Todos los capítulos de 愛する妻が置き手紙一つ置いて家出をしました。~初恋を拗らせた旦那様は妻を取り戻したい~: Capítulo 61 - Capítulo 70

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第60話 うちのクロール

   オリヴィアはそう呟いてベッドから立ち上がった。彼女の手がイアンの手を離れていく。 そのしっとりとした手の感触が名残惜しいと思って、イアンはオリヴィアの細くて綺麗な指を目で追った。 白い指がワゴンに置かれたティーポットへ触れた。「お詫びでね、具合が悪いなら、って思ってイアンに蜂蜜入りの紅茶を淹れてあげようと思ったの。飲んでくれる?」「オリヴィアが淹れてくれるの? 勿論だよ」「ミルクも入れる?」「あぁ」 ティーポットに茶葉をいれ、熱湯を注ぎ蓋をして数分蒸らす。それから茶こしでこして、別のポットに移し替え、カップに注いでたっぷりの蜂蜜と牛乳を入れて混ぜる──手際が良く準備をするオリヴィアの姿をイアンは微笑みを浮かべて眩しそうにして眺めた。 カップに注いだ紅茶をオリヴィアはイアンに差し出した。「有難う、オリヴィア」 受け取ると、亜麻色のミルクティが出来上がっていた。蜂蜜の香りが鼻先を掠めてくすぐったい。ホッとする甘い香りだった。 オリヴィアを見上げると、ティーカップを握り締めてキョロキョロしていた──椅子を探しているのだろう。 イアンの私室は、必要最低限の物しか置いていない。屋敷の執務室にデスクと椅子があるのだからと、私室に置いていなかった。執務室って言ってもヒラ事務官のイアンは自宅で書類整理をする事はほぼほぼ無く、今では雨の日にオリヴィアが過ごす部屋となっていた。この部屋から噴水と花畑がよく見えるからだ。 イアンの私室にある物はベッドと本棚と衣装部屋だ。それから身支度を整える為の姿見が一つ。寝台は毎日新しいシーツに変えられているものの、夫婦の寝室で眠る為、ここで眠った事は一度もなかった。本棚にはイアンがオリヴィアを喜ばせる為にはどうすれば良いか、と悩みに悩んで探し出した本たちが並んでいて、衣装部屋は広い屋敷に比例して広いものの、服が半分も埋まっていない。正装用の軍服しか並んでいなかった。姿見しかない理由は、朝も夜も寝室で過ごしている為、この場所で身を整える為の物を置く必要がないのだ。「隣においで」 ポンポンと
last updateÚltima actualización : 2026-08-22
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第61話 帰る家ができた

 「うちの?」「えぇ、うちの!」 『うちの』と言ったオリヴィアの言葉にイアンは思わず訊き返してしまう。「それからうちのクロールがね、ケーキも焼いてくれたの。イアンを怒らせちゃったかも、って相談したら『俺に任せとけ』って。紅茶と甘い物を口にしたら、具合は良くなるだろうし、機嫌も良くなるって。ケーキはできたてよ。食べて」「オリヴィアは──……『うちの』って言ったよな?」「……え?」「『うちの』クロールって言っただろ?」「えぇ言ったわ……?」 イアンの言う意味が分からず、オリヴィアは首を捻った。 「だって、私のおうちのシェフでしょう? だから、うちのって言ったの」  イアンは空になったカップの底を凝視したまま動けなくなった。「ディーズ、バンジャイ、ターニャに、ジュレック、ミュール、エレン、キャサリン、ジェス、スレッド、アルファードに……」 グゥイン家の使用人の名前を指を折りながらオリヴィアはスラスラと読み上げていく。「あと、アンもね。みんな、私のおうちの使用人たちよ」  オリヴィアはきょとん、としてイアンの名前を呼ぶ。俯いたまま動かない彼を見て、また、怒らせちゃったかな、と不安が過った。「イア──」「君は──ここを自分のうちだって思ってくれているんだな」「あ――」 と、言葉を発したオリヴィアは口元に手を当てた。自然と口から出た言葉だから、気にも留めなかった。 帝国での生活は窮屈で自分の居場所がなかった。お母様と過ごしていた小屋は、一人になってからというもの、気が休める場所ではなくなって、寝ている時でも、いつ姉や妹がやって来るんじゃないかって、怯えて夜も眠れなかった。 スェミスへ逃げてきても、私はここに居て良いのかばかり考えていた。眠っても、悪夢を見てすぐ目が覚めてしまう。眠れない夜が続いていた。
last updateÚltima actualización : 2026-08-23
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第62話 俺達、離婚しよう

   ゆっくり瞼を閉じて、その感情を噛み締めた。 昔は、自分の居場所がないってずっと思っていたのに、そんな事を思わなくなったことに今気付くなんて、すっごく居心地が良いからだわ──。 この想いを使用人達へ伝えよう、とオリヴィアは思った。オリヴィアは、良い考えだと口元を綻ばせる。これも結婚記念日の朝に伝えましょう、みんな私たちの結婚記念日の準備で数日前から動いてくれているもの。その感謝と一緒に「みんなのことが好き」って伝えるの──……。 その時、視線を感じてオリヴィアは目を開いた。 隣りに座るイアンを見やると、さっきまで俯いていたイアンがオリヴィアを真っ直ぐに見つめていた。口元に笑みを浮かべているのに、目に涙を溜めていてオリヴィアは驚いてしまった。「ど、どうしたの!?」 慌ててイアンの頬を両手で挟む。グイっと顔を近付けて、オリヴィアは真正面からイアンの顔を見た。潤んだ金色の瞳が自分の顔に近付いてくる──顔を通り越して、オリヴィアはイアンに抱き締められた。 イアンに抱き締められるのは、就寝の時以外初めてでオリヴィアはイアンの腕の中で戸惑った。自分の肌に極力触れてこなかった人が、こうして自ら抱き締めてきたのだ。(いつもは背後から抱き締められているから、知らなかったけど──前からのハグの方が包み込まれてる感じが大きいわ) それに、胸元に顔が埋まる感じ好き……かもしれない。 イアンの匂いと彼の胸に頬が当たって感じる体温と聞こえる鼓動の音、広い胸──自分のものと明らかに違う身体の作りは、恐怖は一切感じず、逆に居心地が良く、不快感はない。 オリヴィアはベッドに投げ出していた両手をゆっくりと上げて、イアンの広い背中におずおずと置く。それから、彼の胸に、頬を擦り寄った。 ギュッと力強く抱き締められ、若干苦しさを感じるものの、息が出来ない訳ではない。それに、妙にイアンの腕の中は落ち着く事が出来て離れがたいと思ったのもあって、オリヴィアはイアンに抱き締められたまま、彼が喋り出すのを待った。 する
last updateÚltima actualización : 2026-08-23
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第63話 騎士の誓い

   長い沈黙があった。 イアンはオリヴィアを抱き締めたままで、オリヴィアはイアンの腕の中から動く気配がない。 最初に動いたのはイアンだった。オリヴィアから腕を解こうとしたら、背中のシャツをオリヴィアにギュッと力強く握り締められて、イアンはオリヴィアを抱き締めたまま動けなくなった。 腕の中のオリヴィアは肩が僅かに震えている。男性が苦手なオリヴィアを体格が彼女の倍ある自分が力任せに抱き締めてしまった事を今更ながらにイアンは後悔した。しかし、彼女から離れようと思っても、背中のシャツにしがみ付くように引っ張られている為、動けない。 長過ぎる沈黙を破ったのはオリヴィアだった。 「…………私の事、嫌いになったの?」  掠れる声でそう訊ねられたイアンの肩が強張った。「そんな事ある筈ないだろ」と咄嗟に返せば、オリヴィアがイアンの腕の中で顔を上げる。お互いの目が合い、オリヴィアの表情が怒りを含んでいて、イアンは口を噤んだ。「わ、わたしは剣をイアンの肩に置いて、「裏切る事なく誠実であれ」って言った! イアンは剣にキスをした! 騎士の誓いは破られてはいけない誓いなのよ! 自らの意思で破るなら、死ななきゃならないのよ!」 ハァハァと呼吸を乱しながら、オリヴィアはイアンを睨みつけた。 そんなオリヴィアからイアンは視線を逸らす事なく凝視した。 六年前に怯えるオリヴィアを安心させる為にした騎士の誓いは、あの時確かにオリヴィアへ忠誠を誓う為に捧げたものだ。再会したオリヴィアを、何があっても自分が守ると誓った。傷付けるもの全てから守ると。 『騎士の誓いはこれから出会う大事な人にとっておくべきだよ』と幼い頃、ロイドから言われたものの、イアンは王に忠誠を誓う騎士となり、国王となった兄へ忠誠を誓おうと思っていた。しかし彼が選んだ道は国の防衛を司る軍人である。 『兄上をお守りするには力を身に着けただけでは守れないし、反逆者を捻じ伏せられない』 と、イアンがロイドへ言ったのは本音
last updateÚltima actualización : 2026-08-24
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第64話 貴女に捧げた騎士の誓い

  「まだ十歳だし、平民の血だ」「いやいや、十歳でも王となる素質を持ってらっしゃるぞ。半分は王族の血だ。金色の瞳がその証拠だ。それに陛下と違って血の気が多い」 「子供にしては眼つきが悪い」と非難の声が飛び「その通りだ」と馬鹿にした声が響いた。「今まで虐げられた恨みを晴らす為に国家転覆を謀り、腹違いの兄の首を獲り国王になる、なんぞ良くある話じゃないか」 男が酒瓶を持って立ち上がった。 「突然王宮に連れて来られ厳しくされ、しかもあやつの母親は使用人にとことん虐められ心を病んだ、恨んでいるに決まっている。それに優しさに飢えている筈だ。ちょっとでも優しくしてやれば、イチコロだ」 「陛下は帝王学を学ばれていらっしゃるから、私の思惑に気付いてしまわれそうだが、弟の方はどうだ! 騎士に混じって彼らに武術を習ってばかりで勉強などしておらんと聞く。この私が傍で支えてやらなきゃな!」「それで、お前が国王に成り代わる、って意味か……!」  ガハハハっという耳障りな笑い声──……。  ただの酒の席のツマミになる話としては、不躾な内容だった。これをたまたま柱の影で聞いていた十歳のイアンは、自分がそういった政治的な思惑に利用されお家騒動をでっち上げられる恐れがある事をこの時初めて知った。そして国王が王妃以外の女と成した子は、王位継承権の火種になる事をイアンは知った。 このまま、十五歳になって騎士団へ入団し、兄の右腕として王宮に居続ければ何者かの策略に嵌り、兄を失うかもしれない──その策略に嵌ってしまわないような人間になる為には、イアンは王城にいてはいけないという考えに至って国軍へ入隊した。王城を離れる事で、少しでも国家転覆の火種を減らしたくて。それから、「平民の血」「穢れた血」だと苛められた弟を守ってくれていた兄を守る力を手に入れる為に。 イアンが国軍へ入隊してすぐにした事は、秘密裏に、宴の席で国家反逆の話をしていた貴族とその話に乗った男達をとことん調べ
last updateÚltima actualización : 2026-08-25
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第65話 誰が私の邪魔をするの!?

    しかし。(オリヴィアの言う通り、俺は自らそれを放棄しようとしている──……) 簡単に破れる誓いを俺はオリヴィアにしてしまったのか──なんて、情けない。こんな俺は──「オリヴィアとの誓いを破る俺は──死ぬべきだ」 (騎士の誓いを破った人間に相応しい最期だ)「イアンは私とのプロポーズも破る気なの! 私を一人にしないって、私より先に死なないって言ったくせに、それさえ破るの!?」  オリヴィアは顔を赤く染めカッとなった。 イアンがプロポーズで言った言葉を破ったからだ。──その言葉を聞いて、どんなに自分が安心したか、イアンは知らないんだわ。 「嘘吐き! 嘘吐き!」とオリヴィアは叫びながらイアンの胸を力一杯叩く。ドンドンと叩いて、力が弱まっていき、何れは叩くのを止めた。拳をイアンの胸に当てたまま、オリヴィアはイアンの胸に顔を埋め、蚊の鳴くような声で呟いた。「さっき、わたしと、ずっと一緒に同じベッドで寝てくれる、って言ったのに……それも破るの……」 何故、イアンから「離婚しよう」と言われたのかオリヴィアは理解が追い付けない。イアンは「怒っていない」と言ったのは嘘で本当は怒っていたのか。それとも、本当に怒っていなかったけど、私の何かに怒ったからそんな事を言ったのか──……。  声を荒げたせいで、肩で息をしていたオリヴィアの呼吸が落ち着いてきてからイアンは重い口を開いた。「オリヴィアから……離婚を切り出される前に俺から別れを告げようと思ったんだ」 重苦しい空気は一変した。イアンの腕の中に居るオリヴィアが顔を上げ、思いっきり間が抜けたような表情を浮かべたからである。 イアンと言えば、「そんな顔も可愛いのか……!」という感情に飲み込まれそうだった。 まずイアンは「離婚しよう」という発言にオリヴィアが顔を真っ赤にし
last updateÚltima actualización : 2026-08-26
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第66話 全部、俺の勘違い?

  グイっと顔を近付けてきて、顔にオリヴィアの息が当たりイアンは頭が真っ白だった。そのせいで「完璧なプレゼン」という不思議ワードがイアンの頭に入ってこなかったし、オリヴィアの態度で「離婚をしたがっているわけではない」という考えが浮かばなかった。 オリヴィアは夜、イアンに抱き締められて眠っている為、イアンの吐息を肌に感じた事はあるが、イアンがオリヴィアの吐息を肌に感じた事は一度たりともないのである。しかもオリヴィアの睫毛の本数を数える事が出来そうなまでに近い距離だ。きめ細やかな肌さえ目視出来て、何処を見れば良いというのか。 しかも、だ。 さっきまで意識していなかったが……。(胸が、当たってるんだよ!!) それに良い匂いがする……! オリヴィアの熱や感触を楽しむ為に抱き締めた訳ではなかったものが、時間が経つに連れてオリヴィアの体温が自分の身体に伝わってくるし、身体が密着しているせいで己の胸に柔らかい感触さえ伝わってしまう。(コルセット……してないな、これ) オリヴィアの格好は食堂の時とは違い、首から足元をすっぽり覆い隠す淡いレモン色のナイトドレスに身を包んでいて、彼女からは夜眠る時に香る石鹸とシャンプーの匂いがする。(風呂上がり……!) いや、そんな時間ではあるが……!(アンは俺が嫌いなくせに、どうして俺の部屋に、無防備な恰好で送るんだっ) ──簡単な話、アンは男心なんぞ知らないからである。 そんな事は露知らず、イアンはアンを人知れず呪った。 「イアン、聞いてる?」 背中にあるオリヴィアの手に力が入り、今よりもっとグイっと近寄られてしまい、今度は下半身に力を入れた。つまり息子が反応してしまったのである。(まずい、非常にまずい)  初めてオリヴィアを抱き締めて眠った日は、まさかオリヴィアに「一緒のベッドで寝て」なんて言われるなんて夢
last updateÚltima actualización : 2026-08-27
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第67話 勝手に判断しないで!

  短い沈黙後にオリヴィアは「やっぱり、私はそんな態度を取った記憶はないわ」と片眉を上げた。「今朝、思い詰めた顔で何時に帰るか訊ねてきたじゃないか」「そんなに思い詰めてたかしら……」 オリヴィアは今朝の自分を思い浮かべたものの、そんな勘違いをさせてしまうような態度を取ったつもりはなかった。オリヴィアはイアンの行動を知ってどのように立ち回ろうかとばかり考えていた為、あの時自分がどのような表情だったなんて考えても分かる筈がない。「いつもと様子が違ったから気になって……ユング将軍に相談をしたら、離婚したがってるんだ、って言われて……」「閣下から?」 「どうして閣下はそんな事を?」オリヴィアは可愛い顔を顰めた。「朝から、オリヴィアが重い雰囲気だっただろ? 俺はオリヴィアに犬を飼わないって言ったから、それで怒らせてしまったんじゃないか、と思って将軍に相談したんだ。そうしたら、将軍に『普通犬を飼わないって言ったくらいで朝から重い雰囲気で訊ねてこない』と言われて……それはもう離婚を切り出そうと思って、何時にイアンが帰って来るか、何時に寝るか気になったんだろ、と言われたんだ」「私、イアンが犬を飼わない、って言ったくらいで怒らないわ。それに犬の話は一カ月前の話よ」 本当の所、イアンから「犬を飼わない」と言われ傷ついて泣きはした──が、恨んでなんていない。計画は狂ってしまったけども。「イアンは閣下からそう言われて信じたのね」  オリヴィアから呆れたように言われ、イアンは情けないように肩を落とした。「何時に帰るかとか何時に寝るかとか訊ねるから、俺にいつ離婚を言い出そうか悩んでいると思って」  イアンはユングに話した内容と、自分がオリヴィアにどのように見られているか──全てイアンの想像の範疇だが──「こんなに身体がデカい男だから、安らげる場所になれず、オリヴィアは俺と離婚をしたがっているんじゃないか、と思ったんだ」と言っ
last updateÚltima actualización : 2026-08-28
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第68話 私への想いよ

  顔を上げると、項垂れたオリヴィアが立ち尽くしていた。それからヨロヨロとベッドの縁に座った。 イアンは床に落ちた枕を手に取って、枕を抱き締めながらオリヴィアの隣に座った。「オリヴィア……本当にごめん」  枕を持って暴れたせいで髪が乱れ、横髪が頬に纏わりついてしまっている。それを払い除けて綺麗に梳いてあげたいと思ったものの、触れれば枕の下の分身がまた大きさを増す気がして、イアンはただその横顔を申し訳なく思いながら見つめる事しか出来なかった。 「オリヴィア。聞いていいか? 俺に話したい事って結局なんなんだ……?」 イアンは恐る恐る、オリヴィアに訊ねた。 離婚ではない、ならば何をオリヴィアは俺に伝えたいんだろうか。純粋な疑問だった。 「それは、今言うことじゃないわ」 ぶっきら棒に返ってくる。 「記念日の朝に言うと……?」「えぇそうよ」「すまない、オリヴィア……何を言うか教えてくれないと、俺は正直な話不安で眠れそうもないんだ」 離婚の話ではない。 でも、その話が良い事とは限らない。 イアンは、大抵の事に神経は図太いがオリヴィアに関してだけはメンタルがマシュマロのように柔らかくヘコみやすくなるのだ。「全部は言わなくて良い。ヒントだけでも良いから」「い、イアンと同じことを言うつもりなの……」 蚊が鳴くような声は、か細くて聞こえにくい。 床をじっと見て動かないオリヴィアの横顔を見つめながら彼女の言葉を待った。「イアンがいつも言ってくれるでしょ? その言葉を私もイアンに言いたくて……」「いつも、とは……?」 チラチラと横目でイアンを見ると、彼はキョトンとしていて分かっていない様子だった。「朝と夜、欠かさ
last updateÚltima actualización : 2026-08-29
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第69話 五文字の言葉

 「私をどう思っている?」とオリヴィアはイアンの前で胸を張った。座ったまま、ツンと小さい鼻を高く上げてイアンを見下ろすようなポーズを取り、流し目でイアンに視線を送る。「可愛くて、天使……」 うっとりと告げられてオリヴィアは顔を真っ赤に染め言葉に詰まった。毎日言われている台詞ではあるが、そんな眼差しで囁かれると妙にこっ恥ずかしい。 「そうじゃなくて」「可憐、女神、妖精、顔がちっちゃい、手が小さい、爪も小さい、指が細い、髪が綺麗、瞳が紅茶みたいで美しい、瞳が夕焼けのように美しい、睫毛長い、声が澄んでる、声が小鳥のさえずりのように可愛らしい、笑い声が可愛い」「イアンが私を想っている気持ちと同じって事、忘れてない……?」 そんな連続で褒めないで──。「イアンと離婚をしたがっているなら、私はイアンの為に紅茶やケーキを用意しないでしょう?」「オリヴィアは心が澄んでいるから、俺なんかの為に用意をしてくれたとばかり」「誰かの為に何かをしたい、っていう事はどういう事かしら……?」 これはもう最大のヒントではなかろうか。「……どういうことだろうか?」 首を傾げたイアンをみて、オリヴィアは枕を投げつけたい衝動に駆られるも、その飛び道具はイアンが大事に抱いているせいで、イアンを殴れない。 (どうして、こんなに鈍いの!) 「いつも私に言ってくれるでしょう! 五文字の言葉!! 私はそれをイアンに結婚記念日に言いたいの!!」  五文字の言葉、なんてこれこそ最大のヒントだ。 思い切り叫んだオリヴィアは喉を潤す為に、紅茶を口に含んだ。時間が経っているから温くはなっていたが、蜂蜜のほのかな甘みが胸を落ち着かせてくれる。「五文字の言葉」とイアンは口の中で何度も何度も呟いた。呟きながら五文字の単語を探し出す。(りこんしよう……
last updateÚltima actualización : 2026-08-29
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