婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました

婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました

last update最後更新 : 2026-07-25
作者:  八戸三春剛剛更新
語言: Japanese
goodnovel4goodnovel
10
1 評分. 1 評論
62章節
11.2K閱讀量
閱讀
加入書架

分享:  

檢舉
作品概覽
目錄
掃碼在 APP 閱讀

故事簡介

CEO・社長・御曹司

財閥

現代

一人称

純愛

おとなしい子

一目惚れ

新しい恋

ざまぁ

中堅商社で社内SEとして働く白石澪は「パソコン係」と軽く扱われていた。三年連続営業トップの恋人・久我蒼真を陰で支えていたのは、澪が個人開発した営業支援AIだった。しかしある日、蒼真から「社内SEじゃ釣り合わない」と婚約破棄を告げられる。澪は静かに退職願を出し、月額1円で提供していたAIの利用契約を打ち切った——。翌日から会社が崩壊していくとも知らずに。財閥御曹司・鷹司怜央に才能を見出された澪は、初めて正当な評価を受け、本当の居場所を見つけていく。

查看更多

最新章節

更多章節

評論

はる
はる
不器用男と不器用女の恋の物語? 似た者同士ってことで進展が遅いのなんの。
2026-07-22 00:12:24
1
0
62 章節
第02話 三年連続トップの秘密
 久我蒼真という男は、とにかく見た目がいい。  身長百八十センチ、切れ長の目、手入れの行き届いた黒髪。スーツを着れば雑誌の表紙から抜け出してきたように見えるし、笑えば女性社員が一様に口元を押さえる。営業マンとして申し分ない外見だった。  加えて口がうまく、場の空気を読む嗅覚に長けていた。取引先の担当者が何を求めているかを察して話を合わせ、絶妙なタイミングで自社製品の話題を切り出す。人を惹きつける何かを、蒼真は生まれながらに持っていた。  だが、それだけでは三年連続営業成績トップにはなれない。  澪はそのことをよく知っていた。  人の魅力だけで取れる契約には、限界がある。相手が大企業であれば、担当者ひとりの好意ではなく、数字とデータが判断の根拠になる。「御社の提案は魅力的ですが、もう少し具体的な根拠をいただけますか」という壁に、営業マンは必ずぶつかる。  蒼真がその壁を乗り越えられるのは、澪のAIが最適な提案タイミングと資料構成をアドバイスしているからだ。  木曜日の午後、澪は情報システム部の自席で顧客データを更新していた。営業部から送られてくる商談記録を取り込み、AIのモデルに学習させる作業だ。単調だが重要な工程で、これを怠るとシステムの精度が下がる。 「白石さん、ちょっといい?」  振り返ると、営業部の坂本という後輩社員が立っていた。入社二年目の若手で、ノートパソコンを脇に抱えている。 「どうしました?」 「例のやつなんですけど、今週のアドバイスが来てなくて。バグですかね?」  澪は端末にアクセスし、ログを確認した。問題はすぐに見つかった。先週のデータ取り込み時に文字コードのエラーが発生し、坂本のアカウントだけ処理が止まっていた。 「直しました。更新してみてください」 「わ、出た!ありがとうございます!」  坂本は顔を輝かせて戻っていった。その背中を見ながら、澪は思った。このシステムを使っている営業部員は今や十二人いる。全員が、週次のアドバイスを楽しみにしている。  このシステムの費用は、澪が自腹で払っている。月約三万円、二年間で七十二万円。それだけの金額を、澪は誰にも言わずに負担し続けてきた。  (私なんて所詮、裏方だし。見返りを求めるほうがおかしいのかも)  そう自分に言い聞かせてきた。でもたまに、夜中にシステムのメンテナ
last update最後更新 : 2026-06-15
閱讀更多
第03話 月額一円のライセンス
月額一円。 それが、オーシャン商事と白石澪の間に交わされた、唯一の契約書に記された利用料金だった。 A4一枚の簡素な書類で、澪が自分で作ったものだ。内容はシンプルだ。「白石澪(以下、甲)は、甲が開発した営業支援AIシステム(以下、本システム)の使用権を、オーシャン商事株式会社(以下、乙)に対し、月額金一円にて許諾する。甲はいつでも本契約を解除できる。契約解除から三十日以内に、乙は本システムの使用を停止する義務を負う」 この契約書を会社側で受理したのは、当時の総務部長だ。「月一円なんて実質タダだし、便利なら使えばいい」という軽い判断だった。情報システム部の浅野部長でさえ、正直なところ内容をよく読んでいなかった。 誰も、このシステムが会社の心臓になることを、想像していなかった。 水曜日の午前、澪は部長の浅野に呼ばれた。 「白石さん、週報に書いてたシステムの件なんだけど」 「はい」 「ああいうの、情報システム部でやることじゃないと思うんだよね。営業支援は営業部の仕事だし、うちは保守とインフラに集中すべきじゃないかな」 澪は内心で深呼吸をした。 「申し訳ありません。ただ、あのシステムは私個人の開発で、会社の時間やリソースは使っていません。月一円のライセンスで提供しているのも、そういう理由です」 「まあそれはわかるんだけど」浅野はどこかぼんやりした顔で言った。「なんか俺たちのテリトリーを侵してる感じがして、営業部から何か言われると困るんだよね」 「今のところ、営業部からのクレームはないと思いますが」 「うん、まあ……とりあえず目立つことはしないように」 それだけ言われ、澪は席に戻った。「目立つことはするな」という命令が、彼女のやる気をまたひとかけら削った。 昼過ぎ、蒼真が珍しくフロアに顔を出した。 「澪、来週のプレゼン用のデータ出してほしいんだけど」 「内容は?」 「業界全体のトレンドと、うちのシステムが出してる購買予測の比較。あとグラフも入れて。Powerpointで」 澪は少し考えた。「いつまでに?」 「明日の夕方まで」 「それは難しい。明後日の午前なら」 「は?」蒼真の目つきが変わった。「システムから引っ張るだけじゃないの?そんなに時間かかる?」 「データを整形して意味のある形にする必要があります。今日は別の作業も――」
last update最後更新 : 2026-06-15
閱讀更多
第04話 婚約破棄の前夜
六月の最終週、オーシャン商事の営業部は活気に溢れていた。 上半期の締めを前に、最後の追い込みをかける社員たちの声が、フロア全体に飛び交っている。澪のAIが「今週は成約の好機」と示した案件が六件あり、そのうち四件がすでに成約済みだった。残る二件も、明日中に決まる見込みだと坂本が興奮気味に報告してきた。 「白石さん、やっぱりあのシステムすごいですよ。本当に当たるんですよね」 「データを積み上げてきた結果だから」 「でも白石さんが作ったんですよね。なんで皆さんもっと感謝しないんですか。久我さんとかさらっとしてるし」 澪は微笑んだ。「いいの。仕事が上手くいってるなら、それで」 「……白石さん、優しすぎますよ」 坂本は少し不満そうな顔をして戻っていった。その背中を眺めながら、澪は思った。優しい、ではなくて、諦めているのかもしれない。 その日の夕方、蒼真から珍しいメッセージが届いた。 「今夜、話がある。夕飯でも」 (話がある) その言葉が、澪の胸にひっかかった。嫌な予感ではない。でも、どこか落ち着かない。 待ち合わせた駅前のレストランは、ふたりが付き合い始めて最初に来た店だった。席に着くと、蒼真はすでに来ていた。スーツのジャケットを脱ぎ、ワインのグラスを傾けている。 「来た。座れ」 来た、座れ、と命令形で言う人だな、と澪は今さらのように気づいた。 「話って?」 「まあ飲めよ。白ワイン頼んでおいたから」 ふたりは少しの間、当たり障りない話をした。上半期の成績のこと、来月のゴルフ、同僚のうわさ話。蒼真はよくしゃべった。 「あそこで俺が切り返したのが決め手でさ。タイミングってやっぱ大事だよな」 タイミング。そのタイミングを弾き出したのはAIだ、と澪は心の中で思い、それを言葉にしなかった。 「ねえ蒼真、話って何?」 蒼真はグラスをテーブルに戻した。一瞬だけ視線がそれ、またまっすぐ澪を見た。 「最近さ、いろいろ考えてた」 「うん」 「俺、上半期も成績一位だったじゃん。このままいけば、来期には課長候補に名前が上がるはずなんだよ。部長も期待してくれてるし、役員との食事にも呼ばれた」 「それはすごい」 「そこでさ、縁談の話が来てるんだよ」 澪の手が、グラスの上で止まった。 「縁談?」 「ああ。鷹司グループって知ってるだろ。国内でも上位
last update最後更新 : 2026-06-15
閱讀更多
第05話 退職願と契約終了通知
翌朝、澪は普段通りに出社した。 いつもと同じ電車、いつもと同じ駅、いつもと同じエレベーター。変わったのは、バッグの中に薄い封筒がひとつ増えていたことだけだ。 席に着き、パソコンを起動する。受信メールが十七通。澪はひとつひとつを開き、対応の優先順位をつけながら、ルーティンをこなしていった。 (いつも通りにやれる。不思議だな) 昼過ぎ、梓から社内メールが届いた。「今夜、時間ある?」 澪は「ある」と返した。 夕方、社員食堂が閑散としたころ、ふたりはコーヒーを前に向かい合った。梓は澪の顔を見て、一秒ほど黙り、それから言った。 「聞いた。蒼真さんから別れたって」 「聞いたって、もう広まってるの?」 「蒼真さんが加賀さんに話してた。財閥の縁談がうまくいきそうだって、得意げに」 澪は目を閉じた。別れを告げたその夜に、もう同僚に話している。それが蒼真という人間だった。 「……そうか」 「澪、大丈夫?」 「大丈夫。昨夜は少し泣いたけど、今は落ち着いてる」 「少し泣いた、だけで済んだの?」 「あまり出てこなかった。ただ、考えたことがあって」 梓が身を乗り出した。 「退職しようと思う」 梓の目が大きくなった。 「退職?」 「うん。もともと今の仕事に限界を感じてた。浅野部長には『目立つことをするな』と言われるし、蒼真には『事務員レベル』だと思われてたし。私がやりたい仕事は、ここではできない」 「……澪が決めたなら応援する。でもひとつだけ聞かせて。AIのシステム、どうするの?」 「契約終了の通知を出す」 「え」梓の表情が固まった。「それ、会社のシステムが止まるってこと?」 「私のシステムが止まる。会社のシステムじゃないから」 「でも、営業部全体が使ってて――」 「ライセンス契約を解除すれば、三十日後に使用権が消える。それが契約書に書いてある」 梓はゆっくりと息を吐いた。 「……おそろしいこと言ってる、あなた」 「事実を言ってるだけ」澪は静かに答えた。「私は会社の資産を止めるわけじゃない。私個人のシステムの、私個人のライセンスを、合法的に終了させるだけ」 「それで営業部が」 「混乱するかもしれない。それは私の責任じゃない」 梓はしばらく澪を見ていた。 「澪、怒ってる?」 「……少し」澪は認めた。「SEはパソコンに詳しい事務員
last update最後更新 : 2026-06-15
閱讀更多
第06話 波紋
退職願とライセンス終了通知を出した翌日、社内に静かな波紋が広がった。 最初に動いたのは総務部長だった。封筒の内容を確認した翌朝、浅野部長を呼び出し、ドアを閉めた会議を開いた。三十分後に出てきた浅野部長の顔は、珍しく青ざめていた。 「白石さん、少しいい?」 澪は仕事の手を止めた。「はい」 「えーと、あのシステムなんだけど。止まると困るよね、営業部が。なんとかならない?」 「なりません」 即答した。浅野部長はまばたきをした。 「ならないって……会社のシステムじゃないの?」 「私個人のシステムです。ライセンス契約書にそう明記されています。浅野部長も、当時の総務部長もサインしています」 「でも社内で動いてるじゃないか」 「クラウドベースなので、社内のサーバーは使っていません。私個人が契約しているクラウドサービス上で動いています」 浅野部長は口を開けたまま、しばらく動かなかった。 「……そんな重要なシステムを、個人で動かしてたってこと?」 「四年間、そう申し上げてきましたが、耳を貸していただけませんでした。正式にシステム化したいと申し上げたときも、『余計なことをするな』と」 澪は丁寧に、しかしはっきりと言った。浅野部長の顔が赤くなった。 「それは……そういう言い方をしたかもしれないけど、そういう意味じゃなくて」 「引き継ぎが必要な業務については、残りの日程で対応します。AIシステムについては、契約書の通りです」 澪はそれだけ言い、画面に向き直った。 その日の昼、蒼真から珍しく内線電話がかかってきた。 「澪、退職するって本当か?」 「本当」 「なんで急に」 「急じゃない。前から考えてた」 「……システムも止まるって、総務から聞いた。何考えてるんだ」 「合法的な契約終了です」 「合法とかそういう問題じゃない。俺たちが困るだろ」 俺たちが困る。蒼真の言葉はいつも「俺」が主語になる。澪に何か影響があるかとは、聞かない。 「久我さんの成績が下がるかもしれませんね」 「下がるかもしれない、って何の話だよ。お前が止めなければ――」 「私の所有物ですから、私が決めます」 電話の向こうで、蒼真が息を呑む気配がした。 「……お前、変わったな」 「変わっていません。今まで通り話しています」 「いや、なんか……変わった」 そこで会
last update最後更新 : 2026-06-15
閱讀更多
第07話 最終日
白石澪の最終出社日は、七月の第三週の金曜日だった。 三十日の引き継ぎ期間の間に、澪は自分が担当してきた業務を可能な限り整理した。サーバーの管理手順書、社内ネットワークの構成図、定期メンテナンスのスケジュール表。AIシステム以外のすべてを、後任が困らないよう丁寧にまとめた。 後任は決まっていなかった。 「白石さん、本当に困るんだよ。もう少し待ってもらえないか」 浅野部長は最終週に入って三度、同じことを言った。三度とも、澪は同じように答えた。 「申し訳ありませんが、退職日は変えられません」 最終日の午前、坂本が走ってきてメッセージカードと花束を差し出した。 「本当にお世話になりました。あのシステム、ずっと助けてもらってました」 澪は受け取りながら、喉が少しだけ詰まった。 「ありがとう。みんなが使ってくれて、嬉しかったです」 午後三時、澪は社員証と備品を返却し、浅野部長に最後の挨拶をした。廊下に出ると、蒼真がエレベーターから降りてくるところだった。目が合った。 「お世話になりました」 「……ちょっと待て、澪」 「久我さん、お体に気をつけて」 澪はそれだけ言い、エレベーターに乗り込んだ。扉が閉まる直前、蒼真の顔が見えた。何かを言いたそうな、でも言葉が出ない顔だった。 一階のロビーを出ると、夏の光が眩しかった。 澪はスマートフォンを取り出し、AIシステムの管理画面を開いた。カウントダウンはゼロになっていた。 澪は「契約終了を確定する」というボタンを、静かに押した。 「確定」を押した。 システムは音もなく、オーシャン商事のアクセス権を失った。 澪はスマートフォンをしまい、駅へ向かって歩き出した。 (さあ、これからだ) 私が作ったあの心臓が止まったとき、誰かがはじめて気づく。 あそこに何があったのかを。
last update最後更新 : 2026-06-15
閱讀更多
第08話 崩壊・第一段階──営業成績が落ちる
婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました 第08話 崩壊・第一段階──営業成績が落ちる  白石澪がオーシャン商事を去った翌週から、営業部に異変が起きはじめた。  最初は小さな違和感だった。  「あのシステム、今日も使えないですよね」と坂本が呟いた。AIシステムのダッシュボードにアクセスしようとしても、ログイン画面が「このアカウントは無効です」と返すだけだ。総務部が情報システム部に問い合わせたが、情報システム部は「白石さんが作った個人システムなので、私たちには手が出せない」と答えるしかなかった。  使えないなら手動でやればいい、と営業部は思った。そもそも去年まで手動でやっていた。慣れれば大丈夫だろうと、誰もが楽観していた。  だが、一週間後。  久我蒼真は自席でスプレッドシートを開き、顧客リストを眺めながら頭を抱えていた。  (どの客先から回るべきか、わからない)  以前は自明だった。システムが「Aクライアントへのアプローチは今週中が好機、Bクライアントは来月以降」と明確に示してくれた。それを信じて動けば、ほぼ外れなかった。  今は違う。自分の勘で決めなければならない。  蒼真は自分の直感を信じていた。いや、信じようとしていた。だが、月曜日に訪問したCクライアントは「予算が決まっておらず、また来月来てほしい」と言い、火曜日のDクライアントは「別のルートで契約した」と告げた。水曜日は商談がなく、木曜日のEクライアントは「先週連絡がほしかった。昨日別の会社に決めてしまった」と申し訳なさそうに言った。  (昨日? なぜ昨日なんだ)  システムがあれば、Eクライアントの購買タイミングが「今月中旬」であることを事前に教えてくれていた。だから蒼真はいつも、その時期に合わせてアポを取っていた。今は、そのデータがどこにもない。  七月末の営業会議は、重苦しい空気で始まった。  浅野部長と並んで座る営業部長の谷口が、数字の入ったタブレットを持ちながら眉間に深いしわを刻んでいた。 「今月の成約件数は前月比マイナス三十七パーセント。久我、お前の部門だけ見ると前月比マイナス五十一パーセント。何があった」  蒼真は口を開いた。「……白石さんのシステムが使えなくなって」 「それはわかって
last update最後更新 : 2026-06-15
閱讀更多
第09話 崩壊・第二段階──在庫管理エラー
婚約破棄された社内SEですが、私が作ったAIを止めたら元勤務先が崩壊しました 第09話 崩壊・第二段階──在庫管理エラー  八月の中旬、オーシャン商事の倉庫部門から緊急の問い合わせが情報システム部に届いた。 「在庫管理システムの数字が合わない。入庫のはずが出庫扱いになってる」  澪が去ったあとの情報システム部は、実質三人で回していた。浅野部長と先輩社員ふたり。後任採用がまだ完了していないため、澪が担っていた業務の大半が分担されている。  問い合わせを受けた先輩社員の田中が確認したところ、在庫管理システムの連携バッチプログラムが止まっていることが判明した。 「これ、白石さんが書いたコードですね。修正をかけたいんですが……」  田中は澪が残した手順書を開いた。丁寧に書かれてはいたが、コードの中身を理解して修正するとなると、別の話だ。田中は社内インフラの管理が専門で、プログラミングは基礎程度しかできない。 「浅野部長、これ手に負えないかもしれません。外注に出したほうが」 「外注? 予算が……」 「このまま放置すると、在庫データが正確じゃなくなります。受発注にも影響が出ます」  浅野部長は額に手を当てた。  実は、この在庫管理システムの連携バッチも、澪が二年前に作ったものだった。正式な申請を通さずに組み込んだわけではなく、こちらは正式な業務として作成したものだ。しかし澪のコーディングスタイルは効率的で高度なため、後任が読み解くのが難しい。  引き継ぎ書類には概要が書かれていた。だが「問題が起きたときの対処法」まで詳細に書ける期間がなかった。四年分の業務を三十日で引き継げるわけがない。  外注業者を探し始めるまで三日かかり、業者が現場を確認して見積もりを出すまでさらに五日かかった。  その間、在庫データは少しずつ狂い続けた。  問題が顕在化したのは、八月下旬のことだ。  大手食品メーカーとの取引で、発注した商品の数量が実際の在庫と食い違い、出荷が二週間遅れた。取引先の担当者が怒鳴り込んできた。 「どういうことですか。こちらは製造ラインのスケジュールを押さえているんですよ。二週間の遅れで、ラインが止まりかけた」  営業担当の加賀が謝罪に赴いたが、取引先の担当者は納得しなかった。 「御社の管理体制を
last update最後更新 : 2026-06-15
閱讀更多
第10話 崩壊・第三段階──請求ミスの連鎖
九月に入り、オーシャン商事の混乱は第三段階へと進んだ。発端は経理部からの報告だった。「先月の請求書に、金額の誤りが複数件あります。計算の基礎データが間違っていたようで」経理部長の松田が険しい顔で谷口営業部長に説明した。請求書の金額算出に使っていた単価テーブルと数量データが、在庫システムの混乱に引きずられて一部ずれていたのだ。「何件ですか」「今確認中ですが、少なくとも十二件。うち三件は過少請求で、すでに取引先に送付済みです」「過少請求? つまり安く請求しすぎた?」「はい。合計で約二百万円の差額が生じています。取引先に追加請求を送る必要がありますが……」谷口はこめかみを押さえた。追加請求を送れば、取引先から「どういう管理をしているんだ」と言われる。送らなければ会社が損をする。どちらに転んでも傷つく。過剰請求のケースが二件あり、こちらは取引先から「計算が違うのでは」という問い合わせが来ていた。対応を誤ればクレームになる。浅野情報システム部長が呼び出された。「白石さんが作ったシステムは、在庫管理だけではないのか? ほかにも関連するものがあるのか?」「……調査が必要です」「今さら調査か!」怒鳴り声が廊下まで聞こえたと、梓から澪に伝わった。「請求ミスが出た。経理部が大変なことになってる」「在庫データが狂うと、そこにも影響が出るのは、わかってた」「澪……」「梓、私を責めてるの?」「責めてない。ただ、どのくらい続くのかなって」澪は少しだけ考えた。「もう少しだと思う。でも次は大きいかもしれない」「次って?」「大型契約。データがない状態で、大きな案件を動かそうとしたらどうなるか」梓は黙った。澪も沈黙のまま、画面を見つめた。その週、澪は転職活動を本格的に動かし始めた。ポートフォリオをまとめ、GitHubに公開コードをアップした。「元商社社内SE、AIシステム開発経験あり」という経歴で数社にエントリーした。最初の数社は書類選考で落ちた。澪はそれを当然だと思った。中小企業の社内SEという経歴は、派手ではない。書類の数字が弱い。でも落ちるたびに、ポートフォリオを少しずつ磨いた。説明の仕方を変えた。数字で成果を表現するよう工夫した。「三年連続営業成績トップのエースを支えた営業支援AIを個人で開発・運用。成約率を最大85%に向上」こう書く
last update最後更新 : 2026-06-15
閱讀更多
探索並免費閱讀 優質小說
GoodNovel APP 免費暢讀海量優秀小說,下載喜歡的書籍,隨時隨地閱讀。
在 APP 免費閱讀書籍
掃碼在 APP 閱讀
DMCA.com Protection Status