「そうですね。今の私はただのサーレンなのでサーレンとだけお呼びください」「そんな、呼び捨てなんて出来ないです」 オリヴィアにとってサーレンは、夫になるイアンの勤務先の長だった人だ。それもただの長じゃない、大国の防衛を司る組織のトップに立っていた人である。そんなサーレンを呼び捨てなんて出来るわけがない。それにサーレンはカイロ領の新領主として赴くのだと聞いた。それは彼の今までの実績を見れば当然で、彼だからこそ万が一の事が起きた場合、新ネロペイン帝国とスェミス大国の国境を防衛する事が出来ると両国の長から認められたのだ。 フト、オリヴィアは自分の背後に立つアンが静かで気になった。いつもなら男性とオリヴィアが喋っていたら間に入って、彼女の盾になるというのに。「申し訳ございません、オリヴィア様」と背後のアンから小声で話しかけられる。「私、この方苦手なんです……人を殺した事がないような顔をしているくせして、核心をついてくるので……」(アンに苦手な人居るの?) アンの様子に戸惑っていたら、 「私は元の身分が低いので呼び捨てでも構わないです」「そんなのぜったいダメです! なんてお呼びしましょう」 背後のアンが一言も発さない。助け舟を出してくれない。 こういう時はなんてお呼びしたら良いのか分からない。(淑女教育を私は受けていないから、なんてお呼びしたらいいか分からないわ) アワアワしていたら、喉を鳴らす音が聞こえて目の前に立つサーレンをオリヴィアは見た。(もしかして、からかわれた……?) 彼は口元に拳を当てて笑いを堪えていた。琥珀色の瞳に涙を潤ませてまで笑おうとするなんて──「ひ、ひどいわ!」 つい顔を真っ赤にして叫ぶと、「すまない、レディ」とサーレンは眉を下げた。「揶揄うつもりはなかったんです」 本当に申し訳なさそうだったからオリヴィアは「怒っていません」と小声で
最終更新日 : 2026-08-14 続きを読む