これは、マフィアでありながら日本のサブカルチャーをこよなく愛する男、ジョバンニの物語である。ある土曜日の朝早く、ジョバンニはシャドーストライプの入ったダークカラーなスーツをピシッと着込んで、ボルサリーノを粋にキメ、イカす靴を履いて、すっかり正統派マフィアスタイルで出かけようとしていた。仲間たちがこれを見て囃し立てる。『なんだ、ジョバンニ、デートか?』ジョバンニは至極真面目な顔でこれに答えた。『いや、フィールドワークだ』『なんの』『もちろん、ニンジャの』『お前は……時々意味不明だな』ジョバンニのルームメイトであるルカが補足に入る。『あー、ジョバンニのやつ、今はニンジャにハマっててさ、毎晩ネットで、歴史に詳しい人とやりとりしてるんだよ』ジョバンニが誇らしげに頷く。『スィ、"オシショーサン"。フィクションの忍者にも、歴史の忍者にも詳しいセンセイ』なるほど、つまり、オフ会である。『どんな人だよ、オシショーサンって』『知らない、けれどイメージはある』ジョバンニは、うっとりと目を細めて、オシショーサンの姿を幻の中に思い浮かべる。『オシショーサンは博識、質問すると丁寧な長文回答をくれる。ネットの文章は礼儀正しくて古風。忍者の血を引く老師みたいな人』『なぜそう思った』『名前、オシショーサン、“千葉の滝夜叉丸”』『なるほど……?』それはネットでの通り名であって、多分本名には掠ってもいないと思うのだが……だが、ジョバンニの勘違いは止まらない。『オシショーサンはきっと年上の方、ならばこちらも、礼儀を尽くした格好でお会いせねば』『そうか、まあ、頑張れよ』待ち合わせ場所は半蔵門駅改札口。駅名を見ただけで、もう、ジョバンニ大興奮。『ハンゾー! ハットリハンゾー! ニンジャキング!』だがすぐに、敬愛するオシショーサンにみっともない姿を見せるわけにはいかないと、キリッと表情を引き締め直す。『礼儀とワビサビ、ニホンのココロ』ボルサリーノをちょいと整えて辺りを見回せば、ちょうど改札を通る一人のご老人が。『マンマミーア! 想像した通り、オシショーサン、老師!』その老人は長い白髪を後ろでキュッと一つに結んで、顎にはこれまた真っ白な山羊髭をフッサアと生やした——ありていに言えばカンフー映画に出てくる“老師”みたいな風体をしている。実はジョバ
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