久我蒼真という男は、とにかく見た目がいい。 身長百八十センチ、切れ長の目、手入れの行き届いた黒髪。スーツを着れば雑誌の表紙から抜け出してきたように見えるし、笑えば女性社員が一様に口元を押さえる。営業マンとして申し分ない外見だった。 加えて口がうまく、場の空気を読む嗅覚に長けていた。取引先の担当者が何を求めているかを察して話を合わせ、絶妙なタイミングで自社製品の話題を切り出す。人を惹きつける何かを、蒼真は生まれながらに持っていた。 だが、それだけでは三年連続営業成績トップにはなれない。 澪はそのことをよく知っていた。 人の魅力だけで取れる契約には、限界がある。相手が大企業であれば、担当者ひとりの好意ではなく、数字とデータが判断の根拠になる。「御社の提案は魅力的ですが、もう少し具体的な根拠をいただけますか」という壁に、営業マンは必ずぶつかる。 蒼真がその壁を乗り越えられるのは、澪のAIが最適な提案タイミングと資料構成をアドバイスしているからだ。 木曜日の午後、澪は情報システム部の自席で顧客データを更新していた。営業部から送られてくる商談記録を取り込み、AIのモデルに学習させる作業だ。単調だが重要な工程で、これを怠るとシステムの精度が下がる。 「白石さん、ちょっといい?」 振り返ると、営業部の坂本という後輩社員が立っていた。入社二年目の若手で、ノートパソコンを脇に抱えている。 「どうしました?」 「例のやつなんですけど、今週のアドバイスが来てなくて。バグですかね?」 澪は端末にアクセスし、ログを確認した。問題はすぐに見つかった。先週のデータ取り込み時に文字コードのエラーが発生し、坂本のアカウントだけ処理が止まっていた。 「直しました。更新してみてください」 「わ、出た!ありがとうございます!」 坂本は顔を輝かせて戻っていった。その背中を見ながら、澪は思った。このシステムを使っている営業部員は今や十二人いる。全員が、週次のアドバイスを楽しみにしている。 このシステムの費用は、澪が自腹で払っている。月約三万円、二年間で七十二万円。それだけの金額を、澪は誰にも言わずに負担し続けてきた。 (私なんて所詮、裏方だし。見返りを求めるほうがおかしいのかも) そう自分に言い聞かせてきた。でもたまに、夜中にシステムのメンテナ
آخر تحديث : 2026-06-15 اقرأ المزيد