第111話 赤い影の極星(ポラリス)上海のウォーターフロントに聳え立つ、超高層カンファレンスセンター。 アジア最大のITイノベーション・サミットの会場は、満場の熱気と異様な緊張感に包まれていた。「……信じられない。我が社の『ルミナス・グリッド』のレスポンスが完全に遮断されている……!?」壇上の控えエリアで、澪の指先が端末の上で凍りついた。中国市場への本格進出を目前に控え、ネクスト・AIは現地でのデモンストレーションを準備していた。だが、会場のネットワーク空間に展開された「謎の領域」に接触した瞬間、ネクスト・AIが誇る世界最高峰の自律型防衛システムが、一切の抵抗もできずに無力化されたのだ。「落ち着け、澪」背後から、怜央の低く冷徹な声が響く。怜央は澪の肩を力強く抱き寄せ、その画面を鋭い眼光で見つめた。「敵のアルゴリズムか?」「……ただのアルゴリズムではありません。従来の中国ハッカー集団『黒客連盟』の攻撃パターンとは次元が違います。攻撃の核(コア)に使われているのは……旧ソ連時代から軍事極密として眠っていた、ロシアの超非線形カオス暗号『ポラリス』の技術です……!」ロシアが長年秘密裏に開発していた、観測することすら不可能な非線形サイバー兵器。それを中国の巨頭『龍神(ロンシェン)ITコンソーシアム』が裏取引で入手し、自国の巨大スパコンインフラと融合させて生み出した最高傑作——。その名は、自律型覇権AI【赤星(チーシン)- Polaris】。「ハッハッハ! どうだね、鷹司CTO! 誇り高きネクスト・AIの技術も、我が『赤星』の前では赤子の手手をねじるようなものだろう!」会場のVIP席から、高笑いと共に一人の男が歩み出てきた。かつてオーシャン商事で澪の手柄を奪い、今や黒客連盟と龍神集団のパイプ役として中国に亡命同然で逃げ込んでいた男——久我蒼真(くが そうま)だ。久我の顔には、ネクスト・AIへの激しい執着と、勝ち誇った醜い笑みが張り付いていた。「久我……あなたがロシアとの裏取引を仲介したのね……!」「そうだとも! ネクスト・AIに捨てられた俺が、最高の手土産を持って龍神集団の最高幹部に迎えられたのだ! ロシアの極秘軍事AIと中国の膨大なデータ資産……この二つが融合した『赤星』は、既存のいかなるAIアーキテクチャをも一瞬で解体する!」プレゼンテーシ
Huling Na-update : 2026-09-22 Magbasa pa