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第40話「忍び寄る魔王の影」

 どこかモヤモヤとした感情を残しながら、俺はモニターの映像を遠目に眺めていた。  偵察隊が去り、広間には再び魔力の静寂が戻っている。 美月やレイラは口喧嘩を再開し、ゼトスはそれを微笑ましげに眺め、リルベアは退屈そうに椅子を揺らしていた。  ――平和な空気。だが、さっきの悪寒だけはまだ胸にこびりついている。 その時だった。『……ヴァルトよ』 低い声が、頭の奥で直接響いた。 リルベアの念話だ。『お主は今の気配、気付いておったな?』 俺は思わず彼女を見る。だが、リルベアは首を小さく横に振り、何事もなかったかのように欠伸をしている。  外見は完全にいつもの調子。だが、心の内では続ける。『なんでもない顔をして、モニターを見ておれ。他の者には知られるな。ここからは、わらわとおぬしだけで共有する』 俺は小さく頷き、あえて管理画面を操作するふりをした。  マップを拡大したり縮小したり、どうでもいい確認作業を装いながら、心の中だけで問いかける。『……リアも気付いたのか? なんなんだ、さっきの気配』 一拍の沈黙の後、リルベアの声が低く落ちてきた。『……魔王クゼス、であろうな』「……!」  思わず身体が固まる。 魔王クゼス――どこかで聞いたことのある名前だ。  だが、すぐには思い出せない。ぐるぐると思考が渦を巻く。間違いなく聞いたことのある名なのに、記憶の糸が掴めない。 そんな俺を見かねたのか、リルベアが静かに補足した。『ロジル地方――いや、こちらの言い方ではアジア地方か。そのアジア地方で最大規模を誇るダンジョンのマスターじゃ』 その言葉を聞いた瞬間、記憶が一気に繋がった。 人間として生きていた頃、配信でもニュースでも幾度となく耳にした名。  「最強のダンジョンボス」「アジアの魔王と呼ばれる存在」「挑む者は皆帰
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第41話「封印が軋む時、影が笑う」

 リルベアとの念話が途切れても、胸のざわつきは収まらなかった。 俺は無意識に監視画面のウィンドウを拡大し、巡回ルートを確認する。魔物たちは普段通り巡回しているが、平穏に見えるその光景が逆に落ち着かない。「……本当に大丈夫ですか?」 背後から声がかかった。レイラだ。冷ややかな瞳で俺をじっと見つめている。 大丈夫なわけがない。だが、今ここで動揺を見せるわけにはいかない。「ああ、問題ない。ちょっと気になっただけだ」 と笑って誤魔化すと、レイラは一瞬眉をひそめたが、それ以上は追及しなかった。 その瞬間、リルベアが椅子をきしませる音とともに近づき、俺の耳元で小声を落とす。「第十一階層の巡回を強化せい。薄っすらとじゃが、ダンジョン内に妙な気配を感じる」 短く、鋭い声だった。 俺は小さく頷き、レイラの方へ向き直る。「レイラ、巡回を強化する。特に第十一階層を重点的にな」「……分かりました」 彼女はためらいなく踵を返し、部下の魔物たちを引き連れて転移門へ向かった。  ◆  ――第十一階層。  そこはコアルームを模した区画で、現在は第三者を欺くために、リア自身が作り出した“リルベア人形”を美月の魔法で封印している。 見た目だけなら本物と見紛う精巧さで、外部からの干渉を避けるために多重の封印と鎖で覆われている場所だ。 レイラは無表情のまま巡回を進めていた。 彼女の背後には、狼型の魔物と二体のゴーレムが付き従い、足音を石床に響かせる。 緊張感が、徐々に強まっていく。 その頃、監視室では俺がモニターを凝視していた。 すると、俺の魔力探知が急速に近づく存在を察知した。「……来るぞ」 思わず呟き、すぐにレイラへ通信を飛ばす。『第十一階層に向けて外部の魔力反応が急接近してる! 注意しろ、敵は近いぞ』『了解です』 レイラの
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第42話「憤怒の咆哮、魔王vs魔王」

 少しの沈黙が流れた。 レイラは剣を払うと、血を振り落とし、ゆっくりと踵を返す。 回廊には、鉄の匂いが鼻を刺し、石床に広がる赤黒い染みがじわじわと広がっていた。『とりあえず、一旦戻りますね』 淡々とした声。いつもと同じ口調だった。 だが、俺はどこか胸騒ぎを覚えながらモニターを見ていた。  ――こういう時の嫌な予感は、当たる。 回廊の奥に、突如として巨大な魔法陣が展開されたのだ。 紫がかった光が脈動し、回廊全体を妖しく照らし出す。空気が一瞬で張り詰め、魔力が渦を巻く。「は?」 リルベアが短く声を漏らす。「え?」 美月も同じく困惑の声を上げた。 しかし俺だけは、別のものを見ていた。 ――魔法陣の中心から、斬撃が飛び出してくるのが見えたのだ。『レイラッ! 避けろッ!』 反射的に叫んだが、間に合わない。「え――」 レイラが振り返った瞬間、視界を覆うほどの斬撃が飛来した。 肉が裂ける生々しい音、石床に血が飛び散る音、そしてレイラの身体が切り刻まれていく光景――。 赤い飛沫が回廊の壁に花を咲かせた。 彼女の剣が床に落ち、乾いた金属音が響く。  そのまま、レイラの身体は崩れ落ち、光の粒となって霧散した。「レイラァァアァアアアッ!!!」 叫びが勝手に喉から飛び出す。 胸の奥が灼けるように熱い。頭の中が真っ白になる。「ヴァルトよ、落ち着けっ!」 リルベアが俺の肩を掴む。「レイラは眷属じゃ! お主が死なん限り、レイラも死なん! 時間経過でコアルームに蘇生される、安心せいっ!」 言葉は耳に入った。理屈も分かる。 だが、心は納得しなかった。  モニター越しとはいえ、俺の仲間が殺された。  判断を誤った。油断した。 まさか、転移魔法陣か
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第43話「四者激突、交わる刃と策謀」

 次々と俺は攻撃を仕掛ける。 拳が、足が、空気を切り裂く。  クゼスも即座に反応し、片腕で俺の拳を受け止めながら、逆の手で掌底を叩き込んできた。 衝撃波が回廊を震わせ、石片がぱらぱらと天井から降る。「ははっ、いいね! そうこなくちゃ!」 クゼスの顔が嬉々として歪む。 次の瞬間、背筋が凍るほどの殺気が俺の間合いを覆った。「ッ――!」 俺は後ろに跳び退き、距離を取ると同時に死角からの魔法が頬をかすめた。 血の匂いが鼻を突き、皮膚がヒリつく。 こいつ、ちゃんと強いッ――! 互いに距離を取り、睨み合う。「へぇ、君、強いじゃん。何者?」 クゼスは口角を吊り上げ、愉快そうに問う。「ここの――」 言いかけて、俺は一気に距離を詰めた。 油断していたクゼスの顔がわずかに驚きで歪む。 その顔面めがけて渾身の蹴りを叩き込むと、クゼスの体が宙を舞い、壁に叩きつけられる。 石壁がひび割れ、瓦礫が降り注ぐ中、俺は剣を抜いた。「――魔王だよ」 瓦礫を押し退け、クゼスがゆっくりと立ち上がる。 服についた埃を払うと、ニヤリと笑った。「妙なことを言う。ここの魔王はリルベアでしょ?」「リアは俺の眷属だ」 俺の言葉に、クゼスの表情が凍る。 一拍置いて――吹き出した。「……ふふっ。フハハハハハッ!」 狂気じみた高笑いが、回廊に響き渡る。 笑い終えると、クゼスはゆっくりと剣を抜いた。「なら、お前を殺すだけだ。リルベアを“リア”呼びするだけでも万死に値するのに、眷属にしているだと? ふざけるなぁあああああああ!!」 剣に禍々しい魔力が宿り、空気が黒く染まる。 クゼスが床を踏み砕き、一気に間合いを詰めてくる。 はやっ――。 剣が振り下ろされる……が、次の瞬間
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