わずかな沈黙が落ちた。 お互いの呼吸音と、岩壁に反響する微かな魔力の唸りだけが耳に届く。 勇者の視線は、まるで獲物を見極める猛禽のように俺を射抜いていた。 その奥には、敵意だけでなく測るような光もある。 やがて、彼女はハッとした表情を浮かべ、すっと後方へ跳んだ。 その動きは無駄がなく、間合いを完全に切ることを目的としたものだった。「……迂闊でした。私を油断させる作戦ですか」 いや、違うんだけど。そんな器用な作戦なんて俺にできるわけない。「残念だけど、事実なんだわ」 俺は肩をすくめ、淡々と口を開いた。 「転生する前は黒川陣って名前だった。ハンターズマニアっていうダンジョン配信サイトのシステムエンジニアをやってたんだ」 途端に、勇者の目がわずかに揺れた。 “魔王”という肩書きからは絶対に出てこない単語の連続に、戸惑いを隠せていない。 剣を握る手がほんの僅かに緩み、そのまま固まっている。 まぁ、そう簡単に信じられる話じゃないよな。 正直、戦わずに済むならそれが一番だが――「……出身の学校は?」 勇者が不審そうな顔で、しかし興味を押さえきれない様子で問いかけてきた。「え? 浅間中央高校。ちなみに、58期生な」「え……私、そこの68期生です!」 俺と勇者、同時に目を見開く。 互いに信じられないものを見るような顔になる。 まさか魔王と勇者の母校が同じだなんて、誰が想像するだろう。「……あの校舎、まだ残ってんのか?」 「ええ。外壁は塗り直されましたけど、形は変わってません」 少し懐かしい気持ちになって、俺は続けた。 「もしかして、勇者ちゃんの時代ってまだあの浪平スタイルの禿げ教頭いた? 声が高くて結構口うるさかった人なんだけど」「あー、あの人は校長先生になられましたよ!」
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