(はは、嫌になることすらもう飽きたな……) その日は酷い雨模様だった。風は轟々と吹きすさび、雨はバチバチと窓を叩くように打ち付けた。 彼は髪の毛に指を通してくしゃりと、髪の毛を抜いてしまうのではないかというぐらい強い力で握りしめる。 彼は全てにおいて才能がなかった。勉学も、商才も、美的なセンスもゲームのセンスも。彼には全てがなかった。 もちろん、努力と言われることは一通りしてきた。優秀な教師にもついてもらって教えを請うた。———誰一人例外なく、匙を投げたが。 そうこうして28歳。彼の家ではあり得ない、無職の引き籠りが誕生した……それが、彼。遊城《ゆうき》 皇《すめらぎ》である。名前だけは大層立派な、遊城の家の期待を込められ、裏切り続けている長男である。そして、長男である故、まだ、ギリギリ見捨てられずにいた。 でも、皇は考えていた。(正直時間の問題だろうな……) 時間の問題、そう、それは皇が遊城の家から見捨てられるまでのタイムリミット。 だからこそ、焦っていた。焦って、焦燥感に胸を焦がし、自暴自棄に至っていた。(……もういっそ、役立たずだからとマグロ漁船にでも放り込んでくれれば諦めがつくのに……) そんなことを考えていると、扉がコンコン、とこぎみよく叩かれた。「……はい」「私よ。早く開けなさい」 よく通る、声だけで分かる高慢ちきさ。それは皇の家から宛がわれた彼女、船寺《ふなでら》 瑠奈《るな》だった。高慢ちきのおまけに拝金主義だ。 皇は知っていた、瑠奈が自分のことをどう思っているかを。遊城の家とのパイプで、振ればお金が出てくる財布程度にしか思っていないことを。 ……そんな、彼女と言っていいかすら怪しい女。それが瑠奈だった。 皇はのそり、と立ち上がれば不快な揶揄い方をされないために、念のため指輪型端末『リムレット』のカメラ機能で自分の身なりを整えようとして……気づく。(あれ、瑠奈早くね……?) 瑠奈はいつも皇と合う日は遅刻上等で。酷いときなんと3時間近く遅刻してくる……と言うのに、今日は時間通り。(ま、親父から注意でもされたんだろうな) 皇の言うことは聞かなくても、遊城の家の当主である父親の言うことは聞く。瑠奈はそう言う女だと皇は痛いほど知っていた。 皇はインカメラで自分の姿がいつも通りであることを確認すれば、扉を開けた。
Last Updated : 2026-06-29 Read more