スイス・ジュネーブでの国連シンポジウムの大成功から帰国して数週間。 澪が開発した『ルミナス』の快進撃は世界的なニュースとなり、『ネクスト・AI』は国内外の主要メディアや大手企業から提携オファーが殺到するトップベンチャーへと急成長を遂げていた。 都心の街並みを見下ろす新オフィスの執務室。 大きな窓から差し込む午後の光の中で、澪はカタカタとリズミカルにキーボードを叩いていた。 マルチモニターには、新機能である「リアルタイム災害時物資分配モジュール」のソースコードが流れるように構築されている。「……よし。オフライン環境下での自律分散ルーティング、シミュレーション完了」 満足げに息をついて伸びをした澪の元へ、香ばしいハーブティーの入ったカップを持った怜央が歩み寄ってきた。「お疲れ様、澪。帰国してからずっと開発漬けだね。あまり根を詰めすぎないようにね」「ふふ、ありがとうございます、怜央さん。でも、現場や被災地のシミュレーションで『これなら助かる』ってデータが出るのを見るのが嬉しくて、つい時間を忘れちゃうんです」 怜央は愛おしそうに澪の頭を撫でると、隣のデスクに腰掛けた。 互いの薬指で光るプラチナリング。仕事における最高のパートナーであり、私生活におけるかけがえのない伴侶。二人の毎日は、かつてないほどの充実感と幸福に包まれていた。 ——だが、そんな二人の穏やかな執務室に、激しいノックの音が響いた。「失礼します! 社長、CTO、至急ご確認いただきたい事態が発生しました!」 ノックと共に飛び込んできたのは、ネクスト・AIの経営企画室長だった。その額にはびっしりと冷や汗が浮かび、顔色は蒼白になっている。「どうしたんだい? そんなに慌てて」「シリコンバレーのメガテック企業『オメガ・グローバル』の日本法人から、極秘の会談要請と提案書が届きました。……それも、我が社の全株式の取得、すなわち【友好的TOB(株式公開買い付け)による完全買収】の提案です」「買収……?」 怜央が鋭く眉を寄せ、差し出された分厚い書面を受け取った。 オメガ・グローバル。 時価総額数十兆円を誇り、全世界のITインフラを牛耳る超巨大プラットフォーマーだ。彼らは世界中の有望なAIスタートアップを莫大な資金力で次々と飲み込み、技術特許を吸収しては、元の開発チームや理念を容赦なく解体・
Last Updated : 2026-08-24 Read more