All Chapters of 働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜: Chapter 41 - Chapter 48

48 Chapters

第40話「忍び寄る魔王の影」

 どこかモヤモヤとした感情を残しながら、俺はモニターの映像を遠目に眺めていた。  偵察隊が去り、広間には再び魔力の静寂が戻っている。 美月やレイラは口喧嘩を再開し、ゼトスはそれを微笑ましげに眺め、リルベアは退屈そうに椅子を揺らしていた。  ――平和な空気。だが、さっきの悪寒だけはまだ胸にこびりついている。 その時だった。『……ヴァルトよ』 低い声が、頭の奥で直接響いた。 リルベアの念話だ。『お主は今の気配、気付いておったな?』 俺は思わず彼女を見る。だが、リルベアは首を小さく横に振り、何事もなかったかのように欠伸をしている。  外見は完全にいつもの調子。だが、心の内では続ける。『なんでもない顔をして、モニターを見ておれ。他の者には知られるな。ここからは、わらわとおぬしだけで共有する』 俺は小さく頷き、あえて管理画面を操作するふりをした。  マップを拡大したり縮小したり、どうでもいい確認作業を装いながら、心の中だけで問いかける。『……リアも気付いたのか? なんなんだ、さっきの気配』 一拍の沈黙の後、リルベアの声が低く落ちてきた。『……魔王クゼス、であろうな』「……!」  思わず身体が固まる。 魔王クゼス――どこかで聞いたことのある名前だ。  だが、すぐには思い出せない。ぐるぐると思考が渦を巻く。間違いなく聞いたことのある名なのに、記憶の糸が掴めない。 そんな俺を見かねたのか、リルベアが静かに補足した。『ロジル地方――いや、こちらの言い方ではアジア地方か。そのアジア地方で最大規模を誇るダンジョンのマスターじゃ』 その言葉を聞いた瞬間、記憶が一気に繋がった。 人間として生きていた頃、配信でもニュースでも幾度となく耳にした名。  「最強のダンジョンボス」「アジアの魔王と呼ばれる存在」「挑む者は皆帰
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第41話「封印が軋む時、影が笑う」

 リルベアとの念話が途切れても、胸のざわつきは収まらなかった。 俺は無意識に監視画面のウィンドウを拡大し、巡回ルートを確認する。魔物たちは普段通り巡回しているが、平穏に見えるその光景が逆に落ち着かない。「……本当に大丈夫ですか?」 背後から声がかかった。レイラだ。冷ややかな瞳で俺をじっと見つめている。 大丈夫なわけがない。だが、今ここで動揺を見せるわけにはいかない。「ああ、問題ない。ちょっと気になっただけだ」 と笑って誤魔化すと、レイラは一瞬眉をひそめたが、それ以上は追及しなかった。 その瞬間、リルベアが椅子をきしませる音とともに近づき、俺の耳元で小声を落とす。「第十一階層の巡回を強化せい。薄っすらとじゃが、ダンジョン内に妙な気配を感じる」 短く、鋭い声だった。 俺は小さく頷き、レイラの方へ向き直る。「レイラ、巡回を強化する。特に第十一階層を重点的にな」「……分かりました」 彼女はためらいなく踵を返し、部下の魔物たちを引き連れて転移門へ向かった。  ◆  ――第十一階層。  そこはコアルームを模した区画で、現在は第三者を欺くために、リア自身が作り出した“リルベア人形”を美月の魔法で封印している。 見た目だけなら本物と見紛う精巧さで、外部からの干渉を避けるために多重の封印と鎖で覆われている場所だ。 レイラは無表情のまま巡回を進めていた。 彼女の背後には、狼型の魔物と二体のゴーレムが付き従い、足音を石床に響かせる。 緊張感が、徐々に強まっていく。 その頃、監視室では俺がモニターを凝視していた。 すると、俺の魔力探知が急速に近づく存在を察知した。「……来るぞ」 思わず呟き、すぐにレイラへ通信を飛ばす。『第十一階層に向けて外部の魔力反応が急接近してる! 注意しろ、敵は近いぞ』『了解です』 レイラの
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第42話「憤怒の咆哮、魔王vs魔王」

 少しの沈黙が流れた。 レイラは剣を払うと、血を振り落とし、ゆっくりと踵を返す。 回廊には、鉄の匂いが鼻を刺し、石床に広がる赤黒い染みがじわじわと広がっていた。『とりあえず、一旦戻りますね』 淡々とした声。いつもと同じ口調だった。 だが、俺はどこか胸騒ぎを覚えながらモニターを見ていた。  ――こういう時の嫌な予感は、当たる。 回廊の奥に、突如として巨大な魔法陣が展開されたのだ。 紫がかった光が脈動し、回廊全体を妖しく照らし出す。空気が一瞬で張り詰め、魔力が渦を巻く。「は?」 リルベアが短く声を漏らす。「え?」 美月も同じく困惑の声を上げた。 しかし俺だけは、別のものを見ていた。 ――魔法陣の中心から、斬撃が飛び出してくるのが見えたのだ。『レイラッ! 避けろッ!』 反射的に叫んだが、間に合わない。「え――」 レイラが振り返った瞬間、視界を覆うほどの斬撃が飛来した。 肉が裂ける生々しい音、石床に血が飛び散る音、そしてレイラの身体が切り刻まれていく光景――。 赤い飛沫が回廊の壁に花を咲かせた。 彼女の剣が床に落ち、乾いた金属音が響く。  そのまま、レイラの身体は崩れ落ち、光の粒となって霧散した。「レイラァァアァアアアッ!!!」 叫びが勝手に喉から飛び出す。 胸の奥が灼けるように熱い。頭の中が真っ白になる。「ヴァルトよ、落ち着けっ!」 リルベアが俺の肩を掴む。「レイラは眷属じゃ! お主が死なん限り、レイラも死なん! 時間経過でコアルームに蘇生される、安心せいっ!」 言葉は耳に入った。理屈も分かる。 だが、心は納得しなかった。  モニター越しとはいえ、俺の仲間が殺された。  判断を誤った。油断した。 まさか、転移魔法陣か
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第43話「四者激突、交わる刃と策謀」

 次々と俺は攻撃を仕掛ける。 拳が、足が、空気を切り裂く。  クゼスも即座に反応し、片腕で俺の拳を受け止めながら、逆の手で掌底を叩き込んできた。 衝撃波が回廊を震わせ、石片がぱらぱらと天井から降る。「ははっ、いいね! そうこなくちゃ!」 クゼスの顔が嬉々として歪む。 次の瞬間、背筋が凍るほどの殺気が俺の間合いを覆った。「ッ――!」 俺は後ろに跳び退き、距離を取ると同時に死角からの魔法が頬をかすめた。 血の匂いが鼻を突き、皮膚がヒリつく。 こいつ、ちゃんと強いッ――! 互いに距離を取り、睨み合う。「へぇ、君、強いじゃん。何者?」 クゼスは口角を吊り上げ、愉快そうに問う。「ここの――」 言いかけて、俺は一気に距離を詰めた。 油断していたクゼスの顔がわずかに驚きで歪む。 その顔面めがけて渾身の蹴りを叩き込むと、クゼスの体が宙を舞い、壁に叩きつけられる。 石壁がひび割れ、瓦礫が降り注ぐ中、俺は剣を抜いた。「――魔王だよ」 瓦礫を押し退け、クゼスがゆっくりと立ち上がる。 服についた埃を払うと、ニヤリと笑った。「妙なことを言う。ここの魔王はリルベアでしょ?」「リアは俺の眷属だ」 俺の言葉に、クゼスの表情が凍る。 一拍置いて――吹き出した。「……ふふっ。フハハハハハッ!」 狂気じみた高笑いが、回廊に響き渡る。 笑い終えると、クゼスはゆっくりと剣を抜いた。「なら、お前を殺すだけだ。リルベアを“リア”呼びするだけでも万死に値するのに、眷属にしているだと? ふざけるなぁあああああああ!!」 剣に禍々しい魔力が宿り、空気が黒く染まる。 クゼスが床を踏み砕き、一気に間合いを詰めてくる。 はやっ――。 剣が振り下ろされる……が、次の瞬間
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第44話「緊迫の対峙、揃い踏みの戦場」

 アキラと呼ばれた男の足音が階層に響く。  やたら派手な装飾のついた服をなびかせながら、乾いた靴音が一歩、また一歩と近づく。 そのたびに、フロア全体の空気が張り詰めていくのがわかった。  ここにいる全員が息を殺し、視線をその細身の影に注いでいる。 沈黙を破ったのは、美月だった。「……何をしてるんですか、アキラ」 冷え切った声だった。  剣を構えるよりも鋭いその視線が、まるで氷柱のようにアキラを射抜く。 空気がさらに重くなる。クゼスでさえ、面白そうに目を細めている。「知り合いか?」 俺が小声で問うと、美月はほんの一瞬だけ目を伏せ、吐き捨てるように答えた。「勇者仲間の後輩です。……そして、私のストーカーです」 ……ストーカー? おいおい、クゼスに続いてコイツもかよ。どいつもこいつもストーカーじゃねーか! 思わず心の中でツッコんだその時、アキラが肩を竦め、にやりと笑った。「ストーカーだなんて酷い言い方するなぁ。ただ先輩が好きな後輩ですよ」 軽口を叩くその声音は、どこか愉快そうだった。 だが美月の表情は一切揺れず、冷たく告げる。「妹さんから聞きましたが、あなた……私の写真を部屋中に貼ってるらしいですね」 その一言に、場の空気が一瞬で凍りついた。 クゼスの口元がわずかに引きつり、俺も何も言えなくなる。「……っ、そんなことより!」 アキラはわざとらしく咳払いして話題を切り替えた。「先輩、魔王と手を組むなど冒険者組合の規約違反ですよ」 あ、話そらした。  俺は心の中で呟きながら、アキラの表情を睨む。「貴方がそれを言いますか。よりによって、魔王クゼスと……。世界でも滅ぼす気ですか?」 美月の声が鋭く響く。 アキラは肩をすくめ、あっけらかんとした笑みを浮かべた。「あり
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第45話「決別の刃、善悪を問う者」

 紫紺の光が爆ぜ、床に走った魔法陣が淡く輝きを収めると――そこに、二つの影が立っていた。 艶やかな白銀の髪を揺らすリルベアと、鋭い眼光を宿した巨狼ゼトス。 誰もが言葉を失い、ただその光景を見つめる。「……ッ!」 クゼスの表情が初めて歪んだ。 驚愕しながら声を漏らす。「……ああ、ようやく会えましたね。しかし、封印されているはずが、なぜ……」 低い声が、震えていた。 クゼスは一歩前に出ると、瞳に怒りの炎を宿す。「そうか……そういうことか。すぐ目を覚まさせてあげます、リルベア。あなたは我のものだ」 剣の柄を握るクゼスの手に力がこもる。 禍々しい魔力がフロア全体に広がり、石壁がバチバチと音を立てる。 闘志を燃やすクゼスとは裏腹に俺たちは正直、安堵していた。 ここにきて戦力が増えるのは、願ってもいないこと。 「ゼトス、リア……来てくれたんだな!」 思わず声が出た。 美月も息をつき、僅かに笑みを見せる。「助かります!」 巨体の狼は静かに鼻を鳴らし、俺と美月の前に立つ。 そして、その傍らに立つ、本気モードのリルベア。  その背に、心強さを感じた。「ふん、予想外すぎる増援ですね」 アキラが剣を肩に担ぎ、クゼスに視線を送る。「クゼスさん、さすがにこのままじゃこっちが不利です。分担しましょう」「……いいでしょう」 クゼスがゆっくりと剣を構え、口元に冷たい笑みを浮かべた。「雑魚など束になろうが関係ない。弱い方は貴様が持て。強い方は、私が面倒を見ます」 クゼスが言い終えるや否や、アキラの剣から凄まじい斬撃が飛んだ。 視界を裂く白刃の閃光。「ッ!」 咄嗟に俺と美月は左右に跳ぶ。 刃が床を抉り、爆風が砂塵を巻き上げる。 その直後、斬撃が通った軌跡に沿って光の
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第46話「狂気と理性の狭間で」

 刃が交わり金属音が響き渡る。 俺の剣撃を弾き返すとアキラの剣が再び閃光を描く。 耳を裂く風切り音と共に、死線が空気を裂いた。「――ッ!」 紙一重で身をひねり、回避。 頬に熱い感覚が走る。血が一筋、地面に落ちた。「やっぱり、お前は危険だ。魔王ヴァルト」 アキラはそう言いながら睨み付けてくる。しかし、どこかおかしい。目が、焦点を結んでいない。 その視線の奥にあるのは、俺でもリルベアでもない――美月だ。「先輩は俺が守る。……いや、俺のものだ。絶対に誰にも渡さない」 剣を構えたまま、アキラは恍惚とした声でつぶやく。 その言葉に、思わず歯噛みした。「守る? 笑わせるな。お前のそれはただの執着だ」 低く吐き捨てると、アキラの笑みを浮かべる。「執着でもいい。愛ってのはそういうものでしょう?」 ゾッとするほど真っ直ぐな声だった。 次の瞬間、地面を蹴り、アキラが瞬間移動したかのような速度で迫る。「ヴァルト!」 リルベアの警告が飛ぶと同時に、俺は剣を横に払った。 火花と火花がぶつかり合い、衝撃が腕を痺れさせる。 ――速い。 剣速も、間合いの詰め方も、常人のそれじゃない。「くっ……!」 押し込まれそうになるが、その瞬間、リルベアの魔力が爆ぜた。 風刃が斜めに走り、アキラの背後から襲う。「っと……!」 アキラが跳び退く。 床が切り裂かれ、砂塵が舞い上がった。「ふふ……やるじゃないか。さすが“魔王”ってところかな?」 アキラが息一つ乱さず、剣をくるりと回す。 今の一撃を完全に見切られたわけじゃない――リルベアの狙いは当たっている。「行くぞ、リア!」「うむ!」 俺は剣を構え、リルベアと同時に駆ける。 風刃と斬撃の同時攻撃。互い
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第47話「落ちた首、血塗れの決意」

 アキラの剣がぎらりと光を帯びる。 金属の刃が回廊の灯りを弾き、壁や床に赤黒い光を散らした。 張り詰めた空気の中、彼の瞳だけが狂気に燃えていた。「先輩は俺のものだ。絶対に、誰にも渡さない!」 その声は叫びというより、怨嗟と執着の混じった悲鳴に近かった。 こいつは俺を見ていない。リルベアも、世界すらも見ていない。 ただ自分の欲望だけを抱えて剣を握っている。 胸の奥に溜め込んでいたものが爆ぜる。 喉の奥から煮えたぎるような熱がこみ上げ、肺を焦がすほどの息を吐き出す。 握った剣が重く感じるのは、怒りのせいか、覚悟のせいか。「お前のいう善悪の定義に当てはめるなら――お前の方が悪だ」 自分でも驚くほど低い声だった。 冷気を帯びたような声音に、アキラが一瞬だけ目を細める。 けれど、止まらない。止まるつもりもない。「美月は自由を求めてるんだ。……邪魔すんじゃねぇ!」 叫びと同時に、足元で魔力が爆ぜた。 火花のように赤い光が散り、視界が一瞬で血の色に染まる。 石床を蹴った音が轟き、俺の身体が矢のように前へ飛んだ。 アキラも応じる。 獣のような速度で駆け、剣を振りかぶる。 刃と刃がぶつかる直前、アキラの唇が嗤った。「なら――殺してでも手に入れる!」 斬撃が走った。 空気が裂け、回廊の石床が派手に割れ、結界までもが震える。 魔力と魔力がぶつかり合い、火花が飛び散る。「ヴァルトッ!」 リルベアの声が鋭く飛んだ。 次の瞬間、彼女の魔力が爆ぜ、風の鎖がアキラの足元を絡め取った。 刹那、視界がスローモーションになる。「な――!」 アキラの動きが一瞬だけ止まった。 その隙を逃さず、俺は全ての力を込めて踏み込む。「――はああああああああっ!!」 剣閃が走った。 赤黒い軌跡が宙を裂き、血の匂いが先に鼻を
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