、ゼトスの身体に一本、鮮血の軌跡が刻まれた。
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