弁護士資格の剥奪。証拠隠滅の告発。普通の人間なら、終わりだ。だがわたしは普通の弁護士ではない。彼らは致命的な間違いを犯した。法廷弁護士を、法の罠で殺そうとした。それは相手の得物で斜りかかるのと同じことだ。わたしは四十八時間で、詩織の“証言”の矛盾を七つ、書面に並べた。彼女が「わたしが証拠に触れた」と証言した時刻、わたしは別件の法廷にいた——百人の傍聴人と、速記録という、崩せないアリバイの中に。颯太が父にしたのと同じ手口をわたしは今度は自分を守るために逆さに使った。アリバイの捻造ではなく、アリバイの証明として。懲戒委員会は告発を退けた。詩織の偽証が逆に立件されかけた。盤の一手目をわたしは取り返した。だが本丸はそこじゃない。父が遺した全証拠。「あれは、澪に託した」——七年前、父が桐生に遺した最後の言葉。父はそれをわたしの中に隠した。わたし自身も気づかない形で。七年。わたしはその謎をずっと足元に置いて歩いていたのだ。考えろ。父が誰にも見つけられず、けれど“澪なら必ずたどり着ける”と確信して隠す場所。桐生でも、九条でも、氷室でも開けられない。澪だけの——。思い出したのは、父の最後の手紙だった。獄中から届いた、たった一通。当たり障りのない近況と、最後の一行。『澪。お前が司法試験に受かったら、いちばんに、母さんと三人で撮った“あの写真”を見返しなさい。父さんとの約束だ』あの写真。七歳のわたしと両親が、湖畔の別荘で撮った一枚。ずっと、ただの思い出だと思っていた。——思い出。そう、思い込まされていただけだ。父は弁護士だった。言葉を二重に使う男だった。『見返しなさい』——それは、感傷ではなく、指示だ。あの写真のどこかに、父は七年前から、わたしだけにたどれる道筋を残している。誰にも見つけられず、けれど澪なら必ず行き着く場所に。桐生でも、九条でも、氷室でも開けられない、わたしと父だけの場所に。胸が、早鐘を打った。在り処が、見えた気がした。「玲二」わたしは立ち上がっていた。「父が遺したものの場所が、わかったかもしれない。確かめに行く。いますぐ」鍵を掴んだ、そのとき——邸のインターホンが鸣った。佐伯が青ざめた顔で告げた。「奥様。——九条嗣道様が、おひとりでお見えです」
Last Updated : 2026-06-27 Read more