アルカディア離宮、理紋研究棟。 窓から朝の光が差し込んでいた。 机の上には地下水路の設計図、王都周辺の地図、理紋解析の資料が広げられている。 クラリッサは羽根ペンを置き、小さく息を吐いた。「……難しいわね」 何度目かの挑戦だった。 目の前に青い文字が浮かぶ。【対象:アルカディア離宮・理紋研究棟】【共鳴率:32%】「また……」「接続自体はできている」 隣で見ていたエルネストが言った。「でも、維持できないの」「原因は理紋回路だ」 エルネストは研究棟の図面を指差した。「研究棟のような大きな建造物を共鳴させるには、複数の接続点を通す必要がある」「それが理紋回路?」「ああ。《アナライズ》で見えている」 エルネストは一枚の紙を引き寄せ、さらさらと線を書き込んだ。「第三、第五、第七経路」「三箇所で流れが滞っている」「そんなことまで分かるの?」「ああ」「だが、異常ではない」 クラリッサは首を傾げた。「じゃあ、原因は?」 エルネストはクラリッサを見る。「考えすぎる癖だ」「……」「図星だな」「……ひどいわ」 クラリッサは思わず笑った。 エルネストも、わずかに口元を緩める。「手を貸せ」「え?」「補助接続を行う」「理紋の循環を整えるんだ」 クラリッサは少しだけ迷った。 けれど―― すぐに手を重ねた。「……お願いするわ」 エルネストの手が、そっと彼女の手を包む。 その瞬間。 青い光が二人の間を流れた。「……っ」 クラリッサが目を見開く。「暖かい……」「力を抜け」「ええ」「深く息を吸え」「……うん」「吐け」 ゆっくりと息を吐く。 すると。 身体の中を流れていた力の質が変わった。 絡み合っていた糸が一本ずつ解けていくように、理紋の流れが滑らかになっていく。「すごい……」 クラリッサは驚いたように呟いた。「今まで、こんなに軽かったことはないわ」「余計な力が抜けたからだ」 エルネストは手を重ねたまま続ける。「これが本来の君の状態だ」「……」「逆によく、この状態で《アナスタシス・コード》を使っていたものだ」 その言葉に、クラリッサの胸が少し痛んだ。「……殿下に教えていただくまで、何も知りませんでした」 追放されてから。 ずっと走り続けてきた。 立ち止まる暇なんてなか
Last Updated : 2026-09-25 Read more